医療情報学
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42 巻, 5 号
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特集 ビッグデータ再考―現在・過去・未来― ―第26回日本医療情報学会春季学術大会―
大会企画セッション1
  • 横井 英人, 田中 彰子, 佐藤 秀紀, 姫野 泰啓
    原稿種別: 大会企画セッション1
    2023 年 42 巻 5 号 p. 191-195
    発行日: 2023/03/03
    公開日: 2024/03/14
    ジャーナル フリー

    【セッション抄録】

     医療のビッグデータを大きく分けると,測定機器などから連続的に発生する単位時間あたりのデータ量が多いデータと,大人数の年余にわたる医療データの2つとなる.前者はデータ量に対して,要配慮な情報が少ないこともあり得るが,後者はその扱いを誤れば,即座に社会的に大きな問題を起こすことが考えられる.特に最近,セキュリティを破られ,診療情報を喪失,漏洩のリスクに晒されるケースが見られる.このような事例に対する厚生労働省の取り組みの方向性について医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.2版の改定内容から掘り下げるとともに,厚生労働省のみならず,国で取り組むセキュリティ対策についても理解を深める機会としたい.また改正後の個人情報保護法や次世代医療基盤法では,初期に設定した規制では利活用が十分に進まない状況に対して,匿名加工の過程で失われる情報(少数症例や経時的な追跡)をどのように捉えていくのか,他の法律下で管理される情報・DBとの連携をどのように取るのか,など現実的に発生し得る問題を深く掘り下げて,課題と解決法について議論を進めたい.

大会企画セッション2
  • 三原 直樹, 真鍋 史朗, 谷川 雅俊, 片岡 浩巳
    原稿種別: 大会企画セッション2
    2023 年 42 巻 5 号 p. 197-201
    発行日: 2023/03/03
    公開日: 2024/03/14
    ジャーナル フリー

    【セッション抄録】

     米国のFDAが男性乳癌臨床試験のコントロール群としてRWDを用いた試験を承認した頃から,臨床研究等において,Real World Data(RWD)の活用によるReal World Evidence(RWE)の創出が重要視されるようになっている.しかし,実際にはRWE創出のためのデータの品質管理における課題,RWD収集における課題等が顕在化してきているのも事実である.本企画セッションでは,RWE創出におけるRWE収集の課題を今一度考えるため,各先生方にユースケースを挙げていただきつつ,課題を改めて整理し議論していきたいと考えている.谷川先生からは,RWE創出のためにRWDに求められるデータ品質の観点から論じていただき,三原からはRWDを収集する際の電子カルテシステムの課題を提示,片岡先生からは検査データを中心に事例をご紹介いただき,真鍋先生からは多施設でのRWD収集における事例を提示いただく予定である.RWE創出のための医療情報基盤に求められる課題などを今一度振り返って考えたい.

大会企画セッション3
  • 近藤 博史, 長谷川 高志, 釜谷 誠, 山本 隆一
    原稿種別: 大会企画セッション3
    2023 年 42 巻 5 号 p. 203-204
    発行日: 2023/03/03
    公開日: 2024/03/14
    ジャーナル フリー

    【セッション抄録】

     昨年の徳島県半田病院の電子カルテ消失については大きな反響があった.われわれは厚労省の予算を得て2020年9月からCS(サイバーセキュリティ)の対策のためのISAC(Information Sharing and Analysis Center)組織化の調査研究を行ってきたが,昨年度末から急遽,中小病院のCS対策の実態調査を始めている.ランサムウェアは当初の「バラマキ型」から「標的型」になり,対策もバラマキ対策以外に脆弱性対策が急務になっている.近藤からは中間報告として,コロナ禍で保守がオンライン保守になり病院資産でないFW,VPN機器導入の実態,匿名化接続などといった信用できない接続の実態と対策を発表する.釜谷はIPAでのCSIRT活動で明らかになった現状を発表する.山本は「医療情報システムの安全管理ガイドライン5.2版」を中心に対策を説明する.

大会企画セッション4
  • 中山 雅晴, 木村 映善, 片山 成仁, 水江 伸久, 川田 覚也
    原稿種別: 大会企画セッション4
    2023 年 42 巻 5 号 p. 205-210
    発行日: 2023/03/03
    公開日: 2024/03/14
    ジャーナル フリー

    【セッション抄録】

     “経済財政運営と改革の基本方針(2020年)”において,一生涯の健康データを提供できるPHRの拡充,医療・介護分野におけるデータ利活用やオンライン化を加速することが閣議決定された.オーダリングシステムの進化系として成長した電子カルテシステムであるが,ここに至ってPHR, EHRへのデータ提供,二次利用に資するデータの蓄積,IoTデバイスや様々な病院内外のシステムとの接続による多方面へのサービス展開に対応していくことへの期待が高まっている.その中にあって電子カルテにかかる標準化と抜本的な情報セキュリティ,プライバシーに関する要求への対応は国民のためのデジタル医療基盤を構成していくために不可欠な過程である.米国で医療政策に貢献する二次利用可能な医療データを産出可能な医療情報システムの普及政策(Meaningful Use)の中核技術の1つであるFHIRは相互運用性を担保する標準規格であり,わが国でも注目されている.

     本シンポジウムでは,FHIRをサポートしたクラウドAPIに依拠した電子カルテシステムの開発プロジェクトについて紹介し,クラウド・ファーストかつ標準的な医療情報モデルに当初から基づいたシステム像について提示し,今後の電子カルテのあり方についてディスカッションする.

     Google Cloud上にFHIRを使った精神科電子カルテシステムを構築することを着想するに至った背景と思想について紹介する.また,本システムのインフラを担っているGoogleの医療データに関するサービス構想とGoogle Healthcare API,Healthcare Data Engine,そしてわが国のガイドラインの準拠状況等について解説する.Google Cloud上に精神科電子カルテシステムを実装したベンダーからGoogle Cloudを利用し,FHIRを採用したレポジトリを中核とした電子カルテを実装した経験と課題について紹介する.そして,FHIRを電子カルテで使う利点などを提示し,総合討論を行う.

春季学術大会論文
  • 谷川原 綾子, 横井 英人, 上杉 正人
    原稿種別: 春季学術大会論文
    2023 年 42 巻 5 号 p. 211-215
    発行日: 2023/03/03
    公開日: 2024/03/14
    ジャーナル フリー

     医療機器における不具合用語集の国際整合のため,医療機器産業連合会(JFMDA)が作成している医療機器不具合用語集(JFMDA用語集)と国際医療機器規制当局フォーラムが公開している用語集(IMDRF用語集)を効率的にマッピングするためのシステム構築を進めている.本研究では,その第一段階として,深層学習を用いたIMDRF用語集の自動翻訳を実施し,その精度評価を行った.翻訳用モデルとして,sequence-to-sequenceベースの学習済み公開モデルであるmBARTと100言語の翻訳が可能なモデルであるTransformerベースのm2m-100(418Mパラメータモデルと1.2Bパラメータモデル),Open AIが公開しているGPT-3,Googleが公開しているgoogletransを取得した.加えて,医療機器関連対訳コーパスからオリジナルの翻訳モデル,mBARTと2つのm2m-100をファインチューニングしたモデルも生成した.IMDRF用語集の対訳文からテストデータを抽出し,各モデルにおける翻訳精度を評価したところ,googletransのBLEUスコアが27.3と最も高く,目視評価でも78%と最良の翻訳品質と判定された.GPT-3では,目視評価においてはgoogletransに次ぐ76%であった.mBART50はファインチューニングによりBLEUはわずかに向上したが,目視評価にて品質は低下と判断された.m2m-100は,ファインチューニングしたモデルにてBLEUが低下し,品質も低下した.自作モデルはBLEUが最低となり,目視評価でも最低の品質と判定された.

  • 竹下 沙希, 西岡 祐一, 明神 大也, 峯 昌啓, 野田 龍也, 今村 知明
    原稿種別: 春季学術大会論文
    2023 年 42 巻 5 号 p. 217-225
    発行日: 2023/03/03
    公開日: 2024/03/14
    ジャーナル フリー

     レセプト情報の活用には正確な名寄せが重要である.しかし,国保データベース(KDB)の個人IDやレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)のID1は被保険者番号主体であるため,国民健康保険から後期高齢者保険制度に移行した場合など,保険者が変わることで名寄せIDも変化することが課題である.本研究では,保険者が変化しても名前主体のIDを用いずに,正確な名寄せを可能にする新たなロジックを開発する.われわれは,2013年度から7年間の奈良県KDB改良データを用い,生年月・性別・傷病名コード・診療開始日の組み合わせにより新名寄せIDを生成した.奈良県国民健康保険団体連合会が有する被保険者台帳をもとに作成した台帳IDを正解データとした.個人IDのうち台帳IDによって他の個人IDと紐づき,同一医療機関の外来レセプトが発生したものを対象とし,同一の/異なる台帳IDに対応する新名寄せIDが紐付く場合を正/誤と判定した.

     対象の台帳ID数は69,988個(個人IDの組み合わせの総数は9,796,570,300件でそのうち正しい紐付けは69,988件)であった.真陽性(正しい紐付けの事例)は62,643件,偽陰性(紐付けられなかった事例)は7,345件,感度0.90,特異度1.00,陽性的中度0.99,陰性的中度1.00であった.また,誤った紐付けは1億組あたり4.7組であった.一方で,同一医療機関を受診しなかった個人IDの組み合わせ(23,222件)では本手法での名寄せはほぼ不可能であった.

     台帳IDは奈良県と他の都道府県とで仕様が異なり,他の地域のKDBやNDB等の他のデータベースへの展開は難しい.そこで本研究では,個人を紐付ける新たなロジックを開発した.

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