日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
選択された号の論文の175件中101~150を表示しています
発表要旨
  • 伊藤 達也
    セッションID: S1207
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.はじめに 我が国の過疎化現象は高度成長期から低成長期,さらには現在に至る大きな経済動向によって生じたものである。その中にあって,水資源開発や治水,さらには電源開発を目的としたダム開発はもっぱら過疎を促進する機能を果たしてきたと言える。山村地域における基幹集落や優良農地は水没し,山村地域を構成してきた地域社会,地域経済は崩壊の危機に瀕している。 しかし,そうした中にあって,ダム開発をテコとして観光開発等の地域振興を目論んできた地域,電源交付金等を使って地域振興を行ってきた地域,さらに近年では脱ダムを旗印に地域振興を目指す地域の存在を無視することはできない。全国に数多く存在するダム地域において,ダム開発並びに脱ダムを利用して地域振興を目指している地域に焦点を当てて,その可能性の検討を行う。本発表では主として観光開発等の地域振興に成功していると言われているダム及びその周辺地域について焦点を当てて考えていく。2.水源地域活性化事業 ダム計画に関わって過疎が促進された部分に対しては,これまで水源地域対策特別措置法(以下,水特法と言う)をはじめとする各種水源地域対策が実施されてきた。水特法は水源地域対策の基幹をなすものであり,高度成長期,全国各地で計画されたダムに関わって,水没関係者の生活再建を支援し,ダム建設によって著しい影響を受ける水源地域の影響緩和や活性化を図るための措置を講じることを目的に,1973年に制定された。その後,1978年には水特法の目的にスポーツ・レクリエーション施設の整備,1994年には水源地域活性化のための措置が加えられ,水源地域活性化を目的とする改正が行われている。さらに2001年からはダムを活かした水源地域の自立的・持続的活性化を図るための「水源地域ビジョン」が国土交通省(以下,国交省)所管ダムで策定されている。3.ダム湖利用実態調査による地域振興ダム こうしたダムを活かした地域振興策の成果を見ることのできるものとして国交省が「河川水辺の国勢調査」の一環として実施している「ダム湖利用実態調査」(1991年度~2006年度の3年おき)がある。これによると,2006年度102のダムにおいてダム湖及びその周辺の年間利用者総数は1,391万人で,前回調査(2003年度)と比べて6万人増加し,これまでの調査で最多となっている(図1)。また2006年度,利用者の多いダムは,1位宮ヶ瀬ダム(神奈川県,157万人),2位御所ダム(岩手県,96万人)で,「ダム湖利用実態調査」によれば,年間利用者数の多いダムは,「大都市の郊外」・「施設が充実」となっている。本発表ではこれら成功事例と言われているダム地域の実態に焦点を当てて検証を行う。
  • 1995阪神・淡路大震災と2011東日本大震災
    増田 聡, 村山 良之
    セッションID: 113
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    高度経済成長期以降,日本の都市域は丘陵地等に広く展開し、その結果、日本では1978年宮城県沖地震以降の大きな地震の度に,特徴的な被害が発生している。本報告では、まず、1.地震による丘陵地等における被害の特徴 を整理したうえで、2.改正・宅地造成等規制法による事前対策 の内容を紹介した。次に、事後救済の拡充と事前対策の促進との関係性など、3.仙台市における東日本大震災の被災宅地復旧支援と課題 をまとめた。最後に、1995年の発災後から土地利用変化を継続観察している神戸市郊外の住宅団地を事例に、4.神戸市における阪神・淡路大震災の被災宅地の変化と課題 を検討し、被災宅地の細分化とミニ開発の実態に即した対応策(制度設計の方向性)を提起した。
  • 木村 圭司, 篠田 雅人
    セッションID: 603
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本研究では、夏季にモンゴルに降水をもたらす場合に限定し、事例の多い①低気圧が北緯45度より北からきて、かつ、北からの水蒸気輸送が卓越する場合(NNタイプ)、②低気圧が北緯45度より南からきて、かつ、南からの水蒸気輸送が卓越する場合(SSタイプ)に着目して、低気圧と前線の構造を解明することを目的とする。その結果、NNタイプでは850hPa面の水蒸気輸送と降水量をみると、バイカル湖の北西のタイガから蒸発散したと思われる水蒸気がモンゴル北部に流入して降水となった。500hPa面温位と比較すると、バイカル湖の西側に低温位の寒冷域があり、この寒冷域がほぼトラフの位置と一致している。つまり、降水域となっている前線の西側に寒冷湿潤の気団があり、前線の東側には温暖乾燥の気団があって、500hPaのトラフと寒気の東進に伴って、低気圧と降水域が東へ移動する。850hPaの風はこのトラフに沿っている。また、SSタイプでは、850hPa面の水蒸気輸送と水蒸気の収束・発散および降水量をみると、日本海から移流した水蒸気がモンゴルの東方で収束し、降水がみられる。500hPa面温位と比較すると、モンゴル全体が切離低気圧に伴う弱い寒冷域におおわれているのに対し、モンゴルの東方にみられる切離低気圧の東側に沿って形成される南風に沿って南からの暖気が流入している。つまり、降水域となっている寒冷前線の西側には切離低気圧による寒冷乾燥の気団があり、前線の東側には温暖湿潤な気団がある。850hPaでは日本海付近から流れ込む南風により水蒸気が流入している。
  • 上山 智士
    セッションID: S1805
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本研究では、大人数の移動データを可視化あるいは分析するためのシステムである「Mobmap」を利用して災害が人の流動に与える影響を可視化する。また、従来型の静的な地理情報と組み合わせた分析の事例も紹介する。
  • 宮本 真二, 上中 央子
    セッションID: 116
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     沖積平野に立地する遺跡の成立・廃絶と,短期間に発生した地形環境との関係性を把握するために,庄内川下流域低地に立地する平手町遺跡を研究対象として現地調査を行った.今回実施した平手町遺跡における地形環境の変遷と遺跡立地の検討において,以下の点が明らかとなった. 1)弥生時代は,低地的な環境にあり,恒常的な滞水はないが,一時的な洪水などが発生するような低地的な環境下にあり,周辺植生は照葉樹を主体とするものであった. 2)古墳時代になると遺跡内に河道が形成されるような環境になり,地形環境は不安定化したが,周辺植生は照葉樹を主体とする景観が形成されていた. 3)河道が形成された後の中世以降は一変して陸化が進展し,耕作などが行われる場となったが,周期的な洪水が継続して発生していた. 今後は,周辺遺跡での調査結果との整合性を検討するとともに,遺構の成立過程との関係性を検討することが必要である.
  • 内波 聖弥
    セッションID: 402
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     造船業は本来的に国際的で,景気変動に影響されやすく,社会情勢の変化に合わせて立地調整が行われ,生産拠点と地域経済の関係も変容してきた.本稿では,グローバル競争下における造船業について,①従来研究されてこなかった中小企業や関連産業,個別企業の経営戦略を含めた分析を行い,造船業の立地調整の特徴を示すこと,②産業集積の優位性に着目して,造船業が近年建造量を伸ばしている要因を明らかにすることを目的とする. グローバル競争下の中,国内造船業は寡占化が進展し,大手企業は脱造船を進め主要工場に生産拠点を集約した.大阪に位置する中小企業は,既存工場を廃し,北部九州・瀬戸内海に生産性と高い工場を新設するという戦略をとった.それに対して,瀬戸内海の有力中小企業は,現在地に留まって生産を継続し,建造量を大幅に伸ばした.その結果,造船業全体の生産の中心が,大手から中小へ,三大都市圏から瀬戸内海へと移った. そして,造船業の立地調整に連動して,舶用工業においても立地調整が行われた.主に,大手企業において三大都市圏から瀬戸内海・北部九州へという移行が見られた.しかし,阪神の舶用工業は依然として高度な集積を維持している.これは,阪神の舶用工業の種類が川上側の重量の重い製品であり,瀬戸内海上を海上輸送できるためである. 一方で,瀬戸内海の有力中小企業は,主に今治市に本社を置く今治造船と新来島どっくによってグループ化されている.これらの企業は,阪神などに立地する大手舶用メーカーから中核部品の提供を有利に受けつつ,さらに今治市内の川下側の重量の軽い中小舶用工業,造船企業本社,個人経営の船主,商社などで構成される独自の複合的集積であり,集積内部のアクター間は人的関係により強固に結びついている. また,今治市の集積内部には,「無尽の会」というアクターの利害調整を行う独特な組織が存在する.「無尽の会」に参加することにより,どの船主がいくらで船舶を発注したか,どの舶用メーカーに受注したかなど,他地域では得られないインフォーマルな情報へのアクセスも確保される.このような地域的な人的関係資本によって,今治は日本国内だけでなく,国際的にも新造船の受注能力が高い地域となることができている.そのため,大手企業や阪神地域の中小企業が立地調整を進めたのに対して,瀬戸内海の中小企業は現在地で造船業専業を継続することができたのである.
  • 加藤 寛泰, 山田 育穂, 浅見 泰司
    セッションID: 212
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    他国に類を見ない速度で高齢化が進む我が国において、高齢者が生活しやすい都市空間の実現は重要な課題であり、「歩いて暮らせる街」には、日常生活の利便性のみならず、身体活動の自然な増加を通じた健康の維持・増進の可能性という点からも、期待が高い。同時に、環境負荷の削減や人口減少への対応といった視点から、コンパクトシティなど自動車に依存しない街づくりへの関心も高まっている。こうした都市の歩きやすさ(walkability)に関する研究にはCerinらの歩行環境に関する調査質問紙(ANEWS)が広く使われているが、欧米の都市環境を基準に作られたANEWSの日本社会における妥当性については未だ検証されていない。またwalkabilityに関する既存研究で高齢者に焦点を当てた例は見られず、歩行環境に対する高齢者特有の要望や不満を丁寧に検討する必要がある。そこで本研究では、欧米の都市に比べ自動車依存度の低い日本の都市部の状況と、高齢者の歩行行動とを考慮したアンケート調査を行い、高齢者の歩行環境に対する評価構造を分析した。アンケート調査は、西武池袋線東長崎駅を中心とする東京都豊島区の既成市街地を対象として、2011年秋に行われた。アンケートは3部構成で、居住者の歩行環境評価に関する部分、平均的な一日の行動について問う部分、健康や日常の運動を含む個人特性について問う部分からなる。総合的な近隣歩行環境に満足しているか否かを被説明変数、歩行環境の構成要素に関する評価を説明変数として、二項ロジスティック回帰モデルを推定した結果、本調査地域のような駅周辺既存市街地においては、他の歩行者や自転車との接触、置き自転車や立て看板などの歩行を妨げる障害物、近所の通りが夜でも十分に明るいこと、近所の通り沿いに植えられている街路樹の4項目が、この順で歩行環境評価に大きく関わっていることが分かった。但し、居住者の年齢には統計的に有意な関わりは見られず、高齢者特有の要素についてその有無も含め、更なる検討が必要である。今回ANEWSへ追加した環境構成要素の重要性が示された一方で、既存研究で重要とされていた商業施設等へのアクセシビリティは、評価への影響がほぼ見られず、日本の都市の状況を考慮したwalkability指標の必要性も示唆された。
  • 松本 淳, ビリャフーテ マーセリノ, 高橋 洋, 赤坂 郁美, 久保田 尚之
    セッションID: 605
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1951-2010年の60年間のPAGASAによる日降水量データを用いて、代表的な降水指標の長期変化トレンド、1951-80年と1981-2010年の2期間での変化を調べた。データが得られる地点については、20世紀前半の状況との比較も行った。フィリピンでは夏と冬のモンスーンに伴う雨季が顕著なため、7-9月の南西モンスーンによる雨季(JAS)と10-12月の北東モンスーンによる雨季(OND)とに分けて論じた。JAS季における連続5日降雨量の最大値と、連続寡降雨日数の変化傾向では、Mann-Kendall検定により有意な変化傾向を示す地点はあまり多くないものの、連続5日降雨量の最大値は増加傾向を、連続寡降雨日数は減少傾向を示す地点が多く、強雨の増加傾向を示唆している。他方、OND季には、全土に共通した傾向ははっきりしない。60年の期間の前後半の比較でも同様の結果が得られた。中部の東海岸に位置するダエットと、西海岸に位置するイロイロでは、1940年以前のデータと比較することができ、これらの地点での連続寡降雨日数の長期変化をみると、1951年以降の期間においては前者では増加傾向、後者では減少傾向がみられているが、いずれの地点でも1940年代以前の傾向は異なっており、近年の変化傾向は数十年スケールでの変動の一部とみられる。従って限られた期間のデータにより降雨強度変化を論じる事は大変に危険である。
  • 高咲 良規, 渡来 靖
    セッションID: 606
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    平成20年8月末豪雨は,8月26日から31日かけて日本の各地で局地的な大雨をもたらした.愛知県岡崎市では29日2時の前1時間降水量が146.5mmを記録し,バックビルディング型メソ対流系が大雨を降らせたとの報告があるが,その形成・維持メカニズムの解明には課題が残されている.本研究の目的は,愛知県岡崎市に大雨を降らせたメソ対流系の形成・維持メカニズムについて詳細に調べるために,領域気象モデルWRFを用いて時間的,空間的に高解像度な解析を行った. WRFモデルによる再現計算の結果,愛知県付近では,降水域の極大がほぼ東西に線状に広がりつつ,強まりながら北に移動する様子が見られ,現実場を比較的良く再現していた.相当温位を調べると下層では南東方向からの暖かく湿った空気が入り込み,中層では南西方向からの乾いた空気塊が断続的に入り込むことで対流不安定な場が維持されていた.今後は,水蒸気移流の影響を調べるために海水面温度を変えた感度実験を行う予定である.
  • 松下 龍之介, 近藤 昭彦, 小林 達明, 鈴木 弘行, 山口 英俊, 早川 敏雄
    セッションID: P001
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     福島第一原発の事故からすでに一年以上経過したが、この間に飯舘村、川俣町山木屋地区を中心とした阿武隈山地における空間線量率の空間分布の測定を複数回実施した。その結果、小流域単位の汚染マップを作成する必要性が明らかとなり、複数の手法を組み合わせて空間線量率の分布の実態について調査した結果、および経時変化について報告する。
  • 大西 有子
    セッションID: P024
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    近年、サクラの開花の早期化や紅葉の遅延化など、気候変動による生物季節への影響が顕著に見られるようになった。生物季節の変化は、花見や紅葉狩りといった社会生活や経済への影響の他、生物間作用や生態系機能等、生態系全体へ影響を及ぼすため、将来の変化を予測し、適切な対策を講じることが重要である。気候変動の影響評価、適応の研究では、IPCCの社会経済シナリオに基づく全球気候モデル(GCM)による気候予測をベースとするのが一般的で、生態系への影響においては、生物分布に関して盛んに行われている。しかし、生物季節の影響評価はほとんど行われてきていない。そこで、本研究では、4つのGCMによる将来気候シナリオを用い、日本全国で観測されている動植物22種27生物季節現象を対象とし、将来の生物季節の変化を予測することを目的とした。気候モデルには、IPCC SRES A1Bシナリオ(経済発展重視)に基づく4種のモデルを使い、モデルによる不確実性を定量化した。将来予測には、非線形で複雑な関係においても優れた予測精度を持つ、ニューラル・ネットワークとランダム・フォレストの2種類の統計モデルを使い、予測期間は、2031-50年と2081-2100年とした。 1953-2008年の間の生物季節の変化を調べた結果、全国平均では、10年あたり、サクラやウメ等春の開花は0.7-1.1日早まり、カエデやイチョウの黄紅葉や落葉は2.0-3.3日遅れていた。一方、九州や四国の比較的暖かい地域では、全国平均とは異なり、開花や満開は遅延化し、地域的な差が大きいことが明らかになった。気候要因との関連を調べた結果、冬と春の気温の上昇は生物季節現象の早期化、秋の気温は遅延化と関連が強かった。統計モデルの検証結果は、ツバキ、ヒバリ、シオカラトンボの3種以外のRMSEは1.6-8.2で、概ね精度は良好であった。GCMの不確実性の評価では、2081-2100年までに、春と秋の生物季節の変化の予測において、GFDLとMIROCの予測では7日程度と、モデルによる不確実性が大きいことが示された。ただし、全国平均では、ほとんどの春の生物季節は早期化の傾向が強まり、秋の生物季節は遅延化する傾向が見られた。しかし、生物季節変化の地理的な分布を調べると、春の植物の中には、開花、満開が遅延化する地域が増えると予測された種もあった。これは、秋、冬の気温の上昇により、休眠打破が遅れることによるものと思われる。従って、気候変動の影響評価を行う際には、全国規模の平均ではなく、地域別の予測を行うことが重要である。
  • 西森 基貴, 桑形 恒男, 石郷岡 康史
    セッションID: 614
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    著者らは全国のアメダス観測点を,その周辺土地利用に基づき都市,農地,高地地点等に分類する試みを始め(09年秋季大会),また特に農地を代表できる観測点を「農耕地気候変動モニタリング地点」として選定・公表した(村上ほか2011:生物と気象)。農耕地周辺でも全国的に都市化が進行しており,そこでの気温とその変動は「バックグラウンド」とは異なることが示唆され,また代表地点の選択等で温暖化影響評価に有益ものとなった。本稿ではそれに引き続き,気温変動の季節的・地域性を明らかにし,その要因を大循環および土地利用変化の両面から考察した。
  • ー被災地再建研究グループによる研究ー
    高木 亨, 遠藤 明子
    セッションID: 109
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     本報告では、東日本大震災ならびに福島第一原子力発電所の事故により長期避難を強いられた後に、帰村する川内村を事例に、商業機能の回復過程を明らかにする。それとともに、原子力災害という体験したことのない災害によって、川内村を取り巻く広域的な地域の枠組みに大きな変化が生じていることを明らかにする。
  • 兵庫県多可町加美区の調査を例に
    貴志 匡博
    セッションID: 202
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    はじめに
     日本におけるこれまでの還流移動(Uターン)に関する研究は,地方圏を中心とするものが多く,分析対象となる地域も広い(貴志,2011).また,地方圏へのUターン者は単身や夫婦2人世帯といった移住も比較的しやすい若年期が大勢とされ,ライフステージの進行により世帯規模の拡大した後のUターンは例外的とされている(江崎他,2000).しかし,比較的大都市に近い農村地域への還流移動の傾向は地方圏と異なり,世帯規模の拡大した既婚での還流移動(以下,既婚Uターン)が未婚での還流移動(以下,未婚Uターン)に近い規模で存在している可能性が高いことがわかった.そこで,本報告は大都市に近い農村地域の配偶関係(既婚・未婚)に注目したUターン者の分析を行う.

    対象地域
     調査対象とした兵庫県多可町加美区は神戸市より自動車で約2時間の農村地域である.いわゆる限界集落のように極めて交通アクセスが不利な農村地域と異なり,都市よりある程度の距離にある農村を対象としたことで,より一般的な農村地域のUターンの傾向を把握できると考えた.また,2000年国勢調査の人口規模別市区町村数をみると,1万人前後の市町村が多い.加美区の人口は6629人(国勢調査2010年)となっており,多くの市町村の好例であるといえる.

    調査手法
     本報告は神戸大学と多可町との連携によって加美区において2009年8月に実施した全世帯アンケートを用いている.アンケート回収状況は,配布票数1912,回収票数510(回収率26.7%)であった.アンケートより世帯主である加美区出身の男性Uターン者133人を分析対象とした.なお,本研究ではUターンの定義を加美区出身者が加美区外に転出し再び加美区に戻ることとする.

    既婚・未婚Uターン者の特性
     全ての世代での既婚・未婚Uターン者の特徴をまとめると以下のようになる.既婚Uターン者は20歳頃に就職を機に主に兵庫県内へ他出し,兵庫県内での移動を繰り返し,結婚後7~8年の世帯規模の拡大した段階で子育てや住宅事情を理由としてUターンしている.一方,未婚Uターン者は18歳頃に他出し,23歳頃他出先より直接帰還している.
     このように,既婚・未婚によってUターンの実態は大きく異なっており,大都市に近い農村地域では既婚Uターンが地方圏に比べ多く見られる可能性が極めて高い.また,数多く存在する大都市に近い農村地域において,Uターン促進の施策を考える際には未既婚の差異が重要と考えられる.
  • 須貝 俊彦
    セッションID: P016
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    濃尾平野と養老山地を分化させてきた養老断層は,1586年天正地震,および,745年天平地震の震源断層であると考えられている(須貝,2011など).養老断層の活動に伴う斜面崩壊と土石流によって,養老断層崖麓に発達する扇状地群は,間欠的に成長してきた可能性がある(須貝・柏野,2011など).本発表では,これらの土石流扇状地群の露頭調査とAMS-14C年代測定に基づき,土石流の発生時期について議論する.本発表で新たに示す年代測定値5点は,2011年度パレオラボ(株)「災害履歴に関する研究助成」によって行われた.記して感謝申し上げる.土石流扇状地の特徴と年代試料養老山地東麓には,養老断層を覆うように,合計31個の扇状地が分布している.各扇状地の涵養域は,断層崖を刻む必従谷流域である.換言すれば,養老断層崖は,主に31の河川流域に分割でき,各河川の谷口には例外なく扇状地が発達している.これらの扇状地は,1)扇面勾配が33~240‰と急なこと,2)上方粗粒化する亜角礫層と腐植質シルト層の互層が認められること,3)礫層の平均最大径は-10φ~-7φに達すること,などから,間欠的に流下・堆積を繰り返す土石流によって成長してきたと判断される(柏野,2007MS).完新世扇状地の扇面面積は,集水域面積の0.85乗に比例する(n=31, 相関係数r=0.85).指数が1.0に近いことから,集水域全域で万遍なく土砂が生産され,麓に移動し,扇状地を形成したと解釈でき,断層崖の平行後退を示唆する.① 養老断層の北から3番目の谷がつくる扇状地,② 断層北部の小倉谷扇状地の扇頂付近,③ ②の南隣の今熊谷扇状地の扇央付近,④ 養老断層の北から25番目の谷がつくる扇状地,の計4箇所で,露頭調査を行った.層厚10~数10 cmの角礫層からなる堆積ユニットとそれを覆う腐植質土壌層のセットが2~5回累重していた。扇状地堆積物にみられる腐植層と礫層の互層は,扇面は,地震間に植生に覆われて安定的であるが,地震時に流域全域(断層崖全体)からの土砂供給によって,数10 cmの層厚で巨礫に覆われる可能性を示す。崩壊が多発し,土石流は,地震間にやや掘り込んだ流路内を通過しきれずに,扇面全体を覆う可能性が高い。これらの腐植質層のなかから8層準,9箇所でAMS-14C年代測定を行った。土石流の推定発生年代と養老断層活動時期礫層に挟まれた腐植質堆積物のAMS-14C年代値は,新しいものから順に (1) 天平大地震後,天正大地震前(*820±17 calyrBP±1σ,*1,005±18,1,130±60),(2) 紀元後,天平大地震前(1,850±50),(3) 2,100±50,(4) *3,250±20,(5) 4,850±50,(6) *5,485±20,(7) ヤンガードリアス紀(*11,310±35)を示した。* はパレオラボによる研究助成による。以上から,礫層の堆積年代は順に,おおよそ (A) 820 calyrBP以降,(B) 1,850~1,130 calyrBP,(C) 2,100~1,850 calyrBP,(D) 3,250~2,100 calyrBP,(E) 4,850~3,250 calyrBP (F) 5,485~4,850 calyrBP頃と推定できる.そして,(A) は1586年天正地震,(B) は745年天平地震,(C) は2,100年前頃の地震,(D) は3,600年前頃の地震,(E) は4,000年前頃の地震,(F) は5,700年前頃の地震(C~Fの地震の年代は,Naruhashi et al, 2008; Niwa et al, 2011に基づく)を誘因として,各々堆積したと考えて矛盾しない.山麓扇状地は,液状化リスクは低いかもしれないが,地震動を誘因とした土砂災害のリスクを想定した流域管理や土地開発が必要であろう。
  • 強雨発現時刻の地域性と経年変化
    澤田 康徳
    セッションID: P022
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    関東地方においては,都市型災害などの関連から降水特性に関する研究が活発になされ,沿岸域・平野域・山地域と明瞭な地形の起伏に対応して,夏期には雷雨などの降水発現の頻度や強度の時間的特徴が地域によって異なることが知られている(たとえば澤田,2000;藤部,2003)。特に,近年では東京都心域を中心とした南関東における降水特性の変動が指摘されており,これは地球温暖化などの気候変動や都市気候としてヒートアイランドやそれに伴う気圧場の変化の関連から議論がなされている(藤部,1998;高橋,2003;澤田・高橋,2007)。このような降水特性(雨の降り方)に関わる要因を考察する場合,大気循環が形成される時刻を併せて考慮する必要がある。藤部(2004)は,日本を対象とし強雨を伴うような対流が関わる発雷頻度の日変化において,夕方の極大時刻の遅れる傾向を指摘している。強雨発現頻度の増大傾向を,都市気候や気候変動などから考慮する場合,それらが顕在化する時刻にも変動があってよい。本研究では,降水に関わる背景を考慮する上で重要な,降水特性の時間的特徴の経年変化と地域性を捉える。資料 資料は,時間的・空間的に詳細な降水量が得られるAMeDASの毎時観測資料を用いた。対象とした期間は1980~2009年(30年間)の夏期7,8月で,欠測が1%未満の地点(104地点)を対象とした。結果 関東地方における毎時の総降水量に対する各降水階級までの累積寄与率は(図1),関東地方(全体)においては18JSTを中心とした夕方に上位の降水階級の寄与率が若干大きいほかは,時間変化は小さい。一方,東京(大手町)においては19,20JSTに上位階級の寄与率の大きい時刻が明瞭に認められる。都心部を中心とした南関東では,夏期総降水量は関東地方における他のAMeDAS地点より少ないものの,強雨の寄与率が大きい地点が複数認められる。これらのAMeDAS地点における短時間強雨(20mm/h≦)の寄与率の極大時刻の経年変化は(図2),東京南部に位置する世田谷・東京(大手町)の両者とも,1980年代は18JSTを中心に寄与率が大きい時間が認められるが,2000年代においては20~21JST頃に寄与率の大きい時間帯が認められ,強雨の寄与率の極大時刻が遅れる傾向が判る。他方,内陸の熊谷や山岳域においては強雨の寄与離宮の極大時刻に明瞭な経年変化は認められなかった。この結果は,近年の増大傾向を示す都心域を中心とした短時間強雨発現の時刻と矛盾せず,その遅れる傾向は都心域の強雨発現のシステムを考慮する上で興味深い事実である。発表では,毎時の時間降水量の階級別寄与率の地域性やその年々の特徴を提示し,降水特性と大気循環の関連性を論じたい。
  • 若松 伸彦
    セッションID: S1604
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1971年に発足したユネスコの人間と生物圏(MAB; Man and the Biosphere)計画は,生物多様性の保全と豊かな人間生活の調和および持続的発展を実現するために設立された国際協力プログラムである.MAB計画では,貴重な陸上及び沿岸生態系を生物圏保存地域(Biosphere Reserves,日本国内での通称:ユネスコエコパーク)を指定する事業を1976年より進めている.日本では1980年に屋久島,大台ヶ原・大峰山,白山,志賀高原の4カ所が登録され,32年ぶりに2012年7月に宮崎県綾地域が新規登録された.生物圏保存地域は,基本的に核心地域(core area)を中心として,周囲を緩衝地域(buffer zone),移行地域(transition area)が取り囲む,同心円状のゾーニングが行われる.各エリアでは3つの機能的活動(保全・発展・学術的支援)が目的に合わせて行われる.特に,機能の一つに持続可能な「発展(development)」を掲げている点が大きな特徴であり,同じユネスコのプログラムである世界自然遺産の,原生的な自然を厳格に保護することを目的としているのとは対照的である.目的に即したゾーン設定を行う生物圏保存地域の理念は世界的にも評価されている.生物圏保存地域事業は,設立当初,管理運営計画は自然環境の保護・保全に重点が置かれていた.しかし,1996年のセビリア戦略において,自然環境の保全だけではなく,移行地域における自然環境保全と人間生活の両立の実践,地域固有の文化の保全,教育・研修,長期的な環境変動のモニタリング活動の重要性が再確認され,2008年から2013年に実施するマドリッド行動計画(Madrid Action Plan)が発行されている.生物圏保存地域の登録地点数は,2012年8月現在117ヵ国598地域に達しており,様々な取り組みが各地で進められている.一方,日本では,MAB計画黎明期の1980年に4地域が登録されたものの,その後は生物圏保存地域に関する取り組みは全く行われず,地域住民にもほとんど認知されず現在に至っている.日本の生物圏保存地域における活動が,活発でなかった最も大きな原因は,指定に至るプロセスが中央関係省庁のみで行われ,地域や世間一般にその概念や仕組みが周知されなかったことが挙げられる.近年日本では,公共事業や地域振興のための開発や過疎化をめぐる様々な自然保護問題が顕在化しており,今後も同様の問題が継続的に生じると予想され,MAB計画の生物圏保存地域の枠組みを活用した自然環境の保全と人間生活の両立に向けた活動は,これら問題を解決する有効な選択肢の一つである.
  • ‐被災地再建研究グループによる研究‐
    山下 浩樹
    セッションID: 106
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    宮古市の仮設住宅住民を対象に身体活動量・日常生活動作能力調査を行った。宮古市の仮設住宅住民の身体活動量は平均値で見る限り、これまで報告されている健常成人の平均値と大きな差はないと思われる。対象者からお話を個別に伺うと、もともと活動量が低い対象者も見られたが、体力が落ちないように努力している人も多く見られ、健康に対する意識の高い人も多いという印象はあった。また、仮設住宅に入ったことにより「今までより、遠くまで買い物に行かなければならない」「きつい坂道の昇降をする必要がある」などの理由で、仮設住宅入居後、活動量が上がった人もいる。一方、同じ仮設住宅に入居しても体力的に遠くまで買い物に行くことができず結果的に身体活動量が減少した人も存在している。このように、平均的には、大きな問題はなくても個別的にみると、何らかの対応が必要と思われる人が存在している。また、今回、調査に協力いただいた対象者は、ADLは自立している人がほとんどで女性が多かった。そのため、今回は当初注目していた「避難生活が長引いて廃用症候群の危惧される人」は調査の対象になりにくいという点も明らかになった。今回は全体的な傾向はある程度把握できており、その結果をもとに今後個別的な部分にも着目して内容を深めていきたい。今後、復興公営住宅の建設にあたり、建物、立地などのハード面はもちろん重要であるが、単に住宅を建設するのではなく、行政・医療・介護などの分野で個別対応できる地域の体制づくりに力を注ぐ必要が大きいのではないかと考えられた。なお、本研究は公益財団法人トヨタ財団「2012年度研究助成プログラム東日本大震災対応『特定課題』政策提言助成」の対象プロジェクト「復興公営住宅の住まいづくりとそれを取り巻くまちづくりへの提言(D12-EA-1017,代表者 岩船昌起)」の一部である。
  • 箸本 健二
    セッションID: 209
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     地方都市の中心市街地における大型店の撤退問題は,1990年代の半ばから顕在化するようになり,その後,全国的に拡大しつつある.こうした店舗の廃店・撤退は,小売業やその経営に深く参画する金融資本の立場からすれば致し方のない事業縮小であり,経営の合理化のために不可避と位置づけられている.しかし,地方都市の視点に立てば,中心市街地のランドマークであり,集客施設の核となってきた大型店の撤退は,中心市街地の求心力低下をもたらすだけでなく,小売販売額の争奪をめぐる都市間競争からの脱落に直結しかねない.このため,大型店の跡地問題は,深刻な商店街の地盤沈下と相俟って,地方都市が直面する喫緊の課題となっている.本研究は,このような状況をふまえ,地方都市における大型店撤退の実態を整理するとともに,跡地利用が直面している課題や行政の政策的対応を明らかにすることを目的とする. 本研究では,中心市街地に大型店が立地する可能性を持つ市町村合併前(1995年)人口20,000人以上の自治体(もしくはこれらを含む合併自治体)を対象に,1)1995年~2011年の間の大型店撤退事例の有無,2)事例ごとの撤退経緯の詳細,3)撤退跡地の現況,4)大型店撤退・跡地利用に関する政策的対応,5)国の中心市街地活性化政策との連携,などを主な質問項目とするアンケート調査を実施した.アンケート調査は,平成24年2月に全国849市町村を対象として郵送留置方式で実施し,626自治体から有効回答を得た(回収率73.7%).分析の結果,1)中心市街地に大型店が立地する自治体の約半数で大店法規制緩和(平成2年)以降に大型店の撤退が見られること,2)大型店の撤退が中心市街地の吸引力低下に直結する事例が多いこと,3)複雑な権利関係や負債の影響で撤退跡地の再利用が遅れる事例が多く,中心市街地の活性化に深刻な影響を与えていることなどが明らかとなった.口頭発表では,より詳細な調査結果に基づき,大型店撤退の実態と跡地利用が直面する課題を検討する.
  • 石川 智, 鹿島 薫, 七山 太
    セッションID: 101
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに東北地方太平洋沖地震による津波発生以降、各地の陸上・海底における津波堆積物の記載が行われている(たとえば、Goto et al., 2011;Abe et al., 2012など)。陸上に残された堆積物については、遡上方向に向かって層厚と粒径の変化が確認されている。津波堆積物は、陸上では風雨や人為によって消失してしまうが、水に覆われる湖沼や湿地ではよく保存される。湖沼流入型の古津波堆積物についてはBondevik (1997)によって記載され堆積ユニットが明らかにされている。現世の湖沼流入型の津波堆積物の特徴を明らかにすることによって、北海道東部太平洋側などの沿岸湖沼で認められる津波痕跡への応用が可能となる。本研究では宮城県七ヶ浜町に位置する阿川沼とその周辺に遡上した津波堆積物を扱う。阿川沼は宮城県七ヶ浜町に位置し海岸線に直行する方向に細長い形状の堰止湖である。東北地方太平洋沖地震による津波発生時には、阿川沼周辺においては海岸付近で浸水高10 mを記録し、内陸2 km地点まで到達した。この沼に関する研究例は非常に少なく、水質分析とプランクトン調査報告があるのみである(田中 1993など)。この阿川沼において湖沼の存在が津波堆積物の分布とどう関わるのか検討する。研究手法海岸から阿川沼を通り、浸水域最奥部までの測線を設定する。阿川沼の海側湖岸・沼中・内陸側湖岸と最奥部でそれぞれ柱状試料を採取し、層相観察と帯磁率測定、測色、珪藻分析を行う。観察の結果と今後海側湖岸と内陸側湖岸、浸水域最奥部における柱状試料を観察したところ、これまでの研究と同じく海側ほど砂層が厚く、内陸に向かって細粒化し薄くなっていく傾向が見られた。表層は植生が繁茂しており土壌化も見られた。現在各試料の層相ごとに珪藻分析を進めており、津波が淡水湖に流入した際にその周辺に残される珪藻種構成の変化や珪藻殻の破片化について考察予定である。謝辞GPS測量は産業技術総合研究所の機器をお借りし、渡辺和明氏にデータ解析していただいた。ここに記して感謝いたします。
  • 2010年の宮崎県における口蹄疫発生への対応
    若本 啓子
    セッションID: 407
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     2010年の宮崎県における口蹄疫発生を契機に、家畜伝染病予防法の改正と、飼養衛生管理基準および特定家畜伝染病防疫指針の見直しが行われた。主要な畜産県では防疫体制の強化にあたり、どのような課題を抱えているであろうか。本研究では、2010年の口蹄疫発生時の宮崎県における防疫対応が、他の畜産県への教訓となると考え、農家情報の把握と埋却地確保に焦点をあてて、リスク管理上の課題を明らかにする。
     宮崎県では他県に比して畜産経営体が著しく多く、口蹄疫発生時に牛・豚の飼養者を網羅するデータベースが未整備であった。このことにより、発生農家の位置把握に手間取るケースや、防疫マップ上での防疫措置対象農家の抽出が、瞬時に行えないという問題も生じた。さらに個人情報保護のため、発生農家の位置情報が近隣農家にも伝えられなかった。
     口蹄疫の感染拡大を招いた要因として指摘されているのが、殺処分家畜の埋却作業の遅延である。埋却地確保への対処法は市町村ごとに異なっている。都農町では発生農家の3分の2と、ワクチン接種農家のすべての家畜が共同埋却された。都農町における疑似患畜の防疫作業期間が児湯郡の他の町に比較して短いのは、小規模な肉用牛繁殖農家での発生が多かったことに加え、共同埋却方式の採用が影響していると考えられる。しかしながら、周辺住民の理解や埋却地の適切な管理に関しては、課題が残された。
  • 遠藤 伸彦
    セッションID: 604
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    マレーシア国サラワク州における北東モンスーン季の降水システムの特徴を現業気象レーダー・データを用いて解析した.降水システムは850hPaにて東風成分が卓越する時期に観測され,西風成分が卓越する時期には観測されなかった.気象レーダー,静止気象衛星による赤外放射観測,TRMM降水データより2006年1月の月平均日変化合成図を作成した.気象レーダーでは陸側で午後に降水エコーが観測され午後10時頃には消滅した.午後10時頃より午前4時頃に海側で降水エコーが観測された.海側の降水エコーはボルネオ島から南シナ海への陸風が最大になる前に消滅しており,WMONEX時とは異なる様相を示した.ボルネオ島沖合に線状降水帯が生じるケースでは,北風と北東風が収束し,同時に降水帯付近でSSTの温度傾度が大きい傾向であった.
  • 大八木 英夫, HANG Peou, 塚脇 真二
    セッションID: 612
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    シェムリアプ州のアンコール遺跡区域は、トンレサップ湖へと流れこむシェムリアプ川が存在している。同地域は、観光産業が著しい勢いで発達し、地域住民そしてアンコール遺跡群さらにはシェムリアプ川への影響が懸念されている。また、それにともなって同国の観光産業は計画性のないまま急激な成長を遂げている。したがって、アンコール遺跡区域内やその周辺でこのような環境の変化がとくに顕著であるといえる。さらには、無秩序な開発行為のため、林立するホテルやレストランや未完備な排水処理水などによる河川水への影響を評価する必要がある。そこで、本研究では、アジアモンスーンの影響のため雨季と乾季とで水量が異なり、トンレサップ湖の水理特性と密接に関連し、同湖の水質に影響を与えているシェムリアプ川に着目し、雨季と乾季における季節変動と流下に伴う水質の空間分布および季節変化について考察する。
  • 遠藤 幸子
    セッションID: 315
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    これまで外港の建設と経営に力を注いできたブレーメンであるが、市内にあるブレーメン港の再開発の遅れが指摘されてきた。ところが、ユーバーゼーハーフェンが崩壊したことによって埋め戻しがなされ、再開発への第一歩が踏み出された。この再開発のことをユーバーゼーシュタットブレーメンと呼んでいる。これをハンブルクのハーフェンシティの場合と比較しながら、開発の理念ならびに現状について紹介する。
  • 逸見 優一
    セッションID: 501
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    温暖化による、地球環境問題が高校など学校現場で取り上げられて久しい。私たちが日常の身の回りから学ぶためにはどのようなものがあるだろうか。地方にいても、全国各地に共通する素材は、土壌サンプルであろう。農地であったり、森林であったりする場所は、私たちがどこで生活していようとも、身近な生活場の近くに見いだせる。この生活場の育む様々なものは、たいがいは土壌の中にその役目を終えてゆくと混入してゆくこととなる。土壌の中には実に多くの過去の情報を、私たちにもたらしてくれるものがみられる。環境面では、プラントオパールや珪藻などが過去の過ぎ去った日々の痕跡について、多くの情報を、私たちに語ってくれる。高校では、「世界史A・B」の必修化が前提となる以上、「地理A・B」のもつ「地域調査」学習項目がはたす役割は、「世界史A・B」の持つ「課題的地域学習」を意識して実施することは、「地理A・B」を学習しないで高校生のメンタルマップ形成の最終章にある出口の部分を考える上で、今後も大きいものが有るとまだ考えられよう。この点は歴史性を意識し、時代的に時を見つめ、将来を見定める力として、「課題設定」能力や「課題解決」能力が改めて、グローカル化の較差の幅が増大する現代に生きる高校生には重要課題化するといえる。2012年度は、報告者は、珪藻と稲のプランとオパール分析をなかだちに日本でみられる水田の変遷史をサンプリング化し指標として、トルコ/アナトリア高原地域一帯の古環境復原指標との対比学習を実施していった。プレゼンテーション形式で報告者が過去に集めた、試料をもとに抽出した検鏡写真を生徒に提示しサンプリング微化石を対比考察させていった。生徒の反応・感想は比較的好評であった。「世界史A・B」を意識した場合には、珪藻とイネ科のプラントオパールが農耕の起源をめぐるサンプル例としては有効である、と高校でもいえる。実践例を積み上げることで高校での環境変遷史学習は「農耕の展開から文明へ」の学習項目だけに限らず、広く「地理AB」を学習せずに高校を終えてゆく高校生に、地球環境変遷史への興味・意識づけをもたらすことになってゆくと確信したい。現代の高校生は新鮮で、自らの学習意欲をかきたててくれるものには、絶えず学びの扉を開いて待っていてくれる。私たちはその思いに答えるために、自らの思いでもって答えてゆきたいものでありたい。
  • コーホートの視点で
    佐藤 将, 後藤 寛
    セッションID: 201
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    従来、首都圏においてニューファミリー層が居住するエリアは都心部での地価の高さの影響から都心から離れた郊外が多かった。しかしバブル経済の崩壊以後は地価が安くなった影響で都心部での住宅購入は比較的容易になったこと都心回帰傾向がみられるようになった。ただその一方で交通の利便性の悪い郊外部に居住するニューファミリー層は減少し、オールドタウン問題が顕著にあらわれるようになった。このように住宅双六が変化する中で最近のニューファミリー層の居住地選択嗜好の把握をする必要があるといえる。この選択嗜好を把握することで都市経営の安定、少子化問題対策の道標になるといえるのではないかと考えられる。本研究では首都圏を対象として第一に1966~1970年出生コーホート、1971~1975年出生コーホート、1976~1980年出生コーホートの3つの出生コーホートについて10~14歳時点の人口と30~34歳時点の人口の比を算出し若年単身層も含めた人口の流出入を明らかにする。第二にさきほど設定した3つの出生コーホートの30~34歳時点での有配偶率を分析し、人口の流出入とあわせてニューファミリー層の現在における居住地選択を検証する。なお本研究での首都圏の定義は特別区に通勤・通学するする人の割合が常住人口の1.5パーセント以上である市町村とこの基準に適合した市町村によって囲まれている市町村とした。1976~1980年出生コーホートでは都内中心部から都県境に隣接する市で流入が多いことがわかった(図1)。都内以外で見ると埼玉県では戸田市、和光市に神奈川県では川崎市、横浜市港北区と南武線、東横線の沿線への流入が特に多い。1971~1975年出生コーホートでも同様の傾向が見られた。1966~1970年出生コーホートでは他の2つと同様に東京西南部で流入が多い傾向にあったが特に流入が多いのは都内ではなく和光市、浦安市、川崎市中原区といった都県境に隣接する市であった。また30~34歳時点での有配偶率の分析結果から都内中心部ではどの出生コーホートも有配偶率が低いことがわかった。ただし例外もあり1971~1975年出生コーホートでは江東区の有配偶率は高かった。これは近年の湾岸エリアでのタワーマンションの影響しているものと思われる。全体的にどの出生コーホートで見ても有配偶率で高かったのは埼玉県の戸田市と朝霞市、神奈川県の横浜市都筑区と川崎市宮前区であった。以上、出生コーホートを視点に見てきたが人口の流出入と有配偶率での相関は見られなかった。都内中心部への流入の多くは若年単身層が多いことがこの結果からわかった。しかし都県境に隣接する市で見ると人口の流入が多い地域で有配偶率が高い地域も見られた。都内中心部と比べて地価が安い影響からニューファミリー層の流入も多いことが考えられるが、こうなった要因について解明していく必要があるといえる。
  • 新名 阿津子
    セッションID: S1601
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    山陰海岸ジオパーク(以下,山陰海岸)では,ジオパークやジオツーリズムの導入によって新たなる観光客や来訪者を獲得し,国立公園の活動や地域資源の活用が推進されるようになった.既存ガイド団体や民間事業者のジオパーク参入,ガイド団体の新規設立等を通じ,地域経済への貢献も見られるようになってきている.その一方で,ジオガイド養成面では,制度的および実践上の課題が明らかになりつつある.さらに,民間事業者においてはジオパーク向けに開発された商品や体験メニューと「ジオ」との結びつきについて十分な説明がなされていないといった課題が生じつつある. 山陰海岸ではジオガイド確保の必要性から,これまで増員をめざし、各地でジオガイド養成講座を開催してきた.ジオガイド養成にあたっては,市町や各ガイド団体,観光協会,NPO等がガイド養成を担っているため,その運営も市町,団体ごとに異なる.さらに,現在のジオガイド養成システムでは,開講する講座の内容や定期講習会が団体ごとに異なるため,一定の質を保ったガイド育成にはつながっておらず,これがガイドの質のばらつきを生み出している. 山陰海岸におけるジオパーク商品は,既存商品へのロゴ使用,ジオパーク用に開発された商品へのロゴ使用,地場産品へのロゴ使用等がみられる.望ましいのは地域で生産される商品への活用であるが,”made in China”と書かれた携帯ストラップや単純に「ジオ」という文字を冠しただけで,そこに「ジオ」とのつながりを示す解説等は記載されていないものが多い.ジオパーク品質の管理という点からみると,これらは望ましい状況ではないが,現時点では商品開発における明確なガイドラインは示されておらず,これを指導する運営体制になっていない.山陰海岸では世界ジオパーク認定を受けて,ガイド団体や民間事業者がジオパークを活用するようになった.これ自体はジオパーク活用の量的拡大につながっているが,ジオパークとして品質を保証するところに至っていない.また,持続性の観点からみると,ジオガイドの安定雇用もしくは起業に対する支援も整備されていない.収入面での将来的な見通しが立たないため,退職者がジオガイドを担う状態となっている.ジオパークが地域経済への貢献を目指すのであれば,これら運営上の課題,経済的課題を解決してく必要がある.
  • 中川喜雲『京童』・『京童跡追』を中心に
    長谷川 奨悟
    セッションID: P042
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は,近世・近代の京都および大坂(大阪)において刊行された名所地誌本に,「名所」として叙述される場所に対して,著者(編者)の名所をめぐる場所認識や場所イメージの生産(再生産)の様態について,人文地理学的な視座から検証するものである。本報告では,名所観について整理するとともに,近世的な名所案内記の初見であり,これ以降の名所地誌本に大きな影響を与えた,中川喜雲『京童』,および,その続編である『京童跡追』を事例として,本書の著者であり,知識人であった中川喜雲の名所観や,風景観について検証したい。〈BR〉「名所」がもつ本来の語意は,高橋(1966)によれば,和歌に詠まれた「歌枕」がその源流であり,古代末期から中世初頭において,広義としての歌枕から派生した,地名としての「ナドコロ」が本意とみなされていく。したがって,『因能歌枕』や,『大鏡』などにみられる名所とは,和歌において重要な役割を担うものであり,必ずしも実景を伴わない,知識としての場所認識であったとみることができよう。中世には, 鶴見(1940)や,小林(2000)らが指摘するように,名所や風景をめぐる場所認識は,中国の山水思想などの影響を受け,詠み人自身が実際の自然風景を体験し,その情緒を描写する試みる動きが顕著になっていく。この過程において,平澤(2000)は,15世紀末の『廻国雑記』にみえる名所観とは,「ナドコロ」から,「名にしおふ所」へと変容した可能性を指摘している。また,この段階では「名所」とは,一般民衆に向けて積極的に叙述される場所とはみなされず,道中記や名所案内記は制作されていない。〈BR〉 中世の自己完結型ともとれる名所観が,近世の行動文化の発展にともなって,名所案内記などにみられる名所へと変容していく過程に関して,古くは鶴見が簡潔に示唆している。鈴木(2001)は, 水江(1985)や,加藤(1991)の研究成果をふまえつつ,江戸の名所案内記の系譜を検証し,名所とは,常に変化し,常に創られ関心の対象であり,注目され,訪れる対象としての名所が成立していくことを指摘するが,これは,上杉(2004)が指摘するように,新興都市を対象とした議論であり,都市の歴史的・文化的背景が異なる上方における名所や,場所認識とは一致しない部分も多い。また,場所をめぐる概念について整理した,大城(1994)の成果を応用すれば,名所と見なされる場所もまた文化的構築物であるといえ,その地域の風土や伝統といった地域性が大きく関与するものといえるだろう。〈BR〉 上記の観点を考慮すれば,上方の名所観の検証するにあたり,近世の京,および,近世日本の名所案内記の初見である中川喜雲の名所観を検証する意義は大きいように思われる。〈BR〉 中川喜雲については,例えば,松田(1962),市古(1974,1993)ら近世文学の視座からの研究成果によって,既に明らかにされている部分が大きい。この人物は,丹波国桑田郡馬路村(現:京都府亀岡市)出身の医師であり,京都の文壇で活躍した俳諧師であり,名所案内記や談話集など多くの作品を残した近世初期における重要な作家の一人であるとされている。〈BR〉 『京童』は,1657(明暦4)年に刊行された名所案内記である。序文から,喜雲によって見いだされた88ヶ所の京名所を,京童が案内する形で解説され,近景での挿絵が挿入されている。また,場所の叙述の最後には,彼の俳諧や狂歌,彼が選んだ和歌や漢詩が付けられている。1667(寛文7)年には,続編である『京童跡追』が刊行された。序文によれば,草稿は万治2年には完成していたようであるが,喜雲が広島に移住したため未刊となっていたことがわかる。『跡追』に叙述される地域は,京都,大坂,奈良,広島となど広域にわたるため,本報告では,京都,大坂の部分に限定して,彼の名所観や風景観について分析を試みることとしたい。〈BR〉 この両書を始めとする彼の名所案内記は,近世的な名所観が形成されつつあった過渡期において,非常に重要な役割を担ったことはいうまでもないだろう。
  • 大間々扇状地を事例に
    小寺 浩二, 小島 千鶴
    セッションID: 610
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    Ⅰ はじめに日本の農業機械化が推し進められた高度経済成長期、拡大された農地には大量の窒素肥料が使用され、1970年代以降、全国の地下水から高濃度硝酸態窒素が確認されるようになった。近年に入り、環境基準法、水質基準項目に硝酸・亜硝酸態窒素が加わり、明確な指標は出来たが、基準値を上回る地域も依然として存在する。群馬県は全国でも有数の農作物生産量を誇るが、地下水硝酸態窒素汚染も著しく、環境省が行った平成22年度地下水質測定結果の都道府県別超過率は21.9%とワースト1であり、それ以前も常に上位に入る程、汚染は深刻である。 特に大間々扇状地のある赤城山南麓一帯は県内最大の農業生産額を誇る地域であり、過去の井戸調査からも高濃度の硝酸態窒素が確認されている。本研究では大間々扇状地薮塚面の地下水環境の長期的な変遷を明確にし、地下水汚染源の特定と今後の対策について考察する。Ⅱ 地域概要大間々扇状地は赤城山南麓に位置し、5万年以上前に、古渡良瀬川の浸食・運搬・堆積作用によって形成されたみどり市の標高200m付近を扇頂とし、標高50m付近の太田市・新田町・伊勢崎市を扇端とする南北約18km、扇端幅約13kmの扇状地である。西側には起伏に富んだ桐原面が広がり、東側の薮塚面は侵蝕谷なく起伏が小さい。扇端の新田町では江戸時代まで118箇所程の湧水が確認できたが、現在は渇水や埋め立ての影響により、季節的に自噴する湧水を含め28箇所を数えるのみとなった。渡良瀬川は扇状地最東部を流れ、桐原面と薮塚面の間には早川貯水池を源流とする早川が貫流し、扇端には北西から南東にかけて利根川が横断する。薮塚面に河川は存在せず、渡良瀬川より引かれた岡登用水路が流れる。大間々扇状地の地下水に関する研究では、阿由葉(1970)が、降雨の影響が約2ヶ月遅れて地下水位に現れ、水温も地表の気温から約2ヶ月送れて反映されることを示し、扇央域の塩素イオン濃度が高い原因は漬物の排水であることを明らかにした。関谷(1996)は、薮塚面の水温が年間を通じて比較的高いことを示し、岩田(2004)は扇端部分の新田町123地点で調査を実施し、過半数の地点で硝酸・亜硝酸態窒素が高濃度であることを明らかにした。Ⅲ 研究方法対象地域における過去の調査結果を整理し、長期的な環境変化を明確にした上で、新たに観測網を整備し、地下水だけでなく河川・用水路の観測網も配置して、河川水・地下水の交流についても検討する。特に、今回は、2012年6月~8月に行った現地調査結果と過去に記録を比較して考察する。現地では、AT, WT, EC, pH, RpH, 水位などを観測した後採水して、主要溶存成分を分析した。Ⅳ 結果と考察大間々扇状地のECの値は相変わらず高く、特に数カ所では、1970年頃に指摘された漬物排水に由来すると思われる高塩分濃度の地下水が観測され、硝酸態窒素濃度が高い地域も示された。局所的にpHの高い地点などもあり、流動や河川水との交流も考慮した検討の必要性が示唆された。Ⅴ おわりに今回は、6月~8月の一時期の観測結果のみでの考察となったため、季節による変化については検討できなかった。今後、継続的な観測を行い、地下水位の変化や用水路からの涵養量の違いもあわせて考察を進め、季節変化も含めて長期的な変遷を明確にしたい。参考文献阿由葉元(1970):群馬県大間々扇状地における地形と自由地下水について,駒沢大学文学部研究紀要, 28,A107-A129岩田浩二・斉藤達之・青井透・大塚富男(2004):大間々扇状地地下水の高い窒素濃度の現状とその由来についての検討, 環境工学研究論文集, 41,683-691
  • 寺谷 諒
    セッションID: P009
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    近年、都市化や農村の過疎化に伴う多くの土地利用に関する問題が生じている。都市部では、市街地が無計画に拡大するスプロール現象やそれに伴う、中心部の衰退、郊外の緑地の減少、また農村部では、農地や里山の放棄問題がある。特に郊外においては、市街地が開発によって無秩序に拡大するスプロール現象が問題となっており、このスプロール現象によって、郊外の農地が多く消失している。 これらの問題に対応するためには、過去の土地利用の変化を分析し、将来の土地利用を予測したうえで、適切な土地利用計画・都市計画を行うことが必要となってくる。 しかし、既存研究においては、社会的条件を包括的かつ詳細にとらえ、変数を適切に選択した高精度なモデルを構築した研究は少ない。特に、農地の変化を対象とした研究では、精度が低く、60%台や50%以下のものがみられる。 そこで、本研究では、土地利用の変化と社会的要因の関連に関して分析を行い、さらに実世界の土地利用変化を高精度に再現・予測ができるモデルの構築を行う。そして、いくつかのシナリオを設定したうえで、将来の土地利用変化を予測し、今後とるべき土地利用政策や都市計画に関して、考察することが研究目的である。なお、郊外に多く存在し、年を経るごとに減少が進む農地の変化に焦点を絞り、減少のメカニズムの分析と将来の予測を行うものとする。
  • 淡野 寧彦
    セッションID: P039
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    近年,日本においては,家畜の飼養戸数や飼養頭数の減少傾向が続く一方で,1戸あたり飼養頭数の増加が進行している。この動きとともに,牛や豚などの流通部門において欠かすことのできない食肉処理場(と畜場)の再編が起こっている。全国の食肉処理場は,2000年から2010年の10年間で,277ヵ所から198ヵ所に急減したが,同時に施設規模の大型化や稼働率の向上が進んでいる。現在稼動中の食肉処理場は,肉豚換算で1日あたり数百~二千頭程度の処理能力を持つものが一般的である。したがって,それぞれの食肉処理場にとっては,処理する家畜を安定的に受け入れ,稼働率を恒常的に高く維持するための体制づくりが重要であり,このことは畜産物流通の空間的特徴にも影響を及ぼす一因になると位置づけられる。そこで本報告では,食肉処理場レベルでの肉豚の集出荷圏の形成状況とその要因について,GISによる分析を援用しながら検討する。四国地方に存在し,2012年現在で稼働中の食肉処理場12ヵ所を対象として,それぞれの食肉処理場に出荷される肉豚の生産者の所在地と,処理された豚肉を購入する流通業者の所在地等に関する情報を収集する。これらをArcGISを用いて地図化し,個別の食肉処理場の集出荷圏の空間パターンを示すとともに,四国地方における肉豚・豚肉流通の性格を分析する。畜産物流通統計における「肉畜種類別都道府県間交流表」より,家畜の生産地と食肉処理地の双方が把握できる。肉豚の自県・他県産別の処理頭数をみると,全国レベルでは自県産が70.8%,他県産が29.2%(2009年)と,同一都道府県内における処理頭数が多い傾向にある。四国地方における肉豚の流通では,愛媛県の年間豚出荷頭数が約38万頭に上が,愛媛県の食肉処理場における他県産の肉豚処理率は0.2%に過ぎない。一方で,他3県の他県産肉豚所利率は,徳島県が68.8%,香川県が64.6%,高知県が54.3%と,いずれも過半を超えており,他県産ではとくに愛媛県産肉豚の処理率が高い。四国地方において突出した肉豚産地である愛媛県内で完結する肉豚流通が比較的少ないことや,愛媛県産の肉豚が他県の食肉処理場を経由した後,ふたたび愛媛県の食肉卸売業者によって流通・販売される場合もみられる。以上のように,四国地方の中で一定の流通経路が形成される空間パターンが存在していることが予期され,それが四国地方における豚肉の供給体制にも影響しているものと推察される。
  • 土平 博
    セッションID: S1106
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     1.近世陣屋の構築と領域をめぐる問題
     江戸時代、幕府から城を持つことを認められなかった大名は領内に陣屋を構築した。幕府側は、諸大名を「城持ち」以上とそれ未満に分け、大名の序列をつける基準の一つとしていた。大名以外にも、高禄の旗本が陣屋を構築していたり、大名の重臣が地方で陣屋を構築することもあった。
    陣屋の構築は、幕府および大名の所領構造と深く関わっており、城との相違を指摘できる。武家諸法度や一国一城令によって結果的に政庁となる城を増やせない以上、代用となる構築物が必要であった。それが陣屋でありそのような問題を解消する役割をもっていた。城を補完するように陣屋が各地で構築され、不要となれば破却された。
    2.幕末の蝦夷地陣屋
     幕末に構築された蝦夷地陣屋は、奥羽の盛岡藩、仙台藩、会津藩、久保田藩、庄内藩が幕府の命を受けて蝦夷地警備および領地経営の拠点とされた。蝦夷地は奥羽諸藩の本拠地である陸奥・出羽両国の飛地領ともいえるが、年貢徴収をはじめ農民統制を目的としない領地経営であったことから、これまで全国の諸大名や旗本が飛地領支配のために構築してきた陣屋と全く異なった。
     奥羽諸藩は幕府から共通の目的を指示されていたために、陣屋の構築場所を①海岸付近ないしは河川の下流付近、②高台としていた点はほぼ共通しているが、強風等を避け厳しい自然の下で耐えられる状態にしておくことも構築場所選定の条件のひとつとして考えていたようである。
    3.陣屋形態の変遷
     幕末の蝦夷地に構築された陣屋は、江戸時代前半に構築された陣屋と形態上異なる。それは、家主と家臣団が居住することを目的していないからである。陣屋は、周囲に土塁と出入り口の門、土塁内は日勤・寝食、食料備蓄、武具や火薬収納に関する建物で構成されていた。
     近世以前の陣屋は戦時の際の臨時的な陣場であったが、近世になると全国各地で政務の場の建物群を指し示すようになった。幕末の蝦夷地に構築された陣屋は近世以前の臨時的な陣場に近い。しかし、構築物は銃火器を強く意識した堅固なもので、陣屋形態の相違は明らかである。近世陣屋の多様な形態を整理すると、当時意識的に「城」と区別しながら、軍務ならびに政務の場の構築物に対して「陣屋」と称してきたのであろう。
  • -マイクロジオデータベースの作成と解析-
    碓井 照子
    セッションID: S1801
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1995年の兵庫県南部地震直後から建物ベースの復興に関する現地調査を奈良大学防災調査団として実施し、ArcGISでデータベース化してきた。2012年5月の調査で41回目を迎える。このデータは、ゼンリンの住宅地図に記載された建物が地震で倒壊後に更地化され、新築が建設される17年間のプロセスを時空間データとして作成したものである。このデータは、建物の位置(x,y)、構造, 階数、表札、業種など建物ベースのマイクロジオデータの特性を有している。ミクロレベルのデータであるだけでなく、時系列に17年間の時空間的変化を記録しており、阪神淡路大震災地域の復興のプロセスが、詳細に分析可能である。本研究では瓦礫撤去終了、新築と更地数の逆転期までをそれぞれ復興初期・中期と分類し、その後を後期とした。瓦礫撤去は、震災1年後にはほぼ終了した。瓦礫撤去は国費で実施されたため、撤去進捗率には、顕著な地域差は、現れなかったが、その後の復興中期になると更地から新築への変化において東西の地域差が明確になる。西宮市、芦屋市、東灘区等、被災地域の東部が、長田区を含む被災地の西部地域よりも早く新築が建ち、復興の速度に東西差が明確になった。新築に関しては、各被災者の経済能力の格差が反映したと考えられる。17年経っても更地が被災地全域に一定の比率で残存している、新築率の東西差は、17年経つと解消されたが、被災地域全域では、ほぼ一定の割合(5%~4%)で、更地が残存し、更地から駐車場への変化も多い。社会的休閑地と言われる空き地化した更地と駐車場の増加は、阪神淡路大震災地域の復興を停滞させている。高齢化とローン問題、新築に関する建築基準法の接道制限、借地借家問題など日本の都市の本質的な問題点がみられる。
  • 柳の下にドジョウはいるか?
    天野 宏司
    セッションID: 705
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    2011年第2四半期に放映されたアニメ『あの花の名前を僕達はまだ知らない』は,秩父市を舞台設定の参考にした作品である。秩父アニメツーリズム実行委員会はこの作品を観光資源化し,8万人・3.2億円の集客効果をあげ,コンテンツ・ツーリズムの成功を収めた。しかし,苦悩も生じる。2012年以降も引き続き誘客を図ることが期待される。制作サイドとの良好な関係のもと,さまざまな誘客イベント・PRが展開されていくが,本報告ではその効果の検証を行う。
  • 後藤 秀昭, 杉戸 信彦
    セッションID: 112
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    I. はじめに
     航空レーザー測量など精密な測量によって得られた情報をもとにした数値標高モデル(DEM)が整備されるようになり,鳥瞰図(鯨瞰図),等高線図などを作成し,変動地形学的な研究で利用が進んでいる.さらに,DEMを基にして空中写真同様に実体視が可能な画像とする方法についての検討が行われ,その有効性について検証が行われつつある(後藤・佐藤,2003;岩橋ほか2011,今泉ほか,2012など).
     2007年に制定された地理空間情報活用推進基本法のもと,国土地理院によって基盤地図情報が整備されるようになった.地形情報では全国を網羅した10mメッシュのDEMや平野部の5mメッシュのDEMが順次,公開されている.
     本研究では,基盤地図情報に公開されているDEMすべてを用いてステレオ画像を作成して活断層地形を判読し,これまでの活断層分布と比較した.その結果,これまで報告されていない変動地形を新たに見いだすことができた.これらのうち,主なものを報告し,活断層地形の判読におけるDEMのステレオ画像がもつ長所や可能性について改めて提示したい.
     本研究で用いたDEMは,国土地理院の基盤地図情報である全国を網羅した10mメッシュのDEMと平野部を中心とする5mメッシュのDEMである.これらのDEMを用いて右眼でみる画像を正射画像とするステレオ画像(アナグリフ)を作成した.これに地理情報を与え,地理情報システム(GIS)に読み込んだ.GISで従来の活断層図と重ね合わせ,ステレオ画像を判読しながら,従来の断層図との違いを検討した.
    II. 市街地で新たに認定された変位地形の例(名古屋市街地を横切る活断層)
     名古屋市街地付近に分布する熱田面は,古矢田川が形成した南北に延びる大曽根面によって東西に分断されている.熱田面の西半部の地形面は南北に長軸を持つナマコ状の高まり地形を成し(新収名古屋市史編集委員会編,1997),その西縁は直線状の崖地形に限られる.この崖地形に沿って中田・今泉編(2002)では活断層の存在が推定されている.5mメッシュDEMから作成したステレオ画像を見ると,この推定活断層の北延長の沖積面において,変動地形を新たに認識できた.この断層を堀川断層と呼ぶ.
    III. 平野部の長波長の変形を新たに捉えた例―過高感を強めたステレオ画像―(法林寺断層による庄川扇状地の変形)
     富山平野のうち,呉西平野の西縁には,宝達丘陵の東麓に沿って石動断層が延び,南部には蟹谷丘陵の東麓に沿って法林寺断層による変位地形が知られている(活断層研究会編,1991など).近年,大縮尺の空中写真を用いた判読が行われ,詳細な活断層分布図が刊行されている(池田ほか,2002;中田・今泉編,2002;堤ほか,2002など).5mメッシュDEMから作成した過高感を強めたステレオ画像では,これまで法林寺断層の北端とされていた小矢部川左岸よりも北の庄川が形成した扇状地面上にも変動地形を認めることができた.
    IV. 10mメッシュDEMのステレオ画像で新たに認められた変動地形の例(石狩平野南西縁)
     石狩平野南西縁に位置する野幌丘陵は,南北に軸をもつ背斜による隆起や変形が認められ,東西両翼には撓曲変形が認められる(池田ほか,2002など).10mメッシュDEMを用いてステレオ画像を作成し,地形判読を行ったところ,この南延長上にあたる支笏湖東方に,活背斜が新たに見出された.支笏湖の東から千歳にかけては,支笏火砕流堆積物によって構成される東に緩やかに傾斜した地形面が広がる(町田・新井,2003).この地形面上に,南北に軸をもつ背斜変形が認められ,西翼の地形面は原地形の火砕流堆積面とは逆向きとなっている.この変形を千歳背斜と呼ぶ.
    V. おわりに 国土地理院が公開している基盤地図情報のDEMを利用してステレオ画像を作成し,活断層地形判読を行った.その結果,新たな変動地形を見いだすことができた.これらの活構造については,今後,活断層の有無や活動性について検証される必要があるが,後藤・中田(2011)の指摘のとおり,市街地において地形のみに注目して判読できる点や,過高感を強めることで微小な変形を捉えることができる点,スケールを変えて連続性に注目して判読できる点などが有効に作用したと結果と考えられる.上記ほかに,京都盆地や角田・弥彦断層,十勝平野においても変動地形がが新たに認められた。
     DEMから作成したステレオ画像は,従来の空中写真を用いた地形判読方法を完全に代用するものではないが,応用範囲は広く,空中写真を用いた判読を支援・補強する素材として貴重と考えられる.
    ※本研究で使用した画像の一部をwebサイトにて公開中
    「傾斜角で表現した日本の地形アナグリフ」
    http://home.hiroshima-u.ac.jp/hgis/anaglph_japan
  • 藤岡 悠一郎, 西川 芳昭, 飯嶋 盛雄
    セッションID: 309
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    アフリカの半乾燥地域では、降水量の経年変動が激しく、多くの地域で洪水や干ばつなどの気象災害が状態的に発生している。南部アフリカに位置するナミビア共和国北部からアンゴラ共和国南部の半乾燥地域においても、ここ数年間、降水量が平年以上に多くなる傾向がみられ、ナミビアでは2007/08年および2008/09年、2010/11年に大規模な大雨洪水災害が発生し、国家非常事態宣言が発令された。この地域には、農牧民オヴァンボが暮らし、トウジンビエを主作物とする農耕を営んでいる。トウジンビエは乾燥に強い半面、湿害に対しては極めて弱く、水に浸かると大きな被害が生じることが知られている。そのため、近年の大雨洪水災害が頻発するなかで、住民の食料確保に大きな影響が生じているとみられる。本研究では、ナミビア北部の農村において近年頻発している大雨や洪水が農村においていかなる被害をもたらしたのかを検討し、同時に本地域に暮らす農牧民オヴァンボの人々がこのような災害に対して食料獲得の点でいかなる対処をしたのかを明らかにすることを目的とした。結果は以下のとおりであった。(1)大雨と洪水被害:2008/09年では、農地が立地する微高地では大雨による農地の冠水が発生し、季節河川周辺では洪水による農地の冠水がみられた。こうした被害は、農地の立地環境による世帯差が大きい傾向が見られ、季節河川周辺や凹地状の地形に農地が立地する世帯では農地の70%程度が冠水した世帯がみられた一方で、条件のよい場所では、冠水がほとんどみられなかった世帯もあった。また、一部の世帯では穀物を保存する穀物庫の一部が冠水し、それによって食料を失う世帯がみられた。(2)気象災害に対する事前対処:調査村の多くの世帯では、前年や前々年に収穫したトウジンビエの余剰分を貯蔵していた。聞き取りによると、世帯の多くは余剰のトウジンビエを販売することをせずに貯蔵していた。その理由として、気象災害に対する備えということを述べていた。一部の世帯では数年分のトウジンビエを貯蔵しており、これらのトウジンビエを利用することで災害年の食料を確保していた。(3)気象災害に対する事後対処: 聞き取り調査の結果、大雨洪水被害が大きかった2008年、2009年には、3割程度の世帯がトウジンビエを外部から入手する対処行動をとっていた。その行動には、購入、他世帯からの贈与、物々交換がみられ、特に低所得世帯では魚や家畜の肉などによる物々交換を活発に利用していることが明らかとなった。
  • 市民による「AEDへのアプローチ」の改善のために
    岩船 昌起, 山口 史枝
    セッションID: P010
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    医学的なエビデンスの蓄積や医療機器の改良等によって、近年、一般市民によるAEDを使用した一次救命処置(BLS)が世界標準で整備されてきた。わが国でも、2004年7月から非医療従事者によるAEDの使用が認められ、市街地等では公共施設を中心にAEDが設置されてきた。そして、行政等によって市街地でのAEDの位置等を示したAEDマップが作成されてきた。しかしながら、日本では、高価なAEDを十二分な数だけ配備した施設はまだ少なく,複雑に入り組んだ市街地を少数のAEDがカバーすることが多い。BLSの実施を効率化するためには、AEDへのアクセスをAED運搬者の体力を含めて予め考察し、緊急時のBLSの実施方法を市民が事前に検討するなど、ソフト面の強化が必須である。そこで本発表では、BLSでの通報やAEDの運搬にかかわる所要時間やその方法についての実証的な研究データに基づいて AEDマップをより進化させた「BLSマップ」の作成の経過について報告したい。調査地域は,鹿児島県霧島市である。人口約13万人の市民が、東西が約30.7km,南北が約37.5km,総面積603.68平方kmの市域に居住している。このうち山地は市域の約6割を占めている。霧島市全域のAEDにかかわる情報は、霧島市消防局の全面的な協力の下に調査・収集した。2010年12月までに、229のAED設置事業者の名称、施設内での具体的な設置場所、電話番号、住所、使用可能な時間帯についての情報を整理し、消防局職員による情報の更新が円滑にできることを念頭にGoogle Mapを用いて「霧島市AEDマップ」に作成し、2011年4月から霧島市ホームページからも閲覧が可能になった。この「AEDマップ」とは別に、霧島市消防局による講習会や住民同士のワークショップ等で使用可能な「BLSマップ」を作成中である。AEDマップ上での微妙な位置のずれを調整し、かつ施設内での玄関等の位置を記すなど、AEDにアクセスできる経路を明確化させたい。また、5分以内で除細動(AEDによる電気ショック)が可能な空間(≒安全域)についても表示予定である。 なお,本研究は,平成23年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金(基盤研究(C)(一般))「BLS環境の定量的把握とBLSマップの作成(研究代表者:岩船昌起)」の対象プロジェクトの一部である。
  • 星川 真樹
    セッションID: 411
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.はじめにペルーは砂漠地域のコスタ、アンデス山岳地域のシエラ、アマゾン地域のセルバの3つの地域に分けることができ、全国土面積に占める割合は各10.6%、30.5%、58.9%。農地面積では、各4.1%、91.7%、4.2%とシエラに農地が集中している。コスタでは、企業的農業が集中しており、主に輸出向け農産物や大都市向けの蔬菜類を近代的な手法で生産している。シエラは古代アンデス文明の中心地で、古くから集約的な定住農耕が発達し、伝統的手法で自給用や国内消費用の生産物を生産し、コスタとの格差拡大が危惧されている(石井,1997)。しかし、リマ県内の山岳農村地域は、日本における大都市近郊農業地域のように、その生産を維持、または飛躍させていく可能性がより高いと考えられる。なぜなら全人口の3分の1を抱える首都リマでは、青果物の需要が大きく、新鮮な青果物をより安価に市場に輸送しうるからである。さらには、首都に近いことで政府関連の農家支援プロジェクトの情報が入り易く、流通業者からの情報など、情報との近接性の点でも優位にあると考えられ、今後、青果物流通にも何らかの変化が生じうる地域にあるといえる。2.研究目的本研究では、ペルーの首都リマを中心として進行する農産物の流通の変化が、リマ県内の都市近郊山岳地域であるシエラの小農の経営改善にどのように結びつくのか、仮に容易に結びつかないのであればそこにどのような問題があるのかを、首都リマから東に120kmと、直線距離では首都に近いものの、高地山岳地域という隔たれた環境にあり、コスタとの経済的格差が問題となっているSan Mateo de Otao村を取り上げ、青果物流通の実態を描写するなかで明らかにすることを目的とする。また、この地域が、ペルー農業の全体においてどのような役割を担っていくのかも明らかにする。3.調査概要San Mateo de Otao村では、標高1000mから3500mの間に7つの集落が点在している。この村の農家の多くは、農地が1ha以下の小農で、アボガドとチリモヤの両者を組み合わせて生産、販売している。この標高差により各植生や、収穫期が集落ごとに異なっており、各集落の農家がこの標高差をどのように活用し経営戦略に取り入れているのか、さらには、都市近郊である利点性を考慮しているのかについて聞き取り調査を実施した。また、フィールドワークを中心に、農家、仲買人、農作物の輸出企業、政府機関などへの聞き取り調査や統計等の資料収集を組み合わせながら青果物流通の実態を明らかにしていく。
  • 吉田 英嗣
    セッションID: P014
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    流れ山地形は,山体崩壊に伴う岩屑なだれがつくる堆積地形である.従来,流れ山の分布特性に基づき,岩屑なだれの移動・定置にかかわる数多くの議論がなされてきた.一方,岩屑なだれによる地形とそれをつくるプロセスとの関連性は,相補的なアプローチを通じてより明確になるといえることから,どのような場においてどのような流れ山がつくられるのか,という視点からの研究も重要である.そこで本研究ではこの立場に拠り,鳥海火山の象潟岩屑なだれを例に,岩屑なだれが流下・堆積した地形場と,その結果として形成された流れ山地形との対応関係を検討した.筆者がこれまでに主に扱ってきた山麓拡散型岩屑なだれの諸事例と比較して,象潟岩屑なだれはより複雑な流下プロセスを経験したと考えられる.したがって,象潟岩屑なだれの示す流れ山の分布特性は,多様な地形場にてあらわれる岩屑なだれの地形形成作用を理解するうえでの基礎資料となるといえる.
  • 被災地再建研究グループによる研究
    岩船 昌起, 山下 浩樹, 佐野 嘉彦, 高橋 信人, 増沢 有葉, 関根 良平, 佐々木 歩, 高木 亨, 菊池 春子, 佐藤 育美
    セッションID: 104
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    東日本大震災で被災した市町村では、多様な問題が山積している。それらは時空間スケールが異なる現象が複雑に絡み合っていること,これに対応する行政やNPO法人等においてマンパワーが不足しかつ部署・団体間での連携が不十分であること等のために,地域再建がスムーズに行われているとは言い難い。特に,被災地の実態や被災者のニーズは地域と時間に応じて異なり,画一的な施策の実施を試みれば,場所とタイミングにおいて所々で綻びが生じ,さらなる問題の発生につながる恐れがある。従って,問題の対象となる「被災地と被災者」の実態についての継続調査が進められ,この成果に基づいて,地域再建にかかわる政策や施策等が展開されるべきであろう。 東北地方太平洋沖地震による津波で自宅が全壊した被災者は,大半が仮設住宅に入居しており,特に高齢者を中心に災害復興公営住宅等に移り住むことを希望している。被災地再建研究グループでは、被災地の「復興計画」の中で中核の一つとなる「復興公営住宅」とその周辺地域に注目し、この研究課題に対応する「復興公営住宅班」を編成した。そして、暮らしやすい「住まい」と「まち」が復興公営住宅の建設で実現できるように,これに関連する基礎資料を得るべく,復興公営住宅にかかわる総合的な共同研究を行う。調査地域は,岩手県宮古市である。「まちづくり」で最も重要な安全にかかわる「津波の浸水高」を市街地で既に高密度で計測しており,防災面も含めて考察できる。また比較対象地域として,隣接する山田町を予定している。調査項目は7項目にわたる。①仮設住宅内の温度環境,②仮設住宅内の構造等や設置物の計測と不便・改善点の聞き取り,③仮設住宅住民の年齢・性別や出身地区等の実態基礎調査,④日常生活の基礎となる体力や体格の計測,⑤日常生活での空間行動の聞き取り,⑥閉じ籠り傾向の人も対象とした心理学的な聞き取り調査,⑦被災地の商店街等の時系列的・空間的な再建過程等の復元とモニタリングである。本共同研究では,8月からの本格調査を実施して実証的な研究成果を上げた後に,岩手県や宮古市等の復興公営住宅にかかわる政策・施策との関連で提言していきたい。なお、本研究は、公益財団法人 トヨタ財団 「2012年度研究助成プログラム東日本大震災対応『特定課題』政策提言助成」の対象プロジェクト(D12-EA-1017,代表者 岩船昌起)の一部である。
  • 田村 賢哉
    セッションID: P002
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    海岸は,土砂の運搬・流出が激しく,風などが強いため不安定な土地柄である.そのため,海岸では古くから潮風や乾燥,塩害に強いクロマツが植樹されてきたが,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震で発生した大津波によって,東北を中心とした津波が遡上した地域は大きな被害を受けた.本研究では,津波による海岸林の被害状況を把握,被害とその要因について検討する. 被害状況の把握にあたっては,空中写真判読や現地調査をおこない,詳細に被害状況を把握し,数値標高データや土地条件図,過去の地形図との比較をおこなった.
  • 田村 賢哉
    セッションID: S1803
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     近年,より詳細な都市分析を可能にしたマイクロジオデータの開発が進められている.マイクロジオデータとは,建物や人間レベルのミクロスケールでの空間分析を可能にした地理空間情報である.  奈良大学では,都市や商業地理学の研究分野においてマイクロジオデータの有用性を検討した.使用したマイクロジオデータは,東京大学空間情報科学研究センターの商業集積統計とテレポイントデータである.本稿は,GISによるマイクロジオデータの利活用事例から都市・商業地理学研究におけるマイクロジオデータの有用性について検討する.
  • 日本と台湾を事例として
    波江 彰彦
    セッションID: P033
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
     本報告では,日本と台湾を事例として,主に貿易統計のデータを用いて,1990年以降の国際資源循環の推移を検証し,その結果を提示する。1990年代以降,古紙・鉄くずなどの再生資源やE-waste,中古車などが国際的に流動する国際資源循環が活発化してきている。その背景には,中国大陸の急速な経済発展に伴う資源需要の高まりなどがある。日本と台湾は,中国の台頭により国際資源循環に関する相互の関係性の強さは相対的に弱まってきているものの,1990年代から現在まで,再生資源・中古品輸出入の主要相手という関係を保っている。一方で,中国への輸出急増を受けて,再生資源・中古品輸出入のトレンドに大きな変化がみられるという点が日本・台湾両者の共通点であり,また,両者間の相互関係にも変化が生じてきている。本報告はこうした点にも注目する。
    日本の再生資源・中古品輸出入
     1990年代前半までの再生資源・中古品の輸出入は,輸入超過か(古紙・アルミニウムくずなど),輸出・輸入ともに少ない状況であった。その後,国内リサイクルの進展による再生資源等のストック増大などが背景となって徐々に輸出が増加し,2000年前後から多くの品目で中国に対する輸出が急増する。古紙の例では,1990年代後半では台湾やタイなどを相手として30~50万トンだった輸出量が,2001年には約150万トン,2000年代後半には400万トン前後まで急増しており,その9割は中国向けの輸出である。
    台湾の再生資源・中古品輸出入
     台湾も,日本からはやや遅れるが,1990年代以降廃棄物リサイクルを推進している。1998年に1.2%だった都市廃棄物の資源回収率は2010年には37.5%まで急伸している。一方,再生資源・中古品の輸出入の一例として,図1・図2に古紙輸出入の推移を示した。台湾は現在まで大幅な輸入超過であるが,輸入量は大きな減少を示し,それに対して輸出量は2003年以降急増している。最も主要な輸入相手は一貫してアメリカであり,1990年代後半からは日本からの相当量の輸入もみられる。他方,輸出については,日本と同様に2000年代に入って中国向けの輸出が占める割合が非常に大きくなっている。
    むすびにかえて
     ドメスティックな廃棄物リサイクルの進展(循環型社会の形成推進)と国際資源循環(廃棄物リサイクルのグローバル化)は相互に関連性をもつと考えられる。日本・台湾双方のこうした関連性について,今後さらに検討したい。
  • 飯島 慈裕
    セッションID: S1505
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    半乾燥地草原は乾湿(降水量)変動に敏感に応答して,バイオマス量やそれに伴う熱・水・炭素循環が大きく年々変動する生態系である.しかし,アメリカのプレーリーや,アフリカのサヘルとは異なり,モンゴル-カザフスタンにかけて東西に大きく広がるユーラシア草原は,冬季に土壌が凍結し,当年の乾湿変動が凍結する土壌水分として持ち越される,いわゆる「メモリ効果」の重要性が指摘されている.また,この土壌水分偏差は,バイオマス量の偏差とも相互作用し,草原生態系を生業の基盤とする遊牧民,さらには長距離移動する野生動物の移動パターンにも強く関連した現象となる.草原生態系における降水量偏差(極度の偏差は「干ばつ」となる)のメモリ効果をより深く理解するため,水資源を遮断した野外操作実験を現地で行い,土壌水分と生態系の偏差の持続と回復過程を明らかにする試みが近年行われている.本発表では,これまでにユーラシア草原で行われた2つの野外操作実験から明らかになったメモリ効果の知見を紹介し,その意義を検討した.
  • 柚洞 一央
    セッションID: S1602
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本報告では、2011年9月にGGN認定された室戸ジオパーク(室戸市全体がエリア)を事例に、世界ジオパーク認定によって発生した課題について報告する。ジオパークの取り組みが社会的な効果を上げている要素として、・審査では、地質などの物の価値より人の活動を重視していること。・4年ごとの再審査制があること。・研究者・行政・市民が対等に議論できる雰囲気があること。・ジオパークの概念が曖昧であるが故、だれもイニシアティブをとっていないこと。などが挙げられる。 室戸においても、地域全体でジオパークを盛り上げる風潮が生じつつある。(たとえば、室戸ジオパークオリジナルポロシャツの販売枚数がこの一年で約2800枚を数える。なお室戸市の人口は約16000人)一方でいくつかの問題も生じている。【観光化と自然保護の問題】天然杉の巨木を見どころにしたジオサイトが、大々的にマスコミ報道され、登山者の増加によって杉への悪影響が指摘され始めた。【伝統的生業と自然保護の問題】高知県の伝統産業である宝石サンゴ漁によって製品化されたサンゴの装飾品の販売を規制するGGNの動きと、お土産品店への影響が生じている。【対費用効果の問題】室戸ジオパークの世界認定を、高知県東部の地域活性化として活用し、数値での「成果」を求める政治的思惑と、ジオパークの理念との乖離がある。【地域活性化の指標の問題】世界認定によって来客数が増加している一方、それをビジネスチャンスと捉えて観光産業の発展に取り組む民間意識が追従していない。その背景には、欲のなさ、他者に対するやっかみ、他者依存意識の高さといった住民気質や、自給自足的な生活スタイルといった室戸の住民性が効いている。なにをもって室戸にとっての地域活性化なのかということが整理されていない問題もある。ジオパーク実践は、地球との共存を目指して、人はこれからどう生きるべきかという哲学の追求である。地質的要素のみならず、目に見えない地域性(人々の自然観、死生観など)も含めて、多様な視点から地域性を描き出す必要がある。今後、より多様な専門家や、地域住民の参画が必須である。
  • 井口 梓
    セッションID: 302
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    高度経済成長以降の日本では、都市部への人口流出が進んだ。1970年代の都市部には幼少期を農村地域で過ごし、大学進学や就職を機に上京する若者が急増した。この時期における農村へのUターンという行為は、「都市での挫折」を想起させる場合もあった(山田1992)。しかし、1980年代には農村回帰を志向する都市住民があらわれ、農村に都市住民が移り住む現象を「田舎暮らし」と称し、次第に様々な雑誌やテレビ番組を通して、社会現象として取り上げられるようになった。「田舎暮らし」という現象はいつから生じ、都市住民のイメージする「農村での暮らし」はどのように変化したのか。本発表は、都市住民の農村移住、とくに「田舎暮らし」というキーワードに着目し、その実態と変化を検討することを目的とする。本発表では、新聞記事、雑誌『田舎暮らしの本』などメディアによるイメージの形成や、民間企業による商品造成、自治体による移住促進事業など、「田舎暮らし」をめぐる様々な動向を踏まえ、以下の4つの時期に分けて検討した。。1983年に「田舎暮らし」という言葉が用いられるようになった当初、その暮らしぶりは、都市的要素を極限まで排した原始的な農村生活と、有機農業に従事した生活設計が追求されていた。有機農業や自給自足、農地や家屋、生活財の手作りにこだわるライフスタイルは、現在の「田舎暮らし」でも志向されており、都市とは対極の存在として「田舎」を認知する農村観は、30年経過した現在も変化していない。バブル経済期や2007年問題など、社会の大きな変動を背景として、「リゾート」や「グリーンツーリズム」、「農村回帰」、「団塊世代」、「エコ」、「ロハス」など、その年々の流行を取り入れつつ、「田舎暮らし」のイメージは著しく変化してきた。そこには、「田舎暮らし」をあっ旋する民間企業や情報発信するメディア媒体、支援事業を実施する行政、受け入れる地域社会、移住者自身など、様々な主体の思惑や価値観が存在し、これらがせめぎ合うことで、それぞれの時代に適合した「田舎暮らし」を商品化してきたことが明らかとなった。
  • 東城 文柄, 小林 繁男
    セッションID: P011
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     サバナケットはラオスの中南部に位置し、ラオス国内で最大の面積(約210万ha)を持つ、森林被覆率が極めて高い県である。近年になると、同県でも恒久的農地や焼畑耕作の拡大といった土地利用変化に伴って膨大な森林消失が生じたと指摘されているが、土地利用変化と森林消失の関係に関する検証、特に長期的な検証はこれまでに十分になされてこなかった。本研究では、同県における森林減少および土地利用変化の分析を、1968年撮影の衛星写真(CORONA)と2008年撮影の衛星画像(AVNIR-2)を使って行った。CORONAは1枚あたりの撮影範囲が大きく(17×231km)、古い時代(1960年代頃)に世界中で撮影されていることから、この研究の趣旨に極めて有用である。画像分類に際しては、森林(Closed Forest)、疎林(Open Forest)、水田(Paddy)、裸地(Bare)、藪および低木林等(Shrub, Bush, etc)の5種類の土地被覆/土地利用に区分を用いた。 AVNIR-2の画像分類の結果、2008年時点における各土地被覆区分の県面積に占める割合は、39.2%(Closed Forest)、30.6%(Open Forest and Bush)であった。1981年時点におけるサバナケット県の森林面積は73%程度であるとこれまで言われていたが、この分析結果からは、2000年代後半に至っても同県の森林は、1981年のそれとほぼ同等の規模が残存していたことが明らかになった。 またCORONA写真の分類結果との比較(図1)からは、 a)1960年代からの40年間での森林面積の減少率も、従来の説と比べるとかなりゆるやかであったこと、b)県西部の疎林の開墾(水田への転換)による消失や、北西部の森林の減少などが部分的には目立っていること、c) 森林消失の深刻さが指摘されてきた県西部(焼畑域)では、集落と土地被覆分布の変化からむしろ焼畑の森林は過去40年間で回復傾向があること、などが明らかになった。
  • -岡山平野を対象とした気温観測-
    重田 祥範, 大橋 唯太, 塚本 修
    セッションID: 617
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     本研究では年間を通して晴天日が多く, 2種類の海風がよく卓越する岡山平野を対象に平野スケールでの長期的な気温の観測をおこなった.そのうえで,気温と海岸距離の関係s性は海風の侵入方向の違いによって変動するのか明らかにすることを目的とした. 観測の結果,南西系海風日の日最高気温と海岸距離の決定係数はR^2=0.04となっており,ほとんど関係が認められなかった.一方,南東系海風日では日最高気温と海岸距離のあいだに明瞭な関係が認められた(R^2=0.78).ただし,海岸からの距離がほぼ同様であっても気温差が生じている地点(回帰線から離れている地点)が存在することが明らかとなった.これは,気温観測地点周辺の土地利用形態(住宅街や水田など)によって生じたものと推測される.そのため,今後は土地被覆データなどを考慮して解析していく予定である.
  • 松多 信尚, 杉戸 信彦, 奥野 真行
    セッションID: P005
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     2011 年3 月11 日の東北地方太平洋沖地震は,プレート境界で発生する地震のサイクルについて,今までの単純な理解では不十分であることを示した.近い将来発生すると考えられている東海・東南海・南海地震の想定も再検討する必要がある.  一概に東南海地震といっても過去の記録を見るかぎり,揺れの被害だけではなく津波の特徴も大きく異なる.例えば伊勢湾の四日市と志摩半島の鳥羽を比較した場合,安政地震では鳥羽の津波波高が四日市に対して2.5-5倍なのに対し,明応地震では1.5-2.7倍となる.このような違いは津波の波源が同じでないことを示しており,詳細な津波高分布から波源域を分離することができる可能性を示している.しかし,これらの値は歴史記録に基づいており,直接的な津波遡上の証拠は乏しい.我々は伊勢湾南部で津波遡上の証拠を見つけ,伊勢神宮などに残る津波の影響を記した資料から津波の全容を明らかにするため,地形・地質学的調査および文献史学的調査を実施した.
  • 島津 弘
    セッションID: 102
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた巨大津波は広く低地を襲ったのみならず,河川に沿って遡上した.本発表では農地として利用され,かつ河道の微地形が保存されている名取川下流部の堤外地において,津波の遡上に影響したと考えられる河川の縦断面と堤外地の微地形(横断面)の視点から津波の遡上,地形プロセスと津波堆積物の形成,農地への影響を検討した結果を報告する.現地調査は2011年5月上旬と8月下旬に実施した.堤外地の農地は津波の流れそのものによって被害を受けただけでなく,塩分を含んだ海水滞留や浸透,塩性堆積物の堆積によって深刻な打撃を受けた.現地においては支柱やトンネル,マルチなどの農業資材の被害状況の記載,堆積物調査,直後の被害状況および津波被害以降の作物の生育状況の聞き取り調査を行った.また空中写真判読による微地形判読,大縮尺地形図を用いた縦横断面図を作成した.津波の高さは名取川河口付近で5.4mと推定されている.高水敷上では標高およそ6mの地点(河口から6km)まで津波の影響を受けた.津波堆積物は耕作土と容易に区別できた.堆積物は主として砂~シルトからなり,表面には塩分が析出していた.報道などの津波映像,津波堆積物の厚さ,農業資材の被害状況,横断的な影響の状況の差異から4つの区間に区分した.区間1は2.5kmまでの区間で津波の遡上だけでなく強い引き波が影響し,侵食プロセスが卓越した区間である.堆積物は薄く,侵食の跡や河口方向へ水が流れたことを示すデューンも見られた.区間2は2.5~4.0kmの区間で,津波の流れは強いが引き波は弱く,堆積プロセスが卓越した区間である.農業資材が流失または上流側へ倒伏し.堆積物の厚さは10cm程度と厚く,葉物野菜は埋没していた.区間3は4.0~5.0kmの区間で,区間2と3の境界で高水敷の標高が高くなり津波の流れが急に浅くなる区間である.旧流路と州の部分で津波の影響の差が現れた.区間4は5.0~6.0kmの区間は弱まった津波の流れが到達した区間である.相対的に低い浅い溝状地形の部分のみが影響を受け薄い堆積物のみが残された.被害を受けた多くの農地では津波後に作付けを行ったものの生育は悪かった.
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