本論文は,エージェントの階層構造によって対話型ソフトウェアを構築するというモデルを提案する.本モデルの効果は,個々のエージェントが単独で対話型ソフトウェアとして動作し,他のエージェントを考慮することなくテスト・デバッグ可能なことである.これはエージェントに自律性(有目的性・自発性・自己完結性・局所性)を導入することによって達成される. 自律性を導入したとき問題となるのが,協調との両立である.自律性がエージェント単体での動作を保証するのに対し,協調は,エージェントの集まりを対話型ソフトウェアとして動作させる役割を持つ.協調計算一般には,自律性と協調の両立は困難であることが知られている. 本研究では,協調を一体化のための協調と一貫性のための協調とに分け,それぞれを階層構造上の適切な場所に記述することによって,自律性と協調を両立させる.一貫性のための協調は,アプリケーション本体を共有する複数のエージェントの表示を一貫させる.一体化のための協調は,複数のエージェントが一体となって1個の対話型ソフトウェアとして働くことを可能にする.
本論文では,分散システムの動作内容と時間性を記述・解析するための形式系を提案する.この形式系は,分散システム特有の時間的特性である局所的時間性(時計)に関する概念を,既存のプロセス計算の枠組みに埋め込んだものである.これにより,局所的時計の誤差や相違による分散システムの動作内容と時間的特性への影響が明示的に解析できるようになる.本論文では,この形式系の基本概念を紹介するとともに,分散システムのための証明技法として,局所的時間性を導入した双模倣性を定式化する.この双模倣性は,不正確な時計に従う分散プロセスや,非厳密な時間的制約をもつ実時間プロセスの時間的・動作的検証を可能にする.