日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
選択された号の論文の175件中51~100を表示しています
発表要旨
  • 宮崎 真, 石川 守, バータービレグ ナチン, ダムディンスレン ソドブ, ジャンバルジャブ ヤムヒン
    セッションID: 601
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.はじめに
    モンゴルはシベリアから続くタイガ林の南限に位置している。モンゴルの森林面積は国土の約7%を占めており、その約80%はカラマツ林である。モンゴルでは森林は地下に永久凍土がある北向き斜面に主に分布し、永久凍土がない南向き斜面には草原が主に分布している。 2010年よりモンゴル北部永久凍土域のカラマツ林において水文気象・生態・年輪年代の長期モニタリングを開始した。本研究の目的は、モンゴル北部の永久凍土上のカラマツ林における熱・水・二酸化炭素の交換過程とその動態を複数のアプローチから総合的に明らかにすることである。本稿では、観測から得られた熱・炭素収支と生物季節の関係を示す。
    2.観測方法とデータ
    観測サイトはモンゴルトゥブ県バツンブル郡ウドレグ村(48°15’43.7’’N, 106°50’56.6”E, 標高1264m)のモンゴル国立大学研究林内のカラマツ林にある。気温・相対湿度(2高度:25m, 2m)、気圧、風向風速、降水量、積雪深、短波・長波・光合成有効放射量、地温、土壌水分量と熱・炭素収支を計測している。樹木の胸高直径の成長量(デンドロメーター)、樹液流量(グラニエ法)、定点カメラによる植生および地表面状態を測定している。
    3.結果
    年平均気温は-1℃で、年較差は約60℃(日平均気温が6・7月に+25℃~27℃、12月に―30℃)であった。年降水量は約250mmで、5月から9月の降水量が年降水量の約90%を占めていた。地温は深さ3m以下では一年中―0.2℃程度で季節変化が無く、永久凍土となっていることが分かった。定点カメラ写真及びPARアルベードから地表面状態とカラマツ林の生物季節が明らかとなった。1月~4月上旬と11月~12月は地表面に積雪があり、5月下旬にカラマツの葉が展葉したのち、葉の成長の最盛期を7月に迎え、10月上旬に落葉していた。深さ10cmの土壌水分量は、1月~4月は約10%以下であったが、降水の季節変化と対応して増加し、5~8月までの間は約20%と高い値であったが、10月から減少し11月~12月は約10%以下であった。6月中旬~9月上旬は顕熱(H)<潜熱(LE:蒸発散量)となっていたが、それ以外の期間はH>LEであった。6月上旬~9月下旬は二酸化炭素フラックスが負(吸収)で、それ以外の期間が正(とくに春季に大きな正(放出)となっていた。このカラマツ林における熱・炭素フラックスの季節変化は土壌水分量や積雪などの地表面状態とカラマツの展葉・生長・落葉等の生物季節と密接な関係があることが明らかとなった。
  • 立入 郁
    セッションID: S1504
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    モンゴルでは、歴史的に数年~十数年に一度深刻なゾド(寒雪害)や干ばつが起こり、そのたびに大きな家畜被害を出してきた。最近では、1999~2002年および2009~2010年の干ばつ・ゾドで甚大な被害が出たことは記憶に新しい。こうしたゾド被害の軽減のためには、まず基本的なメカニズムを把握し、現在進みつつある気候変動による条件の変化を考慮に入れた上で、被害を効果的に減少させる早期警戒システムを考える必要がある。本発表では、経験的なモデルや気候モデルの出力を用いたゾドメカニズムの解明、気候変動影響の推定についての筆者らのこれまでの取り組みを紹介しつつ、社会的要因をも踏まえた今後の干ばつ・ゾド早期警戒システムの改善の方向性についても議論する。
  • 宮崎 真, 萬 和明, 浅沼 順, 近藤 雅征
    セッションID: P019
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.はじめに
    気候変動予測に用いられる地球システム統合モデルにおいて、陸面での熱・水・物質の交換を含む水文気象過程を計算するためのモジュールが陸面過程モデル(LSM; Land surface process model)である。本研究では土壌水分、蒸発散量等の水文気象観測データとLSMの計算結果の比較検証を半乾燥域の中国とモンゴルの草原において行い、LSMによる水文過程の再現性を確認して、算出精度向上に必要な知見を得る事を目的とする。
    2.使用したとデータ
    使用したLSMはIPCC第5次評価報告書(AR5)に向けた研究用に東大AORI/国立環境研/JAMSTECが共同開発したMIROC5(Watanabe et al., 2010)に組み込まれているMATSIRO(Takata et al., 2003)である。中国の半乾燥草原ではCEOP(地球エネルギー・水循環統合観測プロジェクト)による中国東北部のTongyu(44.416 N, 122.867 E、標高:184m)における地温・土壌水分・地表面熱収支をLSMの検証用データ(2002年10月~2004年12月)として用いた。モンゴルの半乾燥草原ではRAISE(北東アジア植生変遷域の水循環と生物・大気圏の相互作用の解明)によるモンゴル東部の草原Kherlen Bayan Ulaan(KBU:47.2127 N, 108.7424 E、標高:1235 m)におけるデータを検証用データ(2002年11月~2007年4月)として用いた。
    3.結果
     地温の再現性は高かった。凍結時期はモデルと観測の変化傾向はほぼ同じであったが、融解時期(2~3月)にはモデルの方が観測よりも地温が高く融解が早く進んでいた。より深い層の地温でも同様の傾向が見られた。正味放射量は、モデルの方が地温の上昇が早い春先の時期(2~3月)、モデルの方が観測より低くなっていた。上向き長波放射量について、モデルと観測を比較すると春先の融解時にはモデルの方が観測より高くなっていた。従って、正味放射量が春先にモデルの方が低くなったのは、地表面温度がモデルの方が高く、上向き長波放射量が高くなったためであると考えられる。土壌水分量については、再現性が悪く、特に冬季の凍結時については、モデルの方が観測に比べてかなり高い値を示していた。MATSIROでは、土壌の凍結・融解に伴う熱伝導率や透水係数の変化も考慮に入れている。潜熱フラックスは比較的再現性が高かったが、顕熱フラックスは再現性が低かった。観測値とモデル出力の違いの要因については、今後、土壌の物理係数や水理パラメータについて検討する必要があると考えられる。また、ADMIPプロジェクトの一環で他のLSMとの相互比較を行う予定で、それを通じて本研究で用いたモデルの特性や位置づけを明らかにして、再現性向上に必要な知見として活用の可能性がある。
  • -住民意識調査を手がかりに-
    深見 聡
    セッションID: 706
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     島嶼におけるエコツーリズムの先行研究は、西表島や小笠原諸島、屋久島など「もともと観光地として知名度の高い、いわば「主流」とも言える離島」を扱ったものが比較的多い。他方、これからエコツーリズムの仕組みを本格的に取り入れようという状況にある「主流の離島」以外を対象とした研究は少ない(宮内,2009)。そのなかでは、対馬の集落の観光に対する可能性を「野生動植物を中心に置きつつもそれだけに頼ることなく、離島という立地、文化や景観など集落のもつポテンシャルを利用」する必要性を説いた堀江(2006)や、本稿で扱うのと同じ上対馬地域を対象として韓国人観光客向けの観光プログラムの開発と人材育成の必要性を説いた佐藤・藤崎(2011)、鹿児島県十島村(トカラ列島)を対象として、離島の観光事業は「自然環境や住民生活にとって負荷を調整しやすい形態」を志向することの妥当性を指摘した大田(2012)が挙げられる。しかし、いずれもエコツーリズムに代表される島嶼の観光で主導的な役割を担うことが期待される住民、とくに現在の主要な担い手と位置づけられる商店街に暮らす人びとや、将来の担い手とされる若年層の意識にまで踏み込んだ検討はなされておらず、より地域の実情をリアルに把握する必要がある。 以上のような状況を踏まえて本稿では、エコツーリズムを推進していく際の自然観光資源が比較的未利用の状態で存在する(これからエコツーリズムの取り組みが具現化される状態にある)上対馬地域を対象として、上対馬地域に暮らす住民は自地域をどのように評価し、エコツーリズムをどのようにとらえているかを、アンケートをもとに把握し、今後の上対馬地域におけるエコツーリズムのあり方について検討していく。 本稿では、エコツーリズムを推進していく際の自然観光資源が比較的未利用の状態で存在する長崎県上対馬地域を対象とし、同地域に暮らす住民は自地域をどのように評価し、エコツーリズムをどのように捉えているかをアンケートをもとに把握し、今後の上対馬地域におけるエコツーリズムのあり方について検討した。アンケートは、エコツーリズムという観光による地域活性化というテーマを考慮して、その恩恵をうける地域商店街に暮らす住民を対象者とし、上対馬地域で国際航路の発着点となっている比田勝港に程近い比田勝・佐須奈の両商店街で実施した。また、若年層の意識を知るため、上対馬地域で唯一の高校である長崎県立上対馬高等学校の生徒を対象として実施した。 その結果、上対馬地域では、新たな交流人口の拡大を図るにはエコツーリズムによる取り組みが有望であることを明らかになった。その中でも非移転性や固有性の高い自然や文化といった地域資源に根差したこれらの展開は、住民同士の合意形成といった地道な仕組みづくりがなされてこそ持続可能なものとして定着すると指摘した。 さらに特筆すべきは、他の日本国内の島嶼にはほとんどみられない韓国人観光客の増加という特性を踏まえたエコツーリズムのあり方を早急に検討すべきである。幸いに韓国においても「オルレ」をはじめエコツーリズムのような観光形態に関心が高まりつつある。彼らは対馬におけるエコツーリズムを考える上で成否を握るほどのインパクトをもたらす対象と認識しておくべきだろう。
  • 高橋 誠, 堀 和明, 松多 信尚, 田中 重好
    セッションID: 103
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本発表では、東日本大震災の被災地、宮城県のいくつかの市町を事例に、津波による死亡率を市町村内の小地域(行政区、居住地ベース)ごとに把握し、その死亡率の地域的分布と「津波の遡上範囲」や「家屋の多くが流される被害を受けた範囲」(日本地理学会災害対応本部津波被災マップ作成チーム 2011)との関連性を分析することで、死亡率の高かったり低かったりする行政区がどこにどのように分布するか、とりわけ平野部とリアス部とで違いが見られるか、また、そうした死亡率の地域差は津波の挙動(浸水範囲や浸水高など)や集落の自然地理的条件、人口構造や都市機能などの社会的条件などとどのように関連するかを検討し、東日本大震災において、なぜ大きな人的被害が生じたか、今後どのような津波防災が必要とされるかということを議論しようと試みるものである。
  • 岡田 篤正
    セッションID: S1704
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    近畿地方には活断層が数多く発達し,歴史時代にもこれらに沿って大地震が引き起こされてきた.2011年東北地方太平洋沖地震の発生を受けて,西南日本でも南海トラフ沿いから発生する巨大地震や直下型地震の発生が近づいてきたと懸念されている.近畿地方に発達する活断層について最新情報を紹介し,地震防災上の問題点を考察する.
  • 平井 松午
    セッションID: S1101
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.はじめに
     江戸幕府は,安政元年(1854)の日米和親条約に基づく箱館開港にともない,翌年2月に松前藩領を除く蝦夷地全域を幕府直轄地とし,明治維新を迎えることになる。この蝦夷地第二次幕領期には,仙台藩・南部藩・津軽藩・秋田藩,安政6年以降はこれに会津藩・庄内藩が加わって,東北諸藩による蝦夷地の分領支配および警衛が行われた。そのため,東北諸藩は蝦夷地の各地に元陣屋や出張陣屋などを構え,数百人規模の藩兵を派遣してロシアの南下政策に備えることとなった(図1)。
     本報告は,絵図資料等をもとに,GISソフトを用いて安政期におけるこれら蝦夷地陣屋の位置比定や景観復原を行い,その形態的特徴を明らかにすることにある。

    2.蝦夷地陣屋の絵図資料と陣屋の構造
     東北諸藩による蝦夷地陣屋の建設にあたっては,陣屋建設地の事前見分,警衛持場絵図,陣屋周辺の絵図や陣屋配置図・陣屋建物差図・台場絵図等の作成,地元(東北)での建築部材の調達など,幕府や箱館奉行所の指導の下に準備が進められたとみられる。
     これらの絵図や関連文書は,弘前市立図書館,盛岡市立中央公民館,函館市立中央図書館などに残されており,これらの絵図をGISソフト上で重ね合わせることで陣屋景観の3D復原も可能となる。
     図2は,津軽藩・南部藩の蝦夷地警衛の拠点となった箱館近郊の千代ヶ台陣屋および水元陣屋の復原図である。ともに,外郭土塁や内郭土塁,水濠などで二重三重に囲繞された堅固な構造を有していたことが判明した。
     しかしながら,こうした絵図資料を欠く陣屋も多く,その中には位置比定さえも困難な陣屋もある。報告時には,空中写真や発掘資料なども活用して,他藩の陣屋や出張陣屋についても景観復原を試みる。

    付記
    本報告は,平成22~25年度科研費・基盤研究(B)「文化遺産としての幕末蝦夷地陣屋・囲郭の景観復原-GIS・3次元画像ソフトの活用」(研究代表者:戸祭由美夫奈良女子大学名誉教授,ヶ台番号22320170)の成果の一部である。

    参考文献
    戸祭由美夫2000.幕末に建設された北海道の囲郭-五稜郭の囲郭プランのもつ意義の研究-.足利健亮先生追悼論文集編纂委員会編『地図と歴史空間』303-315。大明堂.
  • 若林 芳樹, 小泉 諒
    セッションID: P036
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本研究の目的は,GISを用いて社会地図を作成し,バブル経済期以降の東京23区の人口構成の空間的パターンとその変化を検討することにある.そのために,時系列比較に適したメッシュデータを用いながら,バブル経済が始まった1985年から最新のデータが得られる2005年までを分析した.分析には,社会地区を構成する主要な人口指標を選定して地図化し,都心を基準にした6つの距離帯と4つのセクター間での指標値の定量的比較を行った.用いた指標は,家族的地位を代表する年少人口率,老年人口率,単独世帯率,社会経済的地位を代表するブルーカラー率,管理職率,専門技術職率,民族的地位を表す外国人率である.分析に先立って,人口増減率の変化を検討したところ,バブル経済期の地価高騰の影響を受けた1985~1995年には,都心部とその周辺での減少が著しかったが,地価が下落に転じた1995~2005年には,都心部での人口回復傾向が認められた.こうした人口増減パターンをふまえて,社会地区の各指標を分析した.家族的地位を表す年齢・世帯構成については,都心周辺部への核家族世帯の流入により,同心円パターンからセクター・パターンへと変化しつつある.社会経済的地位を表す職業構成については,基本的には東西の差が顕著なセクター・パターンが維持されているものの,その差は縮小してきている.とくに管理職率はセクター・パターンから同心円パターンへの変化がみられ,ホワイトカラー内での差も顕在化している.外国人人口は,都心周辺で最も高い同心円状のパターンがみられた.しかし国籍別に分析を行ったところ,それぞれ集住地区を形成していて,諸外国での研究と同様に,多核心パターンが認められた.
  • 松尾 宏
    セッションID: P031
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1. 目的・調査方法 本研究では、ネパール南部のテライ低地ナワルパラシの農村集落における水利用の特色、利用上の問題、ヒ素汚染の実態を把握するため、住民の水利用(井戸)の調査を実施した。調査方法は、飲用水、生活用水の井戸水利用に関する地域的特色および問題とその対策、生活と水利用の関係を把握するため、地域内の25のワード(集落)において、水利用状況の住民アンケート調査と複数の井戸での聞き取り調査および生活状況の調査を行った。2. 調査地域 調査地域は、テライ低地のナワルパラシNawalparasi郡パラシParasiの東西約6km、南北約10kmの水田を主とした農業地帯であり、ここには約31ワード(集落)が分布し、その中の25のワードを対象とした。3.調査概要 おもな調査の実施内容は、以下の通りである。                          (1)アンケート調査  住民アンケート調査は、調査対象地域の各ワードを訪問し、聞き取り形式による井戸水利用の住民アンケート調査を行った。調査地域は25ワード(集落)、回収アンケート数は117件(人)であった。アンケート調査は、ネパール語に翻訳したアンケート用紙により、ネパール人スタッフ3名を同行して行った。今後は、回収アンケート内容を集計整理し、利用状況について検証する。(2)井戸利用実態調査  各井戸の概要と利用状況把握のための聞き取り調査は、各井戸地点の状況調査と各井戸の持ち主・利用者に対しての聞き取り調査を行った。調査箇所は25ヵ所(ワード)で井戸数100箇所について行った。利用されている井戸には、堀井戸(開放井)とポンプ(井戸)及び水道(地下水源)がある。主な聞き取り内容は、各井戸の深さ、井戸の掘削・設置年、利用目的(飲用かどうか)である。(3)生活状況調査 生活状況調査では、井戸調査と並行して各ワードにおける生活・文化の特色に関する聞き取りおよび現地での確認を行った。実態調査による地域の特色を概観すると、各ワード(集落)は農業が基幹産業であって自給的農業を営んでいる地域である。生業は、米作(雨季)を主とし、調査した乾季には小麦やサトウキビ、豆類、牧草などを栽培し、牛、水牛、ヤギ、鶏などの家畜飼育がほとんどの家でみられ、海外出稼ぎ労働もみられる。 なお、今後は、集落ごとの生活レベルの差、民族の違いと水利用、生活との関わり、ワード別の違い等井戸(地下水)の利用形態について検証する。
  • 秋山 祐樹
    セッションID: S1802
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    近年、これまで十分に利活用されてこなかったミクロスケールの非集計データが利用可能になりつつある。我々はこうしたデータを「マイクロジオデータ(以下MGD)」と名付け、その取得と研究領域での利活用の可能性について研究を行なっている。本論文はMGDの紹介とともに、新しいMGD開発の事例や、MGD研究会の活動について報告するものである。
  • -東京都奥多摩町を事例として-
    白 迎玖, 金子 郁容, 小林 光, 栗原 和夫, 高藪 出, 佐々木 秀孝, 村田 昭彦
    セッションID: 616
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    近年、高解像度の地域気候モデルの開発とそれを利用した日本域温暖化予測の研究が急速に進んでいる(例えば、Sasaki et al., 2011; Murata et al., 2012)。気象研究所は、水平格子間隔5kmの非静力学地域気候モデル(NHRCM-5km)を開発し、それによる日本附近の気候変動の将来予測計算を実施した。本研究は文部科学省科学技術戦略推進費「グリーン社会ICTライフインフラ」(課題代表者:慶應義塾大学金子郁容)の一環として、温暖化に伴う気候変化への自治体レベルの具体的な対応策を検討するための指針を提供することを目的とする。本稿においては、少子高齢化、過疎化が加速している東京都奥多摩町を研究対象地域として、NHRCM-5kmによりダウンスケーリングされた温暖化予測結果を自治体の既存データベースシステムに統合して、温暖化適応策の立案への活用するアプローチを検討する。東京都奥多摩町の面積は225.63km2で、東京都に所属する自治体では最大である。1950年代以降、町人口は減少を続け、2012年の人口は約5,856人(2012年1月1日)である。平成22年国勢調査によれば、人口の平均年齢は56.2歳で、高齢者率は約41.3%である(東京都の高齢者率は約20.7%)。奥多摩町の標高は高く(奥多摩町駅の標高は約343m)、都心部とは気候が大きく異なる。図1によれば、奥多摩町(観測点:小河内)の年平均気温は都心部(観測点:東京)より低く、都心部と同様、年平均気温が顕著に上昇している。本研究では文部科学省の革新プログラムにより気象研究所で作成された5㎞メッシュの温暖化予測データ(6-10月の暖候期)を使用した。また、数値気候モデルによるダウンスケーリングの結果は膨大であり、内容も専門的であって一般の利用に適さないことを考慮し、汎用データ変換ツールに加えて、地理情報システム(GIS)による気候変動5kmメッシュデータのマッピングを行った。これによりNHRCM-5kmによる予測結果を自治体レベルでの適応策への活用することを試みた。また、気象庁AMeDASの小河内(標高530m)観測データ(1979-2003年)を用い、観測値と5㎞メッシュモデルの観測点に最も近い陸上格子点のデータ(1979-2003)との比較も行った。現在気候実験における地上気温のバイアスが小さく、NHMRI-5kmによる奥多摩町の局地的な気候を再現できているといえる。
  • 青山 雅史, 小山 拓志
    セッションID: 110
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     2011年東北地方太平洋沖地震により,東日本の広範囲において多数の液状化被害が生じた.本発表では,利根川下流低地,福島県北部国見町,宮城県南部白石川流域,宮城県北部大崎平野などの内陸部において生じた液状化被害について報告する.また,利根川下流低地における液状化被害の発生が微地形や土地の履歴と密接な関係にあることを示す. 液状化被害分布を明らかにするため,Google Earth画像の判読と徒歩および自転車による現地踏査をおこなった.現地踏査では,目視による観察により,液状化被害の発生地点,被害形態等の確認・記載をおこなった.液状化に起因する構造物被害の多くは,現地踏査により確認した.利根川下流低地に関しては,GISを用いて液状化被害分布と国土地理院発行治水地形分類図や明治初期~中期に作成された迅速測図,明治後期以降に作成された旧版地形図などとの重ね合わせをおこない,液状化被害発生地点と微地形との関係を検討した. 利根川下流低地では,明治期以降の利根川改修工事によって本川から切り離された旧河道の埋立地や,利根川沿いに多数分布していた湖沼(落掘)や湿地の埋立地(旧湖沼,旧湿地)などにおいて,水田上や小河川河床における多量の噴砂の堆積,家屋や電柱などの構造物の沈下・傾斜,堤防や盛土の損傷等,多数の液状化被害が生じた.それらの旧河道,旧湖沼の多くは,1950~1970年にかけて利根川の浚渫土砂によって埋め立てられて形成された地盤であり(青山・小山 2011),緩い砂質地盤の存在と地下水位が浅いことが既存のボーリング資料により確認され,液状化が発生しやすい条件を満たしている.微地形ごとの単位面積当たりの液状化被害数(個/km2)をみると,旧河道・旧湖沼と高い盛土地で大きい値(137.7,119.7)となっており,次いで自然堤防(12.3),旧湿地(10.9),高水敷(7.4),氾濫平野(4.7)となっている.これらのことから,利根川下流低地では,旧河道・旧湖沼といった過去の水部の埋立地において,他の微地形よりも多数の液状化被害が生じ,高密度に液状化被害が生じたことが確認された. 福島県北部の国見町では,町役場敷地内において液状化が発生した.町役場敷地内の浄化槽の浮き上がり,コンクリート構造物の沈下や庁舎周辺地盤の沈下などが見られた.町役場庁舎は柱や床の傾き,床の凹み・亀裂や天井の落下など多大な損傷が生じたため使用困難となり,震災以降,他の場所の施設を仮庁舎として使用している(国見町 2011).宮城県南部の白石川流域内陸部(白石市,大河原町,柴田町,蔵王町)では,水田上の噴砂・亀裂,マンホールの浮き上がり,地下埋設管埋め戻し土の沈下などの液状化被害が多数生じた.白石市では,かつての水田が1980年代以降に市街地として造成された地域において,マンホールの浮き上がりが多数生じた.宮城県北部の大崎平野においても,多くの液状化被害が生じた.大崎市古川地区では,自然堤防上に発達した旧市街地よりも,氾濫平野(後背湿地)上の比較的新しい時期(1970~1980年代以降)に造成された市街地において,多数の液状化被害が生じた.市立古川東中学校では,敷地内において液状化が発生して校舎の沈下・傾斜が生じ,被災した校舎は解体された.その周辺地域では地盤沈下が生じ,建物の抜け上がり被害(大きい地点で30~40 cm程度)が生じた.また,江合川や鳴瀬川などの河川堤防では液状化に起因する堤体の沈下,崩落などの被害が多数生じ,それらの河川の旧河道においては噴砂や構造物の沈下・傾斜が確認された. このように,東北地方太平洋沖地震による液状化被害は内陸部においても多数発生し,建物,農地,電気・水道等インフラ設備,河川堤防などに多くの被害が生じて,市民生活に深刻な被害を与えた.また,役場庁舎や学校校舎において液状化による大きな被害が生じた自治体もあった.公的機関や教育施設の被災は,大地震発生後の復旧・復興活動の際の大きな支障となる.現時点で市町村レベルにおいて液状化ハザードマップが整備されている自治体は少ない.今後の大地震発生への対策を進める上で,内陸部においてもより精度の高い液状化ハザードマップの整備が望まれる.
  • 深瀬 浩三
    セッションID: 408
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本研究では,集約的な経営で生産規模を拡大させているブロッコリー産地を事例として,ブロッコリーの生産・流通から産地の存続とその課題を検討するにすることを目的とする. 研究対象地域は,全国市町村別で一位のブロッコリー作付面積を誇る埼玉県深谷市(旧岡部町)の榛沢地区を事例に考察した.埼玉県北西部に位置する旧岡部町は,1973年から1978年にかけて圃場整備を実施し,多くの桑園を畑地化した養蚕転換型の野菜産地である.養蚕から加工用の大根栽培が行われていたが,1979年から榛沢農協と先駆的農家らによって榛沢農業協同組合青果物一元出荷協議会が発足し,栽培しやすく今後の需要の増加が見込めるブロッコリーが導入・普及した. 1982年頃には,産地内に品種選定試験圃場を設置したことで,全国に先駆けてブロッコリーの栽培技術が確立され,ブロッコリー栽培が周辺地域へ広がった.協議会への参加する農家も徐々に増加していった.1986年からは,より精度が高い計画出荷を図るために,榛沢農協と農家との取り決めによる出荷申告制度を導入した.このようなシステムを導入することで,農協から一定量を一定価格で業者に出荷することが可能になり,取引先からの信頼を得ることにもつながった.この頃には,連作による品質低下を防ぐために,秋冬ブロッコリーと春ブロッコリー,スィートコーンを中心に輪作体系が確立された. 1990年からは,JA全農さいたまブランド化事業である「菜色美人」の指定を受けブランド化を図っている.技術革新の導入によって,ブロッコリーが栽培しやすくなったため,農家の中には新規参入者(定年帰農など)もみられる.約100戸で構成される出荷協議会では,2002年から生産履歴記帳を開始し,2004年には農家全員がエコファーマーを取得し,さらに安全安心な野菜作りをめざした取り組みが行われている.ブロッコリーの共販体制は,1985年にブロッコリーをより高鮮度に保持できる真空式予冷庫を榛沢農協の集出荷場に設置したことで,京浜市場だけではなく,北海道や東北地方などの遠隔地へも販売が可能となった.また,安価な輸入生鮮ブロッコリーに対抗するために,1993年から期間値決め方式,1994年からは選別・箱詰め労力の軽減とコスト低減を図っている. 出荷協議会では,1985年から1990年代半ばにかけて東京都内や北海道などの量販店などで販売キャンペーンを実施し,1999年からはラジオ宣伝活動を行っている.このような活動の成果から,東京大都市圏を中心にチェーン展開している小売店などから榛沢農協へ直接注文が入るようになり,代金回収の利便を考えて,卸売市場を介した販売を行っている. 東京近郊産地の深谷市榛沢地区では,農協主導のもとで農家が一体となって,秋冬と春のブロッコリー栽培を中心とする綿密な生産計画を行ってきた.また,ブロッコリーの品種選定試験圃場の設置,厳選選別検査,生産から流通にわたる技術革新の導入によって,産地の生産規模を拡大させ,高い収益を得ることができた.品種更新やさらなる省力化などの技術革新によって,しばらくは高齢者や新規参入者による産地規模の維持は可能と考えられる.だが,農家は農地をフル活用しているため,作付面積の規模拡大は難しい.今後は,農協が耕作放棄地の発生を予測し,大規模農家にうまく集積していくような農地貸借システムを構築する必要がある.
  • 吉 偉偉
    セッションID: 401
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1978年の改革開放政策を実施して以来、中国は多国籍企業にとって一番重要な市場になっている。多国籍企業の中国事業展開の進展に伴い、駐在マネジャーは環境の変化によって自分自身の適応行動も自発的に変化する。この研究は中国の外国人マネジャーの成功プロセスはどのように現地環境の選好とネットワーク構築活動に関連していることを検討する。 これまで、学者は立地選好ということばを企業レベルで立地選択について注目が集めっている (Cox, 1972; Dunning, 2009)。Kahn (1992) は家族企業と非家族企業の立地選好を研究した。Edgington (1995) は北アメリカに進出している日系の不動産企業の立地行動を分析した。Boston and Roll’s (1996) はアフリカ系のアメリカ企業のクラスター創造に関して立地選好を検証した。いずれも制度的な主体 (企業) 分析で個人主体の選好に関する研究はまだ少ないと思われる。日本ではSchlunze and Plattner (2007) は企業環境、市場環境と生活環境という三つのレベルから日本における欧米人マネジャーの立地選好を分析した。ネットワークは、相互信頼関係の上で社会主体の間に社会資本、紐帯意図的な関係、知識伝達活動を指し、この行動主体は個人、グループとビジネス単位ある (Nahapiet and Ghoshal, 1998)。Burt (1997) は他者の間の繋がりを仲介することによって価値を付けると述べでいる。 この研究は行動中心アプローチ (Markusen, 2003)を利用した。中国に駐在している外国人マネジャーを対象にして、調査を行った。そのうち、上海で開催した『14回日中ものづくり商談会』の企業名簿か日本人マネジャー (235人)と730人の外国人マネジャーを対象にアンケートも実施した。162人のマネジャーがアンケートに参加した (回答率:16.7)。 その結果は、日本人マネジャーは現地の人的資源、新たな市場機会に対して関心が高かった。欧米人マネジャーはバリューチェーンとの連携に対して高い関心を示している。現地政府からのインセンティブ的なサポートは重要な要因ではないと考えている。また、日本人マネジャーは日本文化に親しい都市で勤務したい傾向があり、欧米人マネジャーはこのような傾向は見られなかった。外国人マネジャーはビジネス機能を中心にする都市で勤務したいが、政治的な機能を中心にする都市に勤務したくないという結果を示した。ネットワークの分析では、マネジャーの強い紐帯 (Granovetter, 1973) に注目して、ほとんどのマネジャーは同じ国籍のマネジャーが一番重要な紐帯と答えた。このようなネットワーク紐帯を個人ネットワーク、企業内ネットワークと企業間ネットワーク (Yeung, 1997) に分類して、Chi-square testテストの結果、マネジャーのタイプとネットワークの種類の間に有意性があることを明らかにした(p<0.01)。欧米人マネジャーの紐帯は個人ネットワークに依存する場合が多く(35人)、日本人は企業内ネットワークに依存する場合が多かった。結論としては、日本人駐在員は組織の戦略に合わせており、彼らの成功プロセスは間接的・制度的な関係に依存している。欧米人駐在員はホスト国のマネジャーと活発にコミュニケーションをとり、彼らの成功プロセスは直接的・個人的な関係に依存している。
  • 戸所 隆, 碓井 照子, 岡本 耕平, 小田 宏信, 吉田 容子, 山下 博樹, 石丸 哲史
    セッションID: S1401
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1. 地理学分野における参照基準の検討経過2008 年12 月に公表された中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」では、大学卒業までに身につけるべき能力として、「学士力」という考え方が打ち出された。これは、大学は学士学位授与の方針を具体化・明確化し、かつ社会に公開することによって、大学卒業者の能力を社会に対して保証すべきとの提言である。学士力には、論理的思考、コミュニケーション能力、倫理観など、分野横断的に共通した学修目標とともに、専門分野別の到達目標がある。後者をどう構築するかについては、文部科学省から日本学術会議へ審議が依頼され、「大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会」を中心に検討がなされた。日本学術会議は検討の結果、2010年8月の文部科学省への「回答」において、学士課程教育の質を保証するためには、各分野の教育課程編成上の参照基準を策定することが望ましいという方針を打ち出している。それを踏まえ、順次各分野に参照基準を検討する組織が設置され、参照基準案の作成に取り組んできている。地理学の分野では、第21期日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会に大学地理教育小委員会(岡本耕平委員長)が設置され、参照基準作成準備を始めた。また、大学地理教育の現場は国公私立で異なる上、地理専門教育、教職教育、地域政策系教育など多様である。そこで、2010 年10月の日本地理学会大会(名古屋大)で、参照基準作成の参考にすべく広島大学文学部、奈良大学文学部、国士舘大学文学部、福岡教育大学、岐阜大学地域科学部、青山学院大学経済学部の地理教育の実態報告を中心とした公開シンポジウムを開催した。このシンポジウムの総合討論では、①学生にとって地理学の学修がどのような意義を持つのか、②複合領域的学問の地理学に最低限必要な参照基準は何か、③学生の就職と地理学の質保証との係わり、④教養課程、教職課程、地理学の専門課程、経済学や地域政策などの地理学以外の専門課程の地理教育においてどのような質の保証がなされるべきかについて討議している。2. 公開シンポジウムの目的 2011年秋に発足した第22期日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会にも大学地理教育小委員会(戸所隆委員長)が設置され、2013年春までに地理学分野における参照基準の原案を作成することが求められた。そこで、これまでの準備を踏まえ、日本学術会議で示された「各分野における参照基準の作成のためのサンプル」を参考に作業を進めることにし、下記の「参照基準案の発表」6項目の検討を行ってきた。「地理学」参照基準は、どの大学においても活用可能な参照基準となることを目標に作成作業をしている。また、大学地理教育の現状を検討し、今後の日本の大学地理教育のあるべき姿とそれへの道筋を見出すことを目指してきた。そのためには、作成中の原案を多くの大学地理教育関係者に公表し、忌憚のない意見を頂く機会が不可欠となる。そこで本シンポジウムは、最終まとめに入る前に日本地理学会理事会と日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会の共催により広汎な意見を聴取し、参考基準作成に資することを目的としている。3. 公開シンポジウムの進め方 1)趣旨説明(岡本耕平・5分) 2)学術会議の立場から参照基準作成についての背景・経緯等を説明(碓井照子・15分) 3)参照基準案の発表(約60分 ※発表者) ①「地理学」の定義(岡本※・松本) ②「地理学」に固有の特性(小田※・高橋・村山) ③「地理学」を学ぶすべての学生が身につけることを目指すべき基本的な素養(戸所※・小口) ④ 学習方法および学習成果の評価方法に関する基本的な考え方(吉田※・高阪) ⑤広範な関連分野をもつ地理学専門教育と教養教育とのかかわり(山下※・山川) ⑥「地理学」と教員養成(石丸※) 4)総合討論・約80分(司会進行・戸所 隆)
  • 矢ケ崎 典隆
    セッションID: 316
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     アメリカ人地理学者のテリー・ジョーダンは、ヨーロッパ移民による北アメリカの植民を検討するために「前適応」概念が有効であると主張するとともに、ドイツ人が南カリフォルニアに前適応していなかったことがアナハイム植民事業の失敗を引き起こしたと指摘した。本研究は、ドイツ人によるアナハイム植民事業を詳細に検討し、その失敗が、ドイツ人の前適応の程度に起因したのかどうかについて考察することを目的とする。1857年に開始されたアナハイム植民事業は、モルモン教会によるサンバナディノの建設とともに、アメリカ時代の初期に行われた集団開拓事業であった。アナハイム建設の経緯については、Minutes of the Los Angeles Vineyard Society(1857年2月2日~1860年4月30日、Anaheim History Room所蔵、M. L. Dwyerによるドイツ語からの翻訳、1957年5月)がある。住民の構成を知るために、1860年マニュスクリプトセンサスを用いた。1870年代から1880年代の事業所の構成は、シティディレクトリーにより明らかとなる。また、ローカル新聞Anaheim Gazetteからドイツ系社会の動向を探った。アナハイム植民事業は、サンフランシスコ在住のドイツ人が、ブドウ栽培とワイン醸造を目的とした営利事業の企画であった。しかし、1884年に発生した原因不明の病気の流行により、3年間でブドウが死滅した。こうして当初の目的は失敗して経済的基盤は失われ、バレンシアオレンジ栽培への転換が進んだ。アナハイム植民事業に参加したのは、アメリカでの生活経験を有し、多様な仕事についていたサンフランシスコ在住のドイツ人であった。彼らは経済的な利益を求めてブドウ栽培とワイン醸造を目指した。また、ロサンゼルスに近接するため都市化の影響を受け、多様な経済の機会が存在した。住民の転出・転入の結果、ドイツ的な特徴は弱まった。アナハイムは中西部に文化島のように存在したドイツ人農業集落とは性格を大きく異にした。すなわち、ドイツ人によるアナハイム植民事業の失敗は、前適応していなかったためであるとは結論付けることはできない。それはむしろ入植者の属性と地域の諸要因によって説明することができる。
  • -魚野川流域を事例に-
    森本 洋一, 小寺 浩二
    セッションID: 609
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    降雪地域では冬季から夏季にかけて、河川水質に融雪水が大きな影響を及ぼすことは広く知られている。特に、北海道や本州の日本海側地域に代表される多雪流域では、融雪水の影響は初夏にまで及び、流域自体の水文循環や水環境特性を決定づける大きな要素を形成している。また、積雪期間中にも融雪が頻繁に生じる温暖積雪地域では、寒冷積雪地域に比べるとその影響は多岐にわたる。そこで、筆者らは2008年から豪雪地帯を流れる新潟県の魚野川流域において、河川水質と積雪水質の観点から研究を行ってきた(森本ほか2011など)。本稿では2008年~2011年まで行った現地水文観測結果(河川、積雪水)を用いて、温暖積雪地域における積雪・融雪期の水質形成について、特に積雪水質と河川水質の観点から総合的な考察を行った。
  • 加藤 峰夫
    セッションID: S1605
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    国立公園制度には、自然環境(生態系/生物多様性)の保護保全という観点から見た場合にいくつもの問題点が指摘されていた。しかし2002年と2009年の自然公園法改正で、次のような点で、制度的にはかなりの対応が施されてきた。1)生態系と生物多様性の保全の推進2)地域制という特徴の、欠点から利点への転換3)地域の関係者の理解と協力を前提とする「風景地保護協定」と「利用調整地区」4)「海の環境」の保全の強化しかし、公園地域内での効果的な環境保全や適切な利用の推進の具体化のために不可欠な「費用」については、何らの対策も取られておらず、各公園を抱える地域の判断や対応に丸投げされているのではないかという気さえする。適切な公園管理に要する「費用の負担」と、そして公園内とその周辺の「地域の人々」が受けるべき「利益」が十分に明確にされることがないままでは、「地域制自然公園」の発展は望めないどころか、現状レベルの管理さえも危うい。生物多様性の保全を支える国立公園を持続的に維持し、自然環境の保護保全と適切な利用を推進していくためには、この「自然環境保全の費用負担のありかた」が、しっかりと検討されなければならない。
  • 宮城県岩沼市、亘理町、山元町を事例として
    垂澤 悠史, 春山 成子
    セッションID: P004
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     阪神大震災を契機として、その主体を市町村から行政区へと段階的に移行してきた自主防災活動であるが、その活動内容は地域の性格や対象となる災害によって大きく異なる。震災以前より、藤見ら(2011)はソーシャル・キャピタルが防災意識に及ぼす影響をすでに実証的に分析し、田中ら(2006)もまた、津波災害における警報伝達システムの限界を指摘していた。東北地方沿岸部に多大な被害をもたらした東日本大震災において、地域の自主防災組織がどのように活動したかを明らかにし、より有効な自主防災活動の在り方を提言することが本研究の目的である。 本研究の調査地である宮城県の岩沼市、亘理町、山元町はおおむね平滑な海岸地形上に位置し、調査地域内で階層的な被害がみられるうえ、仙台市のベッドタウンとして造成された住宅団地や、長い歴史を持つ農村集落など、多様な社会構造を有することから、被災程度、社会背景と自主防災活動の関わりについて、複次的な調査と考察が可能である。本調査においては対象市町村から、立地、被災規模、コミュニティー形成時期を基準として抽出した6つの行政区についてその自主防災の取り組みと東日本大震災時の活動を調査した。 本研究においては、岩沼市役所、亘理、山元町役場での聞き取りと、行政区長への聞き取り、アンケート調査を実施した。実施したアンケートは、回答者の属性、行政区のソーシャル・キャピタルと震災における被害、自主防災組織の活動と震災における共助活動に関する各質問よりなり、それぞれの行政区について、被害規模、地域社会の在り方、自主防災活動の実態、避難活動の内容を関連付けて評価できるようにした。また、ソーシャル・キャピタルの評価基準として町内会活動の活発さを採用し、アンケートの項目とした。 調査の結果として、本調査の対象としたすべての行政区において、町内会活動と自主防災活動の活発さ、自主防災活動の活発さと震災時共助活動への満足度の両方に相関関係が認められた。また、被災規模が比較的軽微であった二つの行政区では、震災時に行政区を超えた共助活動がなされたことが判明した。
  • 渡辺 満久
    セッションID: S1705
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     近畿地方は日本の中でも活断層の密度が高い地域であり、活断層が形成した特徴的な断層変位地形が見られる地域である。近畿圏の原子力発電所は、活断層が形成した特徴的な地形を利用するかのように、若狭湾沿岸に建設されてきた。若狭湾の原子力関連施設では、以下に述べるように、耐震性や土地のずれに対する問題を抱えている。本報告では、このような問題を個別サイトのものとして理解するのではなく、日本の原子力関連施設全体に共通するような、審査にまつわる問題として整理する。 敦賀原子力発電所の原子炉に近接する浦底断層が、長大な柳ケ瀬断層から連続する活断層であると評価されておらず、「揺れ」が過小評価されている可能性が高い。また、敷地内には、浦底断層から派生する活断層が確認されており、原子炉直下にも活断層が存在する可能性が高い。高速増殖炉もんじゅと美浜原子力発電所周辺では、白木-丹生断層が南北方向に通過している。また、これとは別に、NNE-SSW走向の活断層が存在する可能性がある。いずれの敷地内にも、粘土を挟む複数の断層が確認されており、最近の活動を否定しきれない。 大飯原子力発電所周辺でも、海域から陸域へ連続する活断層の長さが過小評価されている可能性がある。また、敷地内には、粘土を挟む複数の断層が認められ、一部は原子炉直下にある。F-6断層は、重要施設を横切る断層であるが、トレンチ調査結果を見る限り、活断層である可能性を否定することはできない。再調査を実施して、その安全性を確認する必要がある。 活断層の密度が高い若狭湾沿岸において、活断層は過小評価され、活断層あるいはその可能性がある断層の上に原子力関連施設が建設されている。これは、過去の安全審査が杜撰であったことを示している。「福島」の事故も、適切な想定を怠ったことによって発生した人為的な事故である。これまでの審査の責任を明確にしないと、誤った審査がこれからも続くことになろう。活断層の可能性が否定できない段階で、原子力関連施設を動かしてはならない。
  • 大谷 眞二
    セッションID: S1507
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに近年になって黄砂は発生頻度や規模が増大し,これに伴う健康への影響も危惧されはじめた.しかし,人や家畜を対象とした黄砂研究は少なく,黄砂による人畜への影響はほとんど解明されていないのが実情である.そこで,本発表ではモンゴルおよび日本国内における黄砂に関連した健康上の問題点について述べる. 2. 黄砂発生源周辺における健康影響2008年5月,砂塵と雪を伴った嵐がモンゴル中・東部を中心に52人の死者と27万頭あまりの家畜死をもたらした.これは観測史上最大規模の被害であり,通信・交通網や医療体制の未整備といった遊牧生活の脆弱性が被害をより大きくしたと考えられる.このように黄砂発生源近くでは規模の大きな場合は災害として位置づけられる.さらに,砂塵嵐に伴い遊牧民に眼や呼吸器の有症状者が増加し,これらの症状により生活の質(QOL)が低下することが指摘されている.また,獣医病理学調査において砂塵嵐・温暖化を含む気候変動に伴う牧草の植生の変化によって新たな植物中毒罹患ヤギの発生が確認されている.経済活動の中心である家畜の被害によって遊牧生活に長期的な影響が及ぼされ,さらなる遊牧民のQOLの低下を招くといった負のサイクルが形成されることになる.3. 日本国内における健康影響今のところ,日本国内では黄砂による重大な健康被害は報告されていないが,近年になり黄砂発生と喘息患者の症状悪化・救急受診との関連性が指摘されている.われわれが健常人を対象として行った調査では、黄砂の程度の指標となる大気中浮遊粒子状物質(SPM)の濃度が高くなると,種々の自覚症状が出現,悪化する傾向がみられ,とくにかゆみなどの皮膚症状とSPM値とはよく相関していた.また,黄砂の飛来経路によって自覚症状に違いがみられ,例えば大陸の工業地帯の上空を経由するような場合,眼や鼻の症状が目立つようになる.このような症状の多彩性の原因として黄砂粒子もしくは飛来過程で黄砂に付着した汚染物質によるアレルギー反応などの可能性が考えられている.4. 今後の展望 黄砂は単なる自然現象から土地の劣化や森林・草地減少といった砂漠化に伴う環境問題として認識されるようになってきた.このような環境変動に伴い,人畜への影響もより多様となってくる可能性があり,これに対応するためには医学分野のみならず,他の領域と連動した持続的かつ体系化された調査・研究をすすめていく必要がある.
  • 小池 拓矢
    セッションID: 702
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     本研究では、東京都小平市が行政主導で行っている「こだいらオープンガーデン」に参加している1つのオープンガーデンを研究対象として、オープンガーデン来訪者の属性と地域内の行動を明らかにした。最終的に、本研究はオープンガーデンの需要供給と、他の地域資源との関係性を考察することを目的とする。「こだいらオープンガーデン」は2007年6月から開始された事業であり、小平市産業振興課内の小平市グリーンロード推進協議会など4団体が主催している。2012年現在、24か所がオープンガーデンに登録されており、小平市内全域に分布している。2012年5月17日から6月1日までの期間、対象のオープンガーデン内で、来訪者に対してアンケート調査を行い、計156件の有効回答を得た。来訪者の年齢層については、50代~70代が全体の約7割を占めており、多くが女性であったが、これは、実際に花やガーデニングを趣味とする人々がオープンガーデンに来訪しているためと思われる。また、ガーデンの情報を入手する上で、行政が発信するパンフレットやインターネット上の情報はほとんど利用されていないことが明らかになった。来訪者の居住地は、小平市内や多摩地域が多くを占めていたが、東京23区や都外からの来訪者も30組以上存在した。オープンガーデンまでの来訪手段として、自動車と電車の利用者を比較すると、前者は近隣から、後者は遠方からの来訪者が多い傾向があった。アンケート調査における、「このオープンガーデン以外に訪れた場所はあるか」という質問に対して、半数以上の来訪者は無回答であった。対象のオープンガーデンの徒歩圏内には、植物園や足湯などがあるが、これらは訪問場所として認識されておらず、来訪者は対象のオープンガーデンだけを目的地として、小平市を訪れている傾向がある。主催者である行政は、オープンガーデンを、小平市内を周遊してもらうためのスポットの1つとして位置づけており、他の地域資源間の中継地点となるような役割がオープンガーデンには期待される。しかし、本研究からは、オープンガーデンがその役割を十分に果たしていないことが明らかになった。供給の面において、行政がどのようにしてオープンガーデンや地域全体の情報を発信するかを考えることが、オープンガーデンを地域の観光に利用する上で必要である。
  • 立入 郁, 篠田 雅人
    セッションID: 602
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    モンゴルにおける将来の干ばつ・ゾド(寒雪害)リスクを評価するため、マルチ気候モデルデータベース(CMIP5)に参加した地球システムモデル(気候モデルに生態系モデルが結合されているもの)のRCP(代表的濃度経路)シナリオに対する出力データを用いて2100年までのモンゴルの植生量・積雪量変化を調べた。穏健かつ参加モデル数の多いRCP4.5シナリオでは、植生の葉面積指数は各モデルとも微増、積雪(水当)量は横ばいであり、干ばつ・ゾドリスクとも微減~横ばいだと示唆された。
  • 蔡 尚鎬
    セッションID: 412
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    日本統治時代の台湾において使用された販売肥料は,概ね島外から輸移入されてきた.但し,日本統治時代の台湾島内において肥料工場が経営されて肥料を生産したことは否定できない.1941年まで台湾島内での肥料自給率が上昇していたことは事実であり,台湾島内において肥料を製造する工場の数の増加,或いは生産能力の向上が考えられる.この研究の目的は日本統治時代の台湾における肥料の生産が空間的に展開した地域的構造を明らかにし,さらにこの地域的構造が示す台湾人と日本人の肥料生産の空間的な特徴を考察することである.
  • 元木 理寿, 萩原 豪
    セッションID: 611
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに  都市生活の発展とともに、生活用水の水源は「近くにある水」から「遠くからくる水」へと変化し(谷口、2010)、水と人との関わりを変化させている。この現象は、都市同様に水と人との関係が一般的に先鋭化しやすい離島においてもみられる。本研究では、鹿児島県沖永良部島における湧水管理の現状を明らかにし、湧水地の保全活動にむけた取り組みに向けて検討することを目的とする。2.調査方法沖永良部島の湧水地を取り巻く環境とかつての湧水利用の実態を明らかにするために、現在湧水地調査を進めている。記録として残されている約130ヶ所の湧水のうち、90ヶ所の場所と湧水地の名称を特定するに至っている(萩原・元木2012)。また、湧水あるいは暗川での水汲みや湧水利用の状況等について、実体験のある高齢者を中心に住民への聞き取り調査を行っている。その中では、湧水地をめぐるかつての環境、風習などが明らかになってきている。3.湧水地の環境変化と湧水地に対する住民の意識  沖永良部島の集落は、飲料水が得られた湧水や暗川を囲むように分布していることに特徴がある。湧水や暗川から直接得られる水は飲料水をはじめとする生活用水や農業用水として欠かせないだけではなく、沖永良部の生活風習とも大きな関わりがあった。このため集落の湧水地の管理・保全に関して住民の意識は高かったと考えられる。しかし、上水道敷設以降、生活用水としての利用は減り、かつて婦女子の役割とされていた生活用水を湧水や暗川から汲み上げていた日常的な労働の必要性はなくなった。現在、利用されている湧水や暗川をみると、農業従事者による灌漑用水の取水、農機具の洗浄などの個人利用が中心となっている。湧水や暗川は、実際に生活用水として利用されていた時に比べ、湧水や暗川に足を運ぶ必要がなくなったことから、それらの利用機会が減ってきており、それらの存在自体も意識されなくなってきている。若年層においては、湧水や暗川を利用する機会がないために、島内にある代表的な知名町瀬利覚地区にあるジッキョヌホー(平成の名水百選、知名町指定有形文化財)や住吉地区にある住吉クラゴウ(県指定天然記念物)を除いて、自分の住んでいる地区にある湧水や暗川の存在や意味を知らない住民も増えている。また、港湾整備や土地区画整理事業などにより、湧水が埋め立てられた場所では、結果として地域住民の管理がなくなるため、その存在が忘れられる場合が多い。一方、一部の湧水では今でも近隣の住民が野菜などを洗ったり冷やしたり、夏には子どもたちが水遊びをする場所として活用されており、周辺の環境も含めて湧水地の保全が見直されている。また、和泊町では谷山地区にあるアシキブは「あしきぶ公園」として整備されている湧水もみられるようになった。
  • 矢部 直人
    セッションID: S1305
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    I 本研究の目的1990年代後半から,東京都心部では人口増加が見られるようになった.この時期の人口増加の特徴については,宮澤・阿部(2005)が国勢調査小地域統計を用いた詳しい分析を行っている.本研究では,1990年代後半から約10年を経過した現時点における最新の統計資料を用い,人口増加の新たな実態を明らかにすることを目的とする.II データと分析方法2010年国勢調査資料の集計・公開が進み,本稿執筆時点では,第一次・第二次基本集計,人口移動集計が利用可能である.本研究では,年齢や世帯の類型などのデータが利用できる町丁・字等別集計を用い,2000~2005年と,2005~2010年の二期間について,各指標の増加率や構成比を計算し,主にどのような属性の人口が増えているか分析した.また,人口増加を示す地区を抽出し,その地区ごとにどのような属性の人口が増加しているのか分析した.III 分析結果2000~2005年の期間における人口増加をみると,1990年代後半における人口増加の傾向とさほど違いがない.中央区を中心とした隅田川右岸地区,江東・墨田地区,港区を中心とした城南・城西地区のいずれにおいても人口増加の傾向は持続している.これまでの東京都心部で見られた,30代を中心とした夫婦のみの世帯や夫婦と子どもからなる世帯の増加が見られることも類似している.しかしながら,2005~2010年の期間になると,これまで人口増加の中心的な地区の一つであった城南・城西地区での人口増加が弱まり,池袋を中心とした地区で人口増加が目立つようになった(図1).なおこの地区では,外国人の増加が目立った.台東区の上野駅周辺においても新たに人口増加が見られるようになり,そこでは主に20代の単身世帯が増えた.また,全体として持ち家に居住する世帯の代わりに,民営の借家や給与住宅に住む世帯が増加している.文献宮澤 仁・阿部 隆(2005). 1990年代後半の東京都心部における人口回復と住民構成の変化―国勢調査小地域集計結果の分析から―. 地理学評論78: 893-912.
  • 宮澤 仁
    セッションID: S1306
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    Ⅰ 高齢化が進む郊外住宅地と高齢者の生活問題
     日本において高齢化は農山村地域の問題とされてきたが,これからは都市地域でも高齢化が本格化する.とりわけ3大都市圏の郊外で高齢者の増加が著しいとされるが,既に高齢化の進んでいる住宅地がみられる.2010年国勢調査の小地域集計から東京大都市圏の状況をみると,①1970年代までに開発された戸建て住宅地,②公営等の集合住宅からなる住宅地において高齢化が進行している.特に高齢化率が30%台から40%台と高い住宅地は,①の事例では神奈川県から東京都,埼玉県にかけての丘陵地や千葉県の下総台地に開発され,鉄道駅から距離がある住宅地にみられる.同様に②の事例には,多摩ニュータウンの早期に開発された地区や埼玉県草加市の草加松原団地などが該当する.前者の住宅地では自立に伴う子ども世代の転出と親世代の加齢が,そのことに加えて後者の住宅地では,公営住宅への高齢者の集中が高齢化の促進要因である.
     これらの住宅地では独居や高齢者のみの世帯が増加し,その社会的孤立が懸念され,実際に孤独死も発生している.また,近隣における商業施設や医療機関の閉鎖は,加齢に伴う住民のモビリティの低下と相俟って生活維持に対する制約を強めている.さらに,時間経過に伴う住宅の老朽化や設備の高齢者対応,空き家・空き地の発生,丘陵地に開発された住宅地のモビリティの悪化等,住環境の問題も顕在化している.
    Ⅱ 住環境整備と地域生活支援の取り組み
    高齢化が先発する住宅地では,現在までに福祉施設や高齢者住宅の設置,住宅ならびに周辺環境のバリアフリー整備,集合住宅の建て替え,高齢者の外出を支援する新たな交通手段の導入といった住環境整備が試みられている.また,社会的孤立の防止に向けて,高齢者に対する見守り活動や交流のための居場所づくり,買い物や通院時の送迎といった生活支援が,地域包括ケアの一部として取り組まれている.社会的に孤立しやすい高齢者が住み慣れた地域で生活を続けるために,きめ細かに生活を支援する体制が構築されはじめている.
     東京大都市圏を事例にすれば,国立社会保障・人口問題研究所の市区町村別将来推計人口(2008年12月推計)によると今後は都心から30km以遠の郊外で高齢化が急速に進むとされる.大都市圏の郊外は,広い意味での福祉的観点から,上のような住環境整備と地域生活支援の体制づくりを一層拡大する必要にせまられるであろう.
    Ⅲ 脱成長社会におけるストック活用型の地域整備
     現在,財源的制約が強まる中で新規の公的投資はかつてと比べて困難とされ,国や自治体による公助にも限界が指摘されている.それを補完する担い手として地縁型の住民組織や市民活動団体,NPO,社会的企業等の活躍が期待されているが,現状は元気な高齢者を中心とするボランティアが活動を支えているケースが多く,さらなる成長には困難が伴う.ゆえに,脱成長社会における地域整備は,物的・人的資源の既存ストックに強く依存する,つまりストック活用型の取り組みが基調となるであろう.大都市圏の郊外は,それらの資源に関して一様ではない住宅地から構成されている.住民生活の安定化に有効であり,かつ持続性をもった地域整備の取り組みには,住宅地単位での物的・人的資源の実態把握とその経時的変化のモニタリングに基づいた具体的方法の確立が重要である.
  • 杉山 ちひろ
    セッションID: 620
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本研究は,2010年に伊豆諸島八丈島の三原山で起こったスダジイの集団枯損現象を対象に,その枯損木の分布と地形との関係を明らかにすることによって,カシノナガキクイムシによる被害の防除を行う重要な資料を提供することを目的とする.林道・登山道と方形区における植生調査の結果,スダジイの集団枯損は三原山の南西斜面の標高200~400mに集中していた.また枯損分布と土地情報を用いてGLMで解析を行ったところ,積算日射量が多い程被害を受けやすいことがわかった.被害が確認された2010年7月には20日間降水がなく,8月の降水量も平年値の6割程度で乾燥していた.したがって,八丈島において生じたスダジイの集団枯損は例年に比べ乾燥した2010年夏季の気候条件が起因となっており,その結果として積算日射量を多く受け,より乾燥した条件となりやすい南西向き斜面の尾根上に枯損木の分布が集中したと考えられる.
  • -岩手県宮古市中心商業地の事例-
    岩動 志乃夫, 磯田 弦, 増田 聡, 関根 良平
    セッションID: 107
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    東日本大震災で大きな被害を受けた東北地方の太平洋沿岸諸地域の商業地の被害と復興状況について報告する。今回は岩手県宮古市の中心商業地を事例にして,宮古市市役所,宮古商工会議所,末広町商店街振興組合,中央通商店街振興組合での聞き取り調査の結果をもとにして報告する。海岸部に近い中央通り商店街では,建造物が破壊されるなど深刻な状況である。一方,末広町商店街は被災の程度が前者より軽微であったために半年後には営業店舗数がほぼ震災前の状態に戻った。
  • 金沢市の大学生の事例
    田中 雅大
    セッションID: 207
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.はじめに
     私たちは普段,ある空間的隔たりに対して「近い」,「遠い」といった言語表現をほとんど意識せずに使用するが,どのようにして,そのような定性的な距離評価を行っているのであろうか.本研究は,従来の認知距離研究で扱われることの少なかった,都市空間における定性的な距離評価(以下,「質的な認知距離」と呼ぶ)の性質を明らかにすることを目的とする.
    2.研究方法
     本研究では,金沢大の学生181人に,自宅と金沢市内もしくはその近隣地域に位置する施設の空間的隔たりの質的な認知距離を評価してもらった.質的な認知距離は,行動の文脈(どのような人が,どのような移動手段で,どのような経路を通り,どこへ行くか)に左右される.そこで,日常的な移動行動を想定して回答してもらい,それに関連する文脈の影響を調べた.また,認知言語学の経験的実在論に基づいて,身体周囲の空間が質的な認知距離の最良例(prototype)となり,それとの類似性によって大規模な空間の質的な認知距離が比喩的に概念化されると仮定し.そのもとで,学生の質的な認知距離と日常的移動行動の文脈との関連性を検討した.
    3.質的な認知距離の分析結果
     質的な認知距離と日常的移動行動の文脈との関連を分析した結果,以下のことが明らかとなった.
     頻繁に利用する施設は「近い」と感じやすく,ほとんど訪れることがない施設は「遠い」と感じやすい.実距離と質的な認知距離との関係を見てみると,車などの可動性の高い乗物を所持している学生は,実距離に対して質的な認知距離の変化が緩やかである.逆に乗物を何も所持していない学生の場合,質的な認知距離の変化が急である.また,居住地が都心部付近の場合,実距離の増加に対して質的な認知距離は緩やかに変化する.市の縁辺部の場合,質的な認知距離は変化が急である.
    4.都市の行為空間における質的な認知距離に関する考察
     質的な認知距離によって都市内の行為空間(action space)は,訪問頻度が高く,直接接する機会の多い「近接相」と,訪問頻度が低く,情報はもっているがほとんど接することのない「遠方相」に分けられると考えられる.これらの空間は,身体周囲の狭小な空間と比喩的に関連づけられる.質的な認知距離が訪問頻度,モビリティ,居住地といった文脈に左右されるのは,それらが「近接相」,「遠方相」と強く関係するためであると考えられる。
  • 多摩川源流部山村を中心として
    宮地 忠幸
    セッションID: S1202
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.問題の所在 山村における農業は,元来自給的性格が強く,複合経営を特徴とする地域が多かった.しかし,「中山間地域問題」に象徴されるように,生産の効率性が求められる市場競争に包摂される過程で「条件不利性」が顕現し,今日の山村農業を取り巻く環境は厳しさを増している.山村農業に対する政策が,「中山間地域等直接支払制度」へ集約化する(宮地,2011)一方で,一部の地域では異業種が農業分野に参入し,新たな農業の展開がみられる(高柳,2011).しかし,山村農業の変化の多様性や存立条件に関する考察は,今日なお残された研究課題であるといえる.本報告は,①統計分析を通した1980年代半ば以降における山村農業の変容の一端を明らかにするとともに,②相対的に山村農業が存続している自治体・集落を対象に,山村農業の存立条件について考察することを目的とする.2.『農林業センサス』にみる山村農業の変容 本報告で取り上げる山村は,山村振興法における振興山村の「全部山村」を対象とする.1985年と2005年の農林業センサスから,総農家数,経営耕地面積,一戸当たりの経営耕地面積の各指標の増減率を分析した.その結果,北海道と北海道以外の山村では異質の変化を確認できた.農家数は,全般的に減少しており,とくに北海道の山村自治体において大きく減少している.経営耕地面積および一戸当たりの経営耕地面積は,北海道において「拡大」している山村自治体が相対的に多い一方で,北海道以外の山村自治体では一部の野菜,果樹(加工品も含む),茶の産地を除いて「縮小」が顕著であることがわかった.総農家数の減少率が主な自治体1.群馬県中里村 96.12.岩手県衣川村 87.13.岐阜県蛭川村 87.14.岐阜県丹生川村 86.55.高知県大正町 85.7※80%以上は31町村(北海道は0)。総経営耕地面積増加率の高い主な自治体(北海道)         (北海道以外)1.北海道えりも町137.5/群馬県嬬恋村 113.52.北海道幌加内町112.5/長野県川上村 107.1 3.北海道幌延町  112.1/山梨県丹波山村105.64.北海道苫前町  111.7/高知県馬路村 102.05.北海道豊富町  109.7/奈良県月ヶ瀬村101.2※100%以上は23市町(内,北海道が18町村)。3.山村農業の存続へ向けた取り組み 多摩川源流部に位置する山梨県丹波山村は,2005年現在の総農家93戸のうち,販売農家は12戸に過ぎない.しかしこの村では,在来種を活用した野菜栽培やクラインガルテンによる農業および農地の利活用が進められている.また,隣接する小菅村では,東京農業大学の「多摩川源流大学」が,地域の農林業および農地管理に役割を果たしつつある.縮小を余儀なくされてきた山村農業において,こうした「交流人口」の存在は,山村農業および山村部の農林地の管理にとって重要な意味をもち始めている. 本報告は,科学研究費基盤研究(B)「現代山村における非限界的集落の存立基盤に関する研究」(代表:西野寿章 高崎経済大学教授)の研究成果の一部である.
  • 黒崎 泰典
    セッションID: S1506
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    黄砂発生とは強風によって土壌粒子が舞い上がる現象であり、砂漠化の一形態である風食と言い換えることができる。黄砂発生は、侵食能(風食を引き起こす風の能力)と受食性(風食に対する土壌・地表面の侵食のされやすさ)の2つに依存する。本発表では、1990年代(1990-1999)と2000年代(2000-2009)の東アジアにおける4月の黄砂発生頻度、強風発生頻度、臨界風速(土壌が舞い上がり始める風速)の5パーセンタイルを見積もり、黄砂発生頻度の変化に対する侵食能と受食性の貢献を強風発生頻度と臨界風速5パーセンタイルから議論する。この解析から、領域の多くが放牧地帯か耕作地帯であるモンゴル、内モンゴル東部、中国東北地方の多くの気象台において、黄砂発生頻度が増加し、特にモンゴルにおける増加が著しく大きかったことが分かった。また、これらの地域の黄砂多発化の原因は受食性の変化(砂漠化)にあったことが分かった。
  • 市場変化と政策への対応をめぐって
    中川 秀一
    セッションID: S1204
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1990年代までと2000年以降との間に、日本林業には大きな転換が起きている。それは住宅市場の変化であり、木材の流通・加工の大規模化、そして素材生産の効率化へと進行しており、諸施策がその動向を促進している。こうした政策と市場の変化は、山村の持続性とどのように関わっているだろうか。 国内の森林資源が成熟段階を迎える中で、林業関連の産業が山村の経済基盤となることが期待されている。新政策で、まず効率的な林業経営実現が目指され、その先に、林業・木材クラスター形成が描かれているのはその端的な表れといえよう。 しかし、従来の林業・木材産業の集積地の中には、この間の木材市場の変化に十分対応してこなかったために、活力を失ってきた地域もある。本報告では、新政策のモデル地域として岩手県住田町、従来型の地域として岐阜県加子母地域を取り上げ、この間の木材市場の変化への両地域の対応の差を検討する。両地域ともにこれまで人口面では、一定の非限界性を示してきた地域であるが、林業を基盤とするその存立基盤の現状は、対象的な方向性を示している。しかし、果たして、住田町は、多くの林業地域のモデルとなり得る事例といえるだろうか。むしろ従来型の地域の再興をどのように図るかを考える必要があるのではないか。
  • 杉本 昌宏, 秋山 祐樹, 碓井 照子
    セッションID: S1804
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本稿では、有名な電気街として発達し、サブカルチャーの特性を有した商業地域として賑わっている大阪日本橋の商業地域の空間的分布の特性を分析した。マイクロジオデータの有用性は、広域な都市域から詳細な商店街の店舗一軒一軒まで隅々の詳細な情報で商業地域を分析できることである。
  • 浅田 晴久
    セッションID: 308
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
     ブータン、ミャンマー、中国チベット自治区、バングラデシュに挟まれたインド北東地方にはチベット=ビルマ系語族やタイ系語族に属する民族など多数暮らしている。各民族の棲み分けが比較的明瞭なアルナチャル=プラデシュ州やメガラヤ州など山地部とは異なり、低地が大部分を占めるアッサム州では各民族の居住域は必ずしも明確に分かれているわけではない。異なる時代に他方面から移住してきた人々がモザイク状に混住しているのである。文化的背景を異にする人々の存在は地域固有の文化の形成を促したが、民族間衝突の引き金にもなっている。出自の異なる民族がアッサム州のブラマプトラ川渓谷でどのように併存してきたのかを探るのが本発表の目的である。
    アッサム州ではイギリス植民地に併合された19世紀以来、探検記や地誌を通して各民族に関する記述が行われてきた。1870年代には初めてセンサスが実施され、民族毎の人口構成が明らかにされている。近年は村落滞在型の人類学的研究が主流となり、各民族固有の文化や習慣をまとめた成果が発表されている。地理学分野では統計資料を用いて県レベルや郡レベルで指定部族の分布図が作られその要因が論じられてきた。しかしこれまで生態環境の側面から民族の分布を説明している研究は必ずしも多くはない。ブラマプトラ川が生み出す氾濫原環境への適応という観点を導入することで、各民族が併存してきた歴史を解き明かす手がかりが得られるのではないだろうか。

    2.調査地および調査手法
     本発表ではアッサム州東部のロキンプル県を対象地域とする。ロキンプル県はブラマプトラ川の北岸に位置し、北のアルナチャル山地から流れてくる支流スバンシリ川が本流と合流することで洪水多発地域を形成している。住民はヒンドゥー教アーリア系のオホミヤ、ベンガリ、ネパリ(アーリア系)、アホム、カムティ(タイ系)、ミシン、カチャリ(チベット=ビルマ系)などが見られる。
     本発表では村落分布を調べるために、2001年度センサスの村落要覧(Village Directory)を用いた。村落要覧には村名、人口、世帯数、学校数、土地利用などの情報が含まれるものの、緯度経度と住民情報は記載がない。各村落の緯度経度についてはIndea Place Finder(現代インド地域研究東京大学拠点ホームページ内)を用いて取得した。住民情報については県内住民からの聞き取り調査により収集した。対象地域の地形区分については5万分の1地形図を利用した。GISで各村落の分布域を調べると同時に、2007年から継続している現地調査の中で得られた情報も合わせて各民族の生業と生態環境に関して考察を行った。

    3.結果と考察
     GIS解析と聞き取り調査の結果から、各民族は完全に混住しているわけではなく、ブラマプトラ川渓谷内の生態環境に対応してゆるやかに棲み分けを行っていることが明らかになった。つまり、ネパリは山麓扇状地付近、アホムやベンガリは自然堤防帯内、ミシンやカチャリは河川氾濫地帯内というように民族毎に居住地と生態区の間に一定の関係が見られるのである。
     居住地の生態環境の差だけでなく、村落の人口・面積・土地利用などの構造にも民族毎の差異が見られる。湛水時期の差や耕地面積の差に応じて、各民族の生業活動にも違いが生じている。たとえばアホムの村では雨季の移植稲栽培、乾季の小規模畑作が主流であるが、ミシンの村では雨季の直播稲栽培、乾季のカラシナ・豆類の栽培が見られ、両者の村では異なる景観が広がっている。
     この生業活動のずれを利用して、モノやサービスのやり取りが民族間で見られる。ミシンの村からは牛乳や材木が供給され、アホムやベンガリの村からは畑作物が供給される。雨季に家畜を養う充分な場所が確保できないアホムの村のウシはミシンの村で世話をされ、代わりにミシンの子供を街に近い学校に通わせるためにアホムの村で住まわせるなど住民間の交流が生じているのである。
    既存研究では各民族の独自性ばかりが強調されてきたが、生態環境の差に起因する村落間の地理的分業を見直すことで、多民族社会の持続・自然災害への対応という本地域の課題について考えることも可能ではないだろうか。
  • 森永 由紀
    セッションID: S1503
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    モンゴルの気候は大陸的で冬が厳しく、そこでは数千年にわたって遊牧が行われてきた。遊牧民は草と水を求めて家畜と共に移動し、同時に干ばつやゾド(厳しい冬の災害)から逃れるためにも移動する。彼らは厳しい気候下で生き残るために様々な環境学的伝統的知識を有する。たとえば、彼らは夏に比べて暖かい場所に冬のキャンプ地を定める。彼らは移動することに価値をおき、定住することを避ける、などである。本研究の目的は、遊牧民の移動に関連する遊牧の知識を検証することである。モンゴル北部の森林草原地帯であるボルガン県において、気象・生態学的調査を2008年より実施し、次のような結果が得られた。1)山の裾野にある冬のキャンプ地と盆地底にある夏のキャンプ地での1時間おきの気温の観測値から、冬のキャンプ地は冬季に出現する冷気湖の上部の斜面温暖帯に位置することが明らかになった。さらに、冬季の冬のキャンプ地の気象条件は夏のキャンプ地に比べると体感気温の面でも家畜にとって好ましいことがわかった。2)ヒツジとヤギの移動群れと固定群れの体重の季節変化の比較実験を行った。移動群れの体重は11月まで増加し続けたのに対して、固定群れの体重増加は9月で止まった。冬場の体重減少率は固定群れの方が大きかった。
  • 石川 真理子
    セッションID: 208
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     本州四国連絡橋は、1988年の児島・坂出ルートの開通、1998年の神戸・鳴門ルートの開通、1999年の尾道・今治ルートの開通を経て、現在3本のルートが本州と四国を結んでいる。本四架橋の完成は、四国4県と他の地域間の旅客流動において、移動の確実性の向上と共に、交通手段の多様化をもたらした。こうした状況のもと、本四架橋の架橋効果に関する数多くの研究蓄積があるが、先行研究の多くが自動車交通の変化に主眼を置いており、本四架橋の完成に伴う人の移動の変化を、自動車以外の複数の交通手段別に考察した研究は少ない。また、人は所要時間・目的地・交通費・移動目的などに応じて交通手段を選択するが、各交通手段の特徴を、性別や年齢などの移動者の個人属性・移動目的などの観点から考察した研究は少ない。したがって本研究では、この2点に着目して分析を行った。
     まず、本四架橋完成に伴う四国地方の旅客流動の変化について、国土交通省発行の「全国幹線旅客純流動調査データ」に基づいて計量的に分析した。本四架橋の中でも1990年代後半に相次いで開通した神戸・鳴門ルートと尾道・今治ルートに焦点を当て、四国地方を発着地とする1日の人の移動状況を、航空・鉄道・船・高速バス・自動車という5つの交通手段別に架橋前と架橋後に分けて流動図で表した。その結果、本四架橋2ルートの完成が四国地方の既存の交通体系に与えた影響は大きく、海上交通の大幅な衰退を生じさせたことが計量的に明らかとなった。ただし、瀬戸内海の対岸交通である広島西部地域と松山地域・岡山県南地域と香川東部地域の船による移動は、依然として架橋前と同水準を維持していることは注目すべき点である。また、高速バスを中心とする自動車交通の活性化の程度に関しては、神戸・鳴門ルートと尾道・今治ルートで異なり、両者の地域インパクトの差が明確である。
     次に、各交通手段の利用者に着目し、四国地方の旅客流動における各交通手段の利用者の特徴を考察した。その結果、交通手段によって、利用者の性別・年齢・移動目的に異なる特徴がみられた。特に、性別差は明確な差異を示しており、自動車による移動者は男性比率が著しい。一方、高速バスによる移動者は女性比率が比較的高く、架橋後の2005年は半数を超えており、高速バスは女性の移動性を高める点で重要な交通手段となりうる。また、移動者の年齢や移動目的に関しても、各交通手段の特徴が明らかとなった。
  • 財城 真寿美, 木村 圭司, 戸祭 由美夫
    セッションID: S1104
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.はじめに蝦夷地に陣屋が建設された江戸時代後期は,世界的に寒冷な気候が卓越していた「小氷期」と呼ばれる時期にあたる.1872年に,函館に函館気候測量所とよばれる日本で最も古い気象観測所が設立されたが,そこでの観測値は陣屋建設当時まではさかのぼることができない.しかしながら,1872年以前の幕末期である1859~1862年に,函館において実施された気象観測の記録が残存しており,日々の気圧や気温,降水量などが報告されている.これらの観測値を補正均質化すれば,当時の気候を詳細に復元できるほか,現代の気象データと比較することも可能である.本研究では,幕末期に函館で観測された気温データの均質化とその気温データにもとづく当時の気候環境を明らかにすることを目的とする.さらに,函館海洋気象台(以降,海洋気象台)の気温データと連結・比較し,幕末期の函館の気候を総合的に評価することを目的とする.2.資料・データ 1859~1862年に,ロシア人医学者のアルブレヒトによって行われた気象観測の記録が存在する.この観測記録はロシア中央地球物理観測所年報である“ANNALES de L’OBSERVATOIRE PHYSIQUE CENTRAL DE RUSSIE”に含まれており,1日3回(7:00,14:00,21:00)の気圧・気温・湿度および日降水量が報告されている.すべての観測値はデジタル化が完了している.1872年以降については,海洋気象台の月平均値は要素別月別累年値データ(SMP:1872年~),日・時別値は地上気象観測日別編集データ(SDP:1991年~)を使用した.3.均質化日本での公式気象観測開始以前の気象観測値の補正均質化について論じているZaiki et al.(2006)と同様に,幕末期のデータおよび1940年以前の海洋気象台のデータについて,観測地点の高度,観測回数や時刻が異なるデータ間の均質化を行った.そして,最近30年間の海洋気象台データとの比較によって異常値を判別し,データの品質管理を行った(Fig.1).海洋気象台の年平均気温データの補正均質化後の値と経年変化はFig.2のとおりである.4.幕末期の函館の気候の特徴海洋気象台の初期の観測では,露場付近の風通しの悪さに起因するとされる高温傾向がみられる(Fig.2).しかし,その期間をのぞくと,幕末期の4年間は,その後の海洋気象台による観測データと比較して,冬季の気温がやや高めで,夏季の気温が特に低い傾向にある(Fig.1).これが,幕末期の函館周辺の気候の傾向であるのか,観測条件の影響によるのかは,今後精査が必要である.謝辞本研究は,科学研究費補助金 基盤研究B(代表者:戸祭由美夫(奈良女子大学名誉教授)課題番号22320170)の一部を使用した.ここに記して謝意を表します.参考文献Zaiki, M., Können G. P., Tsukahara, T., Jones P. D., Mikami, T. and Matsumoto, K. 2006. Recovery of nineteenth-century Tokyo/Osaka meteorological data in Japan. Int. J. Climatol. 26: 399-423.
  • 平野 淳平, 大羽 辰矢, 森島 済, 三上 岳彦
    セッションID: 615
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、東北地方南部に位置する山形県川西町において、1830年から1980年まで連続的に記録されていた「竹田源右衛門日記」の天候記録にもとづいて7月の月平均最高気温を復元し、その長期変動にみられる特徴を解明する目的で研究を行った。推定結果から、19世紀後半の1850年代と1880年代に現在の平年値を上回る温暖期が存在したことが新たに明らかになった.これらの温暖期には、20世紀後半の猛暑年とほぼ同程度の温暖な年が出現していたと考えられる.一方、寒冷な時期は、1830年代と1900年代に存在し、これらの年代は東北地方において凶作が発生した時期と一致している.
  • マルジュ ベン サイド, 春山 成子, モクレスル ラホマン
    セッションID: P043
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    バングラディシュは、1億4740万人の人口を抱える世界最貧国である。1971年の国家独立以来、人々は仕事を求めて都市域へと移住し、都市ダッカでは年間約3.5%の割合で人口が増え続けている。2010年には、ダッカの人口は1,760万人となり、そのうち約60%の人々がスラムで生活をしている。本研究では、人口増加を続けるダッカのスラムに着目し、現地住民との聞き取りから、スラムでの生活や社会環境を明らかにした。現地調査はフォーカス・グループ・ディスカッション(FGD)方式をとり、現地住民への聞き取りだけでなく、ディスカッションを交えたデータ収集を行った。調査項目は、生活用水や電気、ガスなどのライフラインの状況から、廃棄物の処理方法まで生活全般についてである。 現地調査より、ダッカにおけるスラム地区は、スラム全域において生活水準が低く、不衛生な生活環境下にあることが明らかとなった。政府からの十分な援助を受けていないため、生活用水は水質が悪く、伝染病が蔓延する可能性が高い。また、廃棄物の処理方法が確立されていないため、排泄物や生活排水が近隣の河川へと垂れ流しになっている。しかし、スラム地区の住民は衛生面や伝染病についての関心や認知度が低いため、今後このような状況を改善していくことが難しいだろう。このような地区では、政府の援助だけでなく生活環境改善へ向けた住民の教育が重要であると考えられる。
  • 福地 慶大
    セッションID: 619
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
     鬼押出し溶岩は浅間山の北斜面に分布し,1783年の天明噴火の際,噴火活動の末期に流出した溶岩流である(荒牧1968).これまで,この地域の植生は,高度帯により大まかに区分され,火山活動からの経過時間を考慮した植生遷移の中で理解されてきた(前田ほか1978など).それは,山頂付近では火山活動の影響を受けあまり遷移が進まず,オンタデやコメススキなどが生育,中腹はアカマツとカラマツの疎林になり,山麓部は遷移が進み,アカマツやミズナラの林が成立する,といったものである.しかし,現地において,植生を詳しく見ると微地形・表層土壌・小気候などの違いの影響を受けていることが観察される.これまでの火山植生研究においては,噴火活動後の植生遷移過程を明らかにした研究が多い(例えば,Tagawa 1964).しかし,火山は噴火をしていなくとも,地表面構成物質の移動は盛んであり,また地形の起伏の影響を受けて,水文・気象環境などは複雑である.火山植生は,それらの影響を受けて成立しているため,それらの諸環境要因を解明しないと,火山における植生分布を正しく理解することはできない.
     本研究では,鬼押出し溶岩流の溶岩上の植生分布の規定要因を地形・地質・土壌・気候など複合的な視点から明らかにする.
    2.研究方法
     2010 年(国土地理院撮影,縮尺1万分の1)の空中写真を用い,相観植生図と地表面区分図作成し,さらに現地調査により修正を加えた.また,植生区分ごとに植生調査と地形測量,溶岩の表面形態区分,表層地質の調査を行った.
    3.結果・考察
     相観植生図(図1)より,同じ高度帯であっても植生が異なるところがありモザイク状の構造をしている.
     地表面区分図(図2)では,溶岩上流部の中央に砂礫地,両端には溶岩の亀裂としわ,下流部では,溶岩の露出部と亀裂がみられる.このように場所によって地表面の性質に違いがある.
    現地で同じ高度帯の植生をみると,地表面が安定した砂礫地や溶岩上にはガンコウラン,軽石や砂礫の移動がある不安定な砂礫地などにはコメススキ・オンタデなどが生育する.
    溶岩の表面構造の違いを見ると,表面が凸凹な面は土壌が堆積しやすく,様々な植物が定着できるが,平滑な面では土壌が堆積しにくく,植物の定着が他に比べ遅れる傾向にある.植生分布の違いを生む要因は,地表面の形態の違い,表層地質の違いであると考えられる.
  • 1914~1940年の大阪・道修町の医薬品産業を事例に
    網島 聖
    セッションID: 405
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    近代都市に残る近世的要素として、かつて同業者町に注目する歴史地理学的研究が行われたが、多くの課題を残したまま停滞した。しかし、経済的に発展しつつ今日なお存続する同業者町の例を見ると、近代期に特有の同業者町の機能や特質を再検証することは重要である。発表者は先に、アクター間の関係を「調整」する制度・慣習の重要性を強調する産業集積論の視点を参考に、近代化を遂げた同業者町では単純な同質性によって集積が維持されていたのではなく、多様な業者・構成員を含みつつ、その利害対立を「調整」していくことが同業者町の維持存続にとって重要であったことを論じた。しかし、この「調整」機能がその後の戦間期を通じて、現代に向かってどう変化していったのかという課題が残った。そこで本発表は医薬品産業の大阪道修町を事例に、戦間期の同業者町における業者間の調整をめぐる社会関係の変化を分析する。第一次世界大戦後、停滞した大阪の医薬品産業は、1930(昭和5)年前後から発展に転じる。この時期の製薬業の成長は新薬製造の導入という点から捉えることができる。外国製新薬の輸入増加にともなって、大問屋を中心とした新薬の輸入と販売が激化した。こうした中、国内製薬業者の関心も新薬製造へと転換した。新薬を中心とした市場環境の変化は問屋による自家製剤への途を開き、新薬の価格は製造者が定めるため、製薬業者や問屋がイニシアチブをとる新流通経路が構築された。一方、第一次大戦を契機とした薬品相場の混乱は、道修町内の同業者間における協調的紐帯を緩め、競争的関係を激化させた。このため、道修町薬種商の動向を示していた大阪薬種卸仲買商組合の文書資料は激減する。薬品検査や度量衡の統一、薬事行政への対応に際して従来同資料中に見られた意思決定と調整は、代わって大阪製薬同業組合の資料に見られるようになる。後者の組合の意思決定機関である役員や評議員会の主要業者を見ると、戦間期を通じて従来からの製薬業者は減り、代わって製薬業に転じた有力問屋が参加していく。さらに、組合加入範囲の府下全域への拡大などを受け、意思決定の迅速性を理由に役員、評議員は少数化されていく。役員、評議員は道修町近隣に営業所をもつかつての有力問屋が占めるようになり、大阪薬種卸仲買商組合においては一勢力に過ぎなかった業者間での利害とその調整が、大阪全体の医薬品産業に影響を与えるようになっていった。
  • 松本 真弓, 春山 成子
    セッションID: P029
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     モンスーンアジア地域,特に東南アジアには多数の巨大デルタが存在し,多くの研究者がボーリングコアの分析による第四紀研究をおこなってきた.しかし,ミャンマーにおいては,長く閉鎖的な社会が続いたため,イラワジデルタにおける完新世の古環境変化については不明な点が多く,研究が進んでいない状況にある.古く遡ればイギリス植民地時代における研究もあるが,完新世の堆積層序については言及されておらず,イラワジデルタの環境変動,また完新世のデルタ形成発達史は未だ不明となっている.完新世は,世界的な気候変動と海面変動によりデルタが変動している時代である.そこで,本研究では,ボーリングコアの分析によりイラワジデルタにおける海水準変動の復元を試みたい.2009年以降,科学研究費を用いて現地での地形調査を行うともに,現地企業に依頼して, 3本のボーリング調査を行った.今回は,この試掘のうち,イラワジデルタ中央部のヘンサダ地点において行ったボーリング調査について報告する. ボーリングの試掘を行い,得られた堆積層からEC,NaCl,pHの測定,粒度分析の室内分析を行った結果,3つの層に分けることができた. Unit 1: 深度0~5.7mの堆積相は,主にシルト,粘土層から構成される.深度0.4~1.0mにおいて極細粒砂,細粒砂層がみられ,深度4.8~5.5mでは極細粒砂層を挟在する.ECの値が低い事から,Unit 1は河川堆積物層とした.深度2.5mと4.5m,5.5mから得られた土壌は,それぞれ2,220±20yrBP,5,833±28yrBP,5,930±25yrBPの暦年較正用年代を示した. Unit 2: 深度5.7~7.6mの堆積相は,塊状のシルト,粘土層から構成される.堆積層は青灰色を示し,ECの値が高いため,海成層とした.深度7.1mから得られた土壌は,7,209±27yrBPの暦年較正用年代を示した. Unit 3: 本堆積層は,深度7.6~9.3mのシルト,粘土層と,深度9.3~9.8mの極細粒砂層で構成される.Unit 2と比較するとECの値が低いが,深度8.9~9.3mと9.7~9.7mにおいて青灰色のシルト層が点在しているため海水の影響を受けていると考えられる.また,深度8.8mから得られた土壌は9,457±28yrBPの暦年較正用年代を示した.
  • ジオパークにおける科学者の役割
    平田 正礼
    セッションID: S1603
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    世界ジオパークネットワークへの登録を目指している島根県の隠岐ジオパークには興味深い特徴がある。それは、地域住民からのボトムアップによって進められてきた取組みの蓄積である。隠岐のジオパーク活動に地質の専門員として途中から参加した発表者は、地域主体で行われてきたそれらの取り組みにおけるウィークポイントとして、科学的手法としての弱みや、大学研究者と地域住民の間の知識量ギャップに基づく問題などを目にし、それらの解決に取り組んできた。そして、その中で地域に根ざして活動する上での、科学者に求められる能力や役割についても大いに学ぶところがあった。 現状と展望を含め、ジオパーク活動を通しての科学と地域のリンクについて議論する。
  • 被災地再建研究グループによる研究
    土屋 純
    セッションID: 108
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     本発表は,津波によって中心市街地が壊滅的被災を受けた陸前高田市を事例として,仮設店舗の展開過程について説明するとともに,仮設住宅生活者が買い物弱者になっている状況について検討するものである. 津波被災の程度は,三陸沿岸においても地域によって異なる.宮古市など港湾地域を中心に市街地にも被害が及んだ地域もあれば,陸前高田市のように市街地の大半が壊滅的被害を受けた地域もある.市街地の大半が被災した市町村では,内陸部に仮設住宅と仮設店舗が展開し,仮の生活空間が構築されている. 陸前高田市に限らず津波被災地では,東日本大震災の直後,津波被災者は学校の体育館などで避難所生活を強いられた.陸前高田市の場合,2011年8月に避難所生活が終了しているが,地元自治体は避難所生活をいち早く解消するため仮設住宅の建設を最優先してきた.仮設住宅は地元小中学校など公有地に整備されている. 仮設住宅の整備が進行している中,独立行政法人中小企業基盤整備機構のプログラムによって仮設店舗の整備が進むこととなる.陸前高田市の場合,仮設住宅に公有地が占有されたため,仮設店舗のための用地を私有地でまかなうこととなった.傾斜地の田畑などが仮設店舗の用地となったので,仮設店舗が内陸地に分散的に展開することとなった. このように仮設住宅と仮設店舗の整備は,別々のプログラムで進められた.その結果,①仮設店舗のための用地を確保することが難しくなった,②仮設住宅と仮設店舗の一体型の整備が行われず両者が地理的に分離した,といった問題が生じた.
  • 山神 達也, 藤井 正
    セッションID: S1303
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本要旨では,2000年から2005年までの京阪神大都市圏を対象として,人口と郊外市町村の中心都市への通勤率との変化を概観する。大都市圏の設定では市町村を単位とし,2010年の市町村域を用いた。また,京都・大阪・神戸の3都市を中心都市(群)とし,15歳以上常住就業者のうちこれら3都市への通勤率が合わせて5%を超える周辺市町村を郊外とした。この設定は,2000年と2005年の2時点で行った。2000年に京阪神大都市圏に含まれる郊外市町村数は109に達する。分析の結果は以下のように要約することができる。まず,京阪神大都市圏では,中心都市群への人口集中が進んだものの,中心都市群で従業する就業者は減少し,郊外市町村の中心都市群への通勤率も低下してきた。中心都市群の人口増加を考慮しても,中心都市群の就業の場としての吸引力は低下してきたのである。また,人口の増減とは関係なく,郊外市町村では中心都市への通勤率が低下したものが多い。中心都市に就業しつつ居住の場のみを郊外に求める形での人口の郊外分散からの多様化が進展している。こうした状況の背景には,郊外の自立化や多核化が進展したことが想定されるが,本要旨で提示した資料では,その点の議論は難しい。当日の発表では,1990年から2010年までを対象として,郊外の自立化や多核化の進展に関する分析も含め,多角的に京阪神大都市圏の空間構造の変化を検討する。
  • 松原 健太, 松田 修三, 小沢 和浩, 但馬 文昭, 宮武 直樹
    セッションID: P025
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    気候指標としてのイチョウの黄葉の様子をさらに明確なものにするために、黄葉の進行の様子とその期間の気温変化との定量的な調査を試みた。調査対象地域は東京の西の郊外にある多摩ニュータウンとし、その幹線道路沿いに街路樹として植栽されているイチョウの黄葉の変化の様子と気温変化の様子が基礎的なデータである。イチョウの黄葉に関しては、黄葉の進行の様子を0から4の5段階に識別し観測を行っている。気温はこの調査対象地域内に5か所の定点を定め、30分おきに自動計測を行った。さらに、新たなイチョウの黄葉モデルを提案し、気温の変化とイチョウの黄葉の進み方についての定量的な分析を試みた。その結果、ここで提案したモデルは気温の変化の様子を間接的に包含していると考えることができる。さらに気温の変化の様子を分析した結果、日最低気温と日最低気温の積算値からおおよそ10℃位の最低気温が10日ほど続くと、イチョウの黄葉が始まるという傾向をとらえることができた。今後、気温の変化の様子と黄葉の進み方の関係のさらなる分析が必要ではあるが、郊外型都市の微気候の指標としての信頼性は高まったといえる。
  • -中海の事例-
    藤永 豪
    セッションID: 303
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     中海は,島根県と鳥取県の境に位置するわが国有数の汽水湖であり,平均水深およそ8.4mという浅海域が広がる特徴的な自然環境を有している。また,1963年に着工,2002年に中止が決定した国営の干拓・淡水化事業でも有名である。この事業は,およそ2,230haにおよぶ農地の造成と農業用水の確保を目指したものであり,干拓に伴う埋め立てと堤防・水門の建設,浚渫などの大規模な土木工事が進められ,中海の自然環境は著しく改変された。そのため,現在では,漁獲量と漁業従事者ともに減少し,中海の漁業は衰退傾向にある。しかしながら,干拓・淡水化事業が実施される以前は,ケタを使ったアカガイ(サルボウ)の採捕,オゴ(オゴノリ)の採集,手繰網によるオダエビ(イサザアミ)・ヨシエビ漁,刺し網によるゴズ(マハゼ)・アマサギ(ワカサギ)・フ(シラウオ)漁,沿岸水域でのマス網漁,千尋網と呼ばれる地曳網漁など様々な魚介類・藻類を対象とした多様な漁撈活動が行われていた。これらの漁撈活動の背後には,漁民たちが構築してきた独自の中海に対する主体的な環境認知を見出すことができる。例えば,インフォーマントは「ヨレエビ」という言葉をよく口にした。これは梅雨時にヨシエビが大量に集まり移動する(ヨレル)ことを指す。梅雨の大雨によって隣の宍道湖から中海に真水が流入し,これに押されるようにヨシエビが本庄の海域方面に移動してくる(サガル)という。この時,ヨシエビは中海の中でも比較的深い場所,すなわち「フカミ」と呼ばれる場所をとおるため,そこを狙って漁を行う。このように,インフォーマントは対象魚種の生態や海底地形,気象条件などの様々な知識を駆使しながら,漁場の選定や漁期の判断等を行っていた。本発表では,このような漁撈活動とこれに関する漁民たちの民俗的知識を手がかかりに,彼らが中海の自然環境をどのように認識しているのかを考察する。
  • その気候学的検討
    木村 圭司, 財城 真寿美, 戸祭 由美夫
    セッションID: S1103
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    幕末に蝦夷地で陣屋・囲郭を建設する際には,先住民がいたとはいえ,比較的自由に建設する場所を決めることができたはずである.こうした状況の中,陣屋・囲郭が建設された場所は,いくつかの要因を検討した上での結果であると考えられる.立地要因のうち,自然環境条件としては,主に地形学的条件と気候学的条件が考えられるが,本研究では気候学的条件に関する検討をおこなう.
  • 被災地再建研究グループによる研究
    高橋 信人, 佐野 嘉彦, 岩船 昌起
    セッションID: 105
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1.研究目的 2011年3月11日に起こった東日本大震災に伴い、現在でも多くの被災者が仮設住宅において生活を続けている。発表者らは、仮設住宅における住環境や人体への影響を定量的に評価するための基礎データを収集することを目的として、岩手県宮古市にある愛宕仮設住宅内の一室において2012年3月より温度環境の観測および分析を始めた。本発表では観測開始時から春季における仮設住宅内の温度環境の特徴についての報告をおこなう。2.データと方法岩手県宮古市には60以上の仮設団地が建設されている(2012年7月20日時点)。本研究で対象としたのは、その中の一つ、愛宕仮設団地(45戸)にある一仮設住宅である。仮設住宅内の温度環境の計測は2012年3月18日に開始した。設置した温度計はエスペックミック社製のサーモレコーダーミニ(RT30S、RT31S)およびT&R社製のおんどとりJr.(RTR-52A)である。温度計は仮設住宅内の以下の場所、10ヶ所に設置した。・居間:4ヶ所(70 cm、70 cm壁、床上10 cm、床面)・寝室:1ヶ所(10 cm)・台所:2ヶ所(120 cmおよび床面)・トイレ:2ヶ所(120cmおよび床上20cm)・玄関:1ヶ所(100 cm) なお、壁、床面以外はいずれも壁面から20cm離れた位置にセンサを固定した。いずれの温度計も10分間隔で観測しており、得られたデータはあらかじめ恒温器内で計測した値をもとに器差補正をおこなってから分析に用いた。また、仮設住宅内には居住者が生活しているため、提示するデータは人工熱の影響を含んでいることに留意する必要がある。3.結果と考察 得られたデータから、3月19日から5月20日までの期間における63日平均の時間気温推移を各温度計で比較した。その結果、次のような特徴が明らかとなった。A. 日変化:室内全ての温度計で、6時に気温の最小値を示した後、急激に上昇して9時に一度目のピークを迎え、その後、少し気温は下がって15時まで徐々に上昇した後、21時に二度目のピーク(一度目より約1~2℃高い)を示す。B. 高さによる温度の違い:最も気温が低い値で推移する場所はトイレの床上20cmの温度計である。トイレの床上に加えて、居間、台所などの床面近くでは、それぞれ同地点の70~120cmに設置した温度計に比べて最大で約3℃高い値を示す(8時および20時に発現)。C. 部屋による温度の違い:70cm~120cmの高さの温度を部屋別に比較すると、最も低い値を示すのはトイレであり、最も高い値を示すのは居間や台所などで、トイレより平均的に1.5~3℃ほど高い(9時および21時に発現)。 Aの特徴から、仮設住宅内の温度環境は居住者のライフスタイルを大きく反映したものになっており、今回の例では特に9時と21時に気温のピークが現れることがわかった。室内気温の変化は居住者によるその日の活動に依存するため、日によっては一日3回以上のピークを示すこともある。また、Bの特徴から仮設は床面から冷えていることがよくわかる。暖房、調理、入浴などにより、8時および20時には高さ70cm~120cmにおいて温度の上昇が大きく、結果としてその時間帯に床面との温度差が大きくなる。赤外線カメラを使って得た温度環境をみると、住居を支える鉄柱が冷えており、これが壁面に伝わっている様子が明らかとなった。このような床面や鉄柱の低温からの伝導(および結露)をなるべく遮断することが求められているといえる。Cの特徴からは、居住者がいる部屋からは隔離された場所であるトイレで最も気温が低くなることが示されており、特に9時と21時にはその温度差が大きいことがわかる。気温の急激な変化は人体への負荷も大きいと考えられることから、トイレや風呂場などの隔離された空間における温度環境の対策も重要であると思われる。
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