近年,病院情報システムの端末をデスクトップ仮想基盤上で構築する医療機関が増えている.デスクトップ仮想化を実現するための技術は,仮想サーバ内で処理された画面をクライアントPCへ伝送し表示するため,従来までのクライアントサーバ方式と画面表示方法が大きく異なる.このような環境で構築された病院情報システムでは,画像診断への影響度および医用画像表示モニタの品質管理方法は未知である.一般的に,医用画像表示モニタは,診断精度を維持するために品質管理が必要であり,その方法は日本画像医療システム工業会が提供する「医用画像表示モニタの品質管理に関するガイドライン」で定められている.本論文では,今までに多くの施設で導入されてきたクライアントサーバ方式と,デスクトップ仮想化の実現手法であるVDI方式とRDP方式について,ガイドラインが定める評価方法に基づき,医用画像表示モニタ上に正しく画像が表示されているか比較を行った.その結果,ガイドラインの定める品質管理方法で測定した評価値に差異は認められなかったため,デスクトップ仮想化が導入された医療機関でも画像診断の精度が維持できていることが示唆された.また,医用画像表示モニタの品質管理も従来と同じ評価方法が適応できることが明らかになった.
データヘルスに貢献する高品質な健診データを提供頂くためには,健診項目や単位を標準化し,かつデータ発生源に近い段階でバリデーションを実施し,また由来情報を管理してデータ較正の機会を確保することが求められる.現状では日本医学健康管理評価協議会が健診の項目名,結果の値,単位の記述,入力上限下限参考値,結果値相関を一体的に管理する標準規格として「健診標準フォーマット」の策定をすすめている.本研究ではこの健診標準フォーマットをベースに,これまでの標準規格に関する取り組みと比較して,健診データの高品質により寄与しうるFHIR実装ガイドを設計した.統制用語集とバリデーションロジックをデータベース化し,計算処理可能な実装ガイドを自動生成するスキームを設計することで,相互運用性を担保する規格の開発期間の短縮と高品質化に寄与可能であることが知見として得られた.一方,JLAC10とのハーモナイズにむけて課題が確認された.
医療計画では医療資源を活用する外来を担う医療機関の明確化が進められていることから,高度医療機器の構想区域内での配置の妥当性についてオープンデータと人口重心を活用して分析を行った.病床機能報告や医療機能情報提供制度に載せられている医療機関ごとの高度医療機器の設置台数や検査実施数などを利用して構想区域内での高度医療機器の分布状況を重心分析により把握し,受療率と人口分布による受療人口重心との距離並びに方位の比較分析を行った.高度医療機器の分布重心,機器1台当たりの検査数重心等のさまざまな重心指標と受療人口重心の比較では重心位置の一致は見られず,現在の設置状況・検査状況では地域住民の分布に即していないことがわかった.これに加えて高度医療機器の検査数,設置場所等を変化させるシミュレーションを行うことで,その地域に最適な配置が得られることもわかり,これを活用して,地域全体での設置・更新を進めていくべきだと考える.
本誌41巻4号に掲載された「不妊治療に関するtweetを対象とした感情分析:ソーシャルメディアにおける助成制度変更の影響調査」について,研究の課題に対応するための提案を行った.論文では,意義のある研究成果が得られているものの,bot投稿が含まれている点,retweetへの考慮がない点,tweet取得元が不明瞭な点のため,研究上の妥当性や再現性が低下していると思われた.これらの課題を克服するため,tweetの「source」データを用いた除外条件の利用,retweet数で重み付けた感度分析,tweet取得元の明記を行うことを提案する.