日本門脈圧亢進症学会雑誌
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28 巻, 2 号
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Editorial
総説
  • 井上 和明
    2022 年28 巻2 号 p. 161-163
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー

    肝性脳症は肝不全因子と門脈因子により生ずる中枢神経系の異常で,潜在的脳症から深昏睡まで大きな幅が認められる.肝不全因子のみで発症する肝性脳症は急性肝不全がその典型で,一方門脈因子だけで発症するものは,猪瀬型肝性脳症がその代表である.肝硬変においては肝不全因子と門脈因子の両者が肝性脳症の発症に関与している.肝性昏睡惹起物質は未だに同定されていない.我々は血液浄化の経験から昏睡惹起物質は体内分布容積の大きい水溶性の中分子物質であると考えている.アンモニアは神経毒性物質で脳症の原因物質として注目されてきたが,必ずしも血中のアンモニアレベルと脳症の重症度は一致せず,むしろアンモニアはアストロサイトの機能不全に関与しアンモニアの解毒物であるグルタミンは脳浮腫と関連すると考えている.

  • 近藤 礼一郎, 矢野 博久, 岩切 泰子
    2022 年28 巻2 号 p. 164-169
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー

    COVID-19は肺炎に加え肝臓を含む複数の臓器を障害し,肝障害(血中ALT値高値)はCOVID-19の重症度と相関する.しかし,COVID-19で肝障害が起こるメカニズムや肝障害に関わる肝臓の病理組織所見は明らかとなっていない.我々の検討では,高度肝障害(血中ALT基準値上限3倍以上)を有するCOVID-19症例の肝組織には類洞の内皮細胞傷害(endotheliopathy)がみられ,肝類洞への好中球浸潤および微小血栓の形成を認めた.また,肝類洞内皮細胞の傷害と血中IL-6値に関連が示された.本稿では,COVID-19での内皮細胞傷害および肝障害について概説するとともに,COVID-19患者における肝類洞の内皮細胞傷害および微小血栓と肝障害との関連について述べる.

原著
  • 岩井 拓磨, 山田 岳史, 太田 竜, 園田 寛道, 進士 誠一, 松田 明久, 武田 幸樹, 真々田 裕宏, 吉田 寛
    2022 年28 巻2 号 p. 170-176
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー

    【背景】Oxaliplatin(Ox)は大腸癌化学療法のkey drugであり,有害事象の肝類洞障害は予後に影響する.近年脾容積測定で非侵襲的に肝類洞障害が予測可能と示された.大腸癌肝転移では肝切除で予後が改善するが,肝切除後のOx投与による影響は明らかでない.【方法】大腸癌肝転移切除51人を対象とし肝切除後,化学療法終了後,終了1年後の脾容積を検証した.【結果】Oxレジメン群では終了後に72.4%(21/29例)で脾容積は増加し(median 149.6 ml→195.7 m:p<0.001),脾容積増加例の71.4%(15/21例)で終了1年後も容積増加が継続(median 194 ml:p=0.005).Oxを含まない群では脾容積の有意な変化は認めなかった.【結語】肝切除後のOx投与では約70%で肝類洞障害が生じ,そのうちの約70%の症例では肝類洞障害遷延が考えられる.

  • 永島 一憲, 入澤 篤志, 小島原 駿介, 久野木 康人, 福士 耕, 阿部 圭一朗, 金森 瑛, 山部 茜子, 飯島 誠
    2022 年28 巻2 号 p. 177-182
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー

    食道静脈瘤に対する予防的治療として血管内注入法であるEIS(EO法)もしくはEISLが施行された124例を対象に,内視鏡所見から供血路を推定できるか検討した.評価項目は,食道静脈瘤の存在部位(時計軸)と供血路の関係,各症例における食道静脈瘤の主要供血路,および,供血路を形成する各静脈の頻度,とした.左胃静脈は全方向の静脈瘤に関与していたが,特に食道前壁から右壁の静脈瘤に強く関与している傾向であった.また,後胃静脈は食道左壁の静脈瘤に関与していた.食道静脈瘤の供血路は左胃静脈111例(90%),後胃静脈9例(7%),左胃静脈+後胃静脈4例(3%)であった.主要な供血路は左胃静脈であり,その他,後胃静脈が関与していた.内視鏡所見から食道静脈瘤の供血路を推定し,供血路と関与が強い静脈瘤に対するEIS(EO法)が可能と示唆された.このことは静脈瘤治療戦略立案に大きく寄与するものと考えられた.

症例報告
  • 田上 真, 中西 孝之, 荒木 寛司
    2022 年28 巻2 号 p. 183-187
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー

    肝硬変症においてはさまざまな合併症が認められる.門脈大循環シャントの発達によって食道静脈瘤や胃静脈瘤はよくみられる合併症である.中でも胃静脈瘤は破裂した場合,内視鏡的止血術が食道静脈瘤破裂に比べて止血に苦慮することも多く,止血術後も再発破裂を繰り返すこともある.本症例は胃静脈瘤破裂による吐血を3回繰り返し,内視鏡的止血術では治療的限界を感じていたところに造影CT画像上胃腎シャントの発達を認めたため,Balloon-occuluded retrograde transvenous oblitalation(BRTO)を施行した.胃腎シャント周辺には細かい側副路の発達も認めたが,BRTO変法のCoil-Assisted Retrograde Transvenous Oblitalation II(CARTO II)を施行したところ奏功して胃静脈瘤および胃腎シャントを消失させることができた.

  • 中島 隆善
    2022 年28 巻2 号 p. 188-192
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,男性.C型肝硬変および肝細胞癌に対して加療中,病勢の進行に伴い腹水が憎悪,腹満が増強し,コントロール困難となったことから腹腔-静脈シャントを留置した.留置後にいったんは腹水のコントロールが得られたが,術5か月後より腹満が再燃した.CTにて腹水の増加と上大静脈内に位置するシャントチューブ先端に連続して3 cm大の血栓と考えられる滴状の陰影を認めた.陰影は右房内へ進展しており,シャント留置後に合併した上大静脈内血栓と診断した.Direct oral anticoagulantsであるリバーロキサバン内服による抗凝固療法を導入したところ,経時的に血栓の退縮を認めた.その後,肝細胞癌および肝不全の進行に伴いシャント留置9か月後に永眠された.腹腔-静脈シャント留置後の上大静脈内血栓の合併はまれであり,自験例は経時的に画像を追跡しえた貴重な症例と考えられ,文献的考察を加えて報告する.

  • 佐々木 脩, 金子 順一, 安城 芳紀, 高尾 英正, 柴田 英介, 安永 愛, 坪井 真代, 石沢 武彰, 赤松 延久, 有田 淳一, 長 ...
    2022 年28 巻2 号 p. 193-198
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー

    症例は40代女性.15年前に周産期に門脈血栓症を指摘された.14年前にJanus kinase 2(JAK2)変異を伴う本態性血小板血症と診断され,腹部造影CT検査で門脈膜様狭窄を認めた.20XX年,上部消化管内視鏡検査で噴門部前壁に胃静脈瘤を指摘され,経皮経肝門脈造影では門脈本幹に膜様狭窄と著明な側副血行路の発達を認めた.狭窄部をバルーン拡張したところ門脈狭窄は改善し,側副血行路は消失した.術後第3病日に腹部造影CT検査で門脈および上腸間膜静脈に血栓形成を認めたが,抗凝固療法と血栓溶解療法を施行し軽快した.まれなJAK2変異を伴う本態性血小板血症に合併した門脈膜様狭窄に対して経皮的血管形成術を施行し軽快した症例を経験した.

短報
  • 上村 博輝, 酒井 規裕, 小島 雄一, 川田 雄三, 渡邊 雄介, 荒生 祥尚, 木村 成宏, 阿部 寛幸, 薛 徹, 横尾 健, 坂牧 ...
    2022 年28 巻2 号 p. 199-203
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー

    大量の肝性腹水が腹腔内圧の上昇をもたらし,腹部コンパートメント症候群を発症している状況を腹水前後の膀胱内圧測定,腎静脈流速測定を中心に検討した.対象症例は穿刺前後の膀胱内圧測定,腎静脈の流速測定等が可能であった腹水合併肝硬変8例.穿刺前後の膀胱内圧,尿潜血反応,腎機能,腎静脈流速等を経時的に観察した.末期肝硬変患者が肝腎症候群へ移行する過程で腹水による腹腔内圧の上昇が腎うっ血を併発させ,レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の亢進に関係する可能性が示唆された.

テクニカルレポート
コーヒーブレイク
研究会記録
  • 小田倉 里奈, 石塚 敬, 斉藤 紘昭, 大久保 裕直
    2022 年28 巻2 号 p. 210-214
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー

    当科で経験した門脈膿血栓症8例につき,その治療介入の意義につき検討した.門脈膿血栓症診断は造影CTにて門脈に造影不良域がありかつ血液培養からグラム陰性桿菌が検出されたものとした.男性6例,女性2例.年齢中央値60(18~85)歳.基礎疾患:糖尿病,胆管結石排石後,慢性腎不全,腸回転異常症,自己免疫性肝炎,原発性硬化性胆管炎,先天性胆道拡張症,胆管癌.全例で発熱,肝障害は3例のみ認めた.4例に経皮経肝門脈穿刺を行い,膿汁を吸引しカテーテル留置,抗生剤・ウロキナーゼの門脈内注入を行った.診断まで7日間要した例では,門脈本幹は完全閉塞し後に肝外門脈閉塞症を来した.それ以外の3例では抗生剤とダナパロイドナトリウム,アンチトロンビンの経静脈的投与を行った.門脈膿血栓症はまれであるが,発熱を伴う門脈血栓症を認める場合は念頭に置くべき疾患であり,早期診断,治療介入が必要である.なお経皮経肝門脈穿刺は,膿血栓消退不良例では考慮に入れておくべきアプローチ法であると思われた.

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