特殊教育学研究
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59 巻, 4 号
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原著
  • 藤田 由起, 遠矢 浩一
    原稿種別: 原著
    2022 年 59 巻 4 号 p. 223-234
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、わが国においてヤングケアラー(YC)的役割を担いつつ幼少期を過ごした人々のケア役割や家族関係についての認識の違いが、精神的健康に及ぼす影響について検討することであった。18歳以上の男女にWEB質問紙調査を実施し、障害・疾患を有する家族と暮らした経験のある79名、経験のない100名から有効回答を得た。その結果、YC的役割を担う子どもが経験しうる心理的負担は、単にケア役割の量的程度に左右されるのではなく、ケア役割への主観的評価や母親・きょうだいとの関係性といった複層的な家族構造によって影響を受けることが示唆された。特に、母親のYC的役割を担う子どもに対する配慮性や、きょうだいとの親密な関わりが、そのような子どもの精神的健康に関連することが推察された。このことから、子どものケア役割への心理的負担の度合いや、個々の子どもの家庭環境について、十分に考慮し支援することが必要と考えられた。

資料
  • 永原 康裕, 佐田久 真貴
    原稿種別: 資料
    2022 年 59 巻 4 号 p. 235-244
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    PTG(心的外傷後成長)とは、大変つらい出来事およびそれに引き続く心理的な葛藤やストレス、もがき、そして悩みの結果として生じる、人間としての成長と定義される。本研究では、自閉スペクトラム症(ASD)児・者を育てる母親のPTGとその関連要因を検討することを目的として、質問紙調査を行った。202名の母親に対して、PTG尺度、コーピング尺度、ソーシャルサポート尺度から構成される質問紙を配布し、57名の有効回答を得た。その結果、PTGの促進要因として、肯定的解釈や情報収集といった積極的コーピングが見いだされた。このことから、母親が積極的に情動調整し、出来事に対する考え方や捉え方を肯定的に変化させることや、出来事に関連した情報を収集することは、PTGを向上させる要因になることが示唆された。また、ASD児・者にきょうだいがいる母親のほうが、きょうだいがいない母親よりもPTGを実感しやすいことが明らかとなった。

実践研究
  • 吉岡 学
    原稿種別: 実践研究
    2022 年 59 巻 4 号 p. 245-256
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究では、歩行指導用経路を普段使用している視覚障害者によって事前に白杖歩行してもらい、その際に歩行で必要とする情報に関して事前調査を行った。その後、それらの情報を取り入れた触地図を作成し、その情報を備えた触地図によって、視覚障害児1名が白杖歩行スキルを獲得するための触地図歩行学習と単独歩行学習を行った。指導前には、対象経路に必要な歩行スキルの分析を試みた。指導は、学習室と現実場面にて行われた。学習室では、触地図を使い現実場面をシミュレートする学習を構成し、歩行に必要な環境情報の取得方法の指導を行った。現実場面では、学習室場面での指導の効果を評価するとともに、白杖歩行に必要な指導を行った。その結果、視覚障害のある生徒が白杖歩行するためには、事前に経路の「往路」「復路」について必要とする情報を反映した触地図学習と現実場面での一連の指導が効果的であった。また、白杖歩行スキル獲得において、移動環境における困難性(移動時の方向定位の問題)が存在することも明らかになった。

  • 宇留野 哲, 青木 康彦, 石塚 祐香, 藤本 夏美, 野呂 文行
    原稿種別: 実践研究
    2022 年 59 巻 4 号 p. 257-267
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究では、言語発達に遅れのある5歳4か月から7歳1か月のASD児3名を対象に支援者がオノマトペを用いたかかわりを行うことで、ASD児の発声や発話に変化がみられるか否かを検討した。さらに、保護者がオノマトペを用いたかかわりを行う条件においても、ASD児の発声・発話が維持または増加するか否かを検討した。その結果、対象児3名とも、オノマトペ条件で応答的発話の生起率と、発話に占めるオノマトペの割合に増加傾向がみられた。また、保護者条件でも、3名の対象児の応答的発話の生起率と発話に占めるオノマトペの割合が維持した。本研究の結果から、オノマトペを用いたかかわりのほうが、ASD児はオノマトペの発話を行いやすいことが示唆された。また、保護者条件でも対象児の発話が維持した。さらに、オノマトペを用いたかかわりは、保護者が実施しやすいことが示された。今後の課題として、オノマトペが発話を促す有効性について検討を深める必要性が論じられた。

  • 佐藤 香菜, 干川 隆
    原稿種別: 実践研究
    2022 年 59 巻 4 号 p. 269-278
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、脳性まひの児童の座位の安定と遠近課題も含めた方向概念の正確さに及ぼす動作法の効果を検討することであった。対象児は、8歳3か月の脳性まひの男児であった。対象児は、手を突いてあぐら座位を保持することができたが、手を離した座位や膝立ち位や立位を一人で保持することができなかった。23セッションにわたるリラクセイション課題とタテ系動作訓練からなる動作法の結果、対象児は腰を動かし背筋を伸ばして頸を保持できるようになり、手を突かずにあぐら座位を保持できるようになった。動きの変化に伴って、対象児は能動的に身体を動かすようになった。日常生活でも、椅子で座位を保持できるようになった。姿勢の安定に伴って、対象児は方向指示課題での誤りがベースラインより減少した。これらの結果は、動作法によりタテ方向に力を入れられることによって、身体を基準として方向指示がより正確になったと考察した。

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