本報告では、2019 年3 月に実施した防犯カメラに対する意識調査の結果を、11 年前の調査結果と比較しつつ報告した。公的主体が設置する場合の同意を場所別に尋ねたところ、不安低減、検挙期待への同意率は全ての場所で上昇した一方、犯罪減少は低下した。一方でプライバシー侵害、イメージ悪化への同意率は全ての場所で低下し、市民の抵抗感の低下がうかがえた。ただし、生活道路への個人設置については比較的賛成派が少なく、個人が公共空間に向けて防犯カメラを設置することには一定の制約が必要と考えた。
本稿は、フランス・ウンガーサイム村のトランジション活動を紹介する。ウンガーサイム村は、気候変化、フェアトレード、地域通貨、再生可能エネルギーやバイオマスボイラーを含んだ持続可能な開発に関する様々な取り組みで知られている。村では、思考的自治、エネルギーの自立、食糧主権という三つの柱からなる独自の地域計画を持っている。本稿は、21の活動計画に焦点を当て、また、トランジション・コミュニティの実現に向けた首長のイニシアチブと参加民主主義を分析する。
本研究は、会津若松市における中心市街地活性化に向けた課題を明らかにすることを目的とするものである。市のメインストリートの一つである七日町通り商店街の事業者や来街者を対象にアンケート調査を実施した。通り沿いの地域では、空き店舗対策事業、街並み改善プロジェクト、電線類地中化事業が実施されてきた。アンケート調査を通じて、これらの事業の成果として、事業者や来街者が、店舗、歩道、まちなみ景観を評価していることが明らかになった。以上を踏まえて、ベンチを増やすことが、今後の中心市街地活性化に向けて重要であることを指摘している。
本研究は、震災復興土地区画整理事業が施行されている区域を対象に、住宅再建に関する課題を提示することを目的としている。東日本大震災の発生によって施行区域の全部または大部分が津波浸水被害を受けた震災復興土地区画整理事業は19市町村・47地区で進められているが、震災から約7年半が経過した現在、住宅用地の区画数ベースの利用率は平均で43%であり、3分の2程度の地区では50%以上が空き地になっている。こうした状況を改善するためには、地権者と市町村が計画当初には思い描いていなかったはずの現実を出発点として、改めて将来のビジョンとその実現方策を検討することが必要である。
本研究は、福島原発事故の発生に伴う避難指示等の解除後における原発被災12市町村の公共交通の現状と課題を明らかにすることを目的とするものである。帰還者には比較的元気な高齢者が多いため、自分で自動車を運転して近隣市町村にまで行き、買い物や通院を済ましているが、将来的には、自動車を運転することに不安を感じている者が多い。このため、今後は、それぞれの市町村において持続可能な公共交通のあり方について検討する必要があること、また、福島県と市町村が緊密に連携して総合的な観点から広域公共交通のあり方について検討する必要があると考えられる。
本研究は、福島原発事故の発生に伴う避難指示等の解除後における原子力被災12市町村の学校における現状と課題を明らかにするものである。本研究を通じて、①避難指示等が解除された市町村では、小・中学校が自市町村内で再開・新設されていること、②生徒数が激減していること、③区域外就学者数が自市町村内の学校の通学者数を上回っていること、④多くの市町村で生徒や教職員、施設・設備、授業、学校行事等に関する問題を抱えていることなどが明らかになった。以上を踏まえ、こうした学校が抱える問題を解決するための制度的・財政的条件を整備することが重要であることを指摘している。
本研究は、浪江町を中心として、原子力被災12市町村における避難指示等の解除後における事業所の再開・新設の実態を分析し、原子力被災地における事業所の再開・新設に関する課題を明らかにすることを目的とするものである。本研究を通じて、原発事故前と比べて事業所が大きく減少していること、避難指示解除地域で再開・新設した事業所は、顧客や商圏が回復していないことや従業員が不足していることなどが問題と考えていることなどが明らかになった。事業所の再開・新設に関する課題として、事業所に対する運営補助が必要であること、事業者、地域団体、市町村、県、国などが協働で地域産業・地域経済再生プログラムを策定し、実現することを指摘している。
日本の空き家問題への財産管理人制度の適応は、アメリカのペンシルベニア州の制度と比較すると、1) 適用範囲が所有者不明あるいは不存在の場合に限定、2)所有者不明の証明、または、相続人の特定と相続放棄の確認という申立人の大きな負担、3)予納金の回収に関する申立人のリスク、4) 維持管理の対象財産が空き家以外にも及び、空き家問題解消にとって不必要な経費が発生、5) 空き家問題の改善に必要な住宅や街づくりの知識を有する財産管理人のなり手の欠落、6) 想定されていない大規模修繕・解体費用の調達方法、7) 空き家売却収入の弁済順位の規定の不存在、といった問題点・課題が挙げられる。
本稿の目的は、東京23区縁辺部における大型団地を含む住宅地における食料品の買い物環境の課題の抽出及びその改善策の有用性について検討する事である。板橋区高島平地域において実施したアンケート調査に基づき、地域住民の購買行動や利用店舗への満足度評価の分析を行った。さらに、複数の既存方策を取り上げ、問題の改善・解決可能性についても分析を行った。分析の結果、団地地区よりも戸建住宅地区の方が、利用店舗へのアクセス性の悪さに起因する買い物の不自由を有しやすいことなどが明らかになった。また、戸建住宅地区においては子世帯との近居をしている場合、不自由を感じる割合が有意に低いことも確認された。
まちづくりへの住民の参加を促すためには住民が自らのまちを良く知る機会を増やすことが重要である。そこで中学生を対象としてまちを知り、魅力を再発見するためのワークショップを愛媛県松野町で実施した。ワークショップでは都市計画について講義を行ったり、まちあるきを実施した。その後、観光コースを考えてもらいまちの課題や改善策を考えてもらった。その結果、中学生は普段暮らす中では気がつかなかったまちの魅力を知り、まちづくりへの関心が高まった。このようにまちをよく理解することでまちやまちづくりへの関心を高めるために重要なポイントであるという示唆が得られた。
東日本大震災から8年が経過した現在において,被災地の復興過程を整理することは重要である。また,復興において合意形成過程で課題が生じた経緯やその後の復興過程を詳細に整理しておくことは,将来的に他地域で発生する災害復興を進めていくうえで貴重な知見になり得る。本研究では,将来的な災害復興に資するべく,筆者らの視点を通じて名取市閖上地区の復興まちづくり計画策定過程と課題を整理することを目的として、今回の震災復興で難航した事例のひとつである名取市閖上地区を取り上げ,震災復興まちづくり計画策定過程について報告する。
近年、スマートフォンからの時空間情報は様々なサービスやマーケティングに利用されている。しかし、そのようなデータを用いた都市計画研究はあまり見られない。本研究は、まず、スマートフォンのポイントデータを用いて、各道路の歩行者の密度と歩行速度を算出した。つぎに、スペースシンタックス指標、鉄道駅からのポテンシャル、土地利用、道路形状などの街路空間特性を独立変数とする重回帰分析により、歩行者の密度・速度を予測できる説明力の高い推定モデルを作成した。本研究の成果は、都市空間における歩行特性についての新たな知見となり、都市計画や都市整備、出店計画に貢献しうる。
本研究では、「自宅から買い物施設までの到達困難度と購買意欲は正の相関があるのではないか」という仮説から、『都市・地域における施設立地』と『消費者の非計画購買』の関係について知見を得ることを目的とした。このため、首都圏周囲のあるアウトレットモール内でのアンケート調査によって得られた来場者情報を、数量化II類とロジスティック回帰分析を用いて分析した。その際に、都市・地域における施設立地に関して、「自宅から施設に至るまでの移動時間や交通状況」などの交通に関わる要素に焦点をあて、非計画購買については、「目的のものを予算を超えて購入すること」と「目的になかったものを購入すること」に焦点をあてた。
本研究では、立地適正化計画を策定している自治体のONTの位置づけと、居住誘導区域外ONTの現状と課題を明らかにした。まず調査対象22自治体のうち、居住誘導区域外にONTを位置づけていたのは2自治体のみであり、現時点では多くの自治体がONTを居住誘導区域内に位置づけている現状を明らかにした。また、居住誘導区域外ONTである阪南市「南海団地」を対象に実施した、住民へのアンケート調査の結果より、居住誘導区域外ONTに対しては、斜面地や高齢化に対応するための地域内交通の整備、及び地域のつながりの意識に寄与していると考えられる地域コミュニティの拠点の維持、そして、今後、同居の可能性等がある地域を中心に、地区内でも集約化を見据えた住宅地像の提示やエリア設定が課題であることを明らかにした。
古くなった建物を新しくする多くの再開発は機能性や安全性を向上させる一方で、街が画一的になり魅力が減っているように感じます。さらに近年では古くなった建物を新しくする時代から建物を保っていく時代へと変化しています。今後は多様な都市空間が重要となり、さらに既存建築を継承していくことで、都市の活力になると考えられます。そこで本研究では、1959年の竣工から60年経つ再開発ビル及び防火建築帯である横須賀市三笠ビルを対象にします。その造成過程と建築形態について整理し、当時の再開発の歴史性と独自性について考察します。さらに、再開発のあり方について示唆することを目的とします。
首都圏においては、規制緩和や都市再生の潮流が強まっていることなどを背景に、近年超高層建築物の建設が相次いでいる。首都圏郊外における超高層建築物の立地特性としては、都心から放射状に延びる鉄道路線沿線への集中や既成市街地における開発の増加などの傾向が明らかになっている。このような超高層建築物の集積による周辺市街地環境への影響が懸念されている。環境影響評価法や地方自治体による環境アセスメントに関する条例によって大規模開発を行う際の環境アセスメントの実施が義務付けられているが、これらは個別の開発に対する評価を対象としている。超高層建築物が集積して立地する地域では、複数の開発によって影響を受けているために、個別開発にのみ注目した環境アセスメントでは周辺環境へ与える影響を正確に測ることができないことが懸念される。そこで本研究では、近年超高層建築物の集積が発生している武蔵小杉駅周辺市街地を対象に、複数の開発による複合的な影響がどのように予測されているか、そして実際に発生している影響を調査する。この結果を個別の開発に対する環境アセスメントの結果と比較することによって、市街地環境への影響をより正確に予測する方策を検討するための基礎とすることを目的とする。
この調査報告は、人口減少時代に直面し、都市の再整備に向けて様々な取組みを重ねてきたドイツの都市の実態を明らかにするものである。この論文は、行政の視点、特に、「居住環境の再整備の方法」「空き地・空き家の有効活用」そして「市民協働の手法」に焦点を当てたものである。文献調査や、インタビュー調査結果から明らかになったことは、以下のとおりである。人口減少時代に合わせた都市計画は、従来の都市計画における技術や発想を転換して作られていた。さらに、空き地や空き家を有効活用するシステムが創出され、それは都市の潜在的な魅力を引き伸ばすことにも貢献していた。これらの取組は、市民との対話を重視して行われていた。
英国(主としてイングランド)では、開発規制を通じて、水害リスクのある土地における開発に対して一定の制限が実施されてきた。その枠組みに関してはPPS25による「順次的検討法」と「例外テスト」により個別の審査を行う仕組みであることが我が国でも紹介されている。しかしながら、実事例からみた審査内容、特に「例外テスト」の実態を紹介したものはなく、制度運用の詳細は知られていない。そこで本稿では、3都市における8審査事例の審査関係書類等をインターネットより収集し、「例外テスト」を中心とした審査実態を調査した。その結果、既往研究で指摘された、計画許可制度による個別審査を通じた一律的な仕様規制でない柔軟で総合的な対策手段の実施や、リスクと利益の比較考量で土地利用をコントロールする現実的な規制のあり方、都市開発と防災の相克と調整等の事項について、具体的な事例で確認できた。
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