汚水に含まれている硝酸を脱窒によって除去する際に,脱窒菌の基質としてメタノールを添加する方法が従来行われている。しかし,著者らが水田土壌中での脱窒の研究で得た知見では,メタノールは脱窒を促進しなかった。そこで,脱窒を促進するためにメタノールを添加することに疑問を感じ,メタノールの他に,水田土壌への添加で異なる傾向を示したグルコースおよびフマル酸を添加し,それらの効果を比較・検討する実験を行った。 まず,メタノールについては,(1)メタノールは酸素が全く存在しないと脱窒菌には利用されず,脱窒もほとんど促進しないこと,(2)酸素が多少利用できる場合には,メタノールは一旦好気性菌によって資化され,資化によってつくられた炭素一炭素結合を持った有機化合物が脱窒菌に利用されることなどがわかった。メタノールが脱窒を促進する効率が低く,脱窒促進効果が現れるまでに時間がかかり,その上,多量のスカムを生成するのも,皆以上の理由によるものであると考えられた。 次に,グルコースを汚水に添加したところ,保温静置初期に,酢酸などの有機酸が多量に生成され,汚水pHの急激な低下を招き,脱窒促進の効果はフマル酸を添加したときほど迅速には起こらなかった。これは,グルコースが脱窒菌よりも発酵性の細菌によって利用され易いためであると考えられた。 一方,フマル酸の添加が汚水の脱窒を促進する効果は迅速に現れ,効率がよく,汚水濃度や培養温度によらないことが見いだされた。これはフマル酸が脱窒菌によって,脱窒の基質として速やかにかつ効率よく利用されるためであると判断された。
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