医学教育モデル・コア・カリキュラム令和4年度改訂の基本方針は, (1)20年後以降の社会も想定した資質・能力の改訂, (2)アウトカム基盤型教育のさらなる展開 (学修目標を再編成し, 初めて方略・評価の章を追加), (3)医師養成をめぐる制度改正等との整合, (4)スリム化と電子化, (5)研究者育成の視点, (6)根拠に基づいたコアカリ内容, (7)歯学・薬学コアカリとの一部共通化である. 主要な改訂点は, 資質・能力に「総合的に患者・生活者をみる姿勢」と「情報・科学技術を活かす能力」を追加したこと, 国家試験との整合をとった病名の整理, 感染症を実臨床に沿った記載とした点, 臨床実習での「基本診療科」についてJACMEと協議し整合を図ったことなどである.
少子高齢化社会の背景と令和2年度からの調査を踏まえ, 患者の抱える問題を臓器横断的に捉えた上で, 心理社会的背景も踏まえた総合的な視点とアプローチの必要性が示され, 医学教育モデル・コア・カリキュラム (令和4年改訂版) に総合的に患者・生活者をみる姿勢が資質・能力に新設された. 下位目標として「全人的な視点とアプローチ」「地域の視点とアプローチ」「人生の視点とアプローチ」「社会の視点とアプローチ」が位置づけられた. 抽象と具体, 概念と経験, 自己と他者等の視点を統合し, 自己の在り方を省察できるような複数の学習理論を踏まえた教育方法が提案された. このような医学教育を通じて, 患者・生活者のウェルビーイングが向上することを期待する.
医師の情報・科学技術を活用する能力を開発する重要性を背景に, 医学教育モデル・コア・カリキュラム (令和4年度改訂版) においては, 資質・能力「情報・科学技術を活かす能力」が新設された. これは「発展し続ける情報化社会を理解し, 人工知能等の情報・科学技術を活用しながら, 医学研究・医療を実践する」と概説され, 「情報・科学技術に向き合うための倫理観とルール」, 「医療とそれを取り巻く社会に必要な情報・科学技術の原理」, 「診療現場における情報・科学技術の活用」の 3つの観点に整理して学修目標が設定された. この今後ますます重要な目標になるこの資質・能力の策定のプロセスを振り返りつつ, 今後の展望を占った.
今回改訂では, 医学教育モデル・コア・カリキュラム (コアカリ) の資質・能力「専門知識に基づいた問題解決能力 (PS) 」と医師国家試験出題基準との整合性を図った. 出題基準「必修の基本的事項」の『主要疾患・症候群』とコアカリ別表1の基本疾患, 「医学総論」の『症候, 診察, 検査, 治療』とコアカリ別表2の各項目, 「医学各論」の疾患とコアカリPS-02項目の疾患を対応させた. コアカリ収載疾患は「国試出題基準の改訂に向けた研究」の出題レベル分類表による評価結果を用いて妥当性を検証し, 約690疾患を選定した. コアカリ疾患数への初めての言及と基本疾患 (約200) の提示により, 医学部で学修すべき疾患の検討が今後深まることを期待する.
医学教育モデル・コア・カリキュラムがよりアウトカム基盤型に改訂されたことと, 医学生が臨床実習で行う医業が法的に位置付けられたことに対応して, 診療参加型臨床実習実施ガイドラインを改訂した. 診療参加型臨床実習の充実を図る意義, 医学生が臨床実習で行う医業の範囲, 守秘義務, 患者同意, 患者相談対応窓口, 臨床実習の目標, シミュレーション教育, 臨床実習を行う診療科等, 実習現場での評価, CC-EPOC, 学生を信頼し任せられる役割などを, 改訂あるいは新規に記述した. シームレスな卒前・卒後教育を推進する基盤ができたが, 臨床実習修了時に期待される具体的な到達度や診療科特異的な臨床実習の目標および方略の検討が今後の課題と考える.
今回の新しいモデル・コア・カリキュラムでは, 「医学・医療の発展のための医学研究の重要性を理解し, 科学的思考を身に付けながら, 学術・研究活動に関与して医学を創造する. 」という目的を掲げている. 重要なことは, 研究室配属などの科学的素養や研究者養成教育がモデル・コア・カリキュラムの中に明確に位置付けられ, 全学生を対象にしていることである. リサーチマインド, 既知の知, 研究の実施, 研究の発信, 研究倫理の5項目から構成されている. また研究室配属や基礎医学実習についても記載に加えた. 将来的に基礎医学研究者の増加が期待されるが, さらに研究者対する政策的ならびに経済的支援も必要であろう.
令和4年改訂版医学教育モデル・コア・カリキュラム (以下, コアカリ) では, アウトカム基盤型教育において, さらなる展開として, 新たに『学修方略・評価』の章が追加された. カリキュラムの重要な要素である方略・評価の章を加え, 資質・能力に紐づけることで, 学修者や指導者にコアカリを活用していただけるよう工夫した. また, 教育現場ですぐに実践していただけるように11の方略・評価事例をGood Practiceとして紹介した. ただし, これらのGood Practiceは, 各施設での実施を必須とするものではなく, あくまで参考例として掲載している. 各大学の特徴を生かした独自の方略・評価が策定され, 本章がさらに発展していくことを期待する.
医学教育モデル・コア・カリキュラム (令和4年度改訂版) で新たに記載された「第3章 学修方略・評価」の「II. 学修評価」は, 1. 学修評価の考え方, 2. 学修評価の方法, 3. 学修評価の問いの三部構成となっている. 3. 学修評価の問いでは, 「評価の在り方は教育機関によって異なる」という基本的な考え方にもとづいて, あえて「問い」に対する回答が記載されていない. カリキュラム開発において学修評価を計画する際には, 「 II . 学修評価」の記載を参考にしつつ, カリキュラムの背景や文脈をふまえて検討を重ねていただきたい.
医学教育モデル・コア・カリキュラム (コアカリ) を改訂するにあたり, コアカリの普及・将来の変化への準備・多数の専門家の協働作業を目的として, コアカリのデータ化と作業過程のデジタル化の導入という, デジタル・トランスフォーメーション (DX) を行った. データ化により, Webサイトでの検索/閲覧・エクセルファイルやcsvファイルといった複数の形態でのコアカリの配布・電子シラバスやデータ分析ソフトをはじめとする様々なソフトウェアとの連携し普及を促進できるようになった. 作業過程のデジタル化により, 複数のメンバーの同時並行作業による改訂が可能となり, 先行研究に基づいた項目の選考など厳密な検討に基づいた改訂に繋がった. 今後は, このようなデジタル技術導入を支える人員の充実, より広い範囲でのデータ化が求められる.
世界で主流のコンピテンシーモデルとして, カナダのCanMEDS 2015, 米国卒後臨床研修諮問機関ACGMEモデル, 英国Tomorrow's Doctorsがある. 文部科学省医学教育モデル・コア・カリキュラム改訂では, 海外調査が実施された. 調査対象国の医学部では上記3つのいずれかが採用されており, これらのモデルの活用は, 柔軟であった. 各大学のカリキュラム・デザイン, 教育の提供の自由度は高いが, 質保証体制として, 各国は世界医学教育連盟 (WFME) などの認証が必要で, 規制されている. また令和4年度改訂版モデル・コア・カリキュラムは英訳され世界に情報発信されている.
日本医学教育学会による医学教育モデル・コア・カリキュラム (以下, コアカリ) の令和4年度改訂にあたっての素案作成は, 学術論文や調査結果など多くの根拠に基づいて行った. 多様な属性からなるチーム編成, Web会議システムを活用した十分な検討, 行政と学会の円滑なコミュニケーション, 医学教育に関連のある組織との丁寧な対話は, 次回改訂でも継続することを推奨する. 一方で, 専門領域の学会との連携・コミュニケーションは今後の課題である. 今回改訂されたコアカリは, 2020年代前半に本邦の医学教育学分野の有識者が叡智を結集した産物ではあるが, 決して国家が押し付ける正義ではなく, そしてこれに盲目的に従うことを各大学の教員に強要するものでもない. 現場で教育に携わる方には, 20年後の社会を見据えて作成したこのコアカリを, 大いに参考にしつつ, また時に疑いながら, 教育を展開することを期待する.
すべての医療者は多様なSOGI (性的指向・性自認) について学ぶ必要があるが, わが国ではLGBTQに関する医学教育のガイドラインは存在せず, 実際に教育の場を用意するのは容易ではないだろう. 本稿では, プロフェッショナリズム教育という観点から, LGBTQ当事者の語りを用いた学修について報告する. 筆者はLGBTQ当事者の1人でもあり, 講演では当事者としての語りを用いることがあるものの, この手法は一般化できない. そこで, 一般社団法人にじいろドクターズが開発し実施した医師向けのLGBTQに関するヘルスケア学習コースの中から, LGBTQ当事者の語りと対話を用いた学びの実践について報告する.
筆者は医学科生に対し2013年より「症例報告の書き方」講義と執筆指導を開始した. 講義では, まず症例報告の教育的意義 (疾患理解, 論理的思考, 発信力ならびに臨床推論力の向上) を強調する. ついで新規点ならびに臨床的意義を明確にする重要性を示す. 次に執筆過程を4分割しそれぞれに目的と具体的行動を設定し, 実症例を提示しながら解説する. 執筆指導では症例報告における「要修正部位に対し資料を示しながら, 具体的な訂正法を提示する」介入により, 医学領域の作文学修における転移を促す教育法を模索している. 講義のアーカイブ化と学生の自律的成長を促す環境構築により, 本教育は持続可能な医学教育文化となりうる.