特殊教育学研究
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36 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 松田 信夫, 植田 恵子
    原稿種別: 本文
    1999 年36 巻5 号 p. 1-8
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    要求構文等の基礎的スキルを既に有しつつも、その対人的使用面に課題をもつ6歳の自閉症児に対して、共同行為ルーティン「ホットケーキ作り」を設定し、適切な要求構文等の使用を目的とした指導を14セッション行った。対象児は、本指導を通して急速な変容を示した。要求構文(2語文、3語文)・質問構文は第13〜14セッションまでにほぼ習得され、構文の発話を必要とする状況を意図的に組み込んだ指導が、構文の対人的使用を促進させたと考えられた。児童間の相互交渉の指導では、行為の主導化に相応して他児への関わり方が変容した。指導者によるプロンプトの提示と構造化された共同行為ルーティンの継続により、先行する事態の想定が可能になり、関わり方の変容をもたらしたと推測された。また、習得内容が家庭生活場面にも般化しつつある事実も示され、当指導の有効性が示唆された。
  • 高畑 庄蔵, 武蔵 博文, 安達 勇作
    原稿種別: 本文
    1999 年36 巻5 号 p. 9-16
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、知的障害の養護学校高等部生徒9名を対象として環境・リサイクルに関する授業を実施し、対象生徒がそれぞれの家庭においてゴミ出し行動を自発し長期的に維持することであった。家庭場面での標的行動の自発を促進するために「生活技能支援ツール」(武蔵・高畑,1997)として「ゴミ出しミニブック」を作製し、対象生徒に提供した。それは、標的スキルの習得や実施を容易にする手がかりとなるもの、自己の行動を記録して、対象生徒と保護者と教師とが評価し合う機会を提供するものとで構成された。結果、5名について標的行動の実行が確認され、授業終了から1年5カ月間の維持が確認された。また、生徒本人に標的行動に関する事前・事後アンケート、保護者に生徒の家庭場面における標的行動の自発に関するアンケートを実施した結果、概ね肯定的な評価を得た。家庭場面での標的行動の自発・長期的な維持の方略、養護学校における教育的支援のあり方の観点から考察を行った。
  • 石田 宏代
    原稿種別: 本文
    1999 年36 巻5 号 p. 17-23
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    ダウン症児の発語の明瞭さについて、単語レベルと単音節レベルで、健常児や非ダウン症知的発達障害児と比較し、その特徴を明らかにするとともに、それに関係すると思われる単語の聴取のしかたや音韻意識に関しても、ダウン症児特有の問題がないかを検討した。その結果、ダウン症児は他の2群より、単語・単音節ともに明瞭度が低く、特に両者の明瞭度の差が大きく、単音節の明瞭度が良くても単語レベルに般化していかない事例が多かった。単語の聴取や音節分解については、ダウン症児の成績は他の2群より低く、特に9歳未満の段階では、その差が大きかった。また音節分解については多音節になるほど誤り傾向が高かった。また発語明瞭度と単語聴取率との相関が他の群に比べ高く、単語中の音への意識化の指導の必要性が示唆された。
  • 中島 豊
    原稿種別: 本文
    1999 年36 巻5 号 p. 25-32
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    組織キャンプが慢性疾患児のリハビリテーションや治療に取入れられ実施されている。筆者は1988年より1995年まで、東京都M区の小児気管支喘息児のキャンプに生活指導員として参加した。他自治体のキャンプと比較した特徴点は、発作への対処法の指導に関し(1)保健婦、医師らと生活指導員間の協力と役割分担の体制の確立、(2)指導内容のカリキュラム化、(3)子ども中心の指導の組立てや環境作りの推進である。特徴点を検討すると、それら指導の構築には生活指導員が他職との連携と組織化を図り、かつ他職から協力と積極的な参加が欠かせなかった。特徴点の形成要因として、生活指導員が組織キャンプの経験と運営能力を有し、医療や行政との信頼を築いてきたことが明らかにされた。生活指導員がキャンプを組織化した点に意義はあったが、身体の鍛練の不十分さなどに課題が残った。
  • 上岡 一世, 阿部 修一
    原稿種別: 本文
    1999 年36 巻5 号 p. 33-39
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では、企業就労している自閉症者の職場での適応状況を、筆者らが職場に足を運び、実際に彼らに関わっている現場の人に面接調査し、職場適応を可能にする要因について検討した。その結果以下のことが明らかになった。(1)分かりやすく、単純な仕事で、しかも機械作業が彼らに最も適している。(2)彼らが職場で適応できるかどうかは、問題行動があるなしよりも、どれだけ仕事ができるかどうかにかかっている。(3)職場への適応は知能水準により決まるものではない。知能の低い者ほど適応がよい傾向にある。(4)職場の人が自閉症に対する理解をどれだけ深めることができるかが、適応のポイントである。(5)就職援護措置の活用が必要である。(6)就労後も職場と密接に連絡を取り、根気強くfollow-upを続けることが重要である。
  • 古屋 義博
    原稿種別: 本文
    1999 年36 巻5 号 p. 41-47
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    不適応行動を示す子どもに対しては、養護・訓練の内容と関連づければ、不自由な「運動・動作」を積極的に自ら制御するような指導事項の設定が「心理的適応」につながるとの指摘がある。筆者は不適応行動を示す重度の発達障害のある脳性まひ児に1年間、「運動・動作」の改善をねらって、身体の動きの制御の指導を週2回の個別授業で行った。この個別授業とその1時間前の集団授業で出現した不適応行動の程度を4つの基準で評価するのに加えて、「心理的適応」と「運動・動作」の状態の変化を象徴するエピソードを記録した。その結果をもとに、不適応行動の変化と身体の動きの制御の仕方の変化との関係を筆者による指導の在り方を含めた環境との関連から考察した。本実践の場合、筆者による指導を本児が受容した結果として、不適応行動が減少して、その後を追うように身体の動きの制御の仕方が変化した。
  • 徳永 豊
    原稿種別: 本文
    1999 年36 巻5 号 p. 49-56
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    不完全な10程度の単語による発語は可能だが、状況に応じた会話が難しい脳性まひ児に対して、関わり手(筆者)と一緒に「動きの課題」に取り組むことで、やりとり行動を形成することを試みた。その結果、状況に応じた発語や言葉による人との会話が安定してきた。本児は、座位が難しく、移動は四つ這いの脳性まひ児であり、日常的な簡単な会話は理解可能であった。状況に応じた発語や関わり手の働きかけに応じる行動が難しく、自分の行動を相手の行動に合わせる力が乏しかった。そこで、本児が注意や気持ちを向け、相手と一緒に取り組むことが容易な「動きの課題」を取り上げ、動きの学習に併せてやりとり行動の指導を実施した。初期は、関わり手に接触されたり、行動を止められたりすると緊張し興奮することが多く、一緒に課題に取り組むことが難しかった。指導経過の中で、興奮し拒否する行動は少なくなり、提示された課題に取り組みながら、関わり手とのやりとり行動が安定した。また、「動きの課題」を手がかりとする場面だけでなく、言葉による会話も成立するようになった。さらに発語数も増加し、相手に合わせる行動が増加した。「動きの課題」を手がかりとしたやりとり行動の形成は、自発的な発語が乏しい子どもの場合にも前言語的コミュニケーション能力を高めるひとつの方法であるが、さらに自発的発語はみられるものの、その発語が他者とのやりとりにつながらない場合にも有効な方法であることが示された。
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