日本森林学会誌
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96 巻, 1 号
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論文
  • 平田 令子, 大塚 温子, 伊藤 哲, 髙木 正博
    2014 年 96 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2014/02/01
    公開日: 2014/03/26
    ジャーナル フリー
    スギ挿し木コンテナ苗の植栽後2年間の地上部と地下部の成長を裸苗と比較した。植栽時のコンテナ苗の苗高と根量は裸苗よりも小さかった。2生育期間の伸長成長量は苗種間で差はなく, 結果として, コンテナ苗の苗高は裸苗よりも低いままであった。また, 植栽後の根量の増加もコンテナ苗の方が少なく, コンテナ苗の優位性は確認できなかった。T/R比 (地上部/根乾重比) は両苗種とも植栽後に低下したことから, 両苗種ともにプランティング・ショックによる水ストレスを受けたと考えられた。ただし, コンテナ苗のT/R比は裸苗より早く増加したことから, コンテナ苗の方が水ストレスからの回復が早いと推察された。本調査からは, コンテナ苗が水ストレスから早く回復する利点を持つと推察されたが, それは, 裸苗の苗高を上回るほどの伸長成長量にはつながらなかったことが示された。現時点では, 下刈り回数の省略に対して過度の期待を持ってコンテナ苗を導入することは危険であると考えられた。
  • 杉田 久志, 高橋 利彦, 齋藤 誠, 濱道 寿幸, 藤田 泰崇
    2014 年 96 巻 1 号 p. 6-11
    発行日: 2014/02/01
    公開日: 2014/03/26
    ジャーナル フリー
    複層林において冠雪害リスクの高い下木の特徴について検討するため, 冠雪害が生じた岩手県のスギ-スギ複層林 (上木109年生, 下木19年生) において被害状況と諸要因との関係を解析した。下木の形状比の範囲は63∼131, 平均94.7であり, 下木の本数被害率は28.4%, そのうち重度被害 (幹折れ, アーチなど) は21.2%であった。形状比の高い個体ほど被害が多い傾向が明瞭であったが, 上木樹冠縁からの距離では明瞭な傾向がみられず, ほとんど形状比のみによって被害有無を説明することができた。本研究の結果は, 形状比の影響がとくに明瞭に表れ, 上木樹冠による庇護効果の影響があまり表れなかった点で, 従来の報告とは異なっていた。複層林における冠雪害リスクの高い個体の特徴は事例によってさまざまであり, 上木の樹冠の隙間や樹高などの林分構造により被害発生機構が異なることが示唆される。
特集「森林環境教育の歩みと実践研究」
巻頭言
総説
  • —専門教育および教育活動の場に関する研究を中心とした分析—
    大石 康彦, 井上 真理子
    2014 年 96 巻 1 号 p. 15-25
    発行日: 2014/02/01
    公開日: 2014/03/26
    ジャーナル フリー
    わが国における森林学と専門教育は100年に及ぶ歴史を刻んでいる。一方, 近年は専門教育以外への森林の利用も盛んであり, これらを背景に森林教育研究も活発である。ところが, 森林教育研究を包括的にとらえた体系的レビューはこれまでにない。本論は, わが国の森林学における森林教育研究を包括的にとらえ, 体系的レビューを行うことを目的とした。日本森林学会と同学会の連携学会および関連学会等がこれまでに刊行した学会誌等を悉皆調査し, 教育に関わる文献を抽出した。抽出した文献を時系列やテーマに沿って整理, 考察した。その結果, 抽出された文献は, 1925∼2011年の間に448件あり, 1980年代までは散発的であったが, 近年急増していた。本論では, 専門教育および教育活動の場としての森林や展示施設に関する研究を対象に整理した。専門教育に関する研究は, 初期には林業教育, 追って教育訓練や大学, 高等学校における専門教育へ展開し, 森林・施設に関する研究は, 初期には学校林, 追って演習林, さらには森林が果たす機能へ展開していた。
論文
  • —学校教育を中心とした分析をもとに—
    井上 真理子, 大石 康彦
    2014 年 96 巻 1 号 p. 26-35
    発行日: 2014/02/01
    公開日: 2014/03/26
    ジャーナル フリー
    森林環境教育や木育など森林教育の取り組みが行われてきている。しかしながら, 森林教育の目的が整理されていないことから,学校教育では森林教育への理解を得にくい。そこで, 専門教育以外の普通教育としての「森林教育」について, 教育目的を明らかにすることを試みた。まず, 小・中学校における学校教育での教育の目的を整理し, 次に, 文献資料をもとに, これまでに森林教育の目的として挙げられている内容の類型化を行い, これらの結果から, 学校教育に対して森林教育がどのような役割を果たせるかという視点から, 森林教育の目的を検討することを試みた。その結果, 教育の目的を含めた森林教育の定義として「森林での直接的な体験を通じて, 循環型資源を育む地域の自然環境である森林について知り, 森林と関わる技能や態度, 感性, 社会性, 課題解決力などを養い, これからの社会の形成者として, 持続的な社会の文化を担う人材育成を目指した教育」を提案した。あわせて, 教えるべき内容として, 「森林の5原則」 (多様性, 生命性, 生産性, 関係性, 有限性), 「森林との関わりの5原則」 (現実的, 地域的, 文化的, 科学的, 持続的) を提案した。
  • 井本 萌, 宮川 修一, フォン フラークシュタイン アレクサンドラ, 川窪 伸光, 加藤 正吾, 岩澤 淳
    2014 年 96 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 2014/02/01
    公開日: 2014/03/26
    ジャーナル フリー
    電子付録
    ドイツにおける「森の幼稚園」を市民による森林空間と資源の利用という観点から評価する目的で, ヘッセン州ベンスハイム市において2種類のアンケート調査を行った。まず, 幼稚園児の保護者による森の利用状況を調査した。子供が森の幼稚園, 一般の幼稚園のどちらに通っているかに関わらず, 週12回, 家族で, 散歩を目的に森を訪れる保護者が最も多く, 幼稚園児を持つ家族が近隣の森を訪れることは, 日常的な営みの一つと考えられた。次に, 地域と森の幼稚園における森林資源利用を比較した。地域住民が歴史的に食用, 茶・薬用, 工作・装飾, 燃料, 子供時代の遊びなどに用いてきた森林資源の利用は131例あった。自身の子供時代の遊びを除いた112例のうち90が現在も住民に利用されており, 90のうち64は森の幼稚園でも利用されていた。地域で現在利用されない22例のうち7例は森の幼稚園では自然教育を目的に利用されていた。一方, 森の幼稚園における利用例86のうち, 地域での利用履歴がないのは5例のみであった。このことから, 森の幼稚園における森林資源の利用は, 地域の森林資源利用の歴史を反映したものとなっていると考えられた。
  • —神奈川県藤沢市の小学校の事例—
    杉浦 克明, 原崎 典子, 吉岡 拓如, 井上 公基
    2014 年 96 巻 1 号 p. 43-49
    発行日: 2014/02/01
    公開日: 2014/03/26
    ジャーナル フリー
    本研究は児童の知っている樹木に焦点をあて, どれくらい, どのような樹種名を思いつき, どのように知ったのかを分析することを目的とした。調査は, 神奈川県藤沢市の市立小学校5校の4年生440名の児童を対象に, どのような樹種名を思いつき, 何をきっかけに知ったのかを把握するために, 思いつく樹種名の記入と, その樹種名を知った理由についてのアンケートを実施した。五つの小学校の児童が回答した上位20種をみると, サクラやモミジ等の樹種名であった。これらの回答された樹種名は, 「校内」, 「公園」, 「道」をきっかけに知った児童が多かった。つまり, 学校, 公園, 近くの道にあることで樹種名が認識されており, 児童の周辺環境が影響を与えていると考えられる。それ以外の樹種名では, リンゴ, ヤシ, ブドウ, バナナ, ナシなど小学校周辺ではみられない食用となる果実がなる樹種名が多かった。身近ではみられないこれらの樹種名を知る要因に, テレビの影響も考えられる。また, 授業で習ったため知ったと回答された樹種名もあった。以上のことから, 樹種名を知るきっかけとして校内や公園の環境, 授業等での教育, テレビが影響を与えている可能性が考えられた。
  • 井上 真理子, 大石 康彦, 宮下 理人
    2014 年 96 巻 1 号 p. 50-59
    発行日: 2014/02/01
    公開日: 2014/03/26
    ジャーナル フリー
    戦後の専門高校の森林・林業教育について, 「森林経営」関連科目を対象に, 学習指導要領と教科書から教育の目的と内容の変化を分析した。科目名は, 「林業経済」, 「森林経理・法規」, 「測樹」, 「林業経営」, 「森林経営」と変わってきた。学習指導要領に示された科目の目標は, 林業に従事するための能力の育成から, 持続的に森林経営する能力の育成に変化した。また教育内容を整理すると, 概論 (森林と林業/森林経営, 効用/機能), 測樹 (森林の測定, 評価), 経営 (計画, 管理, 流通), 林政 (政策・法規) の4分野8項目30細目が挙げられた。教育内容では, 戦後から1990年代までは, 林業を経済的に管理・経営し, 木材生産を基本とした実務的な知識や技術であったが, 「森林経営」 (1999年版) 以降, 多面的な機能に関する内容が増えた。その結果, 専門高校の科目の「森林経営」では, 何のために森林経営を行うのかという理念がわかりにくくなっていた。今後の課題には, 次の学習指導要領の改訂に向けて, 育成すべき人材像を踏まえた専門高校の科目「森林経営」の再検討が挙げられた。
短報
  • —4種のデータソースをもとにしたデータベース構築結果から—
    木山 加奈子, 井上 真理子, 大石 康彦, 土屋 俊幸
    2014 年 96 巻 1 号 p. 60-64
    発行日: 2014/02/01
    公開日: 2014/03/26
    ジャーナル フリー
    森林環境教育の推進には, 日時や学習者の属性を問わず利用できる場が重要であることから, 「森林学習施設」に着目し, 設置状況を把握した。この「森林学習施設」を, 本稿では「屋内外に存在する様々な資料により, 森林に関する学習が可能な, 開かれた施設」と定義した。林野行政, 環境行政, 社会教育行政の3分野, 4種類のデータソースを用いて, 森林学習施設の設置に関する現状を分野横断的に把握することを試みた。データベース構築の結果として992施設が確認できたが, 林野行政が把握しているのはそのうちの401施設, すなわち半数以下であり, 環境行政や社会教育行政分野の施設を含めると, 倍以上の施設を森林学習施設として捉えることができた。また, 森林学習施設の8割近くは地方自治体による設置であった。今後の課題は, 森林学習施設の管理運営や利用に関する検討が挙げられる。
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