特殊教育学研究
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55 巻, 2 号
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原著
  • 彌永 さとみ, 中 知華穂, 銘苅 実土, 中村 理美, 小池 敏英
    2017 年 55 巻 2 号 p. 63-73
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/03/19
    ジャーナル フリー
    小学校1・2・3年生(1,373人)を対象に、撥音・促音・拗音・拗長音の表記選択テストを行った。テスト低成績児童(総得点の約10パーセンタイル以下)は、約11~20パーセンタイルの児童と比べて、撥音や促音の未達成を多く示した。またROC 分析の結果、約10パーセンタイル以下の児童の成績は、「特殊表記の学習で配慮を行っている児童」の教員判断と一定程度対応した。低成績児童は、出現頻度の高い拗音・拗長音単語で高い正答率を示すが、低頻度単語では低い正答率を示した。これより、低成績児童は混成規則に基づく拗音・拗長音の習得が難しく、対連合的学習の経験に基づく習得を行ったことが推測できる。また、目的変数を各特殊表記の未達成児童としてオッズ比を算出した。1年生では音韻操作課題が、2・3年生ではひらがな単語を流暢に検索する課題と言語性短期記憶課題の低成績が背景要因となった。各学年で背景要因と学習方略に考慮した支援の必要性を指摘した。
資料
  • 宮寺 千恵
    2017 年 55 巻 2 号 p. 75-83
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/03/19
    ジャーナル フリー
    22q11.2欠失症候群(以下、22q11.2DS)児は視知覚機能の障害があり、図形模写を苦手とする。本研究では、境界知能の22q11.2DSの小学生A児を対象として、摸写課題を実施し、A児の特性が模写能力に及ぼす影響を検討することを目的とした。知能検査や視知覚検査において、A児は視知覚機能の問題や視覚情報の処理の困難さを示した。模写課題はベンダー・ゲシュタルト・テスト(BGT)、立方体模写課題、具体物の線画模写課題の3種類であり、それぞれの遂行成績をコントロール群(IQ 56~76の児童6名)と比較した。その結果、BGTの成績がコントロール群より低く、知的水準以外の要因の関与が伺われた。A児の模写能力の特徴として(1)知覚的カテゴリー化の障害、(2)認知的抑制の問題が考えられた。これらに基づき、A児の学習支援について、図形の特徴の把握、言語能力の活用、苦手な課題に対する意識づけ等の方法を提案した。
  • 小畑 伸五, 武田 鉄郎
    2017 年 55 巻 2 号 p. 85-94
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/03/19
    ジャーナル フリー
    本研究は、知的障害特別支援学校高等部の軽度知的障害教育課程を履修する生徒がどのような情緒および行動上の課題を抱えているかを明らかにすることを目的とした。子どもの行動チェックリスト(CBCL)の教師用質問紙であるTeacher's Report Form(TRF)を使用し、生徒の評価に対する回答を求めた。その結果、知的障害特別支援学校高等部の軽度知的障害教育課程を履修する生徒の約半数が情緒および行動上の課題を抱えていることが明らかになった。また、地域の中学校からの進学者と特別支援学校中学部からの内部進学者を比較した場合、地域の中学校からの進学者のほうが情緒および行動上の課題を抱えていること、また、男子と女子を比較した場合においては、女子のほうが情緒および行動上の課題を抱えていることが明らかとなった。このことから、知的障害特別支援学校高等部の軽度知的障害教育課程を履修する生徒に対しては、指導方法や指導内容を検討する必要があると考えられる。
実践研究
  • 前田 久美子, 佐々木 銀河, 朝岡 寛史, 野呂 文行
    2017 年 55 巻 2 号 p. 95-104
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/03/19
    ジャーナル フリー
    コンサルテーションにおいて、どのような記録様式を用いることで保護者の行動変容がより促進されるかは、明らかにされていない。本研究では、家庭場面で行動問題を示す自閉スペクトラム症児の母親を対象として、主体的な支援改善や調整を行うために有効な記録様式と母親の行動変容の過程について検討した。母親への介入として、子どもの行動のみを記録する条件と、子どもと母親の行動の両方について記録する条件を継時的に導入した。その結果、子どもと母親の両方の行動を記録する条件において提案された介入が正確に実施され、子どもの行動問題が低減して、さらに、子どもの行動のみを記録する条件に戻しても行動問題の生起頻度が低頻度で維持した。母親の行動随伴性の変容過程を分析した結果、母親が子どもの行動と前後の変化に関するABC記録を実施することで、母親が子どもへの対応方法に関する適切な自己ルールを生成し、子どもの行動改善を促進する可能性が示唆された。
  • 鏡原 崇史, 若松 昭彦
    2017 年 55 巻 2 号 p. 105-111
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/03/19
    ジャーナル フリー
    本実践では、書字に困難を示す知的な障害のある自閉症スペクトラムの成人男性1名を対象として、参加者の名前を学習対象とした書字学習を行った。学習には、定型発達児・者を対象とした研究により有効性が示唆されている視写と、視写との組み合わせにより学習効果の向上が期待されているなぞり書きを用いた。さらに、各学習の前後にベースライン、学習終了3か月後にフォローアップを設け、学習効果とその保持について検討を行った。その結果、なぞり書き学習後には書字技能の向上は認められなかったものの、視写学習後では書字技能の向上が認められ、その学習効果は書字学習後3か月が経っても保持されていた。これより、定型発達児・者のみならず、知的な障害のある成人期の自閉症スペクトラム者においても、視写学習が効果的である可能性が示された。
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