日本森林学会誌
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105 巻, 7 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
論文
  • 相浦 英春, 図子 光太郎
    2023 年 105 巻 7 号 p. 225-232
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル オープンアクセス

    変成岩の中でも石灰質片麻岩を多く含むことを特徴とする飛騨変成岩を基盤岩とする,富山県南西部の多雪山地に位置する4小流域を対象に,流出機構を明らかにするための調査を行った。流出はおもに雨水・融雪水のうち表層土壌を通過した水と,基岩浅層あるいは深層を通過した地下水から構成されている。各小流域の流出特性はそれぞれ,流出の各構成要素の組み合わせによって異なっていた。流域の上中流域で基岩浅層から,下流域で基岩深層からの地下水が見られた流域では,融雪期を除いて基底流出時の電気伝導度が上昇し,基岩浅層からの地下水が基岩深層からの地下水より早く減衰すると考えられた。表層土壌を通過した水と基岩深層からの地下水で構成された流域では,基底流出時の電気伝導度は大きい値で安定していた。一方,他の地質を基盤岩とする流域と比べた場合は,いずれの小流域とも降雨イベント時の降雨量に対する直接流出量の割合は小さく,最大流域貯留量が非常に大きいという結果が得られた。この結果から,飛騨変成岩を基盤岩とする小流域は,降雨や融雪水を素早く鉛直浸透し,基盤岩地下水として貯留し流出するという流出特性を持つと考えられた。

  • 田口 木乃霞, 玉木 一郎, 茂木 靖和
    2023 年 105 巻 7 号 p. 233-238
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル オープンアクセス

    コンテナ苗の基本用土として広く使われているヤシ殻ピート(ヤシ殻)は海外産である。運搬時に発生する高いCO2排出量を考慮すると,国内のより近隣で生産された用土の方が望ましい。そこで本研究では,地域産資材であるバーク堆肥と牛糞堆肥を用いてヒノキ実生コンテナ苗を育成し,これらの用土の性質や苗の成長特性をヤシ殻を用いた場合と比較し,代替用土としての可能性を検討した。ヤシ殻の輸送に係るCO2排出量は地域産資材の約5倍高い値を示した。地域産資材はヤシ殻と比べて培地の沈下量やpH,ECが有意に高かった。特に牛糞堆肥はECがヤシ殻よりも28.1倍高かった。バーク堆肥と牛糞堆肥はいくつかの成長特性においてヤシ殻に劣っていたものの,バーク堆肥は比較苗高やT/R比に関してはヤシ殻と遜色ない値を示した。成長特性を培地の性質で説明する統計モデルから,培地の沈下量やpH,ECが低いほど成長が良いことが示された。以上より,バーク堆肥を基本用土に用いて,より長い熟成期間を設ける,もしくは赤玉土や鹿沼土のような酸性の粒状土を混合して沈下量やpHを抑制すれば,CO2排出量の低い代替用土として使用できる可能性が示された。

短報
  • 鵜川 信, 藤澤 義武, 大塚 次郎, 近藤 禎二, 生方 正俊
    2023 年 105 巻 7 号 p. 239-244
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル オープンアクセス
    J-STAGE Data

    ニホンノウサギが主軸を切断できるコウヨウザン植栽苗のサイズを明らかにすることを目的として,様々なサイズ(苗高82~197 cm)のコウヨウザン苗を鹿児島県垂水市のスギ皆伐地に60本植栽し,ノウサギによる主軸の切断を1年間にわたり観察した。実験中に15本の苗木が枯死したが,そのうちの1本は枯死前に主軸の食害を受けていた。生残苗では,25本の苗木で主軸の食害がみられた。苗木のサイズが大きくなるほど主軸の食害がみられなくなり,一般化線形モデルでは,植栽時の苗高が140 cm以上,または,高さ60 cmの幹直径が15 mmを超える苗木であれば主軸食害を受ける確率が10%まで低下することが推定された。したがって,植栽した苗木が成長し,苗高や幹直径がこれらの数値を上回れば,ノウサギによる主軸の切断を受けにくくなると考えられた。

  • 伊藤 哲, 平田 令子, 山岸 極, 溝口 拓朗, 山川 博美
    2023 年 105 巻 7 号 p. 245-251
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    成長に優れる系統および初期サイズの大きな苗を活用した下刈り省略の可能性を検討する目的で,スギ特定母樹県姶良20号のコンテナ中苗(苗高約90 cm)を植栽し3年目以降の下刈りを省略した林地において,6年目までの植栽木の成長と競合植生を調査し,裸普通苗(毎年下刈り)と比較した。中苗は下刈り省略後も順調に成長し,6年目末の平均樹高が639 cmに達した。競合植生の平均高との差も拡大しており,本調査地では3年目以降の下刈りを省略できる可能性が極めて高いと考えられた。一方,毎年下刈りを行った裸普通苗の成長と比較すると,中苗は下刈り省略開始の翌年には樹高成長がやや低下し,2年後には直径成長が明瞭に抑制されており,樹冠下部への被圧の影響が示唆された。また下刈り省略に伴い競合植生が高木・小高木主体の種構成に変化していることから,成長に優れる系統のメリットを活かすためには,追加の下刈りや早期の除伐が必要となる可能性がある。

  • ―県域レベルでの材積被害率の推定―
    中島 春樹
    2023 年 105 巻 7 号 p. 252-258
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル オープンアクセス

    森林・林業白書に毎年掲載されているナラ枯れ(ブナ科樹木萎凋病)被害材積の統計値は,被害対策の基礎資料となっているが,値の検証はされていない。そこで,2004~2011年にかけてナラ枯れが多発した富山県の民有林の統計値を検証した。この値は,林道等から目視でカウントした枯死樹冠数に基づいており,ナラ枯れが発生した2002~2017年度の合計は12万 m3だった。これに対し,森林生態系多様性基礎調査の101プロットにおける,ナラ枯れ多発前と多発後の2時期の毎木調査データを用いて推定した被害材積は178±81万 m3(点推定値±95%信頼区間)だった。このことから,統計値は過小評価であると示唆され,目視調査では確認できない部分があることが主因と考えられた。富山県の民有林におけるミズナラとコナラの材積被害率はそれぞれ57,9%と推定され,ナラ枯れが地域の森林資源に強い影響を与えたことが明らかとなった。

  • 山田 祐亮, 福本 桂子
    2023 年 105 巻 7 号 p. 259-263
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    我が国の木材生産量は近年増加している。しかし,この増産分はどのような森林から賄われているのだろうか。継続的な木材供給の可能性を検討するためには,伐採個所の特徴を明らかにすることが重要である。そこで,九州各県の民有人工林における年間木材生産量と伐採の空間分布(傾斜や道からの距離)との関係を明らかにした。また,林地を空間分布をもとにカテゴリ分けし,年間木材生産量と伐採面積の比率の関係性を線形回帰により示した。その結果,年間木材生産量が多いほど,傾斜が緩やかで道からの距離が短い森林が優先的に伐採される傾向が強かった。木材生産量の増加は,より収益性の高い森林からの供給により実現していると考えられる。この結果は,木材生産量の増加が伐採個所の偏りをもたらすことを示唆している。全体では森林資源が十分に存在する地域でも,収益性の高い林地において局地的な資源不足が生じる可能性がある。

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