人は誰でも病気になったり怪我したりする.患者の体を健康な状態に戻すもしくはその状態に近づけるために医療があるといっても過言ではない.それゆえ,医療行為が患者(および医療従事者)の健康を損ねる原因になることはあってはならない.
医療安全を守るために医療事故を防止する対策が議論されるが,医療事故の原因となりうるものは大きく分けて物と人である.物の安全性には医薬品や医療機器等そのものの安全性が含まれる.人に関する安全性に関して,特に医薬品・医療機器等を使用する際の安全性については「使用の安全」と言われる.医療従事者(場合によっては患者も含まれる)が関わる医薬品・医療機器等の使用の安全を担保するためには多くの場合ヒューマンエラーの防止が必要となるが,ヒューマンエラーが生じる背景には医薬品の名称やパッケージの類似性,医療機器のユーザーインターフェイス,組織体制などが含まれる.これらの原因についてより多くの情報を収拾するためインシデント(ヒヤリ・ハット事例)情報の収集とその解析が行われている.
医薬品の安全性に関係する重要な情報源の一つに医薬品添付文書がある.医薬品添付文書は,医薬品の承認に関わる情報が含まれており,剤形,用量・用法,効能・効果,副作用などの項目がある.医薬品には医療用医薬品および OTC(Over The Counter)薬などがあり,医療用医薬品はその購入に医師の処方箋が必要であり,OTC 薬はドラッグストア等で販売される.前者の添付文書は医療従事者向きに書かれており,後者の添付文書は患者向きに書かれている.医療用医薬品だけでも1万品目以上あるため,添付文書に含まれる各種記述は医薬品に関するコーパスと見なすことができる.
医薬品添付文書を含め医療安全に関わる多くの情報・データが存在するが,必ずしもデータマイニング・テキストマイニング等をはじめとした解析に適したフォーマットとなっていない場合がある.データのフォーマットが整備されると共に多くの医療安全に関わるデータが解析され,医療安全に資する結果が医療現場にフィードバックされることが望まれる.
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