インドにおける森林資源は,一方で用材や燃料用の過度の伐採で荒廃が進み,他方で資源保護に関する対応の遅れが目立っている。本稿の目的は,近年,農村地域において緊急な対応が叫ばれはじめた社会林について,概念を整理し,全国の森林資源と木材需給を概観し,続いてデカン高原の南部にひろがるカルナータカ州の森林資源の開発と利用とを論じ,社会林造成の緊要性を明らかにすることである。結果は,次のとおりまとめられる。1)現在,インドで使用される社会林(Socia1 forestry)の概念は,利用目的別にみると,農用地林(Farm forestry),公共用地林(Extension forestry),都市林(Urban forestry),レクリエーション林(Recreation forestry)の四つを含むものとされる。2)全国の森林面積は,国土の23%でしかなく,1952年の政府による全国林業政策の目標値33.3%を大きく下回る。しかも,独立後,人口増加に伴う耕地開発やその他の諸要因により,森林面積の対国土比率は急減しつつある。3)政府は第1次5か年計画(1951〜61年)以降,森林資源の開発に多額の投資を行ってきた。また,1970年代末から,社会林の開発にも力を入れるようになったが,その背景には,資源の枯渇が深刻な社会問題となりはじめた薪炭材の生産増加に対する社会的要請があった。4)カルナータカ州の森林資源は,全国平均よりかなり低く,州域の18.95%を占めるにすぎない。しかし,森林の用途別生産比をみると,薪炭材が全体の48%(1978-79)を占めて最大となっている。しかし,それは薪炭材の需要(200万トン/年)の55%を生産するに過ぎず,州内では自給できない慢性的不足を呈している。5)州政府は,造林計画を意欲的に進めているが,ユーカリなどの付加価値の高い樹種に偏っている。つまり,商業べ一スに乗る造林事業では一定の成果を上げていると言えよう。6)需要がますます高まりつつある薪炭材の造林事業は遅れ気味で,薪炭材の無計画な伐採が,各地で深刻な森林荒廃を招きつつある。今や政府は,薪炭材の生産増加を社会林造林事業の中心に据え,その育成地域の計画的拡大に努めるべきであろう。
抄録全体を表示