中国の会社経営では,高度経済成長の下で収支計算と損益計算との間に乖離が発生していると推測される.しかし,この乖離の現状を明らかにした研究成果はない.そこで,本論文では,農業関連会社について次のことを明らかにした.第1に,農業関連会社の経営の現状である.P/LとB/Sにもとづく分析であるが,収益性は2005年まで低下し,その後上昇していた.主な低下要因として事業投資の増加に関連する費用の増加があげられた.上昇要因として需要の増加に伴って売上高が増加したことがあげられた.しかし,事業投資のために借入金を増加させたことによって,財務安全性が悪化していた.C/Fにもとづく資金循環分析であるが,財務安全性は2005年まで悪化し,2007年には健全なCFを実現していた.主な悪化要因として事業投資によって投資活動のCFが営業活動のCFを上回っていたことがあげられた.健全なCFを実現した背景として2006年と2007年の金利引上げ政策があげられた.第2に,乖離の現状として,乖離が拡大する傾向はみられず,乖離の変動が大きいことを明らかにした.第3に,乖離とその変動の要因を明らかにした.すなわち,乖離をプラス方向に大きくする要因として,借入金,増資,財務投資の回収の3つを,また,乖離をマイナスの方向に大きくする要因として,債務返済,事業投資,財務投資(1998年〜2005年)または配当及び支払利息(2006年・2007年)の3つを明らかにした.さらに,第4として,本論文をとおしてC/Fを次のように位置つけることができた.すなわち,発生主義にもとづくP/LやB/Sに対して,現金主義にもとづくC/Fは補完的役割を果たすということである.とくに,財務安全性についていえば,B/Sでは静態的な分析にとどまるが,C/Fでは経営活動を3つにわけて資金の流れを動態的に分析することができる.最後に,今後の上場農業関連会社における乖離についてであるが,2007年以降健全なCFを維持することが予測される.すなわち,減価償却費の増加,財務費用が要因となって,乖離はプラス方向に安定的に拡大する.したがって,今後,C/Fの重要性がさらに高まるであろう.
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