日本森林学会誌
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100 巻, 2 号
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論文
  • 美濃羽 靖, 尾張 敏章, 中島 徹, 犬飼 浩
    2018 年100 巻2 号 p. 37-46
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

     天然林択伐施業において収穫木の選定(選木)は重要な技術である。本研究では,立木の外観指標と選木者の選木経験が選木意思決定や立木評価に及ぼす影響について解析した。解析には東京大学北海道演習林の天然林施業試験地内に成立する立木184本を対象とした選木試験結果を用いた。選木試験ではまず,同演習林の技術職員22名が各自調査対象木から収穫木を選定し,立木の形質や健全性等の選木意思決定に関わる四つの基準と47の外観指標を用いて選定した収穫木の評価を行った。次に,勤続年数20年以上の熟練技術職員2名が最終的に収穫木を決定し,全ての立木の外観指標を判定した。本研究では,後者を参照値とし,技術職員22名の選木結果と比較した。収穫木の本数・材積では正確度と一致度を,立木の外観指標では見誤り・見落とし回数および正解数を,それぞれ算出した。解析の結果,1) 選木者が収穫調査に関わった経験年数と選木の一致度との間に正の相関が見られ,2) 参照値に見られた立木の外観指標の多くは,腐れなどの材質の欠陥に関わるものであり,3)選木者は立木の外観指標を見誤るよりもより多く見落としする傾向が見られた。

  • 杉浦 克明, 吉田 早織, 早川 尚吾
    2018 年100 巻2 号 p. 47-54
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,小学校で使用されているすべての教科書を対象に,児童が文字として目にする樹種名(木本植物の名前)と樹種名出現頻度(樹種名が登場する回数)を明らかにすることである。教科書に掲載されている樹種名とその出現頻度を把握するために,全国で使用されている文部科学省検定教科書の全学年全教科を対象に,樹種名の抽出と集計を行った。その結果,どの教科に関してもサクラ,リンゴ,カキ等といった身近な樹種や果樹が多いことが明らかとなった。社会科の5年生で唯一森林に関する単元があるが,そこで扱われていたスギやヒノキの出現頻度は高くなかった。樹種名数が多かった上位4教科は国語,生活科,社会科,理科であり,樹種名の出現頻度が高かった教科は国語,算数,理科,社会科であった。また,出版社別の樹種名数については,出版社ごとに違いが見られた。さらに,全体的な傾向として第4学年の教科書に樹種名の出現頻度が高い傾向があった。教科書に載っている樹種名は国語,生活科,社会科,理科を中心に私たちの生活の中で目にすることができるものを中心に取り入れられており,生活と連結して考えることを目的としているのだろう。

  • ―コンフリクトの表面化とランナーの対応―
    平野 悠一郎
    2018 年100 巻2 号 p. 55-64
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,日本でのトレイルランニングの普及と課題解決に携わってきた有志ランナーへの聞き取り調査をベースとし,関連資料・データを踏まえて,その林地利用の現状と動向を体系的に把握した。トレイルランニングは,主に山や森林に続くトレイルを走る新しい林地利用として,日本でも2000年代以降に,主要な大会開催,ランニングブーム,中高年を含めた健康・体力維持や自然志向を背景に普及が進んだ。その一方で,ランナーや大会の急増に伴い,ハイカー等の従来の利用との軋轢が増加し,トレイルの植生破壊や事故等の安全管理面も懸念され,最近では東京都「自然公園利用ルール」(2015年)等を通じて,トレイルランナーの林地利用の規模・要件を制約する動きも生じてきた。この課題解決に向けて,各地での大会開催や普及活動を担ってきた有志ランナーによる「日本トレイルランナーズ協会」が設立され,ランナーのマナーや社会的地位の向上を組織的に担う動きが見られている。また,過疎化に直面する自治体・集落等との連携に基づき,大会開催,普及活動,トレイルの維持再生を通じて,森林の有効活用による地域活性化を積極的に担おうとする取り組みも確認された。

短報
  • 逢沢 峰昭, 森嶋 佳織
    2018 年100 巻2 号 p. 65-69
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

     1990年代以降,ニホンジカなどの増加と相まって,全国的にニホンヤマビルの分布拡大や吸血被害の増加が問題化している。被害対策を検討する上で,増加しているニホンヤマビルが昔はどこにいたのか,といった過去の分布情報は重要である。しかし,過去のニホンヤマビルの全国的な分布を扱った研究は少なく,特に1945年以前の分布情報は乏しい。本研究では,学術文献,紀行文および山岳書を基に,江戸時代中期から1945年までと,1946年からニホンヤマビルの分布拡大が生じる以前の1980年代までの二つの年代における全国のニホンヤマビルの分布情報を整理し,現在の分布と比較した。その結果,ニホンヤマビルは,東北地方,中部地方,紀伊半島および九州の一部の限られた山岳地に1945年以前から分布し続けていた。一方,九州の英彦山や伊豆の天城山のように,明治中期以降にニホンヤマビルがみられなくなった山岳もあることが示唆された。

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