日本教育工学会論文誌
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47 巻, 1 号
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論文
  • 制御焦点と評価観との交互作用に着目して
    福富 隆志, 油川 さゆり
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,フィードバック(FB)の提供と改善支援がスピーチのパフォーマンスに及ぼす効果を,制御焦点の適性と評価観との交互作用の観点から検討した.大学生を,FB に基づいて問題点と改善策を考えさせる条件(FB・改善支援条件),FB の提供のみの条件(FB 条件),問題点と改善策を考えさせるのみの条件(改善支援条件)に20名ずつ振り分けて,スピーチのパフォーマンスに及ぼす効果を比較した.その結果,言語的パフォーマンスについて,改善的評価観(評価とは学習改善に活用するためのものであるという認識)が低い参加者はFB・改善支援条件で最も高く,促進焦点の適性と改善的評価観が高い参加者はFB 条件で最も高かった.改善的評価観が低い人は,FB の活用を促す支援によりFB に注意を向けて改善に活かす一方で,促進焦点の適性と改善的評価観が高い人は,FB の提供のみで改善を行う傾向にあることが示唆された.

  • 近藤 孝樹, 横山 喬一, 御園 真史, 稲葉 利江子, 渡辺 雄貴
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 13-25
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    [早期公開] 公開日: 2022/10/14
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,一斉授業内で他者のノートテイキング状況の可視化が,学習者間および授業者と学習者間の相互作用を促進し,ノートテイキングや授業改善に有効かを明らかにすることである.目的を達成するため,タブレットの資料上に,他者の記入箇所をリアルタイムに可視化することができるノートテイキング支援システムを開発し,以下の研究1,2を行った.まず,高校生89名を対象とした研究1では,システムによる他者の記入箇所の可視化によって,共同体意識の向上や,授業中のノートテイキングの特に板書,下線の記述が増加したことから,生徒間の相互作用が促進されたことが明らかとなった.次に,高等学校の授業者4名を対象とした研究2では,システムによる理解状況や進捗の可視化は,授業中に指導の変更を促し,生徒の内容理解を向上させる可能性が見られ,授業者と生徒間の相互作用を促進しうることが明らかとなった.

教育実践研究論文
  • 遠い転移に着目して
    小野 和宏, 松下 佳代, 斎藤 有吾
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 27-46
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,専門教育で身につけた問題解決スキルが汎用性をもちうるかを明らかにすることである.PBL カリキュラムで口腔保健・福祉分野を学んでいるX 大学歯学部3年生を対象に,まず問題解決プロセスの習得度をパフォーマンス評価により直接評価した.ついで,そのうちの15名を対象に,専門教育で身につけた問題解決プロセスの理解度と日常場面への適用に関して学生インタビューを行った.その結果,専門教育で問題解決プロセスの理解度・習得度が高まると,そこで獲得した問題解決スキルは専門教育から遠い日常の場面へも転移しうることが示唆された.また,問題解決プロセスの理解度・習得度を高めるうえで,PBL での協調学習や学習課題の設定・情報探索が効果的である可能性が示された.これらの結果は,専門教育で身につけた能力が汎用性をもつ過程を例証している.

  • 清水 優菜, 荒井 英治郎
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 47-61
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,総合的な探究の時間における高大連携として,学問的真理の追究や方法論的専門性の理解の機会を5回にわたる大学の研究者のゼミにより提供することが生徒の資質・能力に与える効果を検討した.探究の時間に高大連携による「大学連携ゼミ」を取り入れている高等学校A校の1,2年生を対象としたWeb 調査の結果,①どのようなゼミのテーマ,運営方法,学問領域や方法論であっても,論理的思考への自覚と客観性,制度的利用価値が同程度に向上する,②ゼミを重ねるごとに積極的に関与するようになった生徒ほど論理的思考力への自覚が高まる,③探究の時間の目標では,特に「思考力,判断力,表現力等」と「学びに向かう力,人間性等」が高まることが示された.よって,探究の時間における高大連携として,大学の研究者により学問的真理の追究や方法論的専門性の理解の機会を提供することは生徒の資質・能力の向上に一定の効果を有する可能性が示唆された.

  • 混合研究法による園内研修の有効性の検討
    金子 智栄子, 金子 智昭, 植草 一世, 清水 優菜
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 63-77
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,ベテラン保育者(経験年数13年)を保育者役に設定したマイクロティーチングを園内研修にて実施し,その効果を観察法と質問紙法を用いた混合研究法により詳細かつ多角的に検証した.模擬保育の行動評定から,保育者役の実地指導技術の向上が確認された.また,研修の有効性に関する自己評定から,参加者全員の保育技術が向上し,自己の学習状態を認識して課題を発見し,幼児理解が高まることが示された.さらに,自由記述の分析から,保育者役ではフィードバック,幼児役では役割演技と観察学習の効果によって,学習状態の認識,学習意欲,幼児理解が向上する可能性が示唆された.特にベテランが陥りやすい指導の惰性化の改善が座席の配置変更という形で示され,ベテランを対象としたマイクロティーチングによる園内研修の有効性が確認された.

  • 西川 彩香, 榊原 範久
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 79-89
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校中学年において,プログラミング的思考と社会科の資質・能力の観点を綜合したワークシートを開発し,それを用いた授業実践を行った.そして,その授業実践事例においてプログラミング的思考と本単元における社会科の資質・能力の双方が表出するかを検証した.その結果,ライティング・ルーブリックによる評価では,開発したワークシートを用いた授業実践事例から,プログラミング的思考と本単元における社会科の資質・能力について概ね双方の表出が示唆された.また,開発したワークシートの記述分析において,プログラミング的思考の4観点と本単元における社会科の資質・能力の2観点が表出した.開発したワークシートを用いた話し合い場面においては,プログラミング的思考と本単元における社会科の資質・能力の双方が表出した.

  • 岩田 貴帆, 田口 真奈
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 91-103
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    [早期公開] 公開日: 2022/10/14
    ジャーナル フリー

    評価練習とは,ルーブリックを使って,そこで定められた水準に対応するパフォーマンスの典型事例を学生が評価した上で,教員が適切な評価結果とその根拠を解説する教授法である.単に学生にルーブリックを公開するだけでは,学生が自分のパフォーマンスを改善することが難しいことから評価練習が導入されてきた.しかし,その学習効果については,学生のパフォーマンスに基づく検討は限定的であり,特に,どのような典型事例を教材として用いれば学習効果が高まるかは明らかでない.そこで本研究では,評価練習を取り入れた授業実践において,学生のパフォーマンスに対する自己評価の適切さと,パフォーマンスの質から,評価練習の学習効果を実証的に検討した.その際,ルーブリックの全水準に対応する典型事例を用いる全水準条件と,一部の水準に対応する典型事例を用いる部分水準条件を比較した.その結果,全水準条件の方が,のちに学生が取り組んだ課題における自己評価の適切さに与える効果が有意に大きく,学生のパフォーマンスの質に与える効果が高い傾向が示された.

  • 木村 千夏
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 105-116
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    [早期公開] 公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

    発信者を意識する授業が大学生のインターネットニュースの評価に与える効果について,2つの実践を行い検討した.本研究では,「発信者」を単なるメタ情報としてではなく,国語科教育における「書き手」のように,情報本体を評価するための手がかりとして捉える.そのため,授業には,発信者の多種多様性を知る講義と,発信者を具体的に意識できるワークが取り入れられ,多種多様な発信者の視点や立場や意図が記事本体に反映されていることを理解できるようにデザインされた.「実践群は対照群に比べて,インターネットニュースを評価するときに,記事本体に関する評価規準を用いるようになる」という仮説を立て,授業実践して検証したところ,仮説の通りの結果が得られた.また,実践群の発信者の多種多様性の理解と記事本体に関する評価規準との間には,対照群には見られない関係性が見られた.

  • 中高一貫の私立学校における取り組み
    篠ヶ谷 圭太, 福本 雅俊, 山本 愛美, 小林 勇輔
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 117-125
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    本実践では,関東圏の中高一貫の私立学校において,学校適応感と学習への動機づけを高めることを目的としたオリエンテーションを実施した.中学1年生を対象に,学校の特徴について知ることや,他学年,同学年の生徒と交流することを重視した4月のオリエンテーションと,高校2年生,卒業生,教員から勉強での心構えを教わる6月のオリエンテーションを実施したところ,4月のオリエンテーション後には学校適応感の向上が認められたが,6月のオリエンテーション後,学習に対する動機づけにおいて内容関与動機が低下した.中学1年生の結果を受け,10月に実施された中学2年生を対象としたオリエンテーションでは,上級生が自身の学習経験をより具体的に話すようにしたところ,オリエンテーションの前後で内容関与動機が有意に向上した.最後に,本実践の結果をふまえ,校内オリエンテーションを実施する上での注意点について論じた.

教育システム開発論文
  • 山森 光陽, 長野 祐一郎, 徳岡 大, 草薙 邦広, 大内 善広
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 127-139
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    [早期公開] 公開日: 2022/10/14
    ジャーナル フリー

    授業中における教師の認知負荷の変動を,皮膚コンダクタンス変化と末梢皮膚温の変動によって把握することの可能性の検討を目的とした研究を行った.複数指標を同時に,時系列的に測定可能なデバイスを教師が着用して授業を実施した.対象は小学校教師5名であり,授業は複数学年,複数教科で実施した.皮膚コンダクタンス変化と末梢皮膚温の変動と,同時に計測された身体の動きの大きさ,質問紙を用いた主観的評価,授業ビデオを用いた振り返りによる口頭での状況の説明や感情状態の内省報告との関係を検討した.その結果,皮膚コンダクタンスと末梢皮膚温の測定値は身体の動きの大きさの影響を受けにくく,様々な身体の動きをとる授業中の教師を対象とした連続測定が可能であることが示された.そして,皮膚コンダクタンスの上昇と末梢皮膚温の低下が見られた授業場面は,教師にとって認知負荷がかかった場面であると解釈できることが示された.

資料
  • 中川 哲, 齋藤 玲, 板垣 翔大, 佐藤 和紀, 堀田 龍也
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 141-156
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    [早期公開] 公開日: 2022/09/29
    ジャーナル フリー

    本研究では,テスト採点支援システムの利用経験を持つ初等中等教育の教員に対して,テスト採点業務の意識や実態に関するアンケート調査を行った.調査の結果,手採点との比較で,小学校,中学校・高等学校のいずれの学校種における教員においても,今後,採用したい採点手法としてシステム採点が選好された.調査結果の分析から,システム採点の作業面で,採点時間の削減と作業負担の軽減,採点全体の正確さの特性が明らかになった.また,学習指導面では,クラス全体の理解状況の把握についての特性が明らかになった.中学校・高等学校においては,教員自身の指導の振返りについての特性も見られた.一方,学習指導面において,システム採点を行った場合,学習者一人ひとりの理解状況の把握が難しくなるという課題が一部でみられた.この課題については,システム採点において,印刷後の紙の解答用紙を確認するなどの紙とデジタルを併用する解決策がみられた.

  • 三井 一希, 戸田 真志, 松葉 龍一, 鈴木 克明
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 157-169
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    [早期公開] 公開日: 2022/12/19
    ジャーナル フリー

    本研究では,情報端末を活用した授業の設計を支援することを目指したシステムの開発を行い,その操作性と有用性(ユーザにとって有用と捉えられるか)を検証した.システムの設計にあたっては,先行研究から現状の問題点を抽出するとともに,ユーザーニーズの調査を行って5つの機能要件を定めた.そして,機能要件を満たすシステムをスマートフォン等で動作するアプリケーションとして開発した.開発したシステムを16名の教師が評価したところ,操作性については問題点が見られなかった.また,有用性については,特徴的な機能であるSAMR モデルに基づき授業事例を段階的に示すことを含め,機能要件に定めた項目について概ね良好な評価を得た.一方で,書き込み機能や実践のアップロード機能といったユーザ参加型の機能には,抵抗を示す教師が一定数いることが示された.

  • 野澤 朋未, 浅井 継悟
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 1 号 p. 171-179
    発行日: 2023/01/20
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    自らが劣っているように振る舞う自己卑下呈示は,日本文化において望ましい行動と捉えられている.また,自分ではなく同席する家族が劣っているように示す身内卑下呈示についても望ましいと考えられている.これまで,身内卑下呈示は主に配偶者を卑下する内容を中心に研究されてきた.しかし,実際には,養育者が他者に対し,自分の子どもを卑下する身内卑下呈示も存在する.本研究の目的は,養育者が行う子どもを卑下する身内卑下呈示と子どもの自己の強みへの注目との関連について明らかにすることである.167名の児童を対象に質問紙調査を行った結果,養育者の身内卑下呈示は男女,学年を問わず,子どもの自己卑下呈示規範の内在化に繋がり,身内卑下呈示への価値判断と正の関連を示していた.また,養育者の身内卑下呈示は子どもの自己の強みへの注目と負の関連があることも明らかとなった.これらのことから,身内卑下呈示,自己卑下呈示と自己の強みへの注目との関連について考察された.

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