日本森林学会誌
Online ISSN : 1882-398X
Print ISSN : 1349-8509
ISSN-L : 1349-8509
91 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
論文
  • 櫻井 聖悟, 伊藤 達夫, 田中 和博
    2009 年 91 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/24
    ジャーナル フリー
    空中写真判読による林相区分は一般に, 写真上の色調, テクスチャに加え, 植生と地形に関する知識を基に行われている。本研究では, 林相図作成の効率化と精度向上を目的とし, 高分解能衛星IKONOSのデータを用いたオブジェクトベース林相区分における地形情報の利用について検討した。京都市東部地域の森林を研究対象に, スペクトル特徴量だけを用いる方法と, スペクトル特徴量と地形情報を用いる方法により林相区分を行った。尾根線からの距離, 谷線からの距離という地形情報を取り入れることにより, Kappa係数において1%水準で有意な精度の向上が確認された。標高差の小さい地域における森林分布の変化は, 標高の違いによる温度変化より, 尾根と谷における水分条件の違いの影響をより大きく受けるため, その情報を利用することにより分類精度が改善されたものと考えられる。
  • 鈴木 和次郎, 池田 伸, 平野 辰典, 須崎 智応, 和佐 英二, 石神 智生
    2009 年 91 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/24
    ジャーナル フリー
    施業履歴の異なる100年生前後のヒノキ人工林6林分について, その施業履歴, 林分構造そして植栽木の品等構成を調査し, 過去の間伐を中心とした取り扱いの違いが, これらに及ぼす影響を解析した。林分の本数密度, 幹材積は, 31年生時を最後に間伐が全く行われていない林分で843本/ha, 1,298.9 m3/ha と最も高く, 間伐回数の多いほど少なくなる傾向がみられた。本数密度を50年生までに500∼1,000本/ha以下に落としておけば, その後に間伐を省略しても高蓄積の高齢級人工林の造成が可能であることが示唆された。立木の品等は, サイズの大きな個体で良形質木の割合が高くなる傾向を示した。各林分における品等構成では, 間伐回数が多い林分にあっても不良形質木が存在した一方, 良形質木の本数は間伐の回数に関係なく100∼150本/haの密度で存在した。この結果から, 過去の間伐は対象林分における品等構成の向上にはつながってこなかったことが明らかにされた。その背景は今回のデータからは明らかにできなかったが, 良形質木からなる高蓄積の高齢級人工林を造成するためには, 少なくとも若齢段階の間伐における不良形質木の除去が重要であることが示唆された。
  • 伊東 宏樹, 五十嵐 哲也, 衣浦 晴生
    2009 年 91 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/24
    ジャーナル フリー
    京都市北部の京北地域の広葉樹二次林においてナラ類集団枯損被害により林分構造がどのように変化したのかを調査した。毎木調査の結果, 胸高断面積合計でもっとも優占していたのはソヨゴで, 以下, イヌブナ・ミズナラ・コシアブラ・タムシバの順だった。ミズナラは半数を超える個体が枯死していたが, その枯損木を含めると, ミズナラの胸高断面積合計がもっとも多くなり, ナラ類集団枯損発生以前にはミズナラがもっとも優占していたことが推定された。個体位置が枯損被害発生源に近いほど, また個体サイズが大きいほどミズナラの死亡率が高かった。ミズナラの枯損により発生したギャップで更新し, 今後少なくとも短期的には林冠層で優占することが期待された樹種は, タムシバ・コシアブラ・イヌブナだった。マルバマンサク・ソヨゴも中層から下層で優占度が高まる可能性のあることが予想された。
  • 金澤 洋一, 清野 嘉之, 藤森 隆郎
    2009 年 91 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/24
    ジャーナル フリー
    32のスギ若齢林分の調査資料を用い, 立木密度と定直径高, 枝下高の関係から樹冠・定直径高管理図の作成を試みた。胸高より上部の幹長を胸高直径Dで除した胸高上部幹長比と梢端から一定の幹直径x (定直径) までの長さである定直径長Lxを定直径xで除した定直径比との相関は, 数値のばらつきは大きいものの定直径が小さい場合には低く, 定直径が大きくなるにつれて高くなった。この関係は一次式で表すことができた。また立木密度から求める相対幹距SRと樹高Hを胸高直径Dで除した形状比には負の相関があり, 立木密度が高くなると形状比も高くなることを裏付けていた。SRと形状比の逆数D/Hの関係も一次式で近似できた。この二つの一次式からLxHと立木密度ρの関数として表し, この関係とすでに報告した枝下高の式から, 樹冠・定直径高管理図の作成を試みた。この図を利用すれば, 無節材や求める末口と長さをもつ材の生産のための密度管理, 風害や冠雪害などへの耐性の指標となる樹冠長率のコントロール等が期待できる。
  • 閔 庚鐸
    2009 年 91 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/24
    ジャーナル フリー
    本稿は日本における製材業の生産構造や技術変化を分析したものであり, 1970∼2004年間の年次データを用いてトランスログ型費用関数を推定し, 投入要素の代替関係と価格弾力性, 規模の経済性, 技術発展の方向, 全要素生産性の成長率を計測した。生産構造の検討において, 同調性, 同次性, 単位代替弾力性, 中立的な技術発展, 技術変化なしの仮説が棄却され, 一般型関数を用いて分析を行った。投入要素は互いに非弾力的な代替関係にあり, 一つの要素の不足を他要素により代替し難いことを意味する。また, 製材業には規模の経済性が存在し, 生産規模が市場需要に相応していないことが明らかとなり, 生産規模を調整する必要があることが示された。次に, 製材業の技術は, 木材中立的, 労働節約的, 資本使用的に発展されたことが示された。最後に, 製材業の全要素生産性は微減の傾向にあり, 費用節減の技術発展が負の規模効果に相殺されていることが明らかになった。これは, 製材業において生産性を向上させるため規模効果の改善が重要な課題であることを示唆する。
  • —一斉萌芽に由来する二次林構造と地形の影響—
    井藤 宏香, 伊藤 哲, 中尾 登志雄
    2009 年 91 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/24
    ジャーナル フリー
    急峻な立地に成立する約80年生の照葉樹二次林において, 10年間の樹木の動態を調査し, 各樹種の台風撹乱の受け方に地形および二次林特有の林分構造がどのように影響するかを主要構成種5種を中心に明らかにした。出現樹種全体の台風被害の分析結果から, 下部斜面で台風による幹折れや根返りなどの直接的撹乱, および巻き添え撹乱を受けやすいことが明らかとなった。これは, 下部谷壁斜面の地表の不安定性による撹乱の起きやすさを反映しており, このことが下部斜面における立木密度の低い要因の一つであると考えられた。一方, 幹折れや根返りの台風撹乱率は林冠層で高く, 逆に巻き添えによる撹乱は下層の幹ほど多かったことから, 台風による被害様式が樹木の階層内の位置により明瞭に異なることが示された。主要樹種間の台風撹乱の受け方の違いは, 発達した照葉樹林での報告とおおむね一致した。さらに, 主要樹種5種のうち4種は, 台風撹乱の受け方の違いに地形および二次林特有の林分構造はあまり影響せず, 台風撹乱に対する抵抗性の違いが直接反映されていると考えられた。
短報
  • 山田 健四, 真坂 一彦
    2009 年 91 巻 1 号 p. 42-45
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/24
    ジャーナル フリー
    侵略的外来種ニセアカシアの萌芽力の季節性を明らかにするために, 北海道美唄市内の2林分において, 2004年5月, 6月, 8月に伐採処理を行い, その後の萌芽枝の動態を3生育期間に渡って調査した。最高萌芽枝高は3生育期間を通じて5月伐採区で高く, 8月伐採区で低い傾向がみられ, 同じ伐採時期では盤の沢より南美唄で常に高かった。発生した萌芽枝は時間とともに急速に減少し, 株の枯死は2005年から2007年の間に顕著に進行した。統計解析の結果, 伐採時期は最高萌芽枝高と株の生残に影響し, 株の生残には前年の最高萌芽枝高も影響することが示された。2007年における調査区内の萌芽枝材積は, 8月伐採区で最も小さかった。以上の結果から, 駆除を目的にニセアカシアの伐採を行う場合, 盛夏の伐採が有効であることが示された。
  • 島田 博匡, 野々田 稔郎
    2009 年 91 巻 1 号 p. 46-50
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/24
    ジャーナル フリー
    シカの生息密度が高い地域内で強度間伐 (本数間伐率47.5∼71.2%) を行った針葉樹人工林に獣害防護柵を設置し, 間伐後の広葉樹侵入に及ぼすシカ採食の影響を調査した。獣害防護柵内では先駆種を中心とする多数の広葉樹が間伐後に侵入し, その生残率は高く, 樹高成長も良好であった。しかし, 柵外では柵内よりも広葉樹の侵入が少なく, 生残率も低かったため, 2年後まで生残した個体はわずかであった。このことから, 柵外ではシカの採食により間伐後の広葉樹侵入が強く阻害されていると考えられた。シカ生息密度が高い地域において, 人工林の針広混交林への誘導を目指すには, 強度間伐を行った場合にシカ採食が顕在化する生息密度の解明と施業地へのシカの集中を防ぐ簡便な手法の開発が必要である。
総説
  • 近藤 禎二
    2009 年 91 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/24
    ジャーナル フリー
    DNA解析, 組織培養, 遺伝子組換えといったバイオテクノロジーを利用した林木育種研究のわが国の現状を, 海外での重要な研究も含めてとりまとめた。DNA解析では, 用途に合わせて適切な種類のDNAマーカーを選択する必要があることを述べ, DNAマーカーによる選抜およびQTL解析では, 活用方法と研究の現状について検討した。組織培養については, これまで開発された培養法の特性とこれからの発展が期待される不定胚培養研究の経過についてまとめた。遺伝子組換えについては, これまでの開発の経過と, 主要樹種であるスギとヒノキで遺伝子導入が可能となったことを紹介した。最後に, バイオテクノロジーを利用した林木育種の将来について考察した。
feedback
Top