環境科学会誌
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19 巻, 5 号
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  • -アメリカのビール消費データを用いた実証分析-
    沼田 大輔
    2006 年 19 巻 5 号 p. 371-384
    発行日: 2006/09/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     デポジット制度が導入されると,購入時にデポジット分だけ対象製品の価格が上昇し,需要が減少するのではないかという議論がしばしば見られる。一方,デポジット制度は使用済み製品の回収を促すことから,回収の容易な製品への代替が生じる可能性もある。本稿では,これらの点について,アメリカにおけるビール消費量の容器別,州別データを用いて,デポジット制度が需要の減少に有意な影響を及しているか否かについて実証分析を行うことで検証した。その結果,1)デポジット制度は制度の対象となった財の需要を減らす,2)回収の容易な財へのシフトをもたらす,3)飲食店などの大口需要者の財の需要には影響を与えるとはいえないという示唆を得た。
  • 中野 牧子, 馬奈 木俊介
    2006 年 19 巻 5 号 p. 385-395
    発行日: 2006/09/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     ISO14001の認証を取得する事業所が増加している。この認証は環境対策についてPlan・Do・Check・Actionの取組みができる組織体制が整っているかを審査・認証するものであり,認証取得が実際に環境パフォーマンスの改善に役立つかという観点から先行研究が行われてきた。本研究では,認証取得が環境負荷管理に与える影響だけではなく,通常の生産活動に与える影響も分析対象とすることで,認証取得の効果をより広く考察した。具体的には,紙パルプ産業に焦点をあて,ISO14001の認証取得が生産性に与える影響を事業所レベルのデータを用いて分析を行った。生産性の測定にあたっては,市場で扱われるインプット・アウトプットのみを用いての測定と,環境負荷物質(二酸化炭素及び廃棄物)の排出量も含めた測定の両方を行った。その後生産性に対して,認証取得がどのような影響を与えるか分析を行った。その結果,環境負荷物質を含めて測定した生産性に対しても,また含めないで測定した生産性に対しても,プラスの影響を与えることが観測できた。このため,環境マネジメントシステムを有効に活用できれば,環境負荷管理だけではなく,生産活動全体の生産性を上昇させる可能性があることが明らかとなった。
  • 前田 章
    2006 年 19 巻 5 号 p. 397-414
    発行日: 2006/09/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本研究ではUNFCCC事務局が公表しているAIJプロジェクトデータをプロジェクト規模とコストの面から分析した。詳細な統計分析を通して次の点が明らかになった。1)ボイラーバイオ燃料転換プロジェクトにおいては,全プロジェクト期間に渡る総プロジェクトコストはCO2削減可能量および削減期間の長さと正の相関が認、められる。2)エネルギー効率改善プロジェクトでは,総プロジェクトコストとCO2削減量との相関関係は認められるが,削減期間との相関関係は認められない。3)地域熱供給プロジェクトの場合は,このような相関関係は全く認められない。4)取引コストを構成する要素のうち,「テクニカルアシスタンスコスト」がプロジェクトの大きさに依存する可能性がある。こうした結果は,今後のCDMやJIの費用対効果を考える上で貴重な情報となろう。
  • 福島 武彦
    2006 年 19 巻 5 号 p. 415-424
    発行日: 2006/09/29
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     持続可能性に関する様々な論文,言説を,1)理念,2)資源・環境3)各種産業分野(生産),4)生活要素(消費),5)地域社会,に分類し,それぞれの持続可能性要件を整理した.こうした結果をもとに,将来の研究課題として,(1)社会・精神の観点の取り込みと指標化,(2)時間スケールの統一,(3)地域,産業分野生活要素間の関係の定量化,(4)持続可能性科学の手法の整理を提案した。
  • 古米 弘明
    2006 年 19 巻 5 号 p. 425-434
    発行日: 2006/09/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
  • 篠原 裕之, 村上 道夫, 真名垣 聡, 小嶋 早和香, 高田 秀重, 佐藤 修之, 鈴木 穣, 中田 典秀
    2006 年 19 巻 5 号 p. 435-444
    発行日: 2006/09/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     都市内での循環型水利用を構築する一つの方法として都市排水の土壌浸透による地下水の涵養が考えられる。土壌浸透処理の可能性を評価するために下水二次処理水を土壌カラムに通水し,水溶性有機汚染物質の除去について調べた。ステンレスカラム(内径20cm,長さ60cm)に土壌(関東ローム層)を詰め,そこに下水二次処理水を300mL/hrの速度で通水させた。長さ20cmと50cmの2つの系で実験を行った。通水開始後,71日間の間に6回採水を行い,原水,および流出水中の化学物質濃度の測定および女性ホルモン活性の測定を行った。対象とした化学物質は,アルキルフェノール類ビスフェノールA,女性ホルモン類蛍光増白剤,直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩,医薬品10種(aspirin, ibuprofen, naproxen, ketoprofen, me : fenamicacid, p-hydroxybiphenyl, triclosan, crotamiton, carbamazepine, diethyltoluamide)である。女性ホルモン類オクチルフェノール,ビスフェノールAについては全実験期間中の除去率が89%以上と高い除去が観測された。バイオアッセイにより測定された女性ホルモン活性も99%以上の除去率が示された。これらの結果は土壌浸透処理が都市排水の女性ホルモン様物質の除去に有効であることを示している。一方,医薬品については,triclosanやibuprofenのように全実験期間中の除去率が90%以上の高い値を示す物質もあったが,crotamitonやcarbamazepineのように20%程度の除去率しか示さない物質もあり,除去効率は化学物質問で大きく変動することが確認された。各化学物質の除去効率を土壌浸透実験初期及び後期に区分し,オクタノール/水分配係数(Kow)と微生物分解性との関連で考察し,対象化学物質の土壌浸透過程における除去機構を議論した。その結果,1)スルホン基を持つ蛍光増白剤及び直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩については土壌中にて交換反応又は化学的沈殿反応により除去が起きている,2)女性ホルモン様物質及び医薬品については実験開始初期には土壌有機物への分配吸着による除去が起きており,それ以降は微生物分解が除去に寄与していると考えられた。
  • 磯崎 雄一, 中島 典之, 古米 弘明
    2006 年 19 巻 5 号 p. 445-452
    発行日: 2006/09/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     重金属類が生態系へ及ぼす毒性影響を評価するためには,その化学形態別の存在濃度や環境動態を把握することが重要である。本研究では,メンブレンフィルターとイミノニ酢酸キレート樹脂によって水中重金属を懸濁態・非フリーイオン溶存態・フリーイオンの三形態に分画する手法を用い,都市下水処理場の流入水及び放流水の亜鉛・銅・ニッケルの存在形態を分析した。その結果,下水処理水中の亜鉛,銅,ニッケルのフリーイオン濃度は,それぞれ3.0~15μgZn/L,ND~6.0μgCu/L,<1.5~7.1μgNi/Lであり,溶存態に占めるフリーイオンの割合は,Znで12~47%,Cuで24~61%,Niで16~60%となった。標準活性汚泥法と高度処理法とでの処理水中の形態別濃度を比較したが差異は明確ではなかった。さらに,下水処理水が河川に放流された後の状態を模擬するために,河川水と下水処理放流水を混合した実験を行なって水中重金属の存在形態別濃度の変化を分析した。混合による大きな形態別濃度変化は認められなかったが,亜鉛の非フリーイオン溶存態濃度(溶存態濃度一フリーイオン濃度)の低下が3回の実験に共通して認められた。
  • 村上 道夫, 中島 典之, 古米 弘明, Rupak K ARYAL
    2006 年 19 巻 5 号 p. 453-460
    発行日: 2006/09/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     雨水浸透施設は,浸透による地下水涵養の効果を果たすと同時に,都市交通由来の重金属類の捕捉機能が注目される。そこで,本研究では,浸透桝堆積物,幹線道路塵埃,住宅地道路塵埃,浸透域土壌中重金属類含有率を調査した。本研究で調査された浸透桝堆積物中の重金属類含有率は,他国の雨水浸透施設における調査例と比較しておおよそ同程度であった。enrichment factorによって,都市交通活動による汚染を評価したところ,Pb,Zn,Cu,Cd,Cr,Niが都市交通活動による汚染が顕著な重金属類であると示唆された。都市交通汚染の指標とされたそれらの重金属類組成に基づいてクラスター分析を行った結果住宅地道路塵埃及び浸透域土壌と幹線道路塵埃とが異なるグループに類型化された。また,浸透桝堆積物は堆積厚によって異なるグループへと類型化された。次に,主成分分析を行った結果,主成分1を都市交通汚染,主成分2をそれ以外の非人為汚染の指標と見なすことができた。堆積厚8cm以上の浸透桝堆積物の主成分1の得点は,堆積厚8cm未満の浸透桝堆積物,住宅地道路塵埃,浸透域土壌の得点よりも有意に高かった。堆積厚8cm以上と未満とでは,Cr,Cd,Pb含有率に有意な差異があることが明らかとなった。
  • 小瀬 知洋, 山本 高士, 姉川 彩, 毛利 紫乃, 小野 芳朗
    2006 年 19 巻 5 号 p. 461-469
    発行日: 2006/09/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     道路塵埃などの自動車交通由来の汚染物質に含まれる多環芳香族炭化水素類(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons:以下,PAHsと略記)は雨天時,道路排水を媒体として急速に河川や下水に流入する。このため,道路塵埃は水環境汚染の汚染源となると考えられる。そこで,負荷軽減のため必要とされる措置の方向性を示すためには,汚染における自動車交通の寄与を定量的に明らかにする必要がある。しかしながら,PAHsは石油由来,燃焼生成などの様々な起源を有し,発生源の特異性が低い。さらに,PAHsは環境中において必ずしも安定でなく,その安定性が存在形態に左右されることからPAHsのみを指標とすると各発生源からの寄与を定量的に評価しがたい。そこで,本研究では起源推定指標として有効性が確認されているトリテルパン類を用い,道路塵埃中PAHsにおける各種自動車交通汚染源の寄与を定量的に明らかにすることを量的とした。同時に道路塵埃に代表される自動車交通由来PAHsの水環境への負荷経路及び寄与の検討を試みた。 結果,道路排水中PAHsは道路塵埃を主たる起源としていることが確認された。また岡山市内における道路塵埃中のPAHsの主たる起源はタイヤ磨耗物であり,第二の起源は道路舗装アスファルトの磨耗物であろうと考えられた。これらの結果が得られたことから道路交通の汚染源の検討にトリテルパン類を指標として用いることは有用であると考えられた。
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