我が国の化学物質対策は,国内の社会的ニーズに応じて体系的な対応が開始され,その後国際的な動向や社会的要請に応えつつ進展が図られてきた。1950年代から化学物質による環境経由の健康影響問題が重視されはじめ,化学物質のハザードに着目した規制措置等が導入された。その後,化学物質による環境汚染を防止するためには,有害性が高い化学物質を規制・管理しているだけでは不十分であり,環境中への放出量,及びそれによる環境汚染のおそれの観点が必要であることから,化学物質の環境リスクに基づく制度へと改正された。2009年には,我が国における化学物質の審査・規制制度がハザード評価に基づく体系からリスク評価に基づく体系に大きくシフトすることとなった。
国際的には各国ではそれぞれの状況を踏まえた独自の化学物質対策が導入されるとともに,国際社会総体としても,1970年代から世界保健機関や経済協力開発機構などによる取り組みが始まった。更に1992年に国連環境開発会議においてアジェンダ21が策定され,2002年のヨハネスブルグ・サミットで2020年目標の採択などのイニシアティブが展開され,各国においては,これらに基づく化学物質対策が進展してきているところである。
我が国においては,とりわけ近年,このような国際的な取組を通じた政策協調が一層図られることになっており,我が国における政策展開の経験が各国にも共有されてきている。我が国は,かつての化学物質による深刻な環境汚染の経験を踏まえ,今日では世界をリードする知見を有するに至っている。化学物質はその有益性のため国境を超え,近年化学物質の製造等が活発になってきている途上国においてもその対応が求められている。我が国は,途上国への支援をはじめ,新たな国際的取組への一層の貢献が期待されている。
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