日本森林学会誌
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89 巻, 4 号
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論文
  • 黒田 慶子, 大平 峰子, 岡村 政則, 藤澤 義武
    2007 年 89 巻 4 号 p. 241-248
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/12
    ジャーナル フリー
    マツ材線虫病に高い抵抗性を示すマツ個体を得るには,抵抗性機作に基づいた母樹の選別が必要である。そこで抵抗性クロマツ8家系について樹体内のマツノザイセンチュウ(以下線虫)の移動,増殖,病徴進展の家系間差を40∼50日間調べた。播種後16カ月の苗の根元に線虫を接種した場合,波方-ク73号以外の家系では病徴発現と線虫増殖が高率で認められ,線虫の活動が抑制されずに発病したと推測された。播種後28カ月の苗の梢端に接種すると,多くの家系では主幹下部と根の線虫密度が低いまま推移した。特に三崎ク-90号は線虫の活動が著しく阻害され,病徴発現個体は少数で,16カ月時とは異なる結果であった。月齢16カ月程度の若い苗の根元への接種では,線虫の移動に対してマツの抵抗反応が遅れをとり,線虫の活動に対する阻害が不十分であったと推測された。齢(樹高)が上がると線虫の活動を強く抑制する家系があることから,抵抗性個体の選抜や実生苗の抵抗性検定では,供試苗の樹高や齢について考慮する必要がある。
  • 本田 剛
    2007 年 89 巻 4 号 p. 249-252
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/12
    ジャーナル フリー
    イノシシによる農業被害が発生する要因を明らかにするため,農林業センサス情報に基づいた被害の説明を試みた。山梨県内の農業集落796を対象とし,各集落内における被害発生水田率と農林業センサスから抽出した9要因の関係を一般化線型モデルにより解析した。解析対象とした水田は57,361である。その結果,林野率,標高,農家減少率,耕作放棄地率は高いほど被害が多く,田平均面積,寄り合い,集落管理度は小さい,あるいは少ないほど被害が多かった。被害を説明するための,これら要因の重要性は同程度であった。一方,被害との関係が認められなかった要因は65歳以上農家人口率および自給農家率であった。以上のことから,被害の発生には林野率や標高といった地理的要因だけでなく,寄り合い,集落管理度,農家減少率といった人的要因も同様に重要であると結論した。
  • 藤本 征司
    2007 年 89 巻 4 号 p. 253-261
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/12
    ジャーナル フリー
    暖温帯に位置する静岡大学上阿多古フィールドにおいて,広葉樹29種の開芽フェノロジーの観察を10年間行い,有効積算温量法と温度変換日数法を用いた,開芽日予測法の検討を試みた。どちらの予測法でも,起算日を2月15日に設定した場合に,推定誤差が最も小さくなる樹種や個体が多かった。有効積算温量法の場合は,推定誤差を最小にする限界温度は,およそ-7.5∼-2.5°Cで,温度変換日数法の推定誤差を最小にするEa(温度特性値)は,およそ10∼15と算定された。どちらの予測法でも,推定誤差が最小となる積算温量(または温度変換日数)と起算日の組み合わせを用いることで,ある程度まで精度の高い開芽日予測が可能になると考えられる。議論では,二つの予測法の利点や問題点について言及した。
  • 曽根 晃一, 富元 雅史, 徳楽 貴洋, 松山 健太郎, 畑 邦彦, 樋口 俊男, 岡部 武治
    2007 年 89 巻 4 号 p. 262-268
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/12
    ジャーナル フリー
    2004年に表面にボーヴェリア培養型不織布製剤(不織布)を固定した被害材をさまざまな方法で被覆し,材から脱出した成虫の死亡率を比較した。材から脱出した成虫の捕獲後15日以内の死亡率(死亡率)は,材を市販のブルーシート(#1500)で覆っただけの場合(無施用区)86%で,さらに不織布を材表面に固定する(無開口区)と100%に上昇し,全捕獲個体でボーヴェリアが叢生した。シートに開口部を設けると死亡率は低下し,特にシートの上部中央に開口部を設けた場合,死亡率は無施用区と差がなかった。不織布を施用し生分解性シートで被覆した場合も死亡率は96%と高かったが,ボーヴェリア叢生率は21%と低かった。2005年の無施用区と無開口区では叢生率は37%と56%であったが,死亡率はそれぞれ80%,90%以上と2004年同様高かった。これらの結果から,不織布を表面に固定した被害材をブルーシートで被覆することで,極めて高い駆除効果を得られることが明らかになった。
  • —常呂川・網走川流域の事例—
    佐藤 孝弘, 佐藤 弘和
    2007 年 89 巻 4 号 p. 269-277
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/12
    ジャーナル フリー
    森林の水土保全機能に配慮した森林整備に関わる効果的な説明責任を実践するために,北海道東部にある常呂川・網走川流域において実施された台風による被災住民に対するアンケートの調査結果を解析した。単純集計の結果によれば,両流域の住民は森林の現況に対して減退しているイメージをもっていた。数量化III類により,森林や災害リスクへの認識は,六つの因子に区分された。網走川下流部に代表される都市住民は地域を認識する機会は少なく,流域森林の状況に対しても減退のイメージをもっていた。一方,常呂川中流部に代表される一次産業従事者は地域を認識する機会が多く,流域の森林に対しても肯定的イメージをもち,水害への当事者意識が高いことが示された。流域住民の多くは,災害抑制を目的とした地域森林の整備への参加に積極的姿勢を示したが,姿勢の背景となる各住民の森林との接触機会や被災経験などには差異がみられた。森林整備に係る情報提供においては,科学的データに基づく流域森林の状況,河川改修,水害発生の原因についての説明が必要であり,異なる意識や経験をもつ人々が地域の水土保全機能を主目的とした森林整備に対して首尾一貫した理解を示すことも重要である。
  • 真板 英一, 鈴木 雅一
    2007 年 89 巻 4 号 p. 278-287
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/12
    ジャーナル フリー
    東京大学千葉演習林袋山沢流域(北緯35°12′,東経140°06′)において対照流域法による森林皆伐実験が行われた。A流域(0.802 ha)を基準流域,B流域(1.087 ha)を処理流域とした。地質は新第三紀層に属し,年平均降水量は2,170 mm,年平均気温は14.2°Cである。伐採前の植生は両流域ともに約 70年生のスギ・ヒノキ人工林で,B流域は1999年春に伐採され,2000年にスギ・ヒノキが植栽された。伐採後3年間のB流域の月流出量は増加した。月流出増加量は3.6∼54.7 mm,平均 26.1 mmであった。月流出増加量は月降水量と強い正の相関があった。また月流出増加量と月降水量の関係には季節変動があり,冬の方が夏よりも相対的に月流出増加量が大きかった。月流出増加量の降水量依存性は樹冠遮断蒸発に,季節依存性は蒸散・地表面蒸発に由来すると考えられた。伐採による蒸発散各成分の変化量を推定すると,蒸散・地表面蒸発合計の変化量よりも樹冠遮断蒸発の変化量の方が大きかった。そのため蒸発散全体の変化の季節変動はほとんど樹冠遮断蒸発の変化の季節変動によって規定されていることがわかった。
短報
  • 萩野 裕章, 野口 宏典, 坂本 知己
    2007 年 89 巻 4 号 p. 288-291
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/12
    ジャーナル フリー
    クロマツ海岸林の飛砂防備機能を評価するため,林帯前縁から内陸側700 mまでに捕砂器を設置して落下飛砂量を測定した。落下飛砂量は前縁から約20 mの位置で最大値を示し,その後は急激に減少して,約110 m以遠では微量になった。任意測定点から内陸最奥測定点間の落下飛砂量を通過飛砂量とし,任意測定点を前縁から順次移動したときの通過飛砂量と前縁からの距離の関係を解析した。通過飛砂量の減少過程は,前縁からほぼ60 mまでの減少率が大きい範囲と110 m以遠の小さい範囲に分かれ,それぞれ指数関数で近似された。これは減少率が大きい範囲の林帯を失うと,飛砂防備機能が大きく低下することを意味する。この結論は樹冠が捕捉した飛砂量を考慮しても変わらなかった。
  • 澤内 寧子, 野堀 嘉裕, 野田 真人
    2007 年 89 巻 4 号 p. 292-296
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/12
    ジャーナル フリー
    本研究では,ヒノキアスナロ(Thujopsis dolabrata var. hondai Makino)について軟X線デンシトメトリーで得られた年輪幅と年輪内平均密度のデータから重量を算出し,気候情報(月平均気温・月積算降水量)との相関分析を行った。その結果,三つの年輪情報ともに肥大成長期の気温の影響を受けていることがわかった。また,6月の平均気温との関係では年輪幅よりも重量値で高い相関係数が算出された。このことから,年輪幅や年輪内平均密度だけでなく,重量値でも気候との関係を検討できる可能性のあることが示唆された。
  • 古澤 仁美, 日野 輝明, 金子 真司
    2007 年 89 巻 4 号 p. 297-301
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/12
    ジャーナル フリー
    糞虫による糞の埋設を排除して糞の分解過程を測定するフンカゴ法を考案し,これによるニホンジカの糞の消失速度を,メッシュバッグ法(フンバッグ法),および糞虫の影響を排除しない従来法(糞粒カウント法)による糞の消失速度と比較した。フンカゴ法による消失速度は,糞粒カウント法とフンバッグ法の中間の値を示した。フンカゴ法に比べて,フンバッグ法では糞が摂食されないために消失速度が小さく,糞粒カウント法では糞が埋設されたために消失速度が大きかったものと推察された。分解過程における糞の炭素,窒素含有率はフンカゴ法およびフンバッグ法で有意な差は認められなかったことから,糞虫が微生物活動に及ぼす影響は小さいと考えられた。以上より,フンカゴ法は,糞粒カウント法やフンバッグ法を併用することで,糞虫による物理的な消失,および糞虫や微生物活動による分解を定量的に評価できることが示された。
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