特殊教育学研究
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56 巻, 1 号
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資料
  • 平野 礼子, 佐々木 銀河, 野呂 文行
    原稿種別: 資料
    2018 年 56 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー

    本研究では、物の名称に関する受容言語の獲得に困難のある自閉スペクトラム症の幼児1名を対象に、音声に対応する絵カードの選択を求める見本合わせ課題を実施した。研究の目的は、音声あるいは絵カードのそれぞれに対して動作表出を行う介入の効果を検証し、動作が受容言語の獲得に及ぼす機序について明らかにすることであった。音声に対して動作表出を行う指導と、絵カードに対して動作表出を行う指導を継時的に導入し、指導前後に刺激間関係のテストを行った。その結果、音声に対して動作表出を行う指導を単独で実施するよりも、絵カードに対して動作表出を行う指導と合わせて実施するほうが受容言語の獲得を促進し、音声-動作-絵カードの刺激間関係の学習が成立することを示した。加えて、対象児の受容言語の獲得において動作を媒介する必要があったことから、音声と動作に対する絵カード選択を求めることが共同的な刺激性制御として機能していたと考えられた。

  • 永井 祐也, 武田 鉄郎
    原稿種別: 資料
    2018 年 56 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー

    ムコ多糖症のある幼児児童生徒57名が学校等で受けた教育的支援に関する保護者の認識と具体的な支援内容、それに対する満足の評価との関連を検討した。その結果、個別対応や心理的安定を図る支援が行われたときに、非常に満足した保護者が多かった。心理的安定を図る支援を回答した保護者は共通して個別対応も回答していたことから、実質的な配慮に加えて、本人の気持ちも考慮した学習活動の展開が保護者の満足感をより一層高める可能性が示唆された。一方、支援がなかったと回答した場合に、幼児教育機関在籍時では不満足という回答が多く、小学校(部)在籍時の満足の評価はどちらでもないという回答が多かった。 この傾向の変化は、継続して教育的支援を受けていないという保護者の認識が影響した可能性が示唆された。教師には、支援の方針を保護者と共有し、子どもの気持ちに寄り添いながら個々の課題に合わせた支援を行うことが求められる。

実践研究
  • 永冨 大舗
    原稿種別: 実践研究
    2018 年 56 巻 1 号 p. 21-31
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー

    本研究は、知的障害特別支援学校において自立活動の時間における指導が日常生活場面においても生かされるように、教員間で目標や指導方法を共有する環境設定を構築し、効果と課題を明らかにした。従属変数は、生徒の実態と高等部が企業や作業所から聞き取ったニーズ表を参考に、「自分から挨拶をすること」とした。指導では、視覚的プロンプトの提示と流暢性トレーニングを行い、生徒の担任教員が指導に加わった。その結果、30名中26名の生徒が登校時に自分から担任教員に挨拶ができるようになり、指導に加わっていない教員に対しても、挨拶ができるようになった。指導後に中学部教員に行った社会的妥当性に関するアンケートにおいては、共通の目標をたて、指導することに必要性と効果が認められた。一方、教員の負担を下げ、実現性を高めるシステム作りを行うことが課題となった。

研究時評
  • 樋口 和彦
    原稿種別: 研究時評
    2018 年 56 巻 1 号 p. 33-46
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、重度・重複障害児の学習とは何かを検討することである。学校現場では、重度・重複障害児は障害が重度で重複しているため指導目標や指導内容の設定が難しい、という意見が聞かれる。特別支援学校の教師は、何を学ばせればよいかわからない状況にあると推測される。しかし、障害が重度であっても、子ども自身が能動的に外界に働きかけて学習することが重要である。本稿では、重度・重複障害児の学習に関する研究動向を概観し、この領域において、学習がどのようにとらえられてきたかを検討した。そして、5つの観点から重度・重複障害児の学習に関する研究を分類整理した。すなわち、①かかわり手との関係、②認知発達と行動形成、③集団での学習、④共同注意、⑤生態心理学である。先行研究の内容から、どの観点で学習を検討する場合も、かかわり手の行動と学習する際の状況設定は重要であることが示唆された。さらに、今後の展望として、文化心理学の観点から、重度・重複障害児の学習について議論した。

  • 松下 浩之
    原稿種別: 研究時評
    2018 年 56 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー

    近年、障害のある人の好みを客観的に評価し、支援計画に活用することの重要性が指摘されている。そのための方法論として、応用行動分析学にもとづいた研究が海外では多くされている一方で、わが国においては、支援実践としての報告も多くない。本研究では、好みのアセスメントに関する海外の先行研究を概観して方法論の整理を行うとともに、直近5年間にわが国で発表された実践研究61編について、本人の好みの活用を観点として分析し、わが国における好みを活用した支援のあり方について検討を行った。その結果、好みを支援に活用している論文は半数以下であり、好みについて明確に記述した論文が少ないことが明らかとなった。その要因については、方法論自体の問題とともに、実践現場での知識不足や認知度の低さなどが考えられた。今後は支援手続きを工夫することで好みを活用していくことと、支援の場で活用できる簡易的なアセスメントの開発が、課題として検討された。

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