誰もが自由に活動するコンピュータ・ネットワーク等のオープンな環境で自律的に作業するソフトウェア・エージェントについて,義務と権利に基づき社会的に安全・安心な行動制御を実現するためのセキュリティ・モデルを提案する.このモデルにおいて,エージェントに作業を委ねる委託者は,委ねる作業に関した義務や権利等を明記した契約を事前に規定する.エージェントはこの契約に従い,状況に応じて動的に義務を生成していく.生成された義務はBDIアーキテクチャを拡張した処理系で計画的に実行されるが,契約等によって実行する権利の与えられていない行為は決して実行しない.実行のために必要な権利は,契約や義務等に基づき動的に生成され,義務を履行するために必要な行為のみが実行される.すなわち,義務や権利等を明記した契約という汎用的な表現記述に基づき,エージェントの自由裁量の範囲を作業毎に制御することで,社会的に安全・安心に作業するエージェント・システムを実現する.万が一エージェントの行為によって第三者が被害を被ったとしても,契約に明記された義務と権利に基づく行為であれば,その責任は契約を規定した委託者に転嫁することができる.さらに,義務と権利の概念をBDIアーキテクチャ内部で明示的に扱うことにより,やりとりしている相手への義務づけと,相手に課した義務の管理が可能となり,相手の義務を活用した社会的に安全・安心なインタラクションが可能になる.これらの新しいエージェント技術により,自らの願望の趣くままに無責任な行動を取ってしまう恐れのあった汎用型エージェント・システムの一般社会における利用促進等に貢献する.
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