成人期の発達障害者へのコーチングは、クライエント(以下、Cl)の主体性を重視し、目標行動の達成に向けた支援を提供するアプローチである。近年の研究からコーチングが有効であるとされるが、失敗の悪循環から適切な行動の選択肢が少ない発達障害者にとって、より好ましい行動を想起することが困難な場合がある。そこで、本研究ではコーチングと併せて、新しい情報を得るアプローチとして読書療法を実施した。介入前後の日常生活上の支障と、気分や感情の指標の変化と、コーチングと読書療法のそれぞれの介入の長所・短所についての口述データをもとに、読書療法がコーチングを補完する要素を検討した。KJ法に則り分析した結果から、読書療法の「想起と確認が可能になる」点、本の「内容が参考になる」点は、コーチングを補完する要素となることが示された。
本研究では、教員が知的障害特別支援学校において教科指導をする際の学習指導要領の活用状況とその課題について明らかにすることを目的とした。若手教員およびその指導を担当した教員に対して、授業実践や学習指導要領の活用について半構造化面接を実施した。それぞれの発話データからKH Coderによる計量テキスト分析を行った結果、若手教員は子どもの実態把握と学習指導要領における段階への対応づけに苦慮していることが明らかとなった。一方で、指導教員においては、子どもの実態に即して教科指導の学習目標を立てるときに、学習指導要領の解説が拠り所となっていた。学習指導要領の解説は情報量が多いことから、今後は解説の内容をより参照しやすくなるようなツールの開発が必要であろう。
本論文では、言語獲得後に難聴となった者、軽度・中等度難聴者、片側だけ難聴である一側性難聴者、聴覚情報処理障害のある者、身体障害者手帳を持っていない難聴者のように、これまで心理的支援の対象になりにくかった聞こえ・聞き取り困難者も含めた難聴者、中途失聴者に対してどのような心理的支援があるかを示し、日本における取り組みの現状を述べた。心理的支援には、専門家による支援、専門家ではない身近な人の支援、難聴当事者による支援があげられる。さらに、当事者による支援は、自助グループ、当事者交流会、当事者研究という形態に分けられる。次に、心理的支援の活動実践について述べ、当事者による支援について詳細に現状と問題を述べた。今後の課題として、当事者会の開催に必要なノウハウの蓄積、心理的支援の効果について実証的に研究すること、心理的支援活動に取り組む当事者会に関して広く啓発したり情報発信したりすることの必要性について指摘した。
幼児期に発症する発達性吃音は、近年、その8割程度が発症から数年後に自然回復することが報告されている。そしてその経過に関して、遺伝・生物学的特徴、発吃時の特徴、発話症状の変化、子どもの各種能力や気質、併せ持つその他の障害の有無、環境などの要因の関与について研究が蓄積されつつある。本研究では、近年の吃音の予後予測因子に関するレビュー研究、メタアナリシス研究、予後予測モデル構築の研究を概観した。その結果、吃音の家族歴・性別のような遺伝・生物学的特徴が非常に強力な予測因子として基盤にある上に、発話症状の重症度や子どもの言語関連能力のような発達の影響を受けて変化しうる要因が付加的な予測因子として存在する可能性が示唆された。これらの結果を踏まえ、幼児期および学齢期の吃音臨床における評価項目や指導内容について提案するとともに、追跡期間や吃音の評価基準など、今後の研究における課題について言及した。