本研究では教室内の言語調整の練習を支援するシステムT3を開発し,T3を使用した教授が日本語教育の実習生(実験参加者)にどのような効果をもたらすか,意識と言語使用の観点から検討した.大学の日本語教員養成課程に日本語教授法という実践を重視し,模擬授業を行う科目がある.その科目の履修者を対象に,通常の授業の中でT3を用いた教授を受ける群(T3群)と受けない群(NT3群,補完授業あり)を作り,両群に質問紙調査及びティーチャートーク・テストを実施し,実習生の言語調整に対する意識,ティーチャートーク・テストにおける想定発話の適 切さ及び,言語的変化を測定,分析した.その結果,質問紙調査ではT3群において,教授上のジェスチャーに対する意識が有意に向上した.また,ティーチャートーク・テストから,T3群の想定発話文において,対象の学習者にとって既習の語彙及び既習の文型の比率が増加し,言語調整 の適切さも向上することが示された.
本研究では,体育科教員がダンス授業に対して抱く「ダンス指導不安」にいかなる特徴があり,そうした不安が教員歴やダンス指導経験によっていかに異なるのかを調べた.調査1では,体育科教員を対象にダンス指導に対する不安を自由記述により調査した.その結果,ダンス指導不安 が5つのカテゴリーから構成されることが示され,理想の授業を実現するダンス技術がない不安や生徒との関係に対する不安が抽出された.調査2では調査1のカテゴリーを基に評定尺度を作成し,調査1とは別の教員に回答してもらった.その結果,ダンス指導不安が調査1と対応する 4因子により構成されることが確認された.調査1と同様に,生徒がダンス教育に求めているレベルやニーズを理解しながらも,それに対応するだけのダンス技術がないと感じている教員の葛藤が認められた.さらに,そうした教員の葛藤は,ダンス指導経験の有無に関わらず同程度に認 められることが示唆された.
本研究は,事前学習を前提とした発表聴講及び討論から構成される輪読式学習において,授業外学習及び討論の充実を目指し,深い学習を促すための改善を試みた.対面学習を基本とした輪読式学習に,発表聴講と討論をオンラインで行うオンライン学習と,発表聴講はオンラインで事前に行い,討論は対面で行う反転学習の二つの学習形態を部分的に組み入れ,3つの学習形態が深い学習に及ぼす影響について分析した.3つの学習形態の授業前後の学習アプローチ得点に対する分散分析,対面討論及び電子掲示板での討論に対する記述分析及びインタビュー分析により,輪読式学習をオンライン学習及び反転学習で行うことは深い学習を促す可能性が示唆された.そして,オンライン学習では知識の整理や発言の見直しが行われ,全体論的な理解が深まる可能性があり,反転学習では学習者の主体性や理解度といった個人差に対応できる可能性が示唆された.
重度視覚障害を有する視覚特別支援学校の教員や点字出版所の職員が点訳の専門家として手で触察して把握する点字教材の点図を自立的に作図可能にするため点字教材作図システムBplotを更に改良し,重度視覚障害者に特化したBplot(コマンド記述方式)を開発した.主要な改良点は,エディタで記述する作図コマンドの引数を変数や関数を含む数式で記述可能としたこと,引数の計算がすべて自動化されたこと,また,蓄積された既存の画像データをBplot(コマンド記述方式)の作図コマンドに変換する技術を開発したこと,更に重度視覚障害者も作図部品として既存の画像データの活用が可能となったことである.Bplot(コマンド記述方式)の開発は,ただ単に教職員のみならず高校や大学の学生や社会人等,従来作図が困難であったすべての重度視覚障害者の点図の自作と活用を可能にする.
教員養成課程では,実践的指導力の基礎を養うことが目指されている.認知心理学的な視点を活かした個別的な面接によって学習のつまずきを診断し学習者としての自立を支援する認知カウンセリングを教職課程で学び体験することは,実践的指導力の向上に資すると考えられる.そこで,本研究は,教育方法学の授業において,学生に認知心理学の基本概念や認知カウンセリングの進め方を教授した上で,認知カウンセリングの発想に基づく個別支援を体験させる中間レポート課題を課した.さらに,代表の学生のレポートをもとにした事後協議を行った上で,学生に自らのレポートのふり返りを求めた.効果検証として行った仮想相談課題では,算数の具体的なつまずきを示し児童にどう関わるかの自由記述を求めた.分析の結果,「診断的働きかけ」,「意味理解を重視した教師の説明」,「子どもへの理解確認」,「学習方略の意識化を促す指導」という4つの観点のうち,事前よりも事後の方が「意味理解を重視した教師の説明」を除く3つの観点の記述が多かったことが明らかとなった.
プログラミングの体験形式が小学生のプログラミング学習の動機づけに与える効果について検討した.体験形式として,(1) ゲームの作成方法を逐次的に教わりながら作成する講義型,(2) 2名1組で1冊のテキストを共有し,相互に教え合いながらゲームを作成する協同型,(3) 手渡されたテキストを見ながら単独でゲームを作成する個別型,の3タイプ間で動機づけを比較した.本研究の結果から,講義型または協同型でプログラミングを学習すると,プログラミング学習に対する動機づけは有意に上昇する一方で,個別型では上昇しないことが示唆された.
板書(黒板や白板)を用いた講義では,講師が記述や説明をするために板書の前を遮ることがある.このとき,遮られた板書内容が見えず,ノートに書き写しにくいと感じる経験は多くある.我々の提案するシステムでは,カメラで撮影した板書映像を処理し,板書の前を遮る講師をシルエットにして透過することで,遮られた板書内容と講師の動きの両者が読み取れる映像を提供できる.我々の方法の特徴は,この映像処理をリアルタイムに実現することと,映像を講義室内のサブモニタで表示することによって板書遮蔽問題を解決することである.遮られた板書内容を提示する方法として,本手法のシルエットを透過表示する方法や講師を完全に消去する方法が考えられる.我々は提示方法として,どの方法が好まれるか比較実験をおこない,シルエットを透過して表示する方法が好まれるという結果を有意に確認した.
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