蝶と蛾
Online ISSN : 1880-8077
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12 巻, 4 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 阿江 茂
    原稿種別: 本文
    1962 年 12 巻 4 号 p. 65-89
    発行日: 1962/08/20
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー
    (1)筆者は1957年から生物の種間の本質的な差を調査して,その分化の過程を研究するために,日本及び北米産のアゲハチョウ属を用いて,種間交配を行ってその受精率,ふ化率,羽化率,種間雑種の生殖能力等より種間の近縁度を調ペ,又種の差を形成している形質の遺伝様式を研究している.1957年度はロッキー山生物学研究所において,それ以後は南山大学において研究を続けているが,この研究の完成には長年月を要するので,中間報告としてこれまでの研究結果を要約した.(2)交配はhand pairing法により,採卵には螢光照明を用い,幼虫飼育には普通の飼育箱を利用した.(3)クロキアゲハ×ロッキーキアゲハ,キアゲハ×ロッキーキアゲハ,クロキアゲハ×キアゲハの3種の交配は種内交配と殆んど同程度の受精率,ふ化率等を有している.(4)1対のクロキアゲハ♀×ロッキーキアゲハ♂より78♂♂と1〓を得,2対のロッキーキアゲハ♀×クロキアゲハ♂から10♂♂と20♀♀を得た.成虫は殆んどクロキアゲハと同様で,♂♀共に生殖可能であった.(5)キアゲハ×ロッキーキアゲハの3対の交配から3♀♀2♂♂を得た.成虫は大体両親の中間となった.(6)クロキアゲハ×キアゲハの1対の交配から6♂♂3♀♀1〓を得たが,成虫は後翅眼状紋が両親の中間である以外は,ほぼクロキアゲハと同様であった.(7)アゲハ×キアゲハ,アゲハ×クロキアゲハ,アゲハ×ロッキーキアゲハの3種の交配では大部分の卵が受精し,過半数に近くふ化したが,得られた成虫はすべて小形で♂のみであった.(8)上記の3交配より得られた成虫数及び外見は夫々,11対より29頭(両親の中間)3対より10頭(クロキアゲハに似る),1対より5頭(両親の中間)であった.食草は主にセリを用い,第1第2の交配ではカラタチも用いた.幼虫,蛹は夫々大体両親の中間となった.(9)アゲハ×クロアゲハ,モンキアゲハ,オオガアゲハ,ナガサキアゲハの4種の交配は夫々数対又はそれ以上より卵を得た.受精率,ふ化率等は一般に非常に低く,最良の結果を得たアゲハ×オナガアゲハの交配でも,3令幼虫の終期に達したのみであった.(10)アゲハ×カラスアゲハ,ミヤマカラスアゲハの交配の受精率,ふ化率等も非常に低く夫々1令幼虫,2令幼虫で死亡した.(11)アゲハ×メスグロオオトラフアゲハの1対の交配の受精率は高かったが,ふ化したのは1頭のみで蛹期で死亡した.幼虫,蛹は小形である他はメスグロオオトラフアゲハと同様で,食草にはユリノキを用いた.(12)モソキアゲハ×クロアゲハ,シロオビアゲハ×クロアゲハ,シロオビアゲハ×モンキアゲハの3種の交配では,大部分の卵が受精し過半数がふ化したが,得られた成虫はやや小形ですペて♂であった.(13)上記の3交配より得られた成虫数及び外見は夫々,5対より1 頭(両親の中間),1対より4頭(両親の中間),1対より18頭(シロオビアゲハに似る)であった.幼虫,蛹も大体両親の中間であって,食草は主としてナツミカンを用いた.(14)ナガサキアゲハ×モンキアゲハ,ナガサキアゲハ×オナガアゲハ,オナガアゲハ×クロアゲハの夫々1対の交配は,夫々蛹期(2頭)蛹期(1頭)5令幼虫期(1頭)に達した.(15)カラスアゲハとミヤマカラスアゲハの1対の交配からほぼ両親の中間となった2♂♂を得た.幼虫の食草にはイヌザンショウを用いた.(16)カラスアゲハ×クスノキアゲハの交配で2個の受精卵を確認したがふ化しなかった.(17)カラスアゲハ×モンキアゲハの健全な5対の交配から得た189卵のいずれからも発生開始を認め得なかった.(18)キアゲハ,クロキアゲハ,ロッキーキアゲハは互に非常に近縁と考えられるが,ロッキーキアゲハの1化性が雑種において複雑な遺伝様式を示すものと思われ,顕著な逆交配の差を生じた.(19)アゲハは上記の3種に対して非常に近縁ではなく,種間交配の点からアゲハをキアゲハ群の典形的な一員とすることは出来ない.(20)アゲハと"ク口アゲハ群"は幼虫の色彩が類似しているが,その関係はアゲハとキアゲハ群の間の関係よりはるかにはなれている.
  • 林 慶
    原稿種別: 本文
    1962 年 12 巻 4 号 p. 90-107
    発行日: 1962/08/20
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー
    要約すれば,蝶の翅に見るhomoeosisは,既知の他の昆虫の例と同様に発生の初期に起源を生じながら,内翅型幼虫の翅芽の発生という特異の経過によって矛盾は温存され,幼虫期の末にいたり,翅の組織の分化がにわかに進められる時期には調節の能力もその範囲をせばめられていて,鱗翅類の翅の脈相の特異性が強くおりこまれ,ここに見るような異常を生じたものと解することができる.こうしていくつかの事実を興味深く説明することはできたが,同時に不可解な点も多く明るみに出る.一例をあげると,homoeosisがなぜーつの翅の両面にわたって生じないかという如き疑問は,以上のような説明を与えることによってかえって強まる筈である.起因と経過についてのいっそう正確な解答が与えられたなら,これら疑点も解消し,複雑な現象に対するさら一般化された説明も可能になるであろう.そのためにはなお類例標本が見出されることを期待したい.
  • 六浦 晃
    原稿種別: 本文
    1962 年 12 巻 4 号 p. 108-119
    発行日: 1962/08/20
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー
    1. This paper is an attempt to interpret the morphology of the part of the cranium of the larval arid adult Lepidoptera. 2. It introduced the theories of SNODGRASS, HINTON, SHORT, and DUPORTE, regarding the frontoclypeal area of the lepidopterous larvae and adults. Among those, the SHORT'S theory was most useful for the propulsion of the author's theory, that is, what transformations on the lraval cranium will occur after the imagination. 3. This transformations of the cranium originated from following facts. (a) The disappearance of the mandibular muscles : (b) The absorbance into the adult tentorium of the area of outerside frontal inflection together with the part of attachment of the antennal muscles on the larval cranium : (c) The locomotion of position of the antennae: (d) The development to the adult compound eyes from the ocellar area of the larva: (e) The formation of the sucking pump results in the development of the frontoclypeal area: (f) And the development of the braium as shown in Fig. 10.
  • 三枝 豊平
    原稿種別: 本文
    1962 年 12 巻 4 号 p. 120-143
    発行日: 1962/08/20
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー
    これまで,ミノガ科の系統論を展開するための基木的な方法として,この科の蛾の形態と習性の相互関係とその発展について論じた.資料や考察の点で不完全な面が著しく,それらは今後の問題として残されるが,全体を通じて習性と形態をできるだけ統一して考えようと努力した.この試諭の中から決のような事項があきらかになった.1 ミノガ科の系統発生を研究する場合には,形態の研究と共に生活史を問題にすることによって,両者の統一の中から形態の研究だけでは達し得ない系統像の解明や進化要因論への接近がなされた.2 ミノガ科の♀の形態と習性にみられる発展段階とその序列α→β→γ→δが想定され,それらの段階はミノガ科全体にみられる発展のための必然性により進化してきたものであると考えられる.それ故に,異なる系統の間に平行現象として♀の諸発展段階がみられる.3 翅,脚,産卵器官等の退化現象については,諸器官の不使用が生活上の必然性による習性の転換の結果として起り,器官の不使用がその器官の機能の弱まりと器官の退化をもたらした,という一連の退化の過程の存在を裏付ける歴史性が現存のミノガの個体発生や種間の相違の中に見出される.4 ある一連の習性の変化過程においては,γ段階よりδ段階への静止状態の変化のように,習性転換による不使用の結果としての器官の機能の弱まりと構造の退化の過程がある段階に達すると,この器官の構造の退化が一連の習性の次段階への発展をひきおこしたことがあったと考えられる.
  • 白水 隆
    原稿種別: 本文
    1962 年 12 巻 4 号 p. 144-162
    発行日: 1962/08/20
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー
    1) ミドリシジミ類の基本食性(祖先或はそれに近いものの食性)はブナ科植物であった.2)ミドリシジミ類系統樹の第1分枝(群)において起ったブナ科食からモクセイ科食の転換はその分化の低い段階,すなわちミドリシジミ類の系統分化の初期に起ったものである.3)第1分枝の最高位に位置するTheclaの食性(バラ科食)は,ブナ科食からの二次的転換であると認められる.4)アブラムシを食ペるShirozuaの食性はブナ科食からの二次的変化であり,さらにウルシ科その他のブナ科以外の樹種に発生するのはアブラムシを仲介とした三次的な転換である.5)第2分枝に起ったブナ科食からクルミ科食への二次的転換は,AraragiとChaetoproctaにおいて別個に発生したと考えられる.それはこの両属は同一群に属するが,ブナ科食をはさんでかなり離れた位置にあるからである.6)第3分枝の中でFavonius, Quercusia, Chrysozephyrusなどは高度に分化した属であるがにれらの食性は基本的なブナ科食をその系統発達の過程において持続してきたものと考える.マンサク科食,カバノキ科食,バラ科食はすペてその系統発達の終端に近く獲得されたブナ科食からの二次的転換である.7)第1分枝のTheclaにみられるブナ科食からの,バラ科食への二次的転換,第3分枝のChrysozephyrusにみられる同様の転換は,別の系統において起った食性進化の平行現象である.追記 本文提出後に川副昭人氏より同氏が数年前にウラクロシジミの全幼虫期をクヌギで飼育されたことを聞いた.この事実は前記の私の推定(ウラクロシジミのマンサク科食がブナ科食からの二次的転換であらうという)について有力な一資料となると思われるので追記しておく.なおこの事実はp.153 のウラロクシジミの食草一覧及びp.158の第2図には含まれていない.
  • 原稿種別: 付録等
    1962 年 12 巻 4 号 p. 163-166
    発行日: 1962/08/20
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 付録等
    1962 年 12 巻 4 号 p. 166-
    発行日: 1962/08/20
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 目次
    1962 年 12 巻 4 号 p. Toc1-
    発行日: 1962/08/20
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー
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