背景 : バーチュアル患者シミュレーション(VPS)は欧米で実用化され,世界中で臨床推論を教えるための媒体として人気を博しているが日本では広まっていない.このパイロット研究は,VPSが日本人初期研修医の臨床推論を向上させるために有効であるかを評価する.
方法 : 一年目の初期研修医(n=54)を対象に,各自4つの臨床研修プログラムで,5つのVPSモジュールの順番を無作為に指定し,順番に従い6日間毎にモジュールのオンラインアクセスを提供した.妥当性検証済みの検査を用いて事前事後の診断推論を評価した.スコア・ルブリックを用いてモジュール中の問診と診察項目の選択に関する効率の変化を分析した.モジュールシリーズ終了直後,被験者に対しVPSの効果性に関するアンケート調査を行った.
結果 : 診断推論スコアの事前事後の向上は明らかな統計学的有為ではなかった(p=0.07).第1モジュールから第5モジュールに至る選択の上達度は,問診の場合,統計学的に有為(p<0.01)な改善を示したが,身体診察では有為ではなかった(p=0.697).被験者の感想では,診断方法,診療,鑑別診断の作成,及び症例に関わる臨床知識の習得には,VPSは伝統的な教材と比べより効果的(1―5リッカート尺度で平均3.58-3.71)であった.
結論 : VPSは一年目の初期研修医にとって好評であったが,VPSモジュールシリーズを行うことでの診断推論の上達の確認,日本人初期研修医に対してのVPS効果については明確な結論は出なかった.更に規模の大きい研究が必要である.
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