環境科学会誌
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23 巻, 5 号
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一般論文
  • 楠部 孝誠, 稲田 義久, 下田 充
    原稿種別: 一般論文
    2010 年 23 巻 5 号 p. 351-362
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/09/28
    ジャーナル フリー
    中国政府は農家の貧困改善やバイオマスエネルギーの利用,森林伐採の抑制などを目的として農家向けに小規模のメタン発酵装置の導入を促進している。多くの利点が指摘されているメタン発酵装置だが,実際にその効果が現れているかについては,農村での実態調査を行わなければ明らかにすることはできない。そこで,本研究では湖南省常徳市と安徽省六安市の二つの地域で農村調査を実施し,メタン発酵装置の導入効果を分析した。調査結果から,湖南省常徳市ではメタン発酵装置の導入によって,農家の貧困改善,地域の環境保全に効果が見られた。一方,安徽省六安市では電力網の整備や出稼ぎの増加等の影響で,メタン発酵装置の導入効果は見られず,その効果には農村地域の立地条件や経済状況が大きく影響していることが明らかになった。農村の生活向上,農業生産の維持向上など,今後の農村の持続可能性という点では,貧困地域では積極的なメタン発酵装置の導入が有効であろう。また,都市近郊の農村地域では農家世帯ではなく,大規模なメタン発酵装置の導入を軸にした産業振興を図ることが農村地域の持続的な発展に寄与すると考えられる。
  • 立花 潤三, 迫田 章義, 門脇 亙, 山田 強, 玉井 博康, 稲永 忍, 鈴木 基之
    原稿種別: 一般論文
    2010 年 23 巻 5 号 p. 363-374
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/09/28
    ジャーナル フリー
    低炭素社会の実現に向けて,地域単位でどのような対策を取るのかは非常に重要な問題である。この対策を考える場合に,まず地域に適合した合理的な目標を定めて,次にその目標を達成する方策と達成した場合の地域社会像を明確にすることによる実現可能性の検討が必要と考えられる。本研究ではまず,2050年のCO2排出量の目標値をひとり当り0.4[t-C/人・年]と設定した上で,2050年の鳥取県の2つのシナリオ(地方回帰型と都市集中型)について,民生,産業,運輸各部門での省エネ行動や新技術の導入等によるエネルギー消費削減量を推計し,さらに低炭素エネルギー(水力発電,バイオマス発電,太陽光発電,風力発電)の導入と石油系から電力,都市ガスへのエネルギーシフトを行う場合のCO2排出量を推計し,目標値を達成することがいかなる場合に可能となるかを検討した。その結果,各シナリオ共に省エネ行動や新技術の導入に加えて,電力へのエネルギーシフトを行えば目標の達成は可能であり,逆にこれらの同時達成でないと困難であることが分かった。さらに,このように目標を達成した場合の具体的な地域社会像を提示した。
シンポジウム論文
  • 山口 恵子, 小島 理沙, 石川 雅紀
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 5 号 p. 375-380
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/09/28
    ジャーナル フリー
    2007年2月,神戸市に立地するコープ六甲アイランド店にて,“「ごみ減量」市民の大実験!!簡易包装を買おうプロジェクト”が実施された。このプロジェクトでは,神戸大学の学生を中心とした特定非営利活動法人ごみじゃぱん(Gomi-jp)が,店舗内の食料品や生活雑貨品から包装ごみの少ない推奨商品を選定し,店頭広告・チラシ・イベントなど様々なメディアを用いて生活者に簡易包装商品の情報を発信した。本研究では,この実験で用いられたパブリックマーケティングアプローチ(PMA)に基づく減装(へらそう)ショッピングによって,簡易包装商品の需要に対してどのような影響を及ぼすのかをパネルデータモデルを用いて分析した。分析結果より,実験期間における生活雑貨品(推奨理由:詰め替え)カテゴリーの推奨商品の販売量はプラスの影響を受けていることが明らかにされた。さらに,実験期間を前半期間と後半期間に分けて分析した場合には,集中陳列棚を用いて効果的にアピールした後半期間にはプラスの効果が表れることが示された。結論として,PMAは容器包装ごみの発生抑制に有効であることが示された。
  • 沼田 大輔, 馬奈木 俊介
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 5 号 p. 381-393
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/09/28
    ジャーナル フリー
    ペットボトルは,高い回収率であれば,リユースがワンウェイよりも環境負荷を減らしうることが示唆されている。このため,昨今の日本では,ペットボトルのリユースをおこなう場合の回収率を高める方策の検討が求められている。この回収率を高める方策としてデポジット制度の活用が考えられる。しかし,デポジット制度は購入時にデポジット分だけリユースペットボトル入り製品の価格を上昇させるため,リユースペットボトル入り製品の需要が減少する懸念がある。本稿では,デポジット制度が組み込まれた環境省リユースペットボトル実証実験において,消費者にアンケートをおこない,デポジット制度がリユースペットボトル入り製品の需要に及ぼす影響について,実証分析をおこなった。その結果,宅配販売のリユースペットボトル入り製品が,4本入り1箱の単位で販売され,1本あたり20円のデポジットが適用されることで,その製品が値上がりしたと感じる消費者については,リユースペットボトル入り製品の需要を減らすという示唆を得た。また,デポジット額に対する感想は,リユースペットボトル入り製品の需要に影響を与えないという示唆も得た。
  • 馬奈木 俊介, 石川 雅紀, 山口 恵子, 小島 理沙
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 5 号 p. 394-400
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/09/28
    ジャーナル フリー
    消費者の環境品質に対する支払い意思を見つけることは可能なのだろうか。本論文では,フィールドデータを用いて環境商品の差別化の検証を行った。シャンプー・リンス類が最も,環境の面からの推奨商品の効果が大きいことが分かった。しかし全体として,推奨商品の効果,通常のメーカーの効果のどちらがより大きいかは,商品や企業によってそれぞれ異なる。
  • -国内でのサーベイデータを用いた計量分析-
    倉増 啓, 鶴見 哲也, 馬奈木 俊介, 林 希一郎
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 5 号 p. 401-409
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/09/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,経済指標,社会・人口統計上の指標および性格指標が幸福に与える影響をコントロールした上で,主観的幸福度指標が環境指標とどのような関係性にあるのかについて検証を行う。分析には,東京都および神奈川県で行ったサーベイデータ及び各サンプルの居住地における局所的な環境汚染のモニタリングデータを用いた。本研究で得た推計結果から,光化学オキシダント排出量の低減が主観的幸福度向上の可能性を有していることが示唆された。
  • 藤井 実, 林 希一郎, 伊東 英幸
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 5 号 p. 410-419
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/09/28
    ジャーナル フリー
    我々が日々の生活や経済活動において利用する機能を得るために,どれだけの負荷を資源や環境に与えているかを俯瞰的に評価する指標を提案した。消費という概念ではなく,占有という概念で,地球上の,あるいは地域の物質,空間,労働,環境汚染物質の収容力の各項目に与える影響を評価するものである。項目ごとに,占有量に占有する期間を乗じ,それを全体の容量で除した占有率時間が,共通の単位を持つ指標となる。このような評価体系を新たに設定することによって,持続可能な社会の構築に資する技術や制度を,適切に評価することができると考えられる。
論説
  • ―国際的視点からの考察―
    竹本 和彦, 和田 篤也, 栗栖 雅宜, 末次 貴志子
    原稿種別: 論説
    2010 年 23 巻 5 号 p. 420-434
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/09/28
    ジャーナル フリー
    我が国の化学物質対策は,国内の社会的ニーズに応じて体系的な対応が開始され,その後国際的な動向や社会的要請に応えつつ進展が図られてきた。1950年代から化学物質による環境経由の健康影響問題が重視されはじめ,化学物質のハザードに着目した規制措置等が導入された。その後,化学物質による環境汚染を防止するためには,有害性が高い化学物質を規制・管理しているだけでは不十分であり,環境中への放出量,及びそれによる環境汚染のおそれの観点が必要であることから,化学物質の環境リスクに基づく制度へと改正された。2009年には,我が国における化学物質の審査・規制制度がハザード評価に基づく体系からリスク評価に基づく体系に大きくシフトすることとなった。
    国際的には各国ではそれぞれの状況を踏まえた独自の化学物質対策が導入されるとともに,国際社会総体としても,1970年代から世界保健機関や経済協力開発機構などによる取り組みが始まった。更に1992年に国連環境開発会議においてアジェンダ21が策定され,2002年のヨハネスブルグ・サミットで2020年目標の採択などのイニシアティブが展開され,各国においては,これらに基づく化学物質対策が進展してきているところである。
    我が国においては,とりわけ近年,このような国際的な取組を通じた政策協調が一層図られることになっており,我が国における政策展開の経験が各国にも共有されてきている。我が国は,かつての化学物質による深刻な環境汚染の経験を踏まえ,今日では世界をリードする知見を有するに至っている。化学物質はその有益性のため国境を超え,近年化学物質の製造等が活発になってきている途上国においてもその対応が求められている。我が国は,途上国への支援をはじめ,新たな国際的取組への一層の貢献が期待されている。
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