遅滞児、遅滞者、健常児の3群のWISCの成績に着目し、彼らの知能構造について検討がなされた。遅滞児群(60名)の平均生活年齢は13歳6ヵ月、平均IQは52.80であった。遅滞者群(35名)の平均生活年齢は29歳10ヵ月、平均IQは47.23であった。健常児群については日本版WISCの10歳児の内部相関表が用いられた。分析手続きとしては、通常実施される10個のサブテストに代替問題である「数唱問題」を加えた計11個のサブテスト間の相関行列について、各群別々に主成分分析が行なわれた。その結果は、以下の通りであった。(1)11個のサブテスト間の相関行列における相関係数の値は、概して、健常児の方が遅滞児や遅滞者よりも大きかった。(2)主成分分析の結果から得られた固有値の推移についてみると、健常児は遅滞児や遅滞者に比べて、第1主成分の固有値が一層大きく、第2主成分以下の固有値が急激に小さくなっていた。(3)3つの群から共通に、(1)一般知能の因子、(2)言語能力が要求されるサブテストとそうでないサブテストとを区別する因子、(3)数処理能力が要求されるサブテストとそうでないサブテストとを区別する因子、の3因子が抽出された。因子の内容については3群間で差がみられなかった。しかし、一般知能の因子の寄与率は健常児の方が遅滞児や遅滞者よりも大きかったのに対し、残りの2つの因子の寄与率は遅滞児および遅滞者の方が健常児よりも大きかった。
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