知的障害教育に携わる特別支援学校教諭の職能成長の諸側面と学びの実態を明らかにすることを目的として質問紙調査を実施した。その結果、職能成長に関連する特に重要な要素として、「子ども理解と関係形成」「保護者との連携」「同僚との関係」が抽出された。知的障害教育の専門性とされる各教科等を合わせた指導などの重要度は相対的に低く、教師としての普遍的な資質能力が重視される傾向であった。また多くの教師が同僚から学んだり支えられたりした肯定的な経験があることが示された。知的障害教育経験が長いほうがやりがい・自信を感じる傾向が認められ、保護者との連携や多様な資源を困難の解決に役立て職能成長の糧にできることが示唆された。教職経験年数が長くても特別支援学校(知的障害)勤務経験年数が短い教師は「子ども理解と関係形成」をはじめとした初任期と同様の困難を抱えやすいことが示され、同僚を介した学びや支援の必要性が示唆された。
本研究では、公立小学校の通常学級に在籍する場面緘黙の2年生男児に対し、学級担任による支援で発話状況がどの程度改善するのかを明らかにすることを目的とした。そこでまず、対象児が話すことに対し前向きになることを目的として、4月から学校において安心できる環境づくりを行った。次に、6月から翌年2月まで、対象児が学校で発話できるようになることを目的として、学校や対象児の自宅、医療機関において計22回の発話支援を行った。学校での発話支援の際には、担任が作成したお話チャレンジカードや九九がんばりカード、質問カードによる発話練習を行った。これらの支援の結果、4月には学校で発話できなかった対象児が、翌年2月には担任が近くにいれば意見交流やスピーチでの発表など、授業中の発話が求められる場面で声を出せるようになった。以上より、通常学級の担任が緘黙児の支援を行うことで緘黙児の発話状況を改善させることは可能であることが示唆された。
ユーモアは、刺激に対して認知的な処理を行うことで生起する、おもしろいという一過性の愉悦の情動体験である。本研究は、自閉スペクトラム症(以下、ASD)者におけるユーモアに関する研究動向と課題を明らかにすることを目的とした。ASD者はユーモアの理解、 体験、表出において特異性が窺われ、独自のユーモアがある可能性が推察された。ASD者のユーモアの特徴として、他者のユーモアの意図理解の難しさや、典型発達(typically developed)者よりも部分に注目したユーモア体験をしやすいことなどが示された。この背景には、ASD者の「中枢性統合の弱さ」や「心の理論」の障害などが影響していると考えられた。課題として、ユーモアを捉える際の指標の問題、ユーモア体験の促進要因の検討の必要性、ユーモアの理解と体験の関係性を踏まえた検討の必要性、ユーモア表出に関する知見の乏しさが考えられた。これらの課題を解決するとともに、ASD者支援としてのユーモアの有用性について検討することが望まれる。
ワーキングメモリは、進行中の認知的な処理に利用できるように、限られた量の情報を一時的に保持しておく記憶である。知的障害児・者はワーキングメモリに弱さがあることが知られているが、近年、ワーキングメモリは知的障害の成因にも関わる可能性が指摘されている。本稿では、知的障害児・者のワーキングメモリ研究に関する現状と展開を議論するにあたり、ワーキングメモリ特性に関する研究知見を概観した。その結果、知的障害児・者のワーキングメモリ特性は保持内容の領域によって特徴づけられ、知的障害の病因によって異なることが示された。また、知的障害に共通する問題として、ワーキングメモリにおける注意制御の弱さが示唆された。最後に、知的障害児・者のワーキングメモリ特性に関わるメカニズムやワーキングメモリトレーニング、長期記憶との関連を含めて、これまでの研究の問題点や今後の研究に向けた方向性を提示した。