環境科学会誌
Online ISSN : 1884-5029
Print ISSN : 0915-0048
ISSN-L : 0915-0048
30 巻, 6 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
一般論文
  • 王 斉, 徳村 雅弘, 三宅 祐一, 雨谷 敬史, 堀井 勇一, 蓑毛 康太郎, 野尻 喜好, 大塚 宜寿
    2017 年 30 巻 6 号 p. 336-345
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル フリー

    焼却処理は優れた廃棄物処理方法の一つではあるが,焼却に伴い非意図的に生成するダイオキン類や多環芳香族炭化水素類(PAHs),ハロゲン化PAHs(XPAHs)などの有害化学物質によるリスクが懸念されている。本研究では,埼玉県の40ヶ所の廃棄物焼却施設を対象に,排ガス中のXPAHs濃度を測定し,焼却施設からのXPAHs年間排出量を推算した。また,焼却施設由来のXPAHsの大気中濃度への寄与度を推定するため,産総研-曝露・リスク評価大気拡散モデル(AIST-ADMER)を用いて,焼却施設を唯一の発生源とした場合の大気中XPAHs濃度を推算し,実際の測定値との比較を行った。40施設のXPAHs年間排出量は0.0074–240 g/yearであり,総量は810 g/yearとなった。特に排出量の多かった2ヶ所の施設の排出量の合計は390 g/yearであり,排出総量である810 g/yearの48%を占める量であった。このことから,XPAHsの排出総量は,少数の特定の廃棄物焼却施設からの排出量の影響が大きいことが明らかとなった。XPAHsの種類ごとの年間排出総量では,6-chlorobenzo[a]pyrene (170 g/year),1-chloropyrene (130 g/year),1-bromopyrene (81 g/year),9-chlorophenanthrene (63 g/year),3-chlorofluoranthene (55 g/year),7-chlorobenz[a]anthracene (44 g/year)の排出量が多かった。塩素化PAHsと臭素化PAHsの年間排出総量の合計は,それぞれ690と120 g/yearであり,塩素化PAHsがより支配的なXPAHsであった。埼玉県内の2009年における大気中XPAHs年間平均濃度は0.020 (1,5,9-trichloroanthracene)–11 pg/m3 (9-chlorophenanthrene)であり,毒性等価換算濃度は0.000047 (6,12-dichlorochrysene)–0.012 pg-TEQ/m3(6-chlorochrysene)であった。AIST-ADMERによる大気中XPAHs濃度の推算値と実測値を比較したところ,推算値は実測値の2.1 (9-chlorophenanthrene)–39%(3,8-dichlorofluoranthene)であった。

  • 松本 健一, 高木 三水珠
    2017 年 30 巻 6 号 p. 346-356
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル フリー

    今後,気候変動が進展すると予測される中,気候変動によるコメの生産量への影響が懸念され,影響回避のための適応策の推進が重要となる。本研究では,気象条件がコメの単収に及ぼす影響を1993~2014年の市町村レベルのパネルデータを用いて日本全国・地域別モデルにより分析した。さらに,パネルデータ分析の推計結果と気候変動シナリオに基づき,将来の気候変動がコメの生産に及ぼす影響と適応策の効果を分析した。分析の結果,コメの単収と気温の間には上に凸の二次関数の関係が,降水量・日照時間との間にはほとんどの地域で負・正の関係が見られた。そして,将来の気候変動の程度が大きい場合,多くの市町村で単収が減少するが,高緯度地域ではその影響が相対的に小さかった。適応策として栽培時期を1カ月前に早めた場合,ほとんどの市町村で影響が低減されることが示された。しかし,すべての影響が回避されるわけではなく,さらなる影響の低減には他の適応策の導入が同時に必要となる。

  • 森田 紘圭, 大西 暁生
    2017 年 30 巻 6 号 p. 357-364
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,中長期的な津波災害廃棄物の低減策として,防災集団移転事業を取り上げ,その実現可能性を住民意向の観点から分析するものである。具体的には,南海トラフ沖地震における8県にまたがる津波浸水想定区域内の住民2,000人を対象に,各種移転条件に応じた移転意向に関するアンケート調査を実施することで,移転費用や移転距離など移転条件の違いや,居住属性の違いによる住宅移転意向の感度を詳細に分析し,防災集団移転事業の実現可能性について知見を得る。分析の結果,一般的価値観としては,多くの住民が堤防をはじめとしたハード整備を重視し事前移転事業を積極的に捉えられない一方で,潜在的には4割程度の住民が,移転できれば望ましいと考えている可能性があることがわかった。ただし,移転費用の負担が大きく,現実的な選択肢としてあまり捉えられないことが明らかとなった。また,移転条件や個人属性に応じた移転意向の分析においては,費用面での解消や戸建住宅の確保が移転検討に前向きな要因となることや,若年層や子育て世帯の移転意向が比較的大きく,海との関わりの違いも移転意向に影響を与える可能性があることがわかった。一方,高齢者にとっては,災害リスクを回避することを目的とした防災集団移転事業では,移転を前向きに検討する動機づけが充分に働かない可能性があることが示唆された。

短報
  • 古川 浩司, 川口 寿之, 工藤 清惣, 中澤 智子, 佐藤 亮平, 船坂 鐐三, 奥村 明雄
    2017 年 30 巻 6 号 p. 365-372
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル フリー

    液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析法(LC/MS/MS法)による水道水中の塩素酸分析法の検討と水道水質検査としての妥当性を検証した。分析法としては,試料を精製水で100倍(V/V)に希釈調製し,LC/MS/MS測定を行った。検討の結果,塩素酸の検量線は,標準液濃度0.2~10 µg/L(試料濃度:20~1000 µg/L)の濃度範囲で良好な直線性が得られた。0.5 µg/L塩素酸標準液(n=5)の繰り返し測定の併行精度(RSD)は,4.56%と良好であった。さらに,水道水の添加回収試験(50 µg/L, n=5, 5 days)を行った結果,併行精度(RSD)8.99%,室内精度(RSD)9.47%,真度(回収率)105%と良好な結果が得られ,厚生労働省が通知した「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」の目標値の範囲内であった。LC/MS/MS法は,イオンクロマトグラフ法では分離が困難な水道水中の塩素酸のピークを適切に検出すること可能であり,選択性の高い分析法であることが確認できた。

2016年シンポジウム
  • 小杉 素子, 岩見 麻子, 馬場 健司
    2017 年 30 巻 6 号 p. 373-387
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,農業に直接関わる生産者と農業生産に関心のある非生産者を含む3つの仮想コミュニティをインターネット上に設定し,農業分野における気候変動適応策に関する専門家からの情報を下敷きとして,どのような政策が重要であるかについて14日間にわたりコミュニティ内で熟議を行った。テキストマイニングの結果,各コミュニティでは気候変動や地球温暖化の要因や影響,対策,行政の動きに関する情報が共有され,適応策として農産物の流通や後継者が不足していることなどの課題について議論された後,専門家から提示された30年後の影響について災害時の農作物への影響など農家への支援に関する議論が特に多くなされたことがわかった。熟議後に,重要な政策オプションとして選択率が高かったのは「気候に合わせた品種改良」と「就農者支援」であり,主体として「国や自治体」が積極的に気候変動への対策に関与すべきであるという意見が多く,コミュニティによる違いは見られなかった。熟議の前後における態度変化としては,消費者として農作物の購買意図に有意な変化が見られたが,気候変動適応策についての考え方や自分自身の関与についてはほとんど変化が見られなかった。

  • 岩見 麻子, 木村 道徳, 松井 孝典, 馬場 健司
    2017 年 30 巻 6 号 p. 388-400
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,気候変動適応策における農業と防災を主題としてそれぞれ実施されたオンライン熟議実験の発言者数や発言頻度の推移を把握するとともに,議論の推移をテキストマイニングによって可視化し把握することで,同実験において専門家からの情報提供による学習や参加者間の対話による相互作用の有無を検証することを試みた。その結果,農業と防災の両分野で発言者数は徐々に減少しており,農業分野では議論が低調化するコミュニティも見られたが,防災分野ではすべてのコミュニティで議論が徐々に活発になり,適応策オプションの検討時に最も深まったと推察された。また,たとえば農業分野においては,まず自身と気候変動のトピックを中心とした自己紹介がなされ,議論は気候変動の要因や影響に関するものから,気候変動の適応策や就農者支援,農家の課題,農産物流通など複数のトピックが中心的および継続的に議論されたことなどを把握することができた。さらに,両分野について専門家から提示された情報や参加者間の対話によって,参加者が気候変動影響の社会的課題について多面的に認識したり,興味関心が広がったりするなど,熟議において学習と相互作用があったと考えられた。

環境科学シンポジウム2017
feedback
Top