人文地理
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69 巻, 1 号
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特集 サハラ以南アフリカの経済格差における食料と土地
  • 大山 修一
    2017 年 69 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    2000年から2008年にかけて鉱物資源や農産品の国際価格が高騰し,サハラ以南アフリカでは中国をはじめとする非西洋諸国からの外国投資が急増し,高い経済成長を達成した結果,多くの中所得者層の消費者が出現した。このような状況は,アフリカ・ライジングとして「明日の成長市場」と呼ばれた。しかし,資源価格の下落とともに経済成長は鈍化し,国や地域,個人によって不平等が拡大しており,ディバージング・アフリカ,「分岐するアフリカ」と呼ばれるようになっている。本特集では,経済格差が拡大するアフリカにおける食料と土地に着目し,(1)自給指向性の強い農村社会が市場指向性を強めることによって生活の変化が激しくなるなかで,農村内において食料不足や飢餓を回避する仕組みや異なる民族間の相互扶助が機能していることを明らかにするとともに,(2)多くのアフリカ諸国で1980年代後半から1990年代にかけて土地法が改正され,土地取得に対する市場メカニズムの導入により,農村部の土地が生計手段としてだけでなく,財産として扱われるようになった結果,土地権利に生じている変化と社会の混乱について議論した。地理学は本来的には空間の広がりにおける差異を分析し,その現象の原因と結果を取り扱う学問である。本特集により現代世界の不平等を多角的に検討する重要性を提示した。

  • 原 将也
    2017 年 69 巻 1 号 p. 9-25
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    本稿の目的はザンビアにおいて,農業政策の転換によって変動する食料生産に対する農民の対処を明らかにすることである。ザンビアではトウモロコシが最も重要な主食である。植民地政府が都市労働者への食料供給を目的としてトウモロコシ生産を奨励し,トウモロコシ栽培がザンビア全土にひろまった。ザンビアの小農はトウモロコシを主食作物としてだけでなく,換金作物として栽培することで現金収入を得ている。このトウモロコシ栽培は,政府からの補助金によって安価に供給される化学肥料を使用することで成り立っている。しかし政府の農業政策は,そのときの政治状況に大きく左右され,ときに化学肥料の遅配が発生し,トウモロコシの生産量は大きく変動する。本稿で取りあげるザンビア北西部では,先住のカオンデという民族がトウモロコシやモロコシといった穀物を中心に栽培する一方で,他地域から移り住んだルンダ,ルバレ,チョークウェ,ルチャジという民族の移入者たちはキャッサバを栽培している。穀類の端境期にカオンデは食料不足におちいるため,移入者からキャッサバを入手することで,日々の食料を確保していた。農民たちは政策によって大きく変動するトウモロコシ生産に依存するわけではなく,食料不足時にカオンデは移入者からキャッサバを入手することで,世帯および地域における食料の安全保障が確保されていた。

  • 大山 修一
    2017 年 69 巻 1 号 p. 27-42
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    西アフリカ・サヘル地域の農村部において食料不足が慢性化しているにもかかわらず,世帯間の格差は大きく,富裕層は余剰作物を生産しつづけている。本論文は,農村部における経済格差と,その経済格差が生じる原因を地域の文脈にそって明らかにする。サヘル地域では,農耕民と牧畜民のあいだで野営契約が結ばれてきた。この野営契約は西アフリカのサヘル地域で広く見られるものである。野営契約によって,牧畜民とその家畜は農耕民の畑に滞在し,周辺の畑で放牧が許される。牧畜民は農耕民からトウジンビエや現金などの報酬を受け取るかわりに,農耕民の畑には家畜の糞が落とされ,作物を生産する畑の養分となる。牧畜民に野営契約を依頼できるのは村の富裕者のみであり,彼らは多額の村外収入をもつ。この富裕者の畑には野営契約によって養分が集積するが,周囲に広がる貧困層の畑では植物が家畜によって食べられ,養分が収奪されている。富裕者と貧困層の作物生産には大きな差異があり,農耕民と牧畜民の間で結ばれる野営契約という伝統的慣習によって,経済格差が拡大しつづけている。

  • 桐越 仁美
    2017 年 69 巻 1 号 p. 43-56
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    本稿は西アフリカ・ニジェール南部の農村における経済格差の拡大の実態を把握し,農耕民ハウサによる樹木の管理・利用の形態に着目することで,食料不足への対応策を明らかにすることを目的としている。この地域では,降水量の変動によって干ばつや作物の生育不良が生じ,土地の荒廃現象である砂漠化の進行と急速な人口増加によって利用可能な土地が減少している。こうした状況のもとで,人びとは慢性的な食料不足の問題に対峙している。しかし,すべての世帯が食料不足の問題に悩まされているわけではなく,なかには広い耕作地をもち,農作業に人を雇っている裕福な世帯もある。このような裕福な世帯においては,耕作地の養分状態を改善するための投資によって比較的安定した作物生産を維持することができる。他方,耕作地の養分状態を改善するための投資がかなわない世帯も多く存在し,農村では経済格差の拡大が生じているといえる。しかし,住民による樹木の所有状況に着目すると,裕福な世帯の耕作地において救荒食料となるバラニテス(Balanites aegyptiaca)が維持・管理されており,人びとが自由にバラニテスの葉や実を採取できるという仕組みの存在が明らかになった。裕福な世帯によってバラニテスが維持され,その樹木に対するアクセスが所有者に限定されずフリーアクセスであることから,ニジェールの農村部における飢餓に対するセーフティネットの存在を認めることができる。

  • 中澤 芽衣
    2017 年 69 巻 1 号 p. 57-72
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    アフリカ農村社会では,性別役割分業が存在し,夫と妻はお互いに与えられた役割を果たしながら生存基盤を確立している。近年,世界的に女性が世帯主の世帯(以下,女性世帯)が増加傾向にあり,女性世帯は,男性が世帯主の世帯と比較すると貧困に陥る傾向がある。調査国であるウガンダ共和国も,女性世帯が全世帯の30%を占めている。本稿は,女性世帯の配偶者との離別の経緯や土地の所有状況,世帯の収支に着目しながら,女性世帯間の経済格差を明らかにすることを目的とする。現地調査を通して,女性世帯の間でも経済状況が異なっていることが明らかとなった。土地所有の有無は,女性世帯間の経済格差を生み出す要因のひとつであり,土地を所有できるかどうかには,配偶者の経済状況と離別のしかたが大きく影響していた。土地を所有している女性は,農作業や非農業就労に従事しながら,生存基盤を確立することができていた。一方,土地を借用している女性は,農作業に従事しつつも自給を確保するのは難しい状況であった。女性世帯のなかでも経済格差が拡大していくことが示唆される。今後,経済・社会的に脆弱で,生活が窮乏する女性を支援する必要がある。

  • ズール リチャード, 大山 修一
    2017 年 69 巻 1 号 p. 73-86
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    ザンビアにおける都市と地方の不均衡な開発は,地方から都市への人口移動を引き起こしたが,都市における住宅開発は順調に進まなかった。本稿は,ザンビアの土地政策の歴史をみたうえで,経済の自由化と土地商品化の動きにともなう都市の住宅問題,宅地をめぐる争議を検討する。主要な問題は,都市における住宅のうち80%がインフォーマル,あるいは,開発計画の適用地域外であるということにある。これらの地域では,水や電気の供給,下水道やゴミ収集といった衛生に関する行政サービスは乏しく,洪水が起きたり,あるいは,コレラや赤痢などの感染症の発生もみられる。ザンビアでは,1964年の独立時に,人々の移動が自由となった結果,都市の住宅不足が深刻な問題となった。さらに1995年に土地法が改正されたことにより,貧困削減を目的として,土地の資産価値を認め,首都への資本集中を進めた。この土地法の改正は,土地所有権の強化と都市の開発を進めることになった。ザンビアにおける住宅開発は,住民の主体性に任せる「自助努力による住宅開発」にもとづいているため,地価や物価の上昇のなかで住宅を確保できない住民も多い。ザンビアにおける潜在的な問題として,都市部における住宅地の競合と行政による土地接収に対する都市住民の過激な反応にともなう社会秩序の混乱を指摘しておきたい。

  • アシムウェ フローレンス アキイキ
    2017 年 69 巻 1 号 p. 87-99
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    本稿では,ウガンダの高収入世帯において,土地や財産の所有について女性が副次的な位置づけで,女性による土地や財産の管理がいかにはばまれてきたのかについて分析する。女性の財産所有に対する権利は弱く,「貧困の女性化」といわれるように女性は貧困状態におちいっている。女性は結婚後に家計にとって副次的な役割しか担うことができず,離婚や別居することになると,自分自身で生きていかなければならなくなる。土地や財産所有権に関するジェンダー間の不平等は,家父長制を重んじる文化や社会の価値観だけでなく,女性のエンパワーメントの障害をつくりだす法制度によっても生み出されてきた。本稿では,高学歴の女性が,土地購入や家屋の建築に際して経済的な貢献をしたにもかかわらず,所有権を取得できない事例を示している。また,別の事例では,女性がみずからの名前を土地所有証明書に入れることができず,女性は土地の所有権を保有できず,土地の使用権のみを保有するにすぎなくなっている。これらの事例では,夫が財産をみずから単独の所有物として登録している。本稿は,ウガンダにおける世帯の所有する土地や財産の権利の複雑な動態を理解する一助となり,サハラ以南アフリカだけでなく,発展途上国において女性がもつ土地・財産に対する権利の現状に関する知見を提供するものである。

展望
  • 市川 康夫
    2017 年 69 巻 1 号 p. 101-119
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    1990年代以降,経済のグローバル化と世界を取り巻く農業の環境変化のなか,いかに農業・農村の価値を再び見出すかという課題において農業の多面的機能(Multifunctional Agriculture: MFA)は多くの議論を集めてきた。特に,WTO を中心とする貿易自由化交渉において,農業・農村に対する先進諸国の多額の補助金が国際ルールの削減対象となったことで,MFA はヨーロッパを中心とする農業への保護が必要な諸国に政治的に利用されてきた。本研究は,MFA をめぐる研究が蓄積されてきた英仏語圏の議論を中心に,その登場の背景と諸概念,フィールド研究への応用の点から整理し,その政治的文脈と理論的な背景を明確にすることを目的とした。MFA 論は,1990年代に提唱されたポスト生産主義論との関連のなかで発展してきた。特に生産主義/ポスト生産主義という二項対立や,ポスト生産主義論の抱える概念的な限界性は,MFA 論の拡大へと引き継がれ,理論的・概念的な研究を中心に議論が展開されてきた。一方,ポスト生産主義への批判点ともなっていた実証研究の不足は MFA 論でも同様であり,MFA 論の実践と応用をフィールド研究にいかに位置付けるかを,地理学者 Wilson の概念を中心に論じた。MFA 論の応用においては政策との関わりからその農家への影響を精査し,広い地域的フレームで捉えることが重要といえる。また,今後は地理的スケールや国ごとの政治的文脈の差異に着目し,マクロな文脈とミクロな農家との相互関係の解明が求められる。

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