病院管理を行うためには,オーダエントリ,医事会計,物品管理,臨床検査,画像検査,電子カルテ等をすべて包括したものであり,経営資源の原価計算を含む統括管理ができることが必須である.他の産業界においては,これらはERP(Enterprise Resource Planning)と呼ばれ,財務会計や販売管理,生産管理,購買管理,在庫管理など,企業の基幹業務の情報を一元的に統合管理する機能を持っている.従来の医事システムから原価計算を行う方式では,診療部門をプロフィットセンターとし中央診療部門を補助部門として扱っていた.その計算過程は,病院全体の人件費を職員数比率で診療部門と中央診療部門に配賦し,病院全体の経費をその人件費比率で診療部門と中央診療部門に配賦(一次配賦)したあと,さらに中央診療部門の費用を検査・放射線等の診療収益比例で診療科に配賦(二次配賦)している.しかし,本システムでは,診療科だけでなく中央診療部門においても原価,損益計算が可能,収益と費用の対比によって原価の妥当性をチェックすることが可能,赤字部門の原価構造,コストを節減すべき対象部門・原価項目の明確化,正確な患者別損益計算,等を可能にした.
医療の質評価に必要な変数を明らかにすることを目的として,肝および肝内胆管の悪性新生物,白内障・水晶体疾患のうち,代表的な診断群分類における入院日数の分布および入院日数の長さに影響を与える要因について分析した.疾患全体の入院日数の分布は,それぞれ平均値より短い値側に偏った緩尖な分布を示した.手術名,処置や副傷病名の有無により細分化された診断群分類においても,入院日数の分布に大きなばらつきが見られた.また,入院日数が全国データの平均在院日数未満に属する者は全体の約半数であった.入院日数の長さの違いは,包括評価制度用に収集した変数,すなわち,処置,併存疾患や後発症の有無だけでは説明できなかった.今後,入院日数以外の臨床的アウトカムの指標の開発や,診療のばらつきを説明できる患者要因,当該疾患の治療前の重症度,併存疾患,さらには院内の診療体制に関する変数を含んだデータウエアハウスの構築が必要である.
超高齢化社会の到来,少子化,疾病構造の変化,医療経済の逼迫などわが国における医療環境は抜本的な構造改革を迫られている.その改革の一環として,2003年4月より,特定機能病院へ包括評価導入が決定した.これらの大きな変革への対応には,全病院的な体制を整えるとともに,ITの活用が不可欠である.
今回,包括評価導入への対応として,病院情報システムのサブシステムとして診療情報サマリ登録システムを開発し,退院時サマリに相当する様式1に関するデータを主治医がオンラインで登録できるようにした.一方,98年より取り組んできた病院経営支援や診療支援を目的とする病院データウェアハウス(Data Warehouse: DWH)について,DPC (Diagnosis Procedure Combination)の決定など迅速な意志決定に有効な機能強化を行った.DPCを医療マネジメントツールとして有効活用できれば,医療サービス提供者,支払者,政府,国民など医療保障システム関係者の情報共有のための「共通のスケール」となり,医療システムの効率化,医療の質の向上が期待できる.
本院では,DPC導入をpositiveにとらえ,「いかに質の高い医療や看護を,いかに低いコストで提供できるか」という「品質管理」「コスト管理」のツールとして利用できるよう,DPCごとの患者別原価計算システムを開発した.本報告では,DPCごとの医療材料費,給与費などの変動経費を用いた原価計算と,DPCごとの看護量の実態を明らかにし,今後の病院経営や患者管理に有効であることを評価した.
著者らは歯科診療情報,特に歯と歯との関係や歯と補綴物との関係を電子的に記述するために,ontologyを意識しつつ歯科所見を分析し,UMLにてモデルの整理考察を行い,最終的にはXML Schemaで定式化した.その際,関係classの設置とcode schemaの応用とによって,classの種類を極少化することとした.その結果,三つの中核class (substance, relatedObject, relation)という小さな構成で,粒度非限定,ユースケース非限定,普遍的表現力,他体系からの易被包摂性という四つの特質を獲得するに至った.加えて,仮想体の表現や情報の定義をも可能とするよう設計している.本成果の応用可能範囲は,歯科に限らないことは無論,診療用途のみならず学術用途にも応用しうる.本研究は厚生科学研究助成(H12-医療-009:12180103)の支援のもとに実施された.
看護が医療チームの一員として機能するためには,他職種や患者にも提供できる看護情報システムの構築が不可欠である.NTT東日本関東病院では,① 情報の共同利用,② 安全で効率的な看護の提供,③ 蓄積データ活用による看護の質の向上,を目的として看護情報システムを構築した.構築時点での検討内容は,① 多職種間,看護職間で共有する情報の明確化,② 標準化範囲の決定とマスタ作成,③ 医師の指示の実施から記録にいたる看護の責任範囲と協力体制の仕組み作り,などである.運用開始後は現場の中核メンバーを再組織化し運用の検討を継続している.看護情報システムは,共通ツールとして全看護職員が使用することから,全員で構築と評価に取り組む必要がある.限られた時間の中でいかに効果的に構築していくかは,組織の力と個人の力に左右される.それぞれの分野で分担して構築しながらも内容を統合していく横の連携作業が重要である.
本研究の目的は,看護に関わる情報,特に患者のケアに必要とされる情報を病院と訪問看護ステーションなどの間で電子的に交換するための通信規約に用いる項目集の開発,その項目集を用いて看護情報を電子的に交換するシステムの試験実装の2点である.
在宅看護において,ケアの継続性および生活の早期安定化には,患者情報の共有が重要である.それを実現するための一つの手段として,患者のケアに必要とされる情報の電子的交換が有効であると考える.そこで,我々は,看護情報を電子的に交換するために必要な項目を網羅的に採録し,各項目の粒度の統一と細分化を行い,941項目の看護サマリ交換データ項目セットを開発した.なお,標準交換項目集を実際のシステムで活用するには,それぞれの場面に応じた情報構造の定義が必要となる.そのため,既存の3病院の看護サマリを参照しながら試験用の情報構造を定義し,標準交換項目集を利用したシステムの実装試験を行った.
本研究の目的は,病院の電子カルテに必要な看護行為名称に関して,次の3点を明らかにすることである.
① 看護行為名称の収集と分析を通して,看護行為が有している構造を明らかにする
② それらの構造に関する情報をもとに,看護行為そのものの複雑性を明らかにする
③ その上で,看護行為マスタに準備する看護行為名称の条件を特定する
病院情報システムを導入している10病院と在宅看護領域から,看護師が実施する行為名称7,503件をMEDIS-DCが収集した (2002年7月).このうち,看護の裁量が大きい看護行為3,776件を選択し,分析を行った.行為名称1件毎に,「本質的な看護行為部分」と,「実施時の条件部分」を分離し,全体の再構成作業を実施した結果,23分類 (看護の目的別分類),総計153行為に収束した.実施時の条件部分は,「人・時間・物・場所・注意事項」に分類された.人と時間には,153行為すべてに適用可能な「条件の基本セット項目」が存在した.これに対し,当該行為のみに適用される「特殊項目」が存在した.153の行為を母数としたときに,特殊項目が適用される割合は,人条件 22%,時間条件 24%,物条件 32%,場所条件 23%,注意事項(1) 条件 9%,注意事項(2) 条件 12%であった.「23分類」と「条件因子の有無」とをクロス集計した結果,リハビリテーション・清潔・排泄・苦痛の軽減・精神心理的ケアは,条件因子を有する行為が多く,複雑度の高いケアであることが示唆された.また 153行為について,「人・時間・物・場所・注意事項」の条件因子の視点からクラスター分析した結果,看護の目的を意味する23分類の枠組みがくずされることが理解できた.23に分類された 153行為の複雑度の性質が異なること,複雑度の視点から新たな分類が作成可能であること,が示唆された.以上のことから,看護行為は,看護の目的を意味する分類である第1階層・第2階層・第3階層と,複雑度等を表現する第4階層,そして実施時条件,によって構成されると考えられた.
従来の病院情報システムのあり方を根本的に見直し,チーム医療を推進する共通メディアとし,かつ患者も医療に参画でき,それがひいては医療の安全,質の確保と合理的病院管理につながる統合病院情報システム《HU-MIND II》を始動させた.
特徴の第一は,すべての医療従事者が同一のツールによって,過程と成果を評価できる共通メディア機能である(“Clinical Management System” (CMS)と称する).第二は,患者も医療に参画できるために,全病床に「患者用端末」を設置,患者は病院生活案内とともに,経過と今後の診療看護の過程情報を易しい操作で参照できることである.患者にも療養における自己責任を果たしてもらえる支援ツールとなり得よう.以上の患者の権利と病院管理の裏打ちとなる利用規定を全面改訂した.規定は21条からなり,患者情報のコントロール権,アクセス権限と責任義務を盛り込んだ.データ主体である患者にも,自らの病状と診療看護内容を知る上での自己責任を説明,理解を求め,患者用「システム利用契約」を結ぶことが特徴である.