日本教育工学会論文誌
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47 巻, 3 号
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論文
  • 坂巻 文彩
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 399-413
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    ジャーナル フリー

    本研究は,インターンシップ参加を目指す学生に対し,大学が,どのような参加計画が効果的であるかを指導する際に有用なノウハウの取得を目的とする.分析データは,内閣府が大学生を対象に実施した調査結果によるものである.本研究では社会科学系学生に焦点を絞り,インターンシップ参加の,日数および回数と効果との関連性を軸にした検討を行っている.明らかになった主要点は,以下の2点である.第一は,「1日間」のインターンシップは,参加回数が増すにつれ,効果は増す一方で,中(2~5日間)・長期間(6日間以上)のインターンシップは,「1回」参加の場合に効果が,もっとも得られた点である.第二は,学生の性別,大学の設置形態,偏差値,所在地等の条件(統制変数)の影響を分析すると,効果の出方が一様ではなく複雑であるという点である.インターンシップへの参加にあたり,参加の日数,回数の組み合わせを重視する必要がある.

  • 企業の能力開発支援とプロティアンキャリア志向
    荒木 淳子
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 415-425
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    [早期公開] 公開日: 2023/09/11
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は企業でリモートワークを行う従業員の自己学習に影響を与える要因を明らかにすることである.2020年のCOVID-19の感染拡大をきっかけとして日本企業でも急速に普及したリモートワークは,従業員の学習やキャリア観に変化を与えたと言われる.そこでリモートワークを行う企業の正規従業員1063名(うち有効回答者数991名)にWebアンケート調査を実施し,このうち31歳以上の回答者899名について,企業の能力開発支援に対する従業員の知覚(PDHRP),自律的なキャリア志向であるプロティアンキャリア志向と自己学習との関連について分析した.パス解析の結果,PDHRPは自己学習に有意な正の影響を与えており,従業員のプロティアンキャリア志向は,PDHRPが自己学習に与える影響を部分媒介していた.今後リモートワークを導入する場合には,企業はリモートワークが従業員の能力開発機会を損なうことがないよう支援を行っていく必要がある.

教育実践研究論文
  • 8つの質問を用いたコンサルテーションアプローチの提案
    根本 淳子, 竹岡 篤永, 高橋 暁子, 市川 尚, 鈴木 克明
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 427-439
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    ジャーナル フリー

    インストラクショナルデザイン(ID)分野では国際的には状況に応じて新しいものを生み出すデザインの重要性が指摘されているが,国内ではこの高次のスキル向上を支援するプログラムは存在しない.本研究では状況に応じたデザイン力に着目し,大学授業の改善支援を担う上級インストラクショナルデザイナー(上級IDer)向けに,他者(クライアント教員)への提案に必要な視点「寄り添う」を養成する講座を開発した.関連プログラムの位置づけを整理し,授業改善提案に先立ちクライアント教員の状況やニーズを聞き取ることができる支援ツール「8つの質問」を開発した.試行の結果,本講座参加者は,クライアント教員の授業への思いに寄り添う授業改善を提案ができていた.クライアント教員に寄り添う視点を取り入れるための仕掛けづくりができた.今後はクライアント教員の授業改善の度合いから「寄り添う」ことができたかどうかを確認していく予定である.

  • 児童の発達段階に着目して
    改発 智也, 浅田 匡
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 441-454
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    ジャーナル フリー

    本研究は,教師行動と行動をとった意図や思考過程とを同時に対象とすることで,小学校教師の授業運営を教師が担任する学級の子どもの発達段階の観点から検討することを目的とする.教師6名を対象に,国語の授業中の教師の発話と発話の意図とを授業記録並びにインタビューによって明らかにした.分析の結果,教師がとった授業運営の行動として,教科内容を含む指導と含まない指導の2つのカテゴリが,集団授業,関係性や雰囲気,汎教科的能力の3つのカテゴリが意図として含まれていた.児童の発達段階に着目したところ,どの学年でも教科内容を含まない指導を通して,教室に一定の規律や秩序をもたらし集団授業を成立させることを重視していた.低学年担当の教師は教科内容とは独立した指導を通して規律や秩序を保つことが特に重視されていた.一方,高学年担当の教師は教科内容の指導を通して自主性や主体性を育む授業運営が特徴であった.

  • 大澤 和仁, 小野田 亮介
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 455-464
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中学校国語科の授業にプレゼンテーション活動を導入し,プレゼンテーション時に想定する受け手の差異が本の読みやその表現に与える影響を明らかにすることである.中学校1年生の2学級(80名)で行われた本の読みと魅力を交流させる授業を対象とし,読書経験を共有しない保護者を受け手として想定する「保護者条件」と,読書経験を共有するクラスメイトを受け手として想定する「クラスメイト条件」に各学級を割り当てた.条件間比較の結果,保護者条件の生徒は本の内容に関する情報をより多く探索,提示していたのに対し,クラスメイト条件の生徒は書誌情報をより多く探索,提示しており,授業を通して読みが変わったと報告する生徒数も多いことが示された.以上より,想定する受け手の差異は本の読み直しや魅力の探索,および表現方法に影響を与えており,授業目標に応じて受け手を変化させることで読みの変化を促進できる可能性が示された.

  • 草本 明子, 高橋 純
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 465-479
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    [早期公開] 公開日: 2023/06/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,自己決定理論に基づき,自律性の欲求・有能性の欲求・関係性の欲求(以下,3欲求)を向上させることに着目したクラウド環境を基盤とした協働学習における1人1台端末(以下,PC)活用の有用性について,理科授業におけるPC活用の経験の有無と課題の難易度から比較検討することを目的とする.実践1では,理科授業において初めてPCを活用する学級を対象として中学校化学の授業における協働学習を行い,実践2では,理科授業において日常的にPCを活用している学級を対象として中学校物理の個別実験における協働学習を行った.結果,自由記述調査では,3欲求の向上に関して実践1で42.5%,実践2で67.1%の記述が見られた.また,PC活用の有用性の大小を検討した結果,理科授業におけるPC活用の経験と課題の難易度が影響することが示唆された.

  • 多々納 春樹, 鎌倉 正和, 榊原 範久
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 481-492
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    ジャーナル フリー

    本研究は,小学校高学年児童を対象に,1人1台端末を活用し,学習者の意見文と意見文産出方略(以下,方略)の相互参照を通して,学習者の意見文と意見文に対する意識の変容について検証した.ルーブリック評価や質問紙の結果から,意見文と方略を相互参照することで,意見文の評価得点が向上すること,文章の構成を考えて書く,他の視点も書く,読み手にどう伝わるか気をつけて書く,という点を意識していたことが明らかとなった.その後に,相互参照なく意見文を作成しても,低下がみられなかったことから,相互参照により他の学習者から方略を獲得し,使用すること,相互参照がない場合でも獲得した方略を継続的に使用することが示唆された.

  • 齋田 裕子, 町 岳
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 493-502
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校国語科の物語文において,主題を表す一文を検討する読解方略の指導効果を,読解方略指導を行わない対照群との比較により検証した.介入群では,物語文を読む学習過程の「精査・解釈」で,主題を表す一文の型をもとに,「中心人物」の「変容前後の様子」を「変容の要因」と関連付けてどのような一文で表すかを検討する活動を行った.その結果,叙述や描写をもとに内容を捉える力は,対照群との差が見られなかったものの,主題に迫る力,物語文に対する考えをもつ力は,介入群の方が有意に向上した.本研究の結果は,主題を表す一文を検討する読解方略を指導することで,国語科授業の課題として指摘されたイメージや感覚で表層をなぞるような指導や,学習したことを他の教材の読み取りに生かすことができない指導の改善につながる可能性を示唆している.

資料
  • 阿部 真由美, 遠藤 健, 森田 裕介
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 503-513
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    [早期公開] 公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

    本研究では,2020年度秋学期の大学での授業について,大学生を対象としたアンケート調査を実施し,学生が「有益」だととらえた授業の形態とその傾向を検証した.授業形態は,対面とリアルタイム,オンデマンド,さらにそれらの組み合わせといずれも含まない8つの形態に分類した.その結果,次の点が明らかになった.まず,「有益」な授業には,対面やリアルタイムでの同期型の授業が含まれていた.また,同期型の授業では,履修者の発言や授業内の協調活動が活発だった.一方,授業外の協調活動は対面授業によって促進される可能性が示唆された.さらに,授業の区分や規模,学生の学年により,「有益」な授業形態の傾向に違いが見られた.

  • 藤崎 聖也
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 515-525
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    [早期公開] 公開日: 2023/07/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,高等学校公民科の必修科目である「公共」と中学校社会科公民的分野の検定教科書の記述から,「メディア・リテラシー」と「情報リテラシー」を比較した.その結果,公共では,両者を並列したり,同じような表現で異なるリテラシーを言い表したりするなど,公民的分野に比して両者の差異がより曖昧であることがうかがえた.また,「批判」「判断」などがメディア・リテラシーにおいて重要であるのは公共と公民的分野で共通しているが,公共ではより具体的かつ主体的な行動が求められること,電子的なメディアやそれらがもたらす影響に一層の注意を向けようとしていることが示唆されている.加えて,「世論」を形成する「国民」としての意識を求める社会科・公民科ならではの文脈も念頭に置く必要がある.

  • 学業的援助行動の媒介効果と学業的コンピテンスの調整効果に着目して
    板木 こころ, 赤松 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 527-535
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/16
    ジャーナル フリー

    本研究では,親密な友人関係の形成・維持過程の動機づけモデル(岡田 2008a)に基づき,友人関係への動機づけが多様な質の学業的援助行動を経て友人関係の充実感に与える影響を検討した.中学生197名を対象として調査を行った.パス解析の結果,自律的な動機づけが友人充実感を直接的に高めるとともに,外的理由が学業的援助要請の回避を媒介して友人充実感を低めるというプロセスが示された.また,調整媒介分析によって学業的コンピテンスの調整効果を検討した.その結果,学業的コンピテンスが高いときに,外的理由を中心とした統制的な動機づけが適応的でない学業的援助授与に結びつきやすくなるという調整効果が多く示された.ここから,友人との学びについて検討する際には,学業的援助行動の多面性に加えて,友人関係への動機づけと学業的コンピテンスの相乗的な関係にも注目する重要性が示唆された.

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