森林利用学会誌
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特集巻頭言
  • 山口 浩和
    原稿種別: 特集巻頭言
    2025 年 40 巻 1 号 p. 3-4
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    山村人口の減少と少子高齢化により労働力不足が深刻化していく中で,林業における人手不足等に対応するため,レーザ計測等を活用した資源情報の把握,下刈りや集材作業の自動化など新技術を活用した省力化あるいは労働生産性向上のための多様な取組が全国各地で展開されつつあります。

    学会誌第 36 巻第 1 号では,「ICT導入による林業のスマート化」と題する特集を組みました。この特集では,深層学習を用いて樹皮からスギ,ヒノキを判定する技術に関する研究(神原ら2021),10mメッシュのDEMとオープンソースGISを用いた地形の評価手法による作業システム分類に関する研究(山崎ら2021),StanForDをベースとした川上から川下まで原木の情報共有システムに関する研究(中澤ら2021),ドローンによる資材運搬の軽労化・効率化に関する研究(石川ら2021),スマートフォンやパソコンから簡単にデータ入力,集計が行える「日報アプリ」の開発に関する研究(木村ら2021),造材時に原木の品質等を計測できるハーベスタの開発と造材データの高度利用の仕組み構築に関する研究(上村ら2021)などが紹介されました。

    しかし近年,林業における新技術の浸透速度が非常に速く,この数年で林業におけるデジタルデータを活用する動きがさらに進展してきたことから,2024年度には,「林業における新技術とデジタルデータの活用」をテーマにシンポジウムを開催し,森林デジタル情報をどのように活用していくのかが今後の課題になることが示されました。この話題は,学会誌の誌面においても継続してさらに深堀りしていきたく,40巻1号の特集記事として,林業における新技術やデジタルデータの取得およびその利活用に関する原稿を募集したところ,論文1報(伊藤2025),研究技術資料(田中ら2025)が投稿され,本号に掲載することになりました。以下,簡単に内容をご紹介いたします。

    伊藤の「フォワーダ荷台位置および丸太積載位置自動検出手法の開発」では,フォワーダ集材作業の完全な無人化を実現するために,フォワーダ荷台への丸太積載作業の自動化を目的として,3DLiDARによる3次元点群情報を用いて,フォワーダの位置と荷台上での最適な丸太積載位置を提示する手法を開発しました。その結果,フォワーダ位置の平均推定誤差は0.052m,姿勢についてはロール角0.51度,ピッチ角-0.25度,ヨー角-0.08度で推定でき,積載位置については平均誤差0.03~0.08m最適な位置を推定でき,実用的な範囲でフォワーダの検出と積載位置の決定を行うことができました。また,点群数およびフォワーダ角度が提示の正確さに影響することを明らかにし,点群数13万点以上かつグラップルローダとの相対位置をできるだけ小さくすることが重要であることを示しました。本研究により,積載作業の自動化にあたって必要となる,丸太を積載するべき位置を自動で決定できるようになり,把持する丸太を提示する研究成果(有水 2023;Usui 2024)と組み合わせることで,グラップルローダの自動制御目標地が提示できるようになったことが示されました。

    田中の「LiDARデータの解析結果のみを活用した森林作業道開設優先順位付け~京都府福知山市へ提案した手法~」では,森林管理を専門とする職員が不足している中で,2019年度から新たに始まった森林経営管理制度により市町村が新たに担うことになった課題を速やかに実施するには,デジタルデータを活用した効率化やDX化が急務であるとし,その一つの事例として,LiDARデータの解析結果のみを活用して,森林作業道開設の優先順位付け手法を提案しています。本研究では,優先順位付けの指標に路線開設費に対する利益率の大小で評価するとし,森林作業道バッファー解析結果にもとづく伐採搬出対象立木の総幹材積を開設する路線の延長距離で除した値を指標として評価することとしました。起点からの総延長を50m区間に分けて,m当たり材積の数値が大きい区間から順に選定することで,路網開設予算に応じた開設路線および路線延長等を決定できるとしました。さらに,森林環境譲与税を始めとする予算が限られている中において,これらの結果を地図上で可視化し,路線開設の優先順位の結果を客観的に示すことで,地域の利害関係者の理解を得るためのツールとして活用できるようになったとしています。

    本特集では,LiDARによる点群情報を用いて,フォワーダ荷台上の丸太積載位置を検出する研究および森林資源情報を活用して路網開設における優先順位付けを行う手法に関する研究を掲載しました。LiDARやTLS,カメラ等を活用した森林情報の取得および活用方法に関する研究や技術開発は,今後もさらに進展していくものと考えれます。

    新しい技術の導入で従来からの林業のシステムが大きな変革を迎え,低い労働生産性や高い労働災害率,高齢化による労働力不足といった,これまで解決が難しかった現場が抱える林業特有の問題の解決につながっていくことが期待されます。これらの技術を林業により浸透させるため,応用技術の開発や現場における適用条件等を整理して提示することも,森林利用学会の役割であると考えています。

    最後に,本特集号に投稿された皆様および限られた期間で査読を行っていただいた皆様に,この場を借りてお礼申し上げます。

論文
  • 伊藤 崇之
    原稿種別: 研究論文
    2025 年 40 巻 1 号 p. 5-14
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    3DLiDARを用いてフォワーダの位置と姿勢を自動で検出するとともに,荷台の積載状況に応じて適切な積載位置を決定する手法を開発した。フォワーダ検出の正確さや決定した積載位置の妥当性について検討するとともに,計測条件との関係等を評価した。フォワーダの位置・姿勢については,荷台のポールに反射テープを巻いたマーカーを5個設置して3DLiDARで計測し,モデル点と位置合わせを行うことで推定した。また丸太積載位置については,荷台上の表面点群を取得し,丸太同士が作る谷部を探索することで計算した。点群数,荷台上の積載丸太本数,フォワーダ角度を変化させて実験を行ったところ,マーカーが全5個検出できた場合のフォワーダ位置推定誤差は0.052m,姿勢推定誤差はロール角0.51度,ピッチ角-0.25度,ヨー角-0.08度であった。丸太積載位置推定誤差については,フォワーダ角度が大きくなると誤差が大きくなることが示された。荷台断面における2次元誤差を計算したところ,フォワーダ角度0度では丸太4本積載時に0.049m,7本積載時に0.041m,10本積載時に0.058mであり,実用的な範囲でフォワーダの検出と積載位置の決定を行うことができた。

論文
  • 猪俣 雄太, 中田 知沙, 山口 浩和, 北原 文章, 福本 桂子
    2025 年 40 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は列状間伐現場で作成した受け口・追い口の形状から,列状間伐における伐木作業の問題点を明らかにすることである。そのために,スギとヒノキの伐木作業後の伐根の受け口の深さ,左右のツル幅等を計測した。計測した結果,伐根径に対する受け口の深さは正規分布に従い,左右のツル幅の違いは指数分布に従うことが分かった。ツルがない場合を0 mmとしたため,ツル幅は0 mmの多い分布形となった。樹種の違いとして,スギでは受け口を浅く作る傾向があり,ヒノキではツルを作らない傾向にあることが分かった。ツルがある伐根では,スギとヒノキとでツル幅に違いは見られなかった。法令では安全に伐木作業するために,適切な深さの受け口とツルの確保が定められている。このため,スギでは受け口をより深くつくること,ヒノキではツルを作ることが安全確保において,重要であることが示された。

  • 中田 知沙, 小島 瑛里奈, 猪俣 雄太, 上村 巧, 山口 浩和, 有水 賢吾
    原稿種別: 研究論文
    2025 年 40 巻 1 号 p. 31-40
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,スギ(Cryptomeria japonica)の倒伏シミュレーションモデルを作成するために,生材を用いた力学試験を行い,得られた力学特性値を一例として,木材材料用の有限要素法解析ソフトウェアのパラメータとして用いることで,木材の異方性を考慮したFEMモデルを作成することである。スギの生材状態での各種力学特性値を得るために,林齢が63年生のスギから供試丸太を切り出して無欠点小試験体を作成した。木材が有する異方性を考慮するため,3方向(繊維(L)方向,接線(T)方向,放射(R)方向)を負荷方向とした引張および圧縮試験を行った。また,精度検証のために曲げ試験を行った。シミュレーションには陽解法ソルバーLS-DYNAに組み込まれる木材材料モデルの有限要素コードであるMAT_WOODを用いた。得られた特性値をパラメータとしL方向引張強度と引張によるL方向破壊エネルギーを調整した結果,最大荷重(689~690 N)と剛性(133 N/mm)が実測値の範囲内におさまるモデルを作成することができた。とくに実際の倒伏への影響が大きいと考えられるT方向荷重の曲げの結果は,R方向荷重に比べて最大耐力後の変位挙動もよく近似していた。このことから,本研究によって倒伏シミュレーションが可能となるモデルを構築できたことが示された。

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