永久歯歯式が5134/4134=50とされている有袋類のハイイロジネズミオポッサム (
Monodelphis domes-tica) を用いて, 歯堤と歯胚の発生様式および細管エナメル質の構造とエナメル細管の機能について, 組織学的検索を行った. 12, 16, 18日齢の観察から, 上・下顎の乳犬歯・第3乳臼歯・第1大臼歯および上顎の第1乳切歯・第2大臼歯の歯胚に, 代生歯堤ないし代生歯胚が確認された. 上顎第4切歯部と下顎第1切歯部では, 乳歯の歯胚が退縮するのが認められた. 歯堤は上顎第1乳切歯部を除き, 上・下顎でそれぞれすべて連続し, 下顎第3大臼歯部以外の各歯胚の近心あるいは遠心の部位で口腔上皮と連絡していた. すなわち, 上顎第1乳切歯, 上・下顎の乳犬歯・第1大臼歯は, 第一生歯 (乳歯) が永久歯化し, 上顎第4切歯および下顎第1切歯は, 第二生歯 (代生歯) が永久歯化したと推測される. 上・下顎の第3乳臼歯のみは, 第二生歯 (第3小臼歯) に交換することが確認された. エナメル結節, エナメル索, 中間層というエナメル器の組織分化は, 真獣類と同様に観察された. エナメル小柱は, エナメル象牙境から斜めに派生し, 咬頭頂へ向かうが, エナメル質表面近くになると急に屈曲し, 周囲を小柱間エナメル質に囲まれていた. エナメル細管は, エナメル象牙境付近では, エナメル小柱・小柱間エナメル質に分布し, 1本のエナメル小柱内に複数の細管が存在することもあった. エナメル質中層から表層では, エナメル細管は各エナメル小柱内に1本ずつ分布し, エナメル象牙境からエナメル質表面近くまで連続した1本のエナメル細管が確認されたが, 小柱間エナメル質には認められなかった. エナメル細管が1個のエナメル芽細胞と深く係りあって形成されたものと推定できる. エナメル細管内に, 象牙芽細胞の突起である象牙線維が象牙細管から連続して, 分枝して分布しているのが認められた. これは, 象牙芽細胞の突起もエナメル細管の形成に関与することを示すと考えられる. 塩化ストロンチウムおよびテトラサイクリンの生体投与実験を行った結果, 両者がエナメル細管およびエナメル質の表面近くまで達しているのが検出された. これは, 象牙芽細胞の関与による, エナメル細管を介した物質の輸送機能があることを示している.
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