特殊教育学研究
Online ISSN : 2186-5132
Print ISSN : 0387-3374
ISSN-L : 0387-3374
34 巻, 5 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
  • 藤井 和子
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 1-8
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、ことばの遅れを持つ男児を対象に3歳1ヵ月より言語指導を開始した事例研究である。指導開始直後は有意味語がなく、音声のレパートリーも母音が主で子音はほとんど獲得されていない状態であった。ことばかけに対する反応は乏しく、人とのやりとり遊びがなかなか育たなかったが、商品名を記したマークに関心を持ち、マークの名称を言ってもらう時だけ人への接近がみられたことが特徴的であった。その後、マークからひらがな文字へと興味が移り、4歳8ヵ月にひらがな文字を媒介に音声模倣を獲得してから徐々に音声言語が発達し、5歳9ヵ月に三語文を獲得するに至った。本研究では、本児の音声言語獲得過程についてまとめ、音声言語獲得に影響を及ぼした要因について考察した。
  • 三浦 光哉
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 9-15
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    ダウン症児に対して、排泄行動(本論では,主に排尿の意)を形成させるために、親と教師が一緒に作成した親参加型個別指導プログラムを基に実践指導を行った。1ヵ月間の指導期間を第I期から第V期に分け、第I期から第IV期までは定時排泄させて排泄間隔の時間を延ばしていき、第V期からは定時排泄を中止した。その結果、1ヵ月後には、排泄の要求ができるようになり、お漏らし回数も少なくなった。また、排泄するための一連の行動を習得させるために、「トイレに行く」「ズボン(パンツ)を下ろす」「おしっこをする」「ズボン(パンツ)を上げる」の4つの指導項目に分け、それぞれの指導項目ごとに1ヵ月後の目標段階を予測して指導目標を設定した。家庭と学校との両場面で指導を行った結果、3つの指導項目で指導目標を達成することができた。
  • 柳沢 君夫
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 17-22
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    統合保育を行っている保育園・幼稚園への巡回訪問についての研究は多く報告されている。しかし巡回訪問指導を行う指導員の専門性についての研究は少ない。巡回訪問指導員は専門性を持つことが前提とされるが、公立の障害児施設に配属された職員が必ずしも専門性を持っているとは限らない。そのため、巡回訪問指導員と障害児保育に関わる者の専門性の獲得のための方策を検討する必要がある。方策としては、(1)個別指導を通した臨床経験を積む、(2)保育を学ぶ、(3)専門機関内での研修体制を整える、(4)専門機関が職員の専門性習得の役割を持つ、(5)巡回訪問のフィードバックをすることなどが考えられる。基本的には専門機関の職員自らが学ぶ姿勢を持つことが必要である。そして実践研究などの報告を自主的な勉強会や学会等で行い、地方自治体等に統合保育と巡回訪問指導の成果を示し、巡回訪問指導員の専門性確立への体制を作り上げることが必要といえる。
  • 佐藤 曉
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 23-28
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、漢字書字に困難を示した学習障害児における漢字の書字指導と学習過程を分析した。その結果、漢字形態の構成要素を視覚的に分節化してとらえることやそれらを空間的に配列する構成行為のまずさが、漢字視写の困難をもたらしていることが示された。これに対し、漢字を構成する十の要素(宮下,1989)に注目して漢字の形態をとらえさせるとともにこれらの要素の運筆技能を習得させたところ、漠字視写や直接練習の対象としなかったかな書字に大きな改善が見られた。一方、漢字の書き取りの困難は、視覚的な記憶の問題と深い関わりがあることが示唆された。そこで、漢字一つ一つについて構成要素を言語化させることによって視覚的記憶のまずさを補ったところ、書き取りの成績が向上した。さらに、書き誤りの多い漢字については、書字過程におけるメタ認知やモニター機能(海保・野村,1983)に着眼して指導することによって、書字の誤りが軽減された。
  • 上岡 一世
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 29-36
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    自閉症者の就労の拡大を図るために、愛媛県下の自閉症者(養護学校高等部を1984年から1995年までに卒業した者)の就労状況を親と職場の両面から調査し、分析、検討を行った。その結果、就労している自閉症者の中には重度と判定された者(療育手帳A)が半数いることが分かった。また、作業能率が就労後に著しく向上していることも明らかとなった。調査結果についての考察から、就労を目指すための指導要件として、次の6点があげられた。(1)職場の理解を深める。(2)指示が理解でき、自分のことは自分でできるようにする。(3)問題行動のコントロールは必ずしも就労の前提条件とはならない。(4)就労は必ずしも知的水準により左右されるものではない。(5)余暇を充実させる。(6)家庭指導の徹底を図る。
  • 姉崎 弘
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 37-43
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    授業場面をVTRで録画し、指導の評価や改善を試みるという研究方法が教育研究として広く行われている反面、養護学校現場においてはまだ十分に研修方法として定着していないのが現状である。そこで本稿では、養護学校の実情を踏まえて試行的に開発したVTRを用いた研修方法を初任者研修会で実施し、研修後の筆者の反省および初任者のアンケート結果の検討から、次のような新たな方法上の知見を得た。(1)評価画面は一場面の中ほどのまとまりのある部分を抽出して編集した方が、授業の流れや子どもの反応の経緯がわかりやすく評価しやすい。(2)この研修方法の初心者に対しては、はじめに評価する項目を、たとえば「視線」の一つに限定して、子どもの反応のレベルや頻度等の評価の仕方を実際に理解してもらうことが大切である。それから評価項目を増やしていくようにする。
  • 板井 亙, 大野 由三
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 45-51
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    小学校特殊学級に在籍している、他に障害を合わせ持たない軽度精神遅滞児20名に対して、1位数+1位数の加法計算を行わせた。そこで観察されたストラテジーの出現頻度を明らかにし、ストラテジーの特徴を検討した。観察されたストラテジーは、「2集合の和」「数え足し」「10の補数」「他の加算補正」「念頭操作」であった。このうち「2集合の和」と「数え足し」は3つのタイプのストラテジーが観察された。加法計算の和が10以下の場合は「念頭操作」が多く選択され、和が11以上の場合は「2集合の和」、「数え足し」、「10の補数」が多く選択された。また、被加数、加数の大小では選択されるストラテジーに変化が見られないが、同数の場合は「数え足し」が減り、「念頭操作」が多く選択された。誤答の要因として、計数操作の未熟と操作の量の多少が考えられた。
  • 阿部 秀樹
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 53-57
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は一自閉症幼児の2年間に渡る療育から、ひらがなが獲得され、概念形成が行われた経過について考察を行った。療育経過はI期、II期の2つの期に分けた。I期では、ひらがなの読みが獲得されたが、その要因として弁別課題や構成課題の大きな進歩があげられた。また、II期では、なぞなぞやルール活動などの概念学習課題の中に、I期で獲得された文字を活用したことが、概念の達成の手がかりとなっていた。さらに、集団療育場面においても、概念が形成されたことが、場面・状況の把握の向上や、集団への積極的な参加につながっていたことが示唆された。
  • 坂井 聡
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 59-64
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    音声表出がほとんど見られない自閉症児二名を対象にして、Voice Output Communication Aid(以下,VOCAと略す)を使って、機能的コミュニケーションの指導を行った。その結果、次のような3点において指導の効果が現れた。(1)自発的なコミュニケーション行動の増加。(2)問題行動の減少。(3)表出言語の増加。また、その後もVOCAを使ったコミュニケーション行動は維持されている。以上のようなことから、VOCAは自閉症などのコミュニケーション障害をもつ人たちに対しても、有効なコミュニケーション手段になると考えられる。また、コミュニケーションの指導の有効な手段の一つとして、取り上げる価値があることを示唆している。
  • 名古屋 恒彦
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 65-71
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    生活中心教育の、知的障害生徒に対する作業学習では、生徒一人ひとりに作業がよりよく「できる状況」を作ることが重視される。このために、道具・補助具の活用、教師の声かけ・手助けなどの支援的対応が行われる。本研究では、事例対象生徒に対して、作業学習で講じられたこれらの支援的対応について、分析を試みた。その結果、全観察記録の88%について、作業が継続された様子が示された一方で、教師の声かけ・手助けは9%であった。また、観察回を追うごとに、自発的活動、作業の継続、作業量の増加、仕事の正確さについて、若干の向上が認められた。以上から、作業学習での、道具・補助具の活用、教師の声かけ・手助けが、できる状況作りの支援的対応として、有効であることが示唆された。
  • 湧井 豊, 藤井 和子, 高橋 登
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 73-80
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    粘膜下口蓋裂術後に鼻咽腔閉鎖機能軽度不全を伴った口蓋裂児の構音指導について報告した。本症例は、ほとんどの音が一貫した声門破裂音を呈し典型的な口蓋裂言語の症状を示していた。鼻咽腔閉鎖機能については、吹く訓練を実施した結果、機能改善が認められたので医療処置をせずに構音指導を開始したが、正常構音獲得までに1年6ヵ月を要した。指導が長期化した最大の要因として、患児側の聴覚的弁別力の低さ及び数回にわたる中耳炎罹患、指導者側の問題としては鼻咽腔閉鎖機能に対する判断力の正確性があげられた。本症例のような閉鎖機能軽度不全という境界域タイプに対する指導は、医療処置の要・不要の判断を含め極めて困難な場合が多いが、より多くの臨床経験を積み確実な判断力を身につけることが必要であると示唆された。
  • 池田 顕吾, 若松 昭彦
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 81-89
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    共同作業所に通う、寡動傾向が強く仲間との関わりも少ない22歳の成人自閉症者を対象として、作業場面への介入による知的障害を持つ仲間6名との相互交渉の促進を試みた。その結果、ペアを組んで作業を行うことやペアの仲間に作業に対する援助手続きを教示することによって、作業内容に関連しない仲間からの働きかけや作業場面以外での援助などが見られるようになった。援助手続きの教示は、ペアの仲間よりもペア以外の仲間に対して効果的であった。また、対象者も各々の仲間に応じた関わり方を見せるようになり、作業時間の中で関わり合う経験が、その他の場面での相互交渉を発展させる契機となり得ることが明らかにされた。しかしながら、介入を止めると相互交渉は減少し、継続的な援助や環境設定の必要性が示唆された。また、仲間が興味を示した援助手続きを用いたことも相互交渉の促進要因であることが推察され、それぞれの実践現場に応じた探究が望まれる。
  • 長南 浩人
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 91-98
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、ろう学校高等部生徒の副詞の語彙を増加させることを目的として、(1)主に文字・音声を利用し、指導者の解説などに手話を利用する条件と(2)文字・音声に学習者自身が使用した手話表現を加え、それを日本語に変換し、指導者の解説などにも手話を利用する条件で指導を行い、それぞれの効果を検討したのである。その結果、手話の副詞的表現が多い学習者は、指導条件(2)の後のテストで成績が向上したが、手話の副詞的表現が少ない者は、成績が向上しなかった。また、作文では、前者は副詞の使用頻度が増加した。後者は、副詞の使用頻度は増加しなかった。このことから、手話を利用した指導の効果は、学習者の手話の能力に規定されることが明らかになり、学習者の手話の能力を考慮して指導を計画する必要性が示唆された。
  • 高橋 和子
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 99-108
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    学童期の高機能自閉症児に対し、INter-REActive-Learning(INREAL)アプローチによって会話能力、特に応答能力を育てるかかわりを2年7ヵ月間にわたり行った。本研究では、子どもの応答プロセスにおける意図の理解と表現に焦点をあて、(1)どのような大人の援助が効果的なのか、(2)子どもの問題はどこにあり、援助によってそれがどのように改善されたのかについて、後半の取り組みを中心に検討した。第1段階では、子どもの説明能力と基本的な疑問文に答える能力を育てることができた。第2段階では、それをもとに会話の調整能力を育てることをねらい、子どもの会話能力に問題のあることを知らない大人と子どもの会話場面を設定し、そこに子どもの援助者が加わり援助を行った。援助方法で効果的であったのは「限定質問」であり、それによって子どもは相手の意図に呼応する自分の意図を焦点化し、適切な応答ができるようになった。獲得した応答能力は、実際の生活でも活かされている。
  • 高村 法保
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 109-116
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、全寮制肢体不自由高等養護学校における「近隣の環境整備」(まちづくり)の取り組み(2ヵ年)とその検討である。本校では1990年前後から、生徒が市内などへ外出するとき、道路や交通に関した問題点が表面化してきた。1992年6月に、臨時に「近隣の環境整備委員会」が設けられ、学校・PTA・町内会の連携をもとに、「近隣の生活環境」の改善を図ることになった。点検活動を実施し、関係機関に「要望書」を提出した。1993年度には縮少された「環境改善小委員会」で、要望事項の再検討などを行った。その経緯と結果を(1)「要望書」(要望事項)の分析、(2)まちづくり(点検活動)の役割から検討し、移動制約の実態・物理的なバリアの除去・改善の目標設定の必要性・点検活動の意義・交通基本法の制定等が示唆された。課題としては、協議会の設置・「環境整備要項」の制定・他の障害者施設等との連携・まちづくりへの理解.生徒の取り組みへの参加、などが考えられる。
  • 安部 博志
    原稿種別: 本文
    1997 年 34 巻 5 号 p. 117-123
    発行日: 1997/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、小学校心身障害学級に在籍する2名の自閉症児に対して、路線バスを利用して一人通学するための訓練プログラムについて検討した。訓練プログラムの計画と実施にあたっては、応用行動分析の手法を用いた。対象児Aは、訓練開始から9ヵ月後に、またBは2年後に、それぞれ単独での登下校が可能となった。しかし、現実場面の訓練の進行に伴って、予期せぬ様々な問題行動が出現したために特別な訓練を実施する必要があった。さらに、安全な登下校を可能にするためには、対象児への訓練ばかりでなく、横断歩道への足型の設置など、社会環境への介入を実施する必要があった。2年半に及ぶ訓練の結果から、シミュレーション場面と現実場面とを組み合わせて訓練することが、移動スキルの形成と般化にとって有効なことが示された。対象児の変容に合わせて、訓練プログラムを柔軟に修正することの重要性が示唆された。
feedback
Top