基幹医療施設ではPACSによる大容量画像配信等のバーストデータ通信に対応するため,通信システムに広い帯域(高速性)を確保することが要求される.このため,大型中央通信制御装置を用いたネットワーク構築や,画像データの事前配布等が実施されてきた.しかし装置が高価であること,運用手順の複雑化や管理工数の増加等が生じることが電子化推進のネックとなっている.
今回我々は病院情報システムのネットワーク構築を行うにあたり,通信パターンを考慮した構築を行い,まず1000床規模の基幹医療施設(T病院,現在は600床)をモデルとし,小型(固定型ポート構成)のLayer 3(L3)スイッチで構築したネットワークを用い,院内オーダエントリ端末全600台中180台にアプリケーションを実装し,画像Web配信システム(Kodak DIRECTVIEW PACS System 5)を利用したオンデマンド画像配信の実証実験を行った.さらにこのネットワークを高度先進医療に対応してほぼ完全に電子化された600床規模の新病院(H病院,平成18年1月開院)に応用して,フィルムレス運用を稼働した.また,2病院間のWAN回線を用い,画像情報の相互参照も実現している.
コア層および分配層に固定型ポートGigabit L3スイッチを配し各分配層の特性に合わせた情報を取り扱えるようにした.また,各分配スイッチとコアスイッチ間には等コストパス負荷分散とポート集約を実装した.H病院ではさらにL3スイッチをスタック構成にし,電子カルテ系と画像系の通信経路を区別した.各スイッチのインターフェースごとの通信量をPACS画像配信前より記録し,圧縮(wavelet)画像配信,非圧縮画像配信による通信量の変化を解析した.端末側では画像展開・再構成にかかる時間を評価した.
画像配信によりトラフィックは増加したが,集中部分での通信量(5分間平均値)はT病院では帯域(1Gbps)の10%を超えず,さらに運用1カ月時点のH病院では帯域(8Gbps)の5%を超えていない.測定結果による負荷シミュレーションでは,本モデル規模での対応は十分可能であり,実際2病院における画像参照は圧縮,非圧縮のいずれも日常診療に十分対応できている.
以上の結果,医療機関のネットワークにおける通信パターンや院内トラフィックフローを十分に把握することにより,効率的なネットワークを合理的なコストで構築できることが示された.
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