特殊教育学研究
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60 巻, 2 号
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原著
  • 内河 水穂子, 飯田 順子
    原稿種別: 原著
    2022 年 60 巻 2 号 p. 63-74
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    本研究では、小学校通常学級教師がインクルーシブ教育を推進するために、知的障害児に障害の状態に応じてコミュニケーションを図る関わりを測定する尺度(インクルーシブな関わり尺度)を作成し、それに影響を与える要因を探索的に検討することを目的とした。予備調査を実施し、インクルーシブな関わり尺度の原案を作成し、影響要因をいくつかの水準に整理した。本調査では、小学校通常学級教師を対象にWeb調査を実施し、196名の有効回答を得た。インクルーシブな関わり尺度の因子分析の結果、「知的障害児への指示伝達」「知的障害児の理解応答」「自立・共生的関わり」の3因子が抽出され、高い内的一貫性が示された。また、関連が予想される既存尺度との間に中程度の正の相関が示され、基準関連妥当性が支持された。インクルーシブな関わりへの影響要因をパス解析を用いて検討した結果、特別支援教育経験、自助資源・援助資源、現在の関わり形成からの影響が示された。

資料
  • 加藤 美朗, 大橋 優, 嶋﨑 まゆみ
    原稿種別: 資料
    2022 年 60 巻 2 号 p. 75-85
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    スミス・マギニス症候群(以下SMS)は17番染色体p11.2領域における部分欠失をおもな病因とする遺伝性疾患で、主症状は独特の顔貌を含む身体的特徴や知的障害、睡眠障害、行動問題である。わが国では行動問題に関する研究が限られているため、本研究では、子どもの行動チェックリスト(CBCL)を用いた調査をSMSの家族会会員81家族を対象に行った。61家族から回答が得られ(回収率75.3%)、T得点の算出が可能な4~15歳の30名について、総得点および10の下位尺度のうちの4尺度の平均T得点が臨床域にあった。加えて、CBCLの108の下位項目のうち「注意・集中の問題」や「かんしゃくもち」のような29項目の行動が、回答のあったSMSのある研究対象者全61名の50%以上で出現していた。 今後はこれらの行動特徴に関する情報を、わが国のSMSのある人の教育や支援に効果的に生かしていく必要がある。

実践研究
  • 尾﨑 充希, 塩津 裕康, 田中 悟郎, 岩永 竜一郎
    原稿種別: 実践研究
    2022 年 60 巻 2 号 p. 87-97
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    特別支援学校高等部に通う脳性まひ者2名に対して主体的に問題を解決する力を育むために、日常作業遂行に対する認知オリエンテーション(CO-OP)を基盤とした個別介入を行い、その有用性を検証することを目的とした。その結果、生徒自身で目標を設定し、認知戦略を発見し、目標を達成することができた。カナダ作業遂行測定(COPM)、ゴール達成スケーリング(GAS)、遂行の質評定スケール(PQRS)の数値が、事前評価から事後評価で生徒2 名ともに向上し、その後のフォローアップにおいても効果を維持することができた。そのうち1名の生徒は、Vineland-Ⅱの粗大運動のスコアが、事前評価の22点から事後評価では34点に向上した。本研究により、脳性まひ者の主体的な学びの実現を目指すために、CO-OPを基盤とした個別介入が特別支援教育の場において有効であることが示唆された。

  • 井田 美沙子, 野口 晃菜, 藤本 恵美, 和田 エンデルレ晃世, 鈴木 美乃里
    原稿種別: 実践研究
    2022 年 60 巻 2 号 p. 99-109
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    わが国においては、発達障害のある子どもの家族支援のひとつとしてペアレント・トレーニング(以下、PT)の実施が推奨されているが、その導入地域は20%にとどまっている。本研究ではPTの地域実装を目的とし、小学校において教員が実施するPTの短縮版「子育て学習会」の効果を検討した。7校11名の教員が10.5時間の研修を受け、実施時の教材をもとに3回(各90分)の子育て学習会を実施した。43名の保護者が受講し、19名のデータが収集された。その結果、受講前後の比較から、教員の自己効力感について、保護者対応に関する項目は変化がなかったが、家庭に働きかけることを含む学級経営の項目や、児童への支援や指導法に関する項目の得点が向上した。また、保護者の肯定的な関わり方が増え、抑うつ度と子どもの問題行動が有意に低下した。小学校でのPT実施は、PTを地域に実装するひとつの方法として機能する可能性が示唆された。

研究時評
  • 飯村 大智
    原稿種別: 研究時評
    2022 年 60 巻 2 号 p. 111-121
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    吃音児・者の訓練にはさまざまな技法が検討されている。エビデンスに基づいた臨床介入にあたり、その指針となるシステマティック・レビューでは、文献の質の評価が求められる。 介入研究にはさまざまなバイアスが入る可能性があり、研究プロトコルやアウトカムの記述の信頼性や妥当性、再現性の評価が求められる。本稿では、バイアスリスクの評価ツールとして観察研究で使用できるRoBANS(Risk of Bias Assessment Tool for Nonrandomized Studies)を参照し、日本の吃音児の介入研究を概観しながら、質の高い報告記述に必要な事項を検討した。RoBANSでは、対象者の選択バイアス、交絡要因による選択バイアス、施行バイアス、検出バイアス、症例減少バイアス、報告バイアスから評価を行う。本邦の文献は海外と比べ症例報告のデザインが多く、研究デザインの面でも制約があるため、評価が困難な場合も多い。吃音の介入研究の成果をより再現性の高い形で発信していくためにも、バイアスリスクを意識した文献報告が求められる。

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