コペンハーゲンは世界でも有名な自転車都市であるが,近年は自転車駐輪場の問題が深刻である.自転車駐輪スペースの外に駐輪した大量の自転車が,歩行者の通行に支障をきたしている.この問題の背景には,2016年以降急速に普及した,専用の駐輪ポートを持たない新しいレンタルサイクルサービスの普及がある.貸し出し可能なレンタルサイクルが公道に放置されていることから,利用者はどこでも自転車を借りることができる.問題は,このサービスが市の許可を受けていないことである.これを解決するために,市の管理者は2020年から運用を開始するガイドラインを作成した.レンタルサイクルサービスの運営会社はこの厳しい規制を遵守する場合に限り市から許可が認められることになる.
近年、公共施設の老朽化が深刻な問題となっている。本報告は、首都圏の先進自治体が策定した公共施設再編計画の実施段階の取組とその課題や今後の展望を概観することを目的とする。結論は以下のとおりである。(1) 公共施設マネジメントの実施は公共施設マネジメント専管部署や政策部門等が主導し、実際の事業実施や住民説明会等は各施設を管理する所管によって行われる形が多い。 (2) 実現段階においては、事業の「入口」と「出口」で個別事業の管理・推進を行う一方で、様々な課題が発生し計画通りには実行することが困難であることが多い。 (3) 再編計画は地区スケールの計画との親和性が高いが、都市スケールの立地適正化計画などとの親和性は必ずしも高くない。 (4) 住民生活への影響の大きい事業実施に際しては少なくとも市民説明会を行っている。
新潟市の中心に位置する古町花街は、花柳界が現役で歴史的建造物や町割りが残っており、全国的に見て貴重な花街である。本研究は一般建造物及び歴史的建造物が形成する古町花街の景観の現状と、景観ガイドライン作成における建造物の修理修景に係る課題を明らかにすることを目的とする。結論として、第一に、多くの低層建築物は新道沿いに分布しているが、一方で多くの高層建築物は通りや小路沿いに分布していることが分かった。第二に、東新道と九番町側の西新道沿いは歴史的建造物の割合が高く、大規模なものや茶灰系以外の外壁色のものが少ないことから、特に重要なエリアと言える。
現在に⾄るまで都市計画に関する諸問題は⼤きく変化しており,あわせて地域によって着⽬される課題にも違いがあると考えられる.本研究では,2016年発⾏の⽇本都市計画学アーカイブスに収録されている特集名等から1952年以降に各時代で注⽬されたキーワードを抽出し,都市計画研究の時空間分析に関する⽅法論を提案した.あわせて特徴的なキーワードを対象に,その時空間分布を具体的に明らかにした.分析の結果,たとえば「地域活性化」は地⽅部から⼤都市部へかけて経年的に取り組みが遷移していること,「公営住宅」や「NPO」では研究対象地と震災や⾼齢化等の社会的背景に⼤きく関連があること等の動向を初めて明らかにすることができた.
本報告は、地方自治体の総合計画策定におけるパブリックコメントの集約に際して、ワークショップ手法を適用した実践報告である。総合計画は、自治体が策定する各計画の中でも上位に位置づけられる。そのため、総論的なテーマが多く、またその分量は非常に多い。そこで興味関心を持った政策、施策の案に得票する仕組みを援用して、議論を絞り込むことにした。そのうえで、2軸図を活用した議論の深堀りと成果物のプレゼンテーションを行った。その際のアウトプットを概観すると、極めて多様な成果が披露された。その一方で、同じ政策、施策を選んだとしても、グループのメンバー構成や興味関心、議論の展開などで、全く異なる結果もできあがった。今後、議論すべき政策テーマの抽出方法、各グループ間の情報共有の仕方に工夫が必要だが、今回の知見をベースに更なる改善を続けたい。
本研究では、自治体主導で継続実施している地域人材育成プログラムの受講者および卒業生の特性を把握するとともに、その違いを生じさせた要因を分析する中で、今後のプログラムづくりの基礎的データを得ることを目的とした。具体的は、対象者に対してアンケート調査を実施し、そこで得られたデータを階層クラスター分析によって、4つの所属クラスターに分類した。次いで、提供カリキュラムの時期(全8期分は、大きく3つのタームに分類)と所属クラスターとの連関を分析した。この結果、同プログラムのコンテンツは、3つのタームごとに大きく異なることが示された。加えて、卒業生・受講生の地域活動に対する振舞いや反応は、タームによって異なることも示唆された。
被災地での人口減少対策で有効だったのが中小企業基盤整備機構が建設した仮設事業場で、中でも仮設商店街は被災地での商業施設建設にも大きな役割を果たした。大規模災害において仮設の商店街が果たしうる効果、効用について述べると共に被災地でのまちづくりの計画策定の際のポイントについて述べる。
2009年のモーラコット台風により、台湾の多くの少数民族の居住地が深刻な被害を受けた。その後台湾政府は、被災地域を含めた、災害リスクの高い山間部区域での居住を制限し、住民たちを移住させた。災害後住宅再建の空間変化を明らかにするため、本研究ではRinari集落へ移住した好茶(ハオチャ)部族について、住宅の増改築部分の実態、用途、面積、居住人数を聞き取り調査及び実測調査し、居住人数と増改築面積の相関さ確認した。また、調査結果、住宅の増改築に至る理由を明らかにした。
新潟市古町においては、住居間を通り抜けるための多くの路地が全域に亘り分布していることが知られている。本調査の目的は、古町地区にある路地の現状を把握することである。結論としては、第一に、古町地区には221件の路地が広く分布しており、その多くは直線型で通過可能であることが分かった。第二に、古町地区における約半数の路地が両側の建築敷地から路地敷地を半分ずつ出し合い、1件の路地を成立させていると考えられる。
本稿では,観光客に対する防災の現状を把握するため,都道府県作成の地域防災計画及び観光事業者向けの観光客対応マニュアルを調査した。その結果,全ての地域防災計画において予防計画、応急対策の準備について記載されていたことを確認したが、その対象に観光客を挙げているものは11都県のみであり、現段階における地域防災計画は,観光危機管理が十分でないことを捉えた。観光事業者向けの観光客対応マニュアルは、宿泊を伴う観光客が多い6県で作成されており、特に離島が多く孤立しやすい環境にある沖縄県では、宿泊施設が観光客をマネジメントできるような連携体制を構築していたことが明らかとなった。以上より,わが国の観光危機管理は,初動段階での処置は宿泊観光地では十分であるが、日帰観光地では課題があることが示された。
日本における結婚式場建築は、西洋の教会堂などのイメージからデザインされているものが多くみられる。また、そのような結婚式場の外観デザインを巡って、全国各地で景観紛争が起きている。本研究では、全国における結婚式場建築における建築形態とイメージからデザインされた結婚式場建築(以下、イメージ先行型結婚式場建築)の外観デザインの現状を明らかにする。結論は以下の通りである。(1)イメージ先行型結婚式場建築は、神殿、教会、世俗の単一タイプと、神殿・教会、神殿・世俗、教会・世俗の混成タイプに分類できる。(2)イメージ先行型結婚式場建築には模倣と引用がみられ、混成タイプでは模倣が多くみられた。(3)外観要素の数と組み合わせが外観デザインにおける模倣と引用に影響を与えていると考えられる。
海岸観光地である地方自治体における津波被害対策に対する施策の実態を明らかにする研究として、神奈川県相模湾沿岸地域の6市町の防災担当、観光担当の役場職員に対するインタビュー調査を行った。調査の結果、第一に、6市町が同じ相模湾沿岸地域に位置しているといえども、予想される津波被害の程度は多様であること、また各市町で行われている観光活動には共通点はあるもののやはり多様である状況が整理できた。また、第二に現状の各役場における津波被害対策は上位行政組織と連動しているもの以外は比較的独立しているため、観光客を視野に入れた津波被害対策を行うためには、各市町の連携を緊密に図ると効果的であることが示唆された。
少子高齢化時代の町づくりにおいて、問題の早期発見と介入は重要課題の一つである。筆者らは先行研究で、自殺希少地域の住民は援助希求能力が有意に高いことを明らかにした。本研究では、コミュニティの空間構造が住民の思考や行動様式に影響を及ぼすという仮説を立て、特に海部町の「路地」の多さに注目して分析を行った。路地推定ロジックを構築し、都内にてロジック一致率を確認後、海部町および近隣エリアにて路地存在率を算出した。海部町は路地存在率が最も高かった。同町では高齢者でも徒歩で移動し、路地に置かれた”ベンチ”で通りすがりにおしゃべりし、共同洗濯物干し場では頻繁な情報交換が行われている。住民や地域の困りごとが無意識のうちに共有され、早期介入につながっている可能性が考えられた。
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