項書換え系は単純で形式的操作の容易な計算モデルである.本論文では項書換え系の解析・検証・変換などの項書換え系の操作を直観的に支援するための手法として,項書換え系の項,計算,操作,情報の視覚化を提案する.項の視覚化は項の構造の直観的理解を支援するため,部分木の省略や正規形の抽象化を含み,色や形で関数記号に関する種々の情報をわかりやすくした木表現で項を表す.計算の視覚化は計算の動的な振舞いを理解するために,項の視覚化に基づいて項書換え系の計算過程を表す.操作の視覚化は視覚化された項や計算の操作を視覚的に直接実現し,情報の視覚化は計算から得られる様々な数値情報をグラフなどを用いて視覚的情報にする.我々はこれらの視覚化をグラフィカルユーザインタフェースを持つ視覚的項書換え支援環境TERSEとして実現している.このTERSE上でハノイの塔の例題を用いて視覚的支援の実際を示し,我々の提案する視覚的手法が項の構造の理解・解析や変換着目点の検出に対する支援手法として有効であることを確かめた.
本論文では,ソフトウェア開発における共有情報管理の一方式を提案する.この管理方式は,オブジェクト指向モデルに基づきモデル化され,以下の特徴をもつ. 1. ワークスペースマネージャオブジェクトと成果物オブジェクトにより,個人の作業の責任範囲を明示化し,また,共有情報のアクセスを制御する. 2. 自律メディエータオブジェクトにより,共有情報の変更に関連したネゴシエーションとそのコーディネーションを支援する. 3. これらのオブジェクトそれぞれにメタオブジェクトを設け,個人の作業の責任範囲や共有情報の内容や範囲の動的変更,作業状況に応じた処置の動的選択を可能にすることにより,作業方針の変更に関する対応を可能にする. 上記の基本的成果をもとにして,情報共有方針の変更や形態の変化への対応に関して,メタオブジェクトを利用したオブジェクト指向アーキテクチャが有用であることを示す.
システムの再利用性や拡張性を高めるために,システムを並行動作する複数の部品(エージェント)に分割し,通信によって結合するマルチエージェントモデルが知られている.このときエージェントの結合方式が重要となるが,システムの柔軟性を保つために,送り先を指定しないブロードキャスト的な通信方式が有効である. マルチエージェントモデルの問題点は,全体の動作が複数のエージェントの協調動作によって決定されるため,その予測が困難であることにある.並行動作するエージェントの動作解析のための数学的枠組としてプロセス代数が知られている.しかし,従来のプロセス代数でブロードキャスト通信方式を扱うためにはいくつかの問題点を指摘することができる. 本論文で,ブロードキャストの記述に適したプロセス代数CCB(a Calculus of Countable Broadcasting Systems)を提案する.他のプロセス代数と比較して,CCBではブロードキャストされたメッセージの受信者数を適切に記述することが可能である.またCCBのための観測的な合同関係を定義し,有限エージェントに対する健全で完全な公理系を与える.
通常のプログラムに対するプロセスプログラムの最大の違いは,プロセスプログラムの実行に実行状態の動的変更を可能にする柔軟な実行制御機構を必要とすることである.これは主に,ソフトウェアプロセスの実行に伴い,予測できないプロセスの再実行とプロセスプログラムの変更が必要となるためである.プロセスモデルHFSPは,再実行を実現するためRedo機構を提唱している.本稿は,実行状態の動的変更をそれ自体独立したプロセスとして記述実行する新しいHFSPを提案する.新しいHFSPでは,再実行だけでなく,プロセスプログラムの変更を含めた動的変更が可能となる.