医療情報学
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38 巻, 1 号
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特集 『「集める」「読む」「伝える」から「つなぐ」へ~「たぶん」「おそらく」の確証~』―第36回医療情報学連合大会(第17回日本医療情報学会学術大会)―
大会企画2
  • 落合 慈之, 杉村 雅文, 村岡 修子, 熊田 総佳
    2018 年 38 巻 1 号 p. 5-13
    発行日: 2018/04/25
    公開日: 2019/05/14
    ジャーナル フリー

     医療の安全や質の改善について,日本医療機能評価機構による認定のほかに,国際基準と実務的なサーベイに基づいたJoint Commission International(JCI)による認定を受ける日本の病院が増えている(平成28年8月現在18施設).JCIは,米国のJoint Commissionの経験を踏まえて,実務的でかつ質の高い基準を設けている.この基準に基づいて,医療の安全や質の改善を実現し,かつスタッフへの負担をおさえるためには,ITの活用は欠かせない.

     JCIの基準は,思想として,診療の流れの円滑な継続,多職種の協働やデータによる確認などを求めている.しかし,現在我が国で使用されている電子カルテを始めとするITのシステムは,必ずしもこれらの思想に基づく課題に応えるように設計されていない.本シンポジウムでは,JCIの認定を受けるにあたり,ITシステム上でどのような対応を進める必要があったかという経験に加えて,診療の流れの円滑な継続,多職種の協働やデータによる確認について,現在の電子カルテのシステムにどのような課題があるか,シンポジストの所属する病院の例にそって明らかにする.また,これらの課題を解決するために,どのような解決方法が考えられるかについても論じる.

     日本の医療の安全や質の改善については,今後,JCIの認定システムが何らかの形で取り入れられていく可能性がある.各病院がITシステムの導入や改善について検討するにあたって,JCIの思想,実務的でかつ質の高い基準を実現できる能力を備える必要がある.言い換えれば,ITシステムの導入や改善を通して,スタッフにとってより自然な形で,JCIの思想,実務的でかつ質の高い基準に基づいた診療を各病院で実現できる体制を確保する必要がある.

     電子カルテ等のITシステムにとって,「臨床スタッフの要求を満たす」ことが目的であった時代は過ぎ,「臨床スタッフに求められる基準を満たす」ことがシステムの使命となる時代が到来している.

共同企画6
  • 土屋 文人, 下邨 雅一, 松木薗 孝二, 天海 宏昭, 山口 慶太, 関 雅子, 高島 浩二, 井上 貴宏, 福森 淳, 池田 和之
    2018 年 38 巻 1 号 p. 15-23
    発行日: 2018/04/25
    公開日: 2019/05/14
    ジャーナル フリー

     【その1】平成22年1月に「内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会報告書」が出されて以来,報告書記載の内容がどのような状況にあるかの報告を毎年医療情報学連合大会において報告を行ってきた.報告書には「遅くとも5年後に,内服薬処方せんの記載方法の標準化の進捗状況等についての調査・研究を行い,対策について再検討する」と記載されていたが,昨年度厚生労働科学研究として「内服薬処方せんの記載方法標準化の普及状況に関する研究」が実施された.検討会報告書発表以後処方せん記載方法に関する変化として,後発医薬品使用促進策がとられ,これに伴い,一般名処方を原則とするように保険のルールが変更された.一般名処方に対しては,診療報酬上の評価が行われていることからシステムベンダーはその対応を優先せざるを得なかった等の事情も存在するものの,報告書記載の方向は徐々にではあるものの,確実に前進しているといえる.一方,日本病院薬剤師会と日本薬剤師会が共同で作成している「標準用法用語集」と,これを日本医療情報学会がマスター化を図るという構図で,報告書記載の標準用法マスターが完成しつつある.これらのことから,本年の連合大会においては例年実施している大手ベンダー6社からの報告書対応システムの開発状況の報告の他に,昨年度実施された厚生労働科学研究の概要について研究代表者から紹介を行うとともに,ほぼ完成している標準用法マスターについて日本医療情報学会標準策定・維持管理部会長から標準用法マスターについて報告を行う.

     【その2】本年4月より電子処方せんが違法ではなくなり,かつ電子版のお薬手帳が調剤報酬上の評価が可能になる等,電子処方せんや電子版お薬手帳をめぐる環境は大きく変化している.しかしながら,これらはスタートしたばかりであり,これらに関する諸問題を検討することは時期尚早と言わざるを得ない.一方,2025年に向け,我が国の医療制度は医療機関完結型から地域完結型へと移る予定であり,これに伴い地域医療ネットワークの重要性が増しているが,これらのシステムが存在しない地域においても,医療機関間あるいは医療機関・薬局の情報連携が極めて重要になる.本共同企画においては,第2部として,「薬物療法に関する医療機関・薬局間の情報共有化の現状と課題」と題して,①副作用情報共有の試みとして,霧島地区における医療機関・薬局間の副作用情報の共有の試みについて発表がなされ,②医療機関・薬局間の検査値情報共有の現状と課題として,我が国において現在進展しつつある臨床検査値を処方せん,あるいは処方せんと同一用紙に表記することについて,その実情と問題点について紹介を行う.そして,③一般名処方マスターに対する標準医薬品コードの対応についてとして,我が国が医療費抑制策として強力に進めつつある,一般名処方に関して,一般処方マスターに関する厚労省標準医薬品コードであるHOTコードの対応状況に関する報告の3つの課題を扱い,その後の総合討論で,第1部の内服薬処方せん記載の在り方検討会報告書その後とともに,会場の参加者と情報共有,討論を行う予定である.

特集 医療情報が紡ぐ『いのち・ヒト・夢』―第37回医療情報学連合大会(第18回日本医療情報学会学術大会)―
大会企画シンポジウム1
  • 黒田 知宏, 武藤 学, 加藤 治, 宇佐美 真一, 末岡 榮三朗
    2018 年 38 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2018/04/25
    公開日: 2019/05/14
    ジャーナル フリー

     近年の電子カルテの急速な医療現場への浸透は,実際の診療現場で蓄積された,いわゆるリアルワールドデータを用いた様々なデータサイエンス研究の途を開いてきている.一方,ゲノム解析技術の急速な発達によって,個々の症例における網羅的遺伝子解析が可能になり,いわゆるPrecision Medicineの時代に入ってきた.Precision Medicineの実現の鍵は高品質な生体試料とそれに紐付く高精度なリアルワールドデータの統合データ基盤の整備と,医療ビッグデータを新しい医学・医療技術開発に利活用する人材の整備にあるとされている.

     本セッションでは,現在本邦で進められているバイオバンク構築事業と,得られたデータや知見を診療現場にフィードバックする具体的取り組み,および臨床現場のデータをバイオバンクに結びつけるための病院情報システムのあり方について紹介し,パネルディスカッションを通して,我々医療情報学会員に,「命を救う」医療情報を作り,活用するために何が期待されるのかを探る.

大会企画シンポジウム2
  • 武田 裕, 辻 哲夫, 大道 道大, 中山 雅晴, 宇田 淳
    2018 年 38 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2018/04/25
    公開日: 2019/05/14
    ジャーナル フリー

     “医療情報学が紡ぐ「いのち,ヒト,夢」”の本大会テーマに沿って,「ヒト」のセッションでは医療情報学と地域包括ケアの話題を取り上げる.ヘルスケアは個々の「ヒト」を対象とした最適制御プロセスと見なすことができる.医療は,高度化し多様化する知識-技術,多職種連携と大量に生成されるデータ,意思決定,多様な治療方法など複雑系特有の課題を内包しているが,病院・診療所など機能モジュールとは垂直連携の基本構造があり,総体的には一つの医療システムとして機能している.

     一方,少子高齢化社会への対応として地域包括ケアの実践が行われている.「ヒト」の生活の場を単位として,医療の垂直機能と介護福祉の水平機能を地域で包括して展開することが求められている.まだ発展途上であるが,大きな課題として「ヒト」を対象としているにもかかわらず,多重の契約が並列しており意思決定が複雑でステークホルダー間の共通プラットフォーム,共通言語が確立していない.「ヒト」の身体状態,生活状態,社会参加意識など,「ヒト」の全体像を把握せずにケアを行うという状況は,包括ケアの目標とは異なるものであろう.医療情報学が培ってきたシステム志向知識・技術を地域包括ケアシステムの確立に活用すべきである.

     本セッションでは(敬称略),辻 哲夫(東京大学特任教授)に,厚生行政に携わり,かつ地域包括ケアの実績を踏まえて地域包括ケアのあり方の講演を皮切りに,大道道大(日本病院会副会長)に医療からみた地域包括ケアにおける連携,中山雅晴(東北大学教授)に,地域包括ケアシステムにおける情報共有の仕組み,宇田淳(滋慶医療科学大学院大学教授)に,地域包括ケアにおける「包括」・「統合」とICT利活用を発表いただき,地域包括ケアと医療情報学の役割について全体討議を行う.

大会企画シンポジウム3
  • 松村 泰志, 鳥澤 健太郎, 篠原 恵美子, 鈴木 隆弘, 荒牧 英治
    2018 年 38 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2018/04/25
    公開日: 2019/05/14
    ジャーナル フリー

     医学の進歩は著しく,日々多くの論文,ガイドライン,書物が発行され,多くはコンピュータでアクセス可能となっている.また,電子カルテシステムが普及し,大量の診療データがデータベースに蓄積されるようになった.このように,今日では,日々大量の医療情報がデジタルデータとして発生している.しかし,これらのデータは,自然言語で記録された非構造化データのものがほとんどである.特に電子カルテのデータは,医療におけるビッグデータと期待されているものの,重要なデータは非構造化データの中に含まれている.これらの電子化された大量の医療情報に対し,処理を加え,診療支援,臨床研究,意思決定支援等で利用するためには,自然言語処理が必須となる.

     自然言語処理は,古くから期待され研究されてきた領域である.従来からの形態素解析,構文解析,文脈解析,意味解析に至る方法の研究に加え,最近では統計的自然言語処理の技術も加わり,大きく進歩してきており,多くの実用化事例が登場するようになった.一方,医学領域の自然言語処理については,多くの専門用語で構成され,決して容易な領域ではない.

     本シンポジウムでは,自然言語処理技術の最前線の技術を,情報通信研究機構ユニバーサルコミュニケーション研究所の鳥澤健太郎先生よりレクチャーしていただく.また,医学領域での自然言語処理について研究成果を挙げてこられた3人の研究者に現状の到達点と,これからの研究の方向性・可能性,そのために解決すべき課題についてお話し頂く.

学会企画シンポジウム
  • 大江 和彦, 木村 通男, 田中 聖人, 佐々木 毅, 待鳥 詔洋, 合田 憲人
    2018 年 38 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2018/04/25
    公開日: 2019/05/14
    ジャーナル フリー

     深層学習により画像識別や画像認識の飛躍的な性能向上がもたらされた.周知のように医療では,とりわけ診断において画像データの重要性が高く,多くの医療分野の画像診断で深層学習を活用して診断支援,病変領域の識別,所見分類などが試みられている.こうした研究では教師あり機械学習が用いられており,その教師データすなわち学習データセットとして,正しい診断名や所見名が正解ラベルとして画像に付与された医療画像データが大量に必要である.

     このような動きが加速するなかで,平成28年度には日本医療研究開発機構(AMED)の臨床研究等ICT基盤構築研究事業において人工知能等利用活用基盤構築関連の研究課題として「ICT技術や人工知能(AI)等による利活用を見据えた,診療画像等データベース基盤構築に関する研究」が公募された.この公募事業では,順不同で(1)日本消化器内視鏡学会「全国消化器内視鏡診療データベースと内視鏡画像融合による新たな統合型データベース構築に関する研究」,(2)日本病理学会「AI等の利活用を見据えた病理組織デジタル画像(WSI)の収集基盤整備と病理支援システム開発」,(3)九州大学(日本医学放射線学会)「画像診断ナショナルデータベース実現のための開発研究」の3件が採択された.また,国立情報学研究所が分担協力して,この3事業の画像データベースストレージとネットワークの共通インフラを構築することになっている.

     この事業は,AI時代の医療データベースのあり方にも大きなインパクトを与えると思われる.そこで,この事業に参加する3団体と国立情報学研究所から演者を推薦していただき,学会企画として本セッションを開催することにした.3つの各事業と国立情報学研究所から各事業の概要や情報基盤の紹介をしていただく.

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