日本森林学会誌
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88 巻, 5 号
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論文
  • 小川 泰浩, 清水 晃, 久保寺 秀夫
    2006 年 88 巻 5 号 p. 329-336
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    1995年に雲仙普賢岳噴火活動が終息し数年が経過した時点において, 降下火山灰が堆積した林地と火砕流堆積地における火山噴出物表層の透水性変化過程を明らかにするため, 表層の飽和透水試験と土壌薄片による表層の土壌微細形態を解析した。リターが地表に堆積したヒノキ林地と広葉樹林地の火山灰層では粗孔隙が分布し, 透水性はリターの堆積によって向上していた。ヒノキ林地の中でもリターが地表にみられない場所の火山灰層には薄層がみられ, 孔隙率と飽和透水係数はヒノキリターが堆積した火山灰層に比べ低い値を示した。この薄層は, 表面流で移動した火山灰が堆積して形成された堆積クラストであると考えられた。火砕流堆積地では細粒火山灰が流出した結果, 孔隙特性が良好となって表層の透水性が上昇したと推察された。噴火活動終息後数年が経過することにより, 林地と火砕流堆積地における表層の透水性には違いがみられ, 土壌微細形態解析によってこの違いはリターの堆積や細粒火山灰の流出に伴う表層の堆積構造の変化により引き起こされていると推察された。
  • 小島 康夫, 安井 洋介, 折橋 健, 寺沢 実, 鴨田 重裕, 笠原 久臣, 高橋 康夫
    2006 年 88 巻 5 号 p. 337-341
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    東京大学北海道演習林では, 積雪期にエゾシカによる激しい樹皮剥ぎが発生し, おもに小径の樹幹が剥皮される。この演習林では, イタヤカエデ, イチイ, イヌエンジュ, ウダイカンバ, エゾマツ, オヒョウ, シウリザクラ, シラカンバ, ハリギリ, ハルニレ, ミズナラ, ヤチダモが森林施業や保全の上で重要である。われわれは, これら12樹種小径樹幹の内樹皮成分を分析し, 各成分とエゾシカの樹皮嗜好性との関連を検討した。エゾシカはイヌエンジュに対して低嗜好性を示したが, この樹種はアルカロイドを含む唯一の種であった。他の11樹種に関しては, エゾシカの樹皮嗜好性に対して灰分含有割合が正の, 酸性ディタージェントリグニン含有割合が負の関係をそれぞれ示した。
  • 川口 エリ子, 玉泉 幸一郎
    2006 年 88 巻 5 号 p. 342-347
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    マツノザイセンチュウを接種したクロマツ苗の庇陰下での病徴進展と, 樹体内でのマツノザイセンチュウの動態を調査した。処理区内の気温や湿度に, 庇陰による変化はみられなかったが, 庇陰下では非接種木の光合成速度が低下した。さらに, 庇陰下のマツノザイセンチュウ接種木では樹脂滲出量の低下や針葉の変色が速く進んだ。一方, 樹体内に侵入したマツノザイセンチュウは, 庇陰の有無に関わらず低密度で樹体全体に広がり, 移動・分散は処理間で差がなかった。しかし, 庇陰下では線虫の密度が1,000頭/g以上の高密度な部分がみられる時期が早まっており, 線虫の増殖が促進されていた。また, 線虫の爆発的な増殖と同時に, 針葉の変色も生じていた。これらのことから, 庇陰下では光合成の低下により前期から進展期への移行が促進され, それにより線虫の増殖や針葉の変色などの病徴が早まったと考えられた。
  • ―特に防鹿柵の設置と関連づけて―
    田中 美江, 斉藤 麻衣子, 大井 圭志, 福田 秀志, 柴田 叡弌
    2006 年 88 巻 5 号 p. 348-353
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    植生がニホンジカの採食下にある大台ヶ原では, その採食から樹木を保護するために防鹿柵が設置されている。この点に着目し, ササの形態特性とネズミ類の生息状況との関係を明らかにすることを本研究の目的とした。ササの繁殖状態の相違に基づき6プロットを設定し, 各プロットでミヤコザサの形態特性などを調べた。同時にネズミ類の捕獲調査を行い, 100トラップ・ナイト当たりのネズミ類各種の捕獲個体数を算出した。捕獲されたネズミ類は, アカネズミ, ヒメネズミ, およびスミスネズミであった。ニホンジカ個体群密度のより高い地域では, 防鹿柵内外でアカネズミおよびヒメネズミの捕獲個体数が異なり, 柵内で多く捕獲された。一方, スミスネズミは柵内でのみ捕獲された。防鹿柵内のミヤコザサは柵外よりも稈高が高く, 稈密度が低く, 乾燥重量が大きかったことから, これらがカバー (避難所) として作用し, ネズミ類の活動に有利に働いていると推察された。
  • 小林 政広, 釣田 竜也, 伊藤 優子, 加藤 正樹
    2006 年 88 巻 5 号 p. 354-362
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    土壌の撥水性は, 地表流や選択的な浸透の発生要因となることから, 斜面スケールの水の移動と貯留に影響し得る重要な土壌特性と認識されている。しかし, 林地斜面における撥水性の分布や発現強度に関わる要因は十分に解明されていない。本研究では, ヒノキ人工林および隣接する落葉広葉樹二次林の斜面上 (各180m×60m) で表層土壌を多点採取し (ヒノキ林40地点, 広葉樹林39地点), 水滴浸入時間 (WDPT) およびエタノール濃度 (EP) を指標として土壌の撥水性強度を測定した。ヒノキ林では, 夏期の乾燥時には斜面中部を含む全体の4割以上の地点で実際の撥水性を表す生土状態のWDPT (WDPT (f)) が600秒を超え, 撥水性を有する土壌は斜面の広範囲に分布していた。冬期の湿潤時には, WDPT (f) がほとんどの地点で60秒以下となり, 実際の撥水性は斜面全体で著しく弱まった。潜在的な撥水性と考えられる風乾状態のWDPT (WDPT (d)) は, ヒノキ林では河道近傍を除く8割以上の地点で1時間を超えた。一方, 落葉広葉樹林でも斜面全体に潜在的な撥水性が認められたが, WDPT (d) が1時間を超える地点は2割未満であった。同じ全炭素含有率の土壌で比較すると, 広葉樹林よりヒノキ林で潜在的な撥水性が強い傾向が認められた。
特集「マツ枯れ」
巻頭言
総説
  • 原 直樹, 竹内 祐子
    2006 年 88 巻 5 号 p. 364-369
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    マツ材線虫病に感染した宿主樹木は, さまざまな組織学的変化を示す。病原線虫感染後まもなく, 侵入した線虫の移動経路となる樹脂道においてエピセリウム細胞の破壊がみられる。また木部放射柔細胞においては, 細胞内容物にさまざまな異常がみられ, 病徴が進展すると内容物が細胞外に漏出し, 周辺仮道管および有縁壁孔に沈着する。皮層樹脂道周囲ではリグニン化およびスベリン化がみられる。抵抗性樹種と感受性樹種における病徴を比較すると, 前者においては感染後木部柔細胞の組織化学的変化があまり認められないこと, および変化が線虫侵入部位に限定されることが特徴である。また, 弱病原性マツノザイセンチュウやニセマツノザイセンチュウを接種した場合も, 線虫分布や病変が接種点付近に限られる。本病の発病機構については不明な部分が依然数多く残されており, より詳細な研究が必要である。
  • 山田 利博
    2006 年 88 巻 5 号 p. 370-382
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    マツ材線虫病の進行および抵抗性に関わる生化学的な反応についての研究を概説する。感受性の場合には線虫の加害によりマツ樹体内では萎凋, 枯死に繋がる生化学的な変化が進行し, 細胞死や通水阻害を引き起こす宿主由来の毒性物質が生成される。抵抗性の場合は, 静的な抵抗性因子としての線虫に対する阻害成分が健全木にもみられるが, 動的な反応としての阻害物質の生成や組織構造の変化が重要な抵抗性機構と考えられる。
  • 秋庭 満輝
    2006 年 88 巻 5 号 p. 383-391
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウのマツ属を中心とした針葉樹に対する病原性とその分化, および病原力の種内変異について論述した。本線虫は欧米と東アジアから分離されており, これまでマツ科の7属74種が宿主として報告されている。マツ属の本病に対する抵抗性は種によって異なり, 日本を含むユーラシア産のマツに感受性のものが多く, 北米東部産のマツは抵抗性のものが多い。北米では本線虫種内に樹種に対する病原性が分化していることが示唆されているが, 日本ではまだ分化していないと考えられる。一方, 本線虫には病原力の強さに幅広い変異がある。病原力が異なる要因は明らかになっていないが, 強病原力線虫は弱病原力線虫と比べてマツ樹体内でより速やかに移動・分散して増殖する, 培養菌糸上での増殖が速い, セルラーゼ活性が高いといった傾向がある。
  • 神崎 菜摘
    2006 年 88 巻 5 号 p. 392-406
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    糸状菌食性線虫の1グループであるBursaphelenchus 属は, 2種の致死的植物病原体, マツノザイセンチュウ (B. xylophilus) とred ring nematode (B. cocophilus) を含むことから, 属全体が栽培植物や森林樹木への潜在的脅威とみなされてきた。近年, マツノザイセンチュウがヨーロッパへ侵入し被害が発生したことから, 本属線虫の同定, 分類, 種類相の把握の重要性が世界的に再認識されている。このような状況の下, 本総説ではBursaphelenchus 属線虫の分類, 同定に関する研究の現状をまとめ, これらの研究結果を比較した。本属は現在約80種を含む, 形態的, 生態的にも非常に多様な属であり, 一般的には形態観察, または分子系統学的手法を用いて分類, 同定が行われている。形態分類では, 主に交接刺の形状が重要形質とされているが, これによる分類結果と分子分類法による結果を比較したところ, 交接刺の形状は比較的よく系統関係を反映しているが, いくつかグループで形態的収斂が起こっていることが推測された。また, 分子系統解析結果を生態的特徴と比較したところ, 昆虫を媒介者として利用する性質が属内で複数回にわたって発生したことが示された。
  • ―どのように媒介昆虫へ乗り移りそして離脱するのか―
    相川 拓也
    2006 年 88 巻 5 号 p. 407-415
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    マツノザイセンチュウはマツ材線虫病の病原体であり, Monochamus 属のカミキリムシによって伝播される。日本における主要な媒介者はマツノマダラカミキリであり, マツノザイセンチュウとマツノマダラカミキリとの間には個体群レベルで相利共生関係が成り立っている。本病におけるマツノザイセンチュウとマツノマダラカミキリの役割が明らかにされて以降, 両者の生態および相互関係に関する研究が数多く行われてきた。特にこの10年間は, 人工蛹室の開発, マツノマダラカミキリへのマツノザイセンチュウの乗り移りおよび離脱に影響を及ぼす要因の解析, さらに新たな伝播経路の発見など研究の進展が著しい。そこで本稿では, マツノザイセンチュウの伝播機構に関する研究を最新の情報を中心に総括し, この分野における今後の研究方向について検討する。
  • 加賀谷 悦子
    2006 年 88 巻 5 号 p. 416-421
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    マツノマダラカミキリの形態・生理・生態形質には地域による変異が認められるが, 種内の遺伝的構造に関しては未解明だった。近年, 昆虫のミトコンドリアDNAの解析が一般的なものとなったことと, マツノマダラカミキリでもマイクロサテライトマーカーが開発されたことから, 本種の分子生態学的研究が本格的に開始された。本総説はマツノマダラカミキリの形質の地理的変異を取りまとめ, 分子データを用いて本種の種内系統地理と遺伝的構造を解析した研究を紹介する。はじめに, 日本, 台湾, 中国でのミトコンドリアDNAの変異分布と日本国内の個体群のマイクロサテライト領域の解析結果から, 国内における遺伝的構造の形成過程が推論された。さらに, マイクロサテライトマーカーを用いた秋田と岩手の個体群構造解析により, マツ枯れ最先端被害地における本種の移動経路が推定された。最後に, 今後期待される研究の方向性を議論した。
  • ―マツ材線虫病防除戦略の提案とその適用事例―
    吉田 成章
    2006 年 88 巻 5 号 p. 422-428
    発行日: 2006/10/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    マツ材線虫病は外来の病原体マツノザイセンチュウと高い増殖率と分散能力をもつ在来のマツノマダラカミキリが結びつくことで蔓延しており, 在来の病害虫と同様の防除戦略は通用しない。すなわち, 日本のほとんどの地域に適用可能なマツ材線虫病に対する防除戦略とは, 防除によりマツ林が崩壊しない低水準に被害量を維持することであり, これを実現するには, 守るべきマツ林を選定し, 被害量を微害レベルに誘導することにより, 微害を維持する, という一連の手順が必要である。ここで, 被害量を微害レベルに誘導するには, (1) 周辺感染源の排除, (2) 守るべきマツ林内に発生する枯損木の伐倒駆除, (3) 守るべきマツ林内の生立木に対する予防措置, の三つの方策を着実に実行しなければならない。これらの方策に関し, 実行する際の各種防除手法の適切な使用と現場での阻害要因について論じた上, 筆者が実際に関わった防除の現場への適用事例について報告した。
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