日本森林学会誌
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101 巻, 2 号
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論文
  • ―栃木県民有林全域での試算―
    當山 啓介, 山本 嵩久, 有賀 一広
    2019 年 101 巻 2 号 p. 61-69
    発行日: 2019/04/01
    公開日: 2019/06/01
    ジャーナル フリー

    伐採量の制約を含む収穫規整は持続可能な森林経営に不可欠であるが,森林経営計画制度では,カメラルタキセ式類似式で算出される主伐量上限制約が計画対象森林に課される。栃木県全域の民有林220,521 haを対象として,林班ごと,および市町全域ごとに森林経営計画を策定する二つのシナリオを想定し,主伐量上限制約とその範囲内での皆伐材積を2期10年分試算して比較した。個別林班計画シナリオにおいては,収穫対象候補である生産林率が低い林班では皆伐可能材積の速やかな皆伐が許容されてしまう一方,生産林率が高い林班では主伐量上限がやや厳しく,現在許されている皆伐面積でも許容されない場合が生じてくる結果となった。市町全域で一計画とする広域計画シナリオにおいては,主伐量上限と皆伐材積が全域でほぼ一致し,個別林班での集中的皆伐もほぼ全域で許容されてしまうこととなった。このように,森林経営計画の主伐量上限制約は個別林班計画・広域計画のどちらのシナリオにおいても不備があり,多様な地域森林の状況下で皆伐をコントロールするための妥当なルールとはなっていないと言える。

  • 横尾 謙一郎, 松村 順司
    2019 年 101 巻 2 号 p. 70-75
    発行日: 2019/04/01
    公開日: 2019/06/01
    ジャーナル フリー

    材に節や変色がなく長さ4mの通直材を生産目標としたセンダンの管理手法を提示するために,適切な植栽密度および枝打ちの実施時期について検討した。植栽密度3,000本ha-1のセンダン人工林において植栽3年後に枝打ちを行い,その4年後に枝打ちした枝基部の巻込みおよび変色の状況を調査した。枝径2cm未満では,1年で巻込みが完了し変色は生じなかった。一方,枝径2cm以上では,巻込みに2年以上を要し,78~100%で変色が確認された。次に,枝打ちを実施しない3段階の植栽密度区(3,000,5,000および7,000本ha-1)を設定し,植栽3年後の地上高0.2~5.2mにおける枝の着生状況を調べた。いずれの密度区とも1個体当たりの総枝数(生枝+枯枝)は概ね10本であり,着生部位は各年の梢端部付近に集中した。また,低密度区では,変色の原因となる枝径2cm以上の割合が高かった。センダンは低密度で植栽すると幹曲りの可能性が高まることからも,目的とする材の生産には,植栽密度を5,000本ha-1程度とし,樹高が4.5mを超えかつ枝径が2cm未満である植栽後2年以内に枝打ちを完了することが重要であると考えられた。

  • 上田 正文, 谷脇 徹, 斉藤 央嗣, 相原 敬次
    2019 年 101 巻 2 号 p. 76-81
    発行日: 2019/04/01
    公開日: 2019/06/01
    ジャーナル フリー

    食葉性昆虫による食害と乾燥した環境がブナの木部水分通道組織構造に与える影響を推測する目的で,ブナ苗木を,異なる時期および強度で摘葉し,灌水頻度を変えて生育させ,当年枝の木部水分通道組織構造を調べた。ブナハバチの食害を想定した 5月摘葉処理では,摘葉強度の上昇に従い,平均道管内径と理論比水分通道度(Kst)が低下し,道管密度は高くなった。この傾向は,乾燥環境下で顕著であった。それに対し,ブナアオシャチホコの食害を想定した 6月摘葉処理では,乾燥環境下の強度摘葉においては 5月摘葉処理と同様な影響を示したものの,湿潤環境下では水分通道組織構造への影響は認められなかった。以上から,展葉完了後間もなくの失葉は,ブナの木部水分通道組織構造へ大きな影響を及ぼし,とくに乾燥環境下ではその影響が大きくなることが考えられた。このことから,ブナハバチの食害が,ブナの当年枝木部の水分通度組織構造に及ぼす影響は,ブナアオシャチホコの食害と比較し,大きいことが推測された。

  • 石塚 航, 今 博計, 来田 和人
    2019 年 101 巻 2 号 p. 82-87
    発行日: 2019/04/01
    公開日: 2019/06/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    北海道の主要造林樹種トドマツの産地試験地の一つが,2016年の台風によって甚大な被害を受けた。そこで,台風被害の程度に産地間差異があるかどうかを知る貴重な機会と捉え,被害実態調査を実施した。対象試験地は北海道南地域に設定され,被害時には37年生だった。調査の結果,直前に生存していた1,594本のうち被害は839本(52.6%)に観察され,その内訳は根返りが最も多く(被害木中47.7%),次いで幹折れだった。被害に関わると想定された候補変数を組み込んでモデル解析を行った結果,被害有無をよく説明する変数として産地が選択され,台風被害の程度に産地間差異があることが明らかになった。試験地から近隣の2産地(南・西産地)と最も遠方の産地(東端産地)に由来する個体は被害を受けにくい傾向が検出され,とくに健全率の産地間差異は最大で50ポイント以上(南産地72.6%,北産地20.4%)と明瞭だった。台風被害にみられた産地間差異には,地域性や風害抵抗性の違いが反映された可能性が推察された。

短報
  • 張 涵泳, 沖井 英里香, 後藤 栄治, 宮原 文彦, 宮崎 潤二, 前田 一, 古澤 英生, 宮里 学, 吉田 茂二郎, 白石 進
    2019 年 101 巻 2 号 p. 88-93
    発行日: 2019/04/01
    公開日: 2019/06/01
    ジャーナル フリー

    九州の8地域に生息するマツノザイセンチュウの遺伝的多様性と遺伝的構造の解明を10個のEST遺伝子座の塩基配列多型を用いて行った。九州全域の遺伝子分化係数(GST)は0.53で,全遺伝子多様度(HT=0.63)の半分以上が地域集団間に存在し,集団間に大きな差異があった。8地域集団のHTは0.12~0.59であり,多様性に富んでいたのは,川内,新富,松浦,唐津(0.59,0.57,0.56,0.55)で,地域集団内におけるGST(0.43,0.35,0.25,0.25)も高く,被害木内集団(亜集団)間に大きな差違があった。一方,多様性が特に低いのは,天草,宮崎(0.12,0.18)で,そのGSTも小さく(0.01,0.02),亜集団間の違いは極めて小さかった。これらの2集団の形成には,ボトルネック/創始者効果が影響していることが示唆された。九州では地域集団が保有する多様性の二極化が進行していると思われる。

  • 酒井 敦, 北原 文章, 山中 啓介, 三島 貴志, 岩田 若奈, 島田 博匡, 奥田 清貴, 中島 富太郎, 山下 由美子, 藤井 栄, ...
    2019 年 101 巻 2 号 p. 94-98
    発行日: 2019/04/01
    公開日: 2019/06/01
    ジャーナル フリー

    低コスト育林を目指してスギ・ヒノキ苗を植栽した試験地において,どんな苗木が活着率や樹高成長量において優位性があるのか検討した。近畿,中国,四国地方の13地域で実生と挿木からなる裸普通苗,裸大苗(苗高60cm以上),コンテナ苗,ポット苗,セラミック苗を植栽し,5年後(一部4年後)の活着率,樹高成長量を比較した。スギ実生大苗が最も樹高成長量が大きく,挿木苗は実生苗より有意に樹高成長量が小さかった。ヒノキセラミック苗は他の苗木より活着率が低く,ヒノキ裸普通苗よりも有意に樹高成長量が小さかった。スギを対象とした一般化線形混合モデルによる分析では,苗木の由来(実生,挿木),苗木タイプ(裸苗,コンテナ苗,ポット苗)と下刈り回数がスギの樹高成長量に影響していた。スギ大苗は初期サイズが大きい上に成長が早いため下刈り省力につながる可能性がある一方で,植栽コストがかかるため導入には道から近いなどの条件が必要である。

その他:シンポジウムの記録
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