ラット顎下腺ミクロソームのジチオスレイトールメチル化活性の性状を検討した。この反応は, 二価カチオン非要求性, スルフヒドリル基選択性, およびS-アデノシル-L-ホモシステイン感受性を示した。また, 生体内チオール化合物であるL-システインやグルタチオンより, 1, 4-ブタンジチオールや2-メルカプトエタノールなどのアルキルチオール化合物が良い基質となった。これらの結果から, この活性がチオールS-メチルトランスフェラーゼによるものであることが明らかとなった。顎下腺ミクロソームのチオールS-メチルトランスフェラーゼは, ジチオスレイトールに対して高い活性を示し, モノメチル化体に加えジメチル化体を生成した。また, この活性は, 非イオン系界面活性剤の添加で著しく上昇した。これらの結果から, チオールS-メチルトランスフェラーゼの存在する膜構造が, 酵素タンパク質の基質結合部位あるいは触媒部位の高次構造に強い影響を及ぼすことが示唆される。唾液腺の本酵素は, 細胞外チオール化合物あるいは細胞内で生じた硫化水素の解毒代謝を担うことで, 毒性の高いチオール化合物から分泌機能を保護するものと考えられる。さらに, 顎下腺では, チオール化合物代謝を介して, チオール化合物で活性化されるT-キニノゲナーゼ-T-キニン系の調節機構にかかわる可能性も示唆される。
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