知能と情報
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27 巻, 5 号
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目次
巻頭言
解説
コラム
評議会報告
報告
用語解説
  • 笹原 和俊
    原稿種別: 用語解説
    2015 年 27 巻 5 号 p. 155
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2017/11/18
    ジャーナル フリー

    小鳥の「さえずり」(歌)は,縄張りを巡るオス間競争やメスへの求愛の場面で使用される学習性の音声信号である.仲間を呼んだり,危険を知らせたりする際に発せられる生得的な地鳴き(コール)とは区別される.特に,鳴禽類(歌鳥)のさえずりは複数の音要素が一定の順序で配列された系列構造をもつ.生後,雛鳥は周囲の成鳥(おもに父親)のさえずりを聞いて記憶することで,脳の神経回路網にさえずりのモデル(聴覚記憶)が構築され,それを元にして発声練習を繰り返し行うことで独自のさえずりを発達させる.さらに,さえずりの系列構造は種ごとに様々な特徴があり,さえずりの系列規則は「さえずり文法」(歌文法)と呼ばれる.例えば,ミヤマシトド(White-crowned Sparrow)のさえずりは,数種類の音要素を定型的に繰り返す単調な文法をもつ.ジュウシマツ(Bengalese Finch)のさえずり文法はもっと複雑で,十数種類の音要素が様々な順序で配列され,その系列構造は有限オートマトンで記述できることが知られている.複雑なさえずりをもつオスほどメスに好まれることが実験で示されており,これはさえずり文法が性選択によって進化した可能性を示唆している.オオムジツグミモドキ(California Thrasher)のさえずりはさらに複雑で音要素は100種類を超える.これらの音要素の種類をノード,それらの間の遷移をリンクとしてネットワークを構成すると,その構造は小さな平均ノード間距離と高いクラスター係数を併せ持つ「スモールワールド・ネットワーク」になることが報告されている.このことは,複雑なさえずりがランダムとは程遠く,特定の設計原理をもつことを示している.さえずりが学習性の音声であることや音声系列には文法があることなど言語と類似した重要な特徴があることから,さえずりは言語の生物モデルとして現在盛んに研究が行われている.これらの研究成果は,言語の生物学的基盤の解明やその知見の工学的応用につながると期待される.

  • マッキン ケネスジェームス
    原稿種別: 用語解説
    2015 年 27 巻 5 号 p. 155
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2017/11/18
    ジャーナル フリー

    結び付け問題(Binding Problem)は,脳科学における未解決の主要問題の一つである.結び付け問題は,広義には脳内で並行に行われる様々な情報処理をどのように統合するかの問題であるが,頻繁に取り扱われるのが,脳内の視覚情報処理において,別々の場所で処理される「色」「形」「動き」などの情報を,どのように結び付けて一つの対象として認識するかという問題である.網膜からの信号は,大脳皮質の視覚野(visual cortex)で処理される.目からの視覚情報は,像の輪郭や位置などの抽出を行う初期視覚野を経由し,「色」「形」「動き」などの高度な特徴を抽出する高次視覚野で脳内の別々の場所で処理される.例えば,青い四角形と赤い円形が同時に示された時,高次視覚野では青,赤,四角と円の特徴を認識する領域が活動する.この時,どのようにして,青と四角を一つの対象とし,赤と四角を別の対象として認識するかが結び付け問題である.

    結び付け問題の説明には多くの説が提案されている.結び付けの主要な仕組みとしては,神経細胞の同期発火,選択的注意,および短期記憶などがある.近年の研究成果では,これら単一の方法ではなく,複合的に結び付けが行われている可能性を示している.同期発火説(Temporal Synchronization Hypothesis)では,脳の複数の神経細胞が同期的に発火することにより,情報の結び付けを行い,また同期の位相により別の物体との識別も可能とする.オブジェクトファイル理論(Object- file Theory)では,選択的注意(Selected Attention)により,注意の対象のためのオブジェクトファイルと呼ばれる視覚的短期記憶(Visual Short- term Memory)が用意され,対象に関係する特徴情報が結び付けられる.特徴統合理論(Feature Integration Theory)では,視覚信号から素早く荒い識別が行われ,荒い識別結果を元に注意対象の位置を決定し,その位置に関連する特徴をオブジェクトファイルに結び付けて詳細な認識を行う.

    人工知能分野においても,人工ニューラルネットワークによる結び付け問題の研究は積極的に進められている.今後は,結び付け問題研究の成果を元に,意識に相関した脳活動 (Neural Correlates of Consciousness)の解明が期待されている.

会告
特集:「ファストトラック」
特集:「第19回曖昧な気持ちに挑むワークショップ選抜論文」
論説
論文概要
学会から
編集後記
特集論文: ファストトラック
原著論文
  • タコ型マニピュレータの提案と実験による検証
    伊藤 一之, 黒江 聡, 萩森 駿介
    2015 年 27 巻 5 号 p. 701-710
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2015/11/13
    ジャーナル フリー
    近年,様々なタスクを行うことが可能な多自由度ロボットの開発が行われており,多自由度ロボットを自律的に制御するための方法として強化学習が注目を集めている.しかし,強化学習を多自由度ロボットに適用するためには,状態・行動空間の組み合わせ爆発と汎化能力の欠如という2つの問題を解決する必要がある.本論文では,これらの問題を解決することを目標とし,実世界の性質を利用できるよう身体を適切に設計することで,状態・行動空間の情報の低次元化を行う.具体的には,タコの振る舞いを参考として,同様の振る舞いを機構的に実現可能なマニピュレータを開発し,物体を把持し目的地まで移動させるタスクを例に検証を行い,これらの問題が解決可能であることを確認する.
  • 真部 雄介, 松嵜 晃司, 菅原 研次
    2015 年 27 巻 5 号 p. 711-722
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2015/11/13
    ジャーナル フリー
    加速度センサやジャイロセンサが搭載されたスマートフォンなどの携帯端末が広く普及したことを受け,そのようなセンサから得られる情報を元に,歩行者の状態や携帯端末の所持状態,あるいは人物識別を実現しようという取り組みが行われている.本研究では,人物識別を目指した既存研究の多くが,平地での歩行状態のみを対象としているものが多い点に着目し,複数の歩行状態で人物識別を実現する方法を提案する.具体的には,平地歩行・階段昇行・階段降行の3種類の歩行状態を識別し,歩行状態別に定義した識別器を用いて人物識別を実現する.10人の被験者を対象とした実験の結果,最も高い精度が得られた線形判別分析において,歩行状態識別率95.7%,人物識別率85.0%(平地歩行),90.0%(階段昇行),77.0%(階段降行)が得られた.また,歩行状態識別と人物識別を段階的に行った場合の人物識別率の推定値は80.4%となった.さらに,提案手法と歩行状態の区別をせずに人物識別を行った場合との比較を行った結果,使用した5種類の識別器(k近傍法,決定木,単純ベイズ分類器,線形判別分析,サポートベクターマシン)のうち,k近傍法を除く4つの識別器で提案手法による人物識別率が高くなり,歩行状態別に人物識別を行うことによる識別精度改善効果が確認された.
  • 砂山 渡, 長田 佳倫, 川本 佳代
    2015 年 27 巻 5 号 p. 723-733
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2015/11/13
    ジャーナル フリー
    小学校,中学校,高校の学生や生徒が,計算によって解答を導き出す科目や分野の問題解決過程においては,考え方を理解して問題の定式化を行うプロセスが重要となる.しかし公式を活用して計算するだけの学習では,すべての公式やパターンを暗記する必要があることに加え,類似する他の問題への応用を考えることができなくなる欠点が生じる.
    そこで本研究では,百分率と速さの分野を対象として,公式の丸暗記とその適用を目指す学習ではなく,考え方の理解と記憶を促し,段階的かつ具体的な手順の説明を備え,学習した考え方を定着させられる学習システムを構築する.評価実験により,考え方を重視した提案システムが,公式による解き方を重視した比較システムに比べ,学習の効果,ならびに学習内容の定着が図れることを検証した.
  • 倉重 健太郎, 二階堂 芳
    2015 年 27 巻 5 号 p. 734-742
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2015/11/13
    ジャーナル フリー
    人間がロボットにタスクを与え学習を行わせるためには教師信号や評価関数,強化信号などタスク達成度を表す指標を設計する必要がある.通常このような指標はそれぞれのタスクやロボットが用いられる環境を考慮して設計され,タスクや環境が変わると再設計する必要がある.しかしタスク毎もしくは環境毎に学習のための指標を再設計することは設計者の負担となり,また専門知識を持たない一般的な使用者にとっても負担となる.そこで,我々は個別に学習のための評価を設計・実装するのではなく,インタラクションを通して人間の評価を読み取り学習するための手法を提案する.本稿では生物の感覚刺激に基づくセンサ情報の評価とそれによる強化学習のための報酬生成の手法を提案する.生物における感覚刺激をモデルにすることで,ロボットの刺激に対する評価を人間にとってイメージしやすいものとし,直感的なインタラクションの実現を試みる.実験では人間とのインタラクションのためのデバイスとしてタブレット端末を用い,タブレット端末より得られたタッチセンサの情報から報酬を生成させる.また複数の被験者に専門知識を与えずにインタラクションしてもらい,ロボットを学習させることができることを確認し,提案手法の妥当性を検証する.
  • 大前 佑斗, 中平 勝子, 土屋 陽子, 宿院 頼, 三井 貴子, 高橋 弘毅
    2015 年 27 巻 5 号 p. 743-756
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2015/11/13
    ジャーナル フリー
    本研究では,高校卒業生の無目的な大学進学に起因する大学での退学者問題への対応を例に,ソフトコンピューティング技術に由来するデータマイニング技法を活用して問題解決にあたる手法について報告する.高校卒業生の無目的な大学進学を減少させるには,高校教育現場において,高校生のキャリアに対する認識を適切に変容させ,大学進学に対するモチベーションを高める必要がある.効果的にこの教育を実施するためには,生徒の特徴により異なる適切なキャリア認識の変化を把握し,教授設計を行うことが望ましい.そのため本研究ではサポートベクタマシン(SVM)および勾配計算を活用して上記の問題を解決する.具体的には,独立変数をキャリアに対する認識,従属変数を大学進学に対するモチベーションとしてSVMを構築し,そこで得られるモチベーションを近似する関数の勾配を計算することで,モチベーションが向上する方向ベクトルを得る.その方向ベクトルに依存した教授設計を行うことで,モチベーションの向上に繋がる教育の実施が期待できる.本論文では上記手法の詳細およびその手法を用いて作成したプロトタイプについて述べる.なお本論文では,研究遂行上の具体例として,高校生の一般的なキャリア選択のひとつである理系分野を対象とした.
  • 石井 雅樹, 佐々木 裕也
    2015 年 27 巻 5 号 p. 757-770
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2015/11/13
    ジャーナル フリー
    ロボットが人間の生活環境で自律的に行動するためには環境地図が必要となる.従来提案されている環境地図構築手法は,形状情報のみから環境地図を構築している場合が多い.しかし,形状情報のみを使用した場合は,長い廊下環境のような幾何学的特徴の少ない均一な環境において自己位置の候補が複数発生し,推定が困難であるという問題がある.そこで本論文では,自己位置の推定に有用な情報として視覚情報に着目し,画像情報のみを用いた自己位置推定手法について検討した.提案手法では,事前に環境中で取得した全方位画像データを教師無し学習アルゴリズムである自己組織化マップを用いて学習し,位置推定識別器を構築する.ロボットは,自身の移動中に観測した画像が環境中のどのエリアで取得可能であるかを位置推定識別器により判断する.本稿では,幾何学的特徴およびパターンやテクスチャ等の視覚情報の多い室内環境と,幾何学的特徴が少なく視覚情報も乏しい廊下環境を対象として,位置推定識別器の有用性について検証した.
  • 西原 陽子, 中垣内 李菜, 川本 佳代, 砂山 渡
    2015 年 27 巻 5 号 p. 771-783
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2015/11/13
    ジャーナル フリー
    テキストマイニングを用いたデータの分析に関心が高まっており,コンピュータ上で扱えるソフトウェアも数多く開発されている.ソフトウェアを用いてテキストマイニングを行うには,テキストマイニングの手法が実現されたツールの選択・操作やデータの分析をするためのスキルを身につける必要がある.スキルを身につけるためには,ツールの選択・操作やデータの分析などを,課題を通じて繰り返し練習することが重要になると考えられる.そこで,本論文では,テキストマイニングのソフトウェアであるTETDMを用いたテキストマイニングのスキル獲得を支援するチュートリアルシステムを開発する.提案システムでは,テキストマイニングの課題を基礎的なものから応用的なものへと順に解かせることにより,スキル獲得を支援する.被験者実験を行い,提案システムがテキストマイニングのスキル獲得を支援することを確認した.
  • 賈 志聖, 古殿 幸雄
    2015 年 27 巻 5 号 p. 784-795
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2015/11/13
    ジャーナル フリー
    台湾の食品会社である康師傅株式会社は,1992年中国大陸市場に参入した.康師傅は,短期間で,インスタントラーメン市場や飲料市場において,中国国内売上高でトップになった.康師傅の成功要因の一つは,競合他社よりも早く中国市場に参入したこととブランドイメージの確立を得たことにある.一方で康師傅は,中国で,ファストフード業界やスーパーマーケットなどの新たな分野をいち早く開発してきた.
    康師傅は,1996年から日本の食品会社などとビジネスパートナー契約を結んでいる.それは,サンヨー食品,アサヒ,伊藤忠,敷島製パン,日本製粉,カルビーなどである.また,康師傅は,中国市場において,ペプシコ社との間でパートナーシップを結び,事業領域の拡大を行った.康師傅は,2014年,中国のインスタントラーメン市場で47%のシェアに達した.すなわち,康師傅は,中国全市場の半分近くを占めていることになる.
    市場の低迷や景気停滞にあるとき,収益性は,企業の価値を決定し,他の企業に対して競争優位となる鍵になる.本論文では,ファジィVRIO分析,ファイブフォース分析とSWOT分析によって,康師傅の内部環境や外部環境の要因を分析し,今後,中国市場において競争上の優位性を持続するために必要な戦略について検討する.
    また本論文では,康師傅の経営戦略の現状を分析するため,外部環境分析にファイブフォース分析,内部環境分析にファジィVRIO 分析を用いる.これら外部環境と内部環境を明らかにした上で,康師傅の強みと弱み,機会と脅威をSWOT分析によって明らかにする.そして,康師傅が今後,中国市場において競争上の優位性を持続するために必要な戦略について言及する.
  • 塚田 義典, 田中 成典, 窪田 諭, 中村 健二, 岡中 秀騎
    2015 年 27 巻 5 号 p. 796-812
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2015/11/13
    ジャーナル フリー
    我が国では,高度経済成長期に集中整備された多くの道路橋が老朽化しており,適切な長寿命化修繕計画の策定が急務である.適切な点検・補修計画の策定,および工法の選定には,現況の形状を正確に把握する必要がある.しかし,現地での再測量作業には通行止め等の措置が付随するため,全国で約70万橋を対象に実施することは,コスト面と人的資源の面で困難である.この問題に対して,MMSを用いることにより道路の通行止めを行わずに道路橋上部工の現況を3次元で可視化する研究がなされている.しかし,MMSは道路に面した領域のみを計測対象にしていることから,路面だけのモデルにとどまり,上部工全体のモデルを生成することはできない.加えて,橋梁の下部工のモデル化も不可能である.そこで,本研究では,地上設置型のレーザスキャナとUAVを用いて取得した点群データから橋梁の上部工と下部工を一体とした3次元モデルの生成手法を提案する.
  • 浅沼 仁, 岡本 一志, 川本 一彦
    2015 年 27 巻 5 号 p. 813-825
    発行日: 2015/10/15
    公開日: 2015/11/13
    ジャーナル フリー
    カメラパラメータを推定することなく,全方位画像という歪みや位置による見えの変化のある画像に対する人検出器を提案する.Deep Convolutional Neural Networkをベースに実現し,さらに,少量の学習サンプルに対して並進・スケーリング・回転・輝度変化の変形を適用することで大量の学習サンプルを生成する手法も提案している.実際に設置されている全方位カメラの画像を用いた人検出実験では,HOGとReal AdaBoostの組み合わせによる人検出器が誤検出率0.001で未検出率77.5%であるのに対し,提案手法が誤検出率0.001における未検出率が28.2%となることを確認している.提案する学習サンプル生成法が精度向上に寄与することや可視化した特徴マップの検出精度との関連性も検証している.これによりカメラパラメータの推定が難しい状況でも全方位画像からの人検出の精度向上を実現する.
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