2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD,5,30および60μg/kg体重)を生後7週令のC57BL/6(B6,TCDD高感受性)およびDBA/2(TCDD低感受性)マウスに1回腹腔内投与し,TCDDの免疫系に及ぼす影響を,投与後24時間から35日にわたって検索した。 1) TCDDを投与したB6マウスでは,vehicle(corn oil)のみを投与した対照群に比し用量依存性の著明な胸腺重量の減少(胸腺萎縮)がみられた。肝重量の増加以外には,他の臓器重量や体重には有意の変化を認めなかった。TCDD(30μg/kg)投与群では7日後に体重に対する胸腺比重量は最低となり,14日後にはかなりの回復を示し,35日後には対照値に達した。胸腺萎縮は主に皮質リンパ球の脱落によるものであり,その結果,皮質域の狭小化と髄質域の相対的拡大がみられた。DBA/2マウスはB6マウスにみられたような有意の変化を示さなかった。 2) TCDD投与B6マウスの胸腺および脾リンパ球のフローサイトメトリー解析では,胸腺リンパ球はTCDD投与3日,7日後に皮質リンパ球の脱落の所見と一致して,L3T4
+Ly-2
+サブセットとPNA陽性細胞の著明な減少(百分比・絶対数共に)を示した。L3T4
+Ly-2
-およびL3T4-Ly-2一サブセットも投与3日,7日後に絶対数では有意の減少を示し,三者共14日後には回復がみられた。L3T4
-Ly-2
+サブセットのみは絶対数での減少は軽度で,検索期間を通じ有意の変動を示さなかった。百分比では,L3T4
+Ly-2
+サブセット以外は投与3日後に有意の増加を示した。TCDDは胸腺皮質に分布する未熟なL3T4
+Ly-2
+リンパ球を主に障害したが,L3T4
-Ly-2
+リンパ球はTCDDに比較的抵抗性である可能性が示唆された。胸腺リンパ球サブポピュレーションの著明な変化に比べて,脾リンパ球には目立った変化はなかったが,投与3日後にThy-1陽性細胞の減少と表面免疫グロブリン陽性細胞の若干の増加がみられた。 3) ヒツジ赤血球(SRBC)に対する遅延型足蹠反応は,TCDD投与により抑制されなかったが,脾におけるSRBCに対するプラーク形成細胞(PFC)産生は著しく抑制された。さらに,Mishell and Duttonの変法によるinvitro抗体産生細胞誘導系を用いての細胞レベルでの解析では,TCDDはヘルパーT細胞を障害せず,B細胞に作用してPFC産生を抑制することを示唆する結果が得られた。
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