日本森林学会誌
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93 巻, 6 号
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論文
  • 秋田 寛己, 北原 曜, 小野 裕
    2011 年 93 巻 6 号 p. 253-261
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/13
    ジャーナル フリー
    長野県内における木製治山堰堤 (以下, 木堰堤) の腐朽の進行過程と経年変化を解明するため, 平成19年までの調査結果をバックデータとし, ピロディンを用いて施工後5年および6年経過した木堰堤の継続調査を実施した。その結果, 施工後6年経過した木堰堤のピロディン貫入量の相対度数は対数正規分布を示し, 分布曲線は4年経過以上に正方向へと傾倒していた。次に, 施工直後の正規分布から貫入量26 mmを超過する割合を腐朽比率とし, 腐朽進行を袖部・本体の部位別に比較すると, 腐朽しやすい箇所は6年経過しても, 腐朽が進行しやすい部位のままであった。腐朽の経年変化では, ピロディン貫入量の平均値および標準偏差と経過年数, また腐朽比率と経過年数は相関関係にあり, それぞれ年数を経過するほど測定値の増加が認められ, 腐朽が進行する様子を確認できた。また, 貫入量増加速度は, 流水の無い木堰堤で袖部3.0∼4.9 mm/year, 本体3.9∼4.8 mm/yearと同程度であるが, 流水のある木堰堤では袖部・本体の腐朽速度が軽減され, 本体では2.7 mm/year程度まで減少すると考えられた。
  • 寺岡 行雄, 合志 知浩
    2011 年 93 巻 6 号 p. 262-269
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/13
    ジャーナル フリー
    木質系バイオマスのうち利用の進んでいない林地残材の有効活用に期待が集まっている。林地残材の一部である枝条に注目し, 野外乾燥時期の違いとビニルシート被覆によるスギ枝条の含水率 (乾量基準) の変化を明らかにし, 林地残材の野外での乾燥過程について検討した。スギ枝条を100 cm×90 cm×20 cmの金網でパックし, 三層に重ねて一つの堆積枝条とした。鹿児島大学高隈演習林において, 平成16年7月31日∼10月4日の66日間の枝条パックの重量測定から, 含水率の変化を実験1として明らかにした。次に実験2として, 平成16年11月9日∼12月14日の35日間の含水率変化を実験した。さらに実験3として, 実験2と同時期にビニルシート被覆した堆積枝条としないものを比較した。その結果, 実験1では146%から40%にまで含水率が低下し,実験2では120%から51%へと低下した。ビニルシート被覆があると含水率は115%から35%にまで低下し, シート被覆の効果があった。以上より, 野外乾燥によりスギ枝条の含水率を低下させることが可能であり,燃料としての低位発熱量に大幅な向上が認められた。
  • 阿部 佑平, 柴田 昌三, 奥 敬一, 深町 加津枝
    2011 年 93 巻 6 号 p. 270-276
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/13
    ジャーナル フリー
    京都市では, 左京区の北部山間地域でササの葉が採集され, 京都市内で食品の包装や祇園祭厄除け粽の作成に利用されてきた。本研究では, ササの葉の採集・加工方法と流通・利用状況を明らかにするとともに, 最近まで京都市内でササの葉を生産し, 利用する体制が維持されてきた要因を明らかにすることを目的とした。調査の結果, 当地域の花脊別所町と大原百井町の集落周辺の里山で, 裏に毛のないササの当年生葉が採集され, 天日乾燥されていたことが明らかになった。また, 広葉樹の択伐といった里山管理がササの旺盛な生育につながっていた可能性が示唆された。このような地域の知恵や技術により, 品質の良いササの葉を生産し, 利用する体制が最近まで維持されてきたと考えられた。一方, 2004年から2007年にかけて京都市内のササが一斉開花・枯死した以降は, 他の産地のササの葉が利用されていた。また, ササの葉の生産に関して後継者も不足していることが明らかとなった。京都市において再びササの葉を生産し, 利用していくうえで, ササの葉の生産に必要な労働力を確保すること, ササの葉の生産に関する地域の知恵や技術を伝えていくことが重要であると考えられた。
特集 再造林放棄地の実態と森林再生—九州地方における研究—
巻頭言
論文
  • 村上 拓彦, 吉田 茂二郎, 太田 徹志, 溝上 展也, 佐々木 重行, 桑野 泰光, 佐保 公隆, 清水 正俊, 宮崎 潤二, 福里 和朗 ...
    2011 年 93 巻 6 号 p. 280-287
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/13
    ジャーナル フリー
    再造林放棄地の発生状況を定量化することを目的として, 九州本島全域を対象として各県別の放棄地発生率を算出し, さらに放棄地の発生場所を空間的に明示した。針葉樹人工林伐採跡地の再造林の有無を確認するため, 多時期リモートセンシングデータを用いた画像解析から得られた森林変化点を用いた。また, 今回1998∼2002年 (前期), 2002年以降 (後期) で集計を行い, この2期間で放棄地の発生状況がどのように変化したのか提示した。点数ベースでみてみると九州本島全域での放棄地発生率は前期が24.3%, 後期が30.9%であった。放棄地の分布状況をGISで図化した結果, 前期, 後期とも共通して, 放棄地は九州本島全域の森林域に満遍なく存在しているというよりは, 特定のエリアに集中していた。2次メッシュ単位で人工林伐採面積, 放棄地面積を集計し, メッシュ単位で放棄地発生率を求めた。放棄地が著しく多く発生している箇所 (発生率50%以上) がみられた箇所を前期と後期で比べてみると, その多くが一致しておらず, 放棄地発生箇所が移動していることがわかった。また, 少なくともこの2期間では後期の方で放棄地の発生場所が広く分散するようになっていることが確認できた。
短報
  • 加治佐 剛, 吉田 茂二郎, 長島 啓子, 村上 拓彦, 溝上 展也, 佐々木 重行, 桑野 泰光, 佐保 公隆, 清水 正俊, 宮崎 潤二 ...
    2011 年 93 巻 6 号 p. 288-293
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/13
    ジャーナル フリー
    1990年代から, 九州地方を中心に針葉樹人工林伐採後の再造林を行わない伐採地 (以下, 放棄地) が増加してきた。本研究では, 1998年から2002年までに伐採が行われ, 2008年に再造林放棄と確認された九州全域の199点の放棄地について, 土壌侵食・崩壊の状況とシカの食害, タケ類の侵入, クズ等のつる性植物の繁茂といった木本樹種の回復 (以下, 植生回復) の阻害要因の状況を把握した。その結果, 重度の土壌侵食・崩壊が確認された放棄地が8点 (4.2%) とほとんど問題はみられなかったが, 植生回復の阻害要因は全体の125点 (62.8%) の放棄地で確認された。したがって, 現段階では再造林放棄地における土壌侵食や崩壊の発生は少ない一方, シカ害や竹林拡大などによって植生回復が遅れる可能性が示唆され, 再造林放棄が斜面傾斜によっては植生回復の遅れに伴う斜面崩壊防止機能の低下の危険性を含む複合的な問題であることが示唆された。
総説
  • 再造林放棄地の管理にむけて
    長島 啓子, 大本 健司, 吉田 茂二郎
    2011 年 93 巻 6 号 p. 294-302
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/13
    ジャーナル フリー
    九州における再造林放棄地の植生回復は, 埋土種子・前生樹・新たな種子供給の三つの再生資源の量や種類によって左右されていた。回復初期は3者が重要であるのに対し, 回復初期から中期には新たな種子供給が重要となる。常緑樹の種子供給可能性が高い放棄地ほど照葉樹林を構成する樹木が優占する林分へ変化していた。シカの食害は本来回復するはずの植生の再生を阻害することで, 回復パターンに影響を与えていた。特にシカの食害が中∼重度の場合は初期に草地型植生になる場合が多く, 植栽などの積極的な管理を行う必要性が示唆された。非先駆性の常緑樹や落葉樹の種子供給可能性が低く, 埋土種子量が少ない放棄地では, 先駆性樹種の植被率が低い先駆性樹種侵入型の植生となり, その後の非先駆性樹種の種子供給可能性も低いため, 10∼15年経過しても先駆性樹種が優占する可能性があるが, 更なるモニタリングが必要である。その他の常緑樹/非先駆性落葉樹が優占するパターン, 先駆性樹種の優占後, 10∼15年後に常緑樹/非先駆性落葉樹が混交するパターンを示す放棄地は早急な労力投入の必要性は低いが, 照葉樹林に回復するか長期的なモニタリングが必要であろう。
論文
  • —オビスギ植栽密度試験地の結果から—
    福地 晋輔, 吉田 茂二郎, 溝上 展也, 村上 拓彦, 加治佐 剛, 太田 徹志, 長島 啓子
    2011 年 93 巻 6 号 p. 303-308
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/13
    ジャーナル フリー
    宮崎南部森林管理署管内に設定されている系統的配置法によるオビスギ密度試験地 (1972年設定) の測定データをもとに, 植栽密度が単木と林分単位の成長ならびに林木形質に与える影響を明らかにするとともに, 低コスト林業に向けた植栽密度について考察した。試験地は, Nelder (1962) が考案した円状のもので, 1箇所に2反復, 計2プロットがあり, 各プロットはha当たり376∼10,000本の範囲で10段階の植栽密度があり, 各密度区は36本の試験木からなる。解析の結果, 極端な高密度と同低密度では林木形質や目標サイズに達するまでの時間などから, ともに望ましくないことがわかった。利用上, 形質にこだわらない場合であれば, 高密度区ではha当たり蓄積が高いために有利であるが, 1,615本の植栽密度区以上ではほぼ一定であった。一方, 形質を求める場合は, 高密度の植栽では形質が悪く, 逆に低密度では良形質材の林分材積量が低かった。これらから, 植栽密度区6 (範囲は約2,000∼2,800本) の中間的な植栽密度が望ましいことが示唆された。
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