日本森林学会誌
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90 巻, 2 号
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論文
  • 宮田 大輔, 鈴木 保志, 小畑 篤史, 後藤 純一, 板井 拓司, 政岡 尚志, 吉井 二郎
    2008 年90 巻2 号 p. 75-83
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/18
    ジャーナル フリー
    木質チップの自然乾燥を促進する方法として,定期的な撹拌の効果を実験により検証した。コンテナを用いて60 cmの層厚で堆積保管し,周囲環境の影響も比較するために屋外(雨よけなし),屋内,ガラスハウスの3箇所で,98日間含水率の変化を計測した。週1回の撹拌の効果は顕著であり,撹拌なしの屋内よりも撹拌ありの屋外の方が,また撹拌なしのガラスハウスよりも撹拌ありの屋内の方が早く乾燥した。撹拌なしでは乾燥が進むのは10 cm深程度までであった。撹拌ありでは撹拌なしの5 cmよりも下の層に比べて乾燥速度が速かったこと,および密封チップ片を用いた実験ではチップ片間の水分移動はほとんどなかったことから,撹拌による乾燥は撹拌時におもに進むものと考えられた。送風乾燥実験からその効果は風速2.8∼4.6 m/秒の送風乾燥に相当するものと推定された。
  • 阿部 友幸, 佐藤 弘和
    2008 年90 巻2 号 p. 84-90
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/18
    ジャーナル フリー
    流域全体の水土保全機能向上の方策を示すため,北海道東部の常呂川・網走川流域において作業道をふくむ林相,斜面地形,下層植生が土壌の浸透能に及ぼす影響を調査した。重機が走行する作業道や伐採跡地では,浸透能が低かった。北海道の主要造林樹種であるカラマツ・トドマツ人工林における浸透能は,天然林の値に比べて低い値を示した。また,全下層植生被度が高いほど,浸透能が高い値をとる傾向がみられた。これは,下層植生による土壌粗孔隙の形成等が関与していると考えられる。以上のことから,重機作業による浸透能低下に対する対策を積極的に図ることや,カラマツとトドマツ人工林については適正な密度管理を行うことで落葉広葉樹や下層植生を導入し,根系による粗孔隙形成を促す意義は大きい。
  • 宮下 智弘 , 中田 了五
    2008 年90 巻2 号 p. 91-96
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/18
    ジャーナル フリー
    スギの雪圧害による根元曲がりに対して,遺伝パラメータを推定した。解析の対象とした検定林の数は13であり,交配セットの数は19である。各交配デザインは要因交配によるものであり,根元曲がり抵抗性候補木160系統および精英樹23系統が交配親として供試された。なお,これらの精英樹は根元曲がりに対して抵抗性があると評価されたことから,根元曲がり抵抗性候補木とともに交配親として供試されたものである。林齢10年次に調査を行った。解析の結果,根元曲がりに対する遺伝分散のうち相加的遺伝分散の占める割合が大きかった。このことから,根元曲がり抵抗性の育種については,相加的遺伝分散を利用した育種が効果的であり,採種園方式による種苗供給が適すると考えられる。推定された遺伝率は,0∼0.27であり,平均値は0.11であった。今後,根元曲がり抵抗性の育種をさらに進めるにあたり,根元曲がり抵抗性候補木を母集団として推定された本研究の遺伝率を用いて,遺伝獲得量などのパラメータを推定し,より効果的,効率的な雪圧害に対する育種の方法を検討するべきである。
  • 小山 浩正, 長岡 あやの, 高橋 教夫
    2008 年90 巻2 号 p. 97-102
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/18
    ジャーナル フリー
    アオダモの発芽特性を知るために,山形県庄内地方で採取した果実を用いて発芽実験を行った。無処理の果実は5°Cでは休止状態にありほとんど発芽しなかったが,10∼25°C域のそれぞれの温度条件下では90%以上ときわめて高い発芽率を示したため,アオダモ果実は休眠性をもたないと考えられる。ただし,果皮を除去して種子を裸出させると,無処理の果実に比べて発芽速度が促進されたので,果皮による発芽遅延の効果があることがわかった。発芽遅延のメカニズムは,果皮が機械的に種子の発芽を抑制していることによって生じており,3カ月の低温湿層処理を経験すると解除された。11月の散布直後に降雪が始まる東北日本海側では,果実が休眠性をもたなくても,果皮による発芽遅延の作用をもつだけで,秋の誤発芽を防止できると思われる。果実の発芽遅延は,冬期の低温湿潤条件下で解除されることで,春先に一斉に発芽できると考えられた。アオダモ果実が休眠性を示さないことは,北海道産の果実で行われた先行研究の結論と異なることから,個体が生育する場所によって果実の発芽・休眠反応が異なる地理変異を示すと考えられる。
  • 野々田 秀一, 渋谷 正人, 斎藤 秀之, 石橋 聰, 高橋 正義
    2008 年90 巻2 号 p. 103-110
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/18
    ジャーナル フリー
    針葉樹人工林内への広葉樹の侵入および成長過程を明らかにし,それらに対する施業の影響を検討するため,北海道の80年生のトドマツ人工林において,広葉樹の樹種構成と,それらの地上0.3 mの年輪数,胸高における肥大成長量を調べた。広葉樹の種数や密度は4回の間伐を経て増加していた。地上0.3 mにおける年輪数の頻度は,初回間伐を除いた各間伐翌年に集中しており,間伐が広葉樹の侵入契機となっていると考えられた。また多くの広葉樹で間伐年から翌年にかけて成長量が増大しており,間伐は広葉樹の成長契機であることも明らかとなった。広葉樹の成長量は生態的特性によって異なり,遷移後期種と比べて中間種の成長量は全体的に大きく,間伐による成長の増大量も大きかった。また,成長量の増大が認められる個体割合や増大回数は,より早期に侵入した高齢の個体ほど大きかった。これらの結果から広葉樹の成長過程は,広葉樹の生態的特性や侵入時期により異なり,成長に対する間伐の影響もそれらによって異なると考えられた。
  • 三樹 陽一郎, 白石 進
    2008 年90 巻2 号 p. 111-115
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/18
    ジャーナル フリー
    DNA塩基配列上の一塩基多型を利用したSNP(single nucleotide polymorphism)分析によるマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツのクローン識別を試みた。まず,maritime pineのEST(expressed sequence tag)塩基配列情報を基に,本研究において新たに設計した2対のPCRプライマーで増幅される2 DNA領域について全16抵抗性クローンの塩基配列を決定した。その結果,これらのDNA領域中に合計20個のSNPが存在することが明らかとなった。このうちから16クローンすべてを識別するのに有効な9サイトを選定し,プライマー伸長法と蛍光法を組み合わせたSNPタイピングを行った。さらに,2対のPCRプライマーによるマルチプレックスPCRと9種類のSNPマーカーのマルチプレックスタイピングによる識別作業の効率化を行った。また,同一クローンで複数ラメートを使用し,再現性について検討したところ,常に安定したSNPタイプが得られ,信頼性のきわめて高いクローン管理が可能となった。
短報
  • 第9回締約国会議(COP9)に向けた論点の整理
    香坂 玲
    2008 年90 巻2 号 p. 116-120
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/18
    ジャーナル フリー
    生物多様性条約では2008年5月第9回締約国会議において,各国の活動の指針となっている森林の拡大作業計画の詳細検討が行われる。森林は条約の中心的領域ということもあり,注目が集まる。詳細検討は,作業計画の見直しではなく,実施を促進するための障害や優先的課題の特定に主眼がある。また森林の詳細検討には,条約全体と森林に特化した指針の決議があり,二層構造となっているので注意が必要である。我が国も2010年の第10回締約国会議の誘致を表明しており,過去の歴史やプロセスを理解した上で,産官学それぞれの領域において議論をリードすることが国際社会より期待されている。
  • 久保 満佐子, 川西 基博, 島野 光司, 崎尾 均, 大野 啓一
    2008 年90 巻2 号 p. 121-124
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/18
    ジャーナル フリー
    シオジ,サワグルミ,カツラが林冠を構成する奥秩父大山沢渓畔林の埋土種子の種構成を発芽試験法により調べた。本渓畔林の表層土壌(深さ5 cm)からは,現存植生にあるヤマアジサイ,フサザクラやミズメなどの他に,現存植生にはないフジウツギの実生が多く発芽した。本渓畔林の埋土種子組成の特徴として,優占種のシオジがほとんど含まれなかったこと,エビガライチゴやサルナシのような動物被食散布種子が少ないこと,現存植生との共通種が多いことがあげられた。渓畔林では出水を伴う撹乱によって,古い埋土種子集団が流亡するため,動物被食散布種子が蓄積されにくく,その代わりに現存植生に由来する風散布種子や重力散布種子が多いものと考えられる。
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